このゲームのススメ方

ノベルバユーザー174145

レフィン

 早めに晩飯を済ませた僕は早速お気に入りの腰掛けソファに身を委ねる。
 人体工学的デザインなので、何時間もここに座ったまま過ごせる。
 毎日この時間がとても幸せだ。

 簡易テーブルに置いたヘッドギアとゲームパッドを近寄せる。
 ヘッドギアは大き目のサングラスに似ている。
 鼻歌交じりに、そのまま被ってスイッチを入れる。

 無線で繋がっていたパソコンが起動し、僕の視界が変わっていく。
 ガラス越しに見える部屋の風景が薄まって、代わりにプログラムのアイコンらしき物が幾つか浮かんだ。

 視線に合わせてマウスポインタが動く。
 そして、とあるアイコンの上に乗った時、僕はゲームパッドのボタンを押した。
 薄れてた視野が更に暗くなり、やがって一つのプログラムが起動した。

 《ランド・オブ・ガーディアンズ》―――略してLOG。

 昨年出たばかりで、既に世界的に流行っているMMORPGだ。
 僕もまたその虜の一人である。

 ログイン画面が出た時、目の前がほんの少しだけ輝いた。
 虹彩認識を終えたんだろう。
 このヘッドギアを使うとこれだけでログイン出来るから凄く便利だ。

 画面が変わってキャラクター選択が出た。
 選択と言っても、僕には一つしかない。

 森を背景に、小柄でとても可愛らしいキャラクターが立っていた。
 艷やかな褐色の肌と月色に煌めく短髪は共に光を浴びているように薄っすらと輝いていた。
 白い布の半袖シャツは緩く丈も短くて、腹の周りが丸出しである。臍辺りのモデリングが特にキュートだ。胸は革製のブレストプレートが気休め程度に覆われている。
 下半身には灰色の短パンをヒップ辺りまで降ろして穿いていた。裾も巻かれていて凄く短く見えた。
 そして、何も履いていないその眩しい足を惜しみ無く晒している。とても健康的で、愛らしい美脚である。
 脛まで縛る紐サンダルと合わせると、物凄いエロスを感じさせる。

 種族は見ての通りダークエルフ。
 敏捷値が高く、アサシンかアーチャー系の職業が得意な種族だ。
 僕のアバターも銀色の弓矢を装備している。

 少しの間の感想の後、プレイボタンを押してゲームに接続する。
 すると、目の前に昨日ログアウトしたヴァレリアの市街地が広がった。

 街中は何時ものように賑わっている。

 さて、約束時間はまだ余裕があるし、何をしようか……。

 ピン!

 早速個人メッセージが来た。
 初心者だった頃からお世話しているベンガルガさん、通称ルガさんからだ。

『おう、レフィン!やっと来たか!』
『こんばんは〜。どうしたんですか、急に?結婚の申し出ならお断りですよ?』
『違うわ、このアホ!いいからグリンゴッド平原に来い!モンスターパレードが起こってるぞ!針金はりがね氏の預言によるとレクスまで行くかもしれん』
『本当ですか!?』

 その知らせに僕はすぐ食いつく。

『何時から?いや、それはもういいです。それより僕の分もちゃんと残っていますよね!?』
『知らん!もう半分切ってるぞ』
『あああ、もうっ!残っていなかったらルガさんの尻に〈ドミネーション・アロウ〉ぶち込みますからね!』
『酷いな、おい!』

 ヴァレリアからグリンゴッドまで召喚獣で行くのは遠過ぎる。
 リアルで三十分も掛かるかも知れない。
 そんなに時間掛けたら、イベントなんぞすぐ終わってしまう。
 仕方がない、ちょっと高いけど都市間テレポートを使うしかない。
 先ず、グリンゴッドの近くのエルヴァーラにテレポートして、そこからまた召喚獣で行こう。

 そう決めた僕は早速、中央広場のテレポートに向かった。
 テレポート利用費に苛立ちを覚えながらもお金を出す。
 イフェクトの後、画面が暗くなり、また光が戻った時はエルヴァーラに付いた後だった。

 四方が緑に覆われた森林の都である。
 でも、道には普段この都市には滅多に見かけない光景が広がっていた。

「もう人がこんなに……」

 モンスターパレードの噂が既に広まっていたのか、大勢のプレイヤー達が準備を整えて次々と出発している。

 こうしちゃいられない。
 早く動かないと。

 僕も直ちに召喚獣のグリフォンを召喚し、その場で出発した。
 飛行能力を持つグリフォンは土を蹴って力強く空へと飛翔する。
 街の壁なんぞ無いのと同然のように飛び越え、空を掛け始めた。

 そして、約三分後。
 僕の下には戦争が広がっていた。

 緑の芝生に覆われた綺麗だったグリンゴッド平原は今、無数に犇めくモンスターの軍勢とそれを阻止する多くのプレイヤー達に踏み躙られていた。
 跳び交える剣と矢、そして魔法の光。
 平原は正に混沌の坩堝であった。

