ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

【番外】なんちゃって新婚旅行 ~箱根編〜 パート1

 終業式の日の夜。そろそろ寝ようと布団に手を掛けた時、LINEの通知音が鳴った。

 スマホの画面を覗く。相手は堂庭だった。

『明日の朝七時に家の前で待ってて! 一日分の着替えと洗面道具とかも持ってくといいかも』

 なんだこの唐突過ぎる文章は……。
 しかしながら、この文面からすると泊まり掛けの旅行に行くから一緒に来いと言いたいのは分かる。だが肝心の場所が書いてない。しかも参加者が誰なのかも分からない。
 メッセージで送り返そうと思ったが、面倒なので電話することにした。

 ワンコール、ツーコールが鳴り終わった後に聞き慣れた高い声。

「もしもし、晴流ー?」
「おぅ、今のLINEだけどさ……」
「あぁそうそう。明日の朝七時に迎えに行くから待っててね」
「いやそうじゃなくて。どこへ出掛けるんだよ」
「…………秘密」
「まさか二十四時間耐久保育園巡りとか言わねぇよな?」
「そんな訳無いじゃーん。でも面白そうだね。今度やってみる?」

 やめてくれ。それだけは勘弁してくれ。

「お前がロリコンを卒業したら付き合ってやらんでもない」
「むぅ、晴流の意地悪。それじゃあ一生できないじゃん」
「ロリコンを止める気は無いのか」
「当たり前じゃん。ロリを失ったあたしに価値なんて無いんだし……」
「……俺はそう思わねぇけどな。どんなお前でも――」

 言いかけて、止める。
 俺は今何を言おうとしたんだ……?

「…………」

 お互いに沈黙。あぁ、変な空気にしてしまったな……。

「…………あ、明日は絶対に忘れないでよね! 寝過ごしてたら前みたいに起こしに行くからっ!」

 動揺しているのか、安定しない声で言い放った堂庭は、俺の返事も待たずに通話を切ってしまった。

 俺は彼女を怒らせてしまったのだろうか……。これからは余計な事を言わないように気を付けないといけないな……。


 ◆


 翌日。
 普段の休日なら絶対に目覚める事の無い朝の時間帯に起きられるのは堂庭とのお出掛けがあるからだろう。遠足の当日に早起きできるあの原理と恐らく同じである。

 着替えを済ませて朝食をとっていると母親が「お土産も頼むわよ」と言いながら諭吉様をお一人贈呈してくださった。どうやら別ルートで事情は把握しているらしい。話が早くて助かった。
 親の恵みに感謝しつつ、何故か不機嫌な様子の舞奈海に見送られて家を出る。すると私服姿の堂庭が仁王立ちで待っていた。

「遅いんだけど」
「七時ジャストじゃねぇか」

 一体こいつは何分前から待っていたのだろうか。しかしながら、昨日の件に関しては何とも思っていないようだ。

「まあギリギリだけど良しとするわ。で、それよりもどう? 今日のあたしのロリ具合は?」

 くるんと一回転した後にウインクを決める堂庭。
 正直、いつも通りに可愛いのでコメントし辛いのだが、何も言わないと堂庭は不貞腐れてしまうので彼女の容姿を詳しく見ていくことにする。

 まず目に付くのは、ゆったりとした桃色のパーカー。そしてほぼパーカーに隠れてしまっているデニム生地のショートパンツと黒色のニーハイソックスを組み合わせている。絶対領域が眩しい上に穿いてない感もアピールできる魅力的なファッションだと感じるが、素体が幼いため残念ながらロリコン歓喜な見た目と化している。

「うんうん、今日も凄く可愛いね。まるで小学生みたいだよー」
「ちょっと何で棒読みなのよ!」
「…………バレたか」

 まあ敢えて棒読みにしたんだけど。

「ふん、でも晴流の事だからどうせ心の中で「瑛美りんぐうかわバンザーイ!」とか思ってるんでしょ?」
「んな、思ってねぇよ!」
「えぇ〜。本当にぃ? でもあたしと結婚したいくらい大好きなロリコンさんなら気に入ってくれると思うんだけどなぁ」