 そんな中、最戦線近くでサーベルタイガー型モンスターと闘っているルガさんを見つけた。
 僕はチャットを音声入力に切り替えて声をかける。

「共食いですか?さっすがルガさん、半端ないですね」

 ルガさんの側に降り立つのと同時に、武器を構えて近くにあったモンスターを射る。
 低レベルモンスターだから二三発で倒した。

 ルガさんも音声入力にしたのか、サーベルタイガーに攻撃を入れながらも返事をしてくれた。

『巫山戯てんじゃねぇぞ、クソガキ!何が共食いだ。パーティ申請するから早く支援する準備でもしろ』

 そう言い返したルガさんは黄色い毛に覆われたビストニアン種族の槍使いである。虎の顔で、口の端に備えている長い牙が特徴的だ。
 結構イケたネタだと思ったのに、残念。

〔ベンガルガ様からパーティ申請が来ました〕

 はい、を選択。
 視野の横にパーティメンバーの名前が羅列される。
 パーティ長のルガさんが一番上で、偶にルガさんと一緒にプレイする知り合いが四人。
 僕を含めると、六人のフルパーティだ。

『レフィンちゃん、おひさ〜』『こんばんは』『ボケ担当キタwwwww』『カワイイ!』

「は〜い。皆さん、今日はよろしくお願いしますね〜」

『『『『ヨロヨロ』』』』

 軽い挨拶の後、僕は戦いに加わった。

 僕の今のクラスは吟遊詩人。
 アーチャーから上がって来たので、遠距離戦闘をしながら支援も出来る、サポートディーラーだ。

 まだ皆のHP、MPは大丈夫だし、バフ系を中心に行動しよう。
 味方の攻撃力、防御力を上げる〈戦場の歌〉を使って支援を始める。そして〈パワー・ショット〉、〈クリティカル・ショット〉等の高威力スキルを挟みながら、FPSのように直接狙い撃つ〈スコープ・ショット〉で攻撃。元々ノンターゲティングゲームのLOGに更に狙い所を撃たせる、射撃系クラスの特殊パッシブスキルだ。

 パレードではどうせ非先攻なので、こっちから攻撃しない限り攻撃される恐れはない。
 だから、わざわざ〈デトネイション・アロウ〉みたいな範囲攻撃を撃ってヘイトを寄せる必要はない。前衛に負担も掛かるし、もっと増やすのならテンカー役が勝手にするだろう。

 こうして中型のモンスターを中心に倒している間に、少しづつ周りの状況も把握した。

 現在、僕達は最戦線で闘っている。
 場所が場所だけに他のパーティやプレイヤーも結構多い。
 敵モンスターを混線しちゃう時もあったけど、皆高レベルプレイヤーなだけに上手く捌いている。

 まだレベルの低いプレイヤー達は後ろで席を取って、最戦線が洩らした雑魚モンスターを狩っている。
 偶に大物も洩らしてしまう場合もあったが、まぁ、それはご愁傷様、としか言えない。
 世の中、全てが欲しいようにはならないからな。

 視線を更に遠くに移す。

 最戦線沿いに遠く離れた場所には旗を掲げているプレイヤー集団が幾つか在った。
 ギルドの攻撃隊である。
 それも一団や二団じゃなく複数在る。
 わざわざソロやパーティから離れた位置を取ったのだろう。
 マナープレイは何時も微笑ましい。

 彼らが放つ数々の魔法とスキルを帯びた矢が弧を描きながらモンスターに降り掛かる。
 戦場に響く爆発音と眩しいイフェクトがまるで花火のようで、凄く綺麗だ。

 こうしてパレードは順調に進んでいる。

 その時だった。

『オラァァァァァァァァッ―――!』

 上からデッカイフキダシが視野に入った。それはどんどん大きくなって、

 ドカァァァァン!

 空から何かが落下し、最戦線付近が爆発した。
 ノックバック効果でモンスターが数匹飛んで行くのが見えた。
 煙イフェクトが盛大に盛り上がって、その衝撃の凄まじさを見せつける。

 僕が唖然としている中、煙が晴れていく。
 そして、その中心から出たのは上半身ほぼ裸で、筋骨隆々な禿のオジサンだった。

『全部ぶち壊してやる!オラオラオラオラオラオラオラ―――!』

 禿は目を爛々と赤く光らせ、戦斧を振り回しながら、周りのモンスターを殺戮し始めた。

『ハゲキタ―www』『またアイツかよwwww』『バーサーカー(笑)』『ハゲTSUEEEEE』『スティール乙』『←パレードにスティールとかねぇよ』『筋肉ダルマキタwww』『ktkr』『つーか声でけぇwwww』『あれ、接待部屋ん中で叫んで居やがるwww』『オラオラオラオラwww』『ここまでチャット届いてるwwwww』『近所迷惑、乙www』

 彼の登場にチャットウィンドウも絶賛盛り上がる。
 呆れながらも、その殆どがあの禿を見物に楽しんでいた。

『バーサーカーさん、今日も冴えてるなぁ』
「頭がですね」

『『『『プッ!』』』』

 よし、このネタは効いたようだ。

『ほら、俺達もやるぞ。これ以上遅れを取っちゃドロップが減っちまう』

 そしてルガさんの指揮に僕達は狩りを再開する。

 遠くの方にはまだバーサーカーさんが派手にやらかしながら、モンスターの軍勢を縦横無尽に走り回っている。
 その度にモンスターが吹き飛ばされたり、偶にそれに巻き込まれたプレイヤーも飛んで行ってしまったりしている。

 攻撃隊の方はそろそろケリをつきたいのか、どんどん前に進みながら着実にモンスターを倒していく。

 場はカオスに包まれていながらも結構盛り上がっていて、皆楽しんでいた。

 そして、およそ三十分後。

 攻撃隊が最後の大型モンスターを倒した事で、モンスターパレードが終わり、
 強力なモンスターレクスが―――現れなかった。

 皆の視線が戦場の後尾に向かう。
 ゲームの中なのに、その視線は血走っているように見える。

 視線の先にはローブを深々被っている老人がいた。

『フッ、森羅万象とは常に変わる物。色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき。全ては完全ではない故の事。アカシックレコードから読み取った儂の預言もまた、必ずとも言えないじゃろう。さぁ、喜べ、皆の者よ!貴様らは来たるべき強大な敵を未然に防ぐ事に成功しおったのだ!美酒を捧げよ、この日を歌えよ!世界樹と女神達に祝福を願い、今宵は宴を開こうではないか………って、貴様ら、何をしておる?何故キャラ名を赤にする?止せ!儂に近寄るな!や、やめい、やや、いや、本当やめてください。ごめんなさいすみませんでしたちょっと調子に乗っただけで決して悪気があった訳ではだからお願いだからPKだけは勘弁して下さ―――』

 ユニーククラス、預言者の針金氏はクラススキル〈預言〉でモンスターパレードとモンスターレクスの出現確率を見る事が出来るのだが、百パーセントは一度も無かったらしい。
 ルガさん曰く、それでも今回は結構自信有りげにに言ったので、これだけ人が集まった、と。かなり高確率な予感だったようだ。でも、蓋を開けてみたら普通の確率であったとか。

 針金氏がキレたプレイヤー達に追われるのを見届けた後、僕はルガさんのパーティと別れる事にした。

『もうちょっと遊んで行っもいいのによ』

 もう戦闘も終わったので、音声入力を切って返事する。

『ごめんなさいね。実は今日、親友がLOGを始めるので、アイツとやろうかと思いまして。デートならまた今度誘ってください。その場で断りますけど』
『デートじゃねぇよ!ってか断るの前提かよ!』

 何時ものノリで挨拶した後、僕はグリフォンを召喚してその場を立った。

 向かう先は初心者の街、オーギュスト。
 ここからだと十分でたどり着く。

 グリフォンで空を飛びながら、僕はさっきのモンスターパレードの事を思い返した。

 本当に楽しかったなぁ〜。
 思わず口元が綻びる。

 レクスが出なかったのはちょっと残念だったけど、こんなに多くの人達と一つの目的を成し遂げるのは物凄い一体感を感じさせる。
 とても楽しくて、祭りのように自然と気分が高揚する。
 やっぱ僕はこういうのが好きだな。

 この楽しさを是非、あの親友とも共有したい。

 アイツは最近バカをして人間恐怖症みたいになってしまった。
 お陰で元々内気だったアイツの性格は更に悪化して、今は最早家から出すのも一苦労になってしまった。

 だけどこの前、強引ではあったが、何とかLOGに誘うのに成功した。
 ハマりやすいし流されやすいアイツだと、すぐ気に入ってくれるとは思っていたが、まさかキャラ作りにハマり過ぎてメンテ時間までやるとは、想定外だった。

 最終的にアイツがまた人と交えるようになったら、それだけで良い。

 まぁ、こうやって多くの人と楽しむのは、あくまで僕個人のススメ方だし、アイツはアイツなりに違う楽しさを見つけるかも知れない。
 このゲームのススメ方は人それぞれだからな。

 でも、もし僕と同じく楽しむようになったら、と、ついつい思ってしまう。

 僕は自然と笑みを零した。

 そしてオーギュストに着いた僕はアイツを探し始めた。

「さて。名前はリルゥで、種族はエルフ……と、あっちか……って、あれ?何だ、あれは?」

 街の中央が何だか騒がしかった。
 そしてリルゥのマークが丁度そこを示していた。

『だから、違いますって!俺は女じゃなく本当に男ってば!』
『なるほど、男の娘オトコノコですか。いいですねぇ~。俺も好きですよ、男の娘オトコノコ
『男のムスメ?何ですか、それ?いや、確かにこのアバターは女の子ですけど、俺は男だから!』
『おおっ、何と。ここまでロールプレイに念を入れるとは、感服しました』
『いや、だから……』

 騒ぎの中心にはエルフの幼女がいた。
 そしてそのキャラの名前は僕の親友のキャラ、リルゥ、と書かれている。

 何やら早速トラブルに巻き込まれたようだ。

 僕は心の中で楽しく笑いながら、そんな冴えない親友の元に近づいた。

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