 小悪魔のようにニヤリと口角を上げる堂庭。まったく、俺はロリコンじゃないのにとんだ言い掛かりである。

「それとこれとは別だ。……ほら、後ろに待たせている人もいるだろ」
「え……? あぁ」

 背後を振り向く堂庭。俺達の奥には黒塗りのゴツい車と三十路のやわいロリメイドさんが並んでいた。

「あらあら、私なんかに構わないで思う存分イチャイチャしてもらっても良いのですよー?」

 皮肉を混じえながら引きつった笑顔を見せる独身のロリメイド、メアリーさん。

「いえ、待たせるのは悪いですし……。というか他にメンバーは居ないんですか?」

 恐らく引率はメアリーさんで間違いないだろう。だが、桜ちゃんや修善寺さんなど、他に誰も来ないとなると……。

「今日は瑛美お嬢様と宮ヶ谷君のお二人だけになります。つまり……なんちゃって新婚旅行ですね」

 な……んだと!? まさか堂庭と二人きりで……。

「晴流ー? ちょっと顔赤くなってない?」
「んな!? なってねぇって」
「そうかなぁ……。変な妄想でもしてたんじゃないの?」
「してねぇよ!」
「いくら新婚旅行とはいっても『なんちゃって』だからね。夜にムフフな展開とか無いからね」
「分かっとるわ!」

 なんだよ。俺をただのエロ男みたいな扱いにしやがって……。

「宮ヶ谷君。私は貴方を信じておりますが、高校生という立場に置かれてますのでくれぐれも青少年の健全に背くような行為は――」
「分かってますよ!」

 男子高校生にも真面目な奴はいるし、全員が変態じゃないのだ。そこを勘違いしてもらっては困るのである。


 ◆


「いやぁ参りますよねぇ」

 メアリーさんが運転する車に乗り込み、揺られること数分。前方の座席から溜め息と嘆きの声が聞こえてきた。

「どうかしたんですか?」
「どうもなにも不満だらけですよ。だって最終回は宮ヶ谷君はもちろん、オールスター勢揃いだったじゃないですか。それなのにお嬢様の側近である私がカメラに一秒たりとも写ってなかったんですよ? おかしいと思いませんか?」

 ん……何を言っているんだこの人は……?

「今度あの抹茶好きな変態ロリコンの馬鹿に会ったら抗議してやろうと思ってますよ。ついでに私が主人公のエピソードも追加で……」
「ち、ちょっと意味がよく分からないですが、もうその辺にしておいた方が……」

 これ以上続けると危険な気がする。俺の直感がそのように訴えていた。

「晴流、ポ○キー食べる?」

 一方、メイドの嘆きに聞く耳すら持たず、俺の右隣で呑気に菓子を頬張っていた堂庭が声を掛けてきた。

「おぅ、じゃあ一本もらうわ」
「オッケー」

 すると堂庭はポッ○ーを手に取り、俺に渡すと思いきや自分の口に咥えてしまった。フェイントだったのかな?

「あええ?」
「ん? 何言ってるか分からねぇよ」
「あぁーえぇーえぇー!」

 堂庭は開かない口で猛獣のように唸っている。どうやらこれはフェイントでは無いようだ。多分――

「これを食べろって事か……?」

 こくりと頷く堂庭。マジか。これって俗に言う○ッキーゲームってヤツじゃん。……って待て。それならまさか食べ終わる時に唇が!?

「あぁーあぁーうぅぅ!」

 やめておこう。これ以上の展開を想像したら俺は本当にロリコンになってしまいそうだ。それに堂庭も急かしているし、ささっと済ませて終わらせてしまおう。

 視線を低くして堂庭の顔に近づける。そして彼女の口元から伸びる細長い棒(菓子)を食らいつこうと動いた時――

「うわっ!?」

 全身が進行方向に大きく引っ張られる。急ブレーキがかかり、衝撃に驚いた堂庭は咥えていたポ○キーを離してしまった。

「ごめんなさい。お二人とも、お怪我は無かったでしょうか?」
「はい、俺は大丈夫です」
「あたしも問題ないけど……メアちゃんこそ大丈夫? 急ブレーキなんて珍しいじゃん」
「申し訳ございません瑛美お嬢様。運転に支障は無かったのですが、何故か右足が勝手に動いてしまいましてね……」

 ルームミラー越しにメアリーさんの冷めた笑顔のようなものが見えてくる。この人の前で堂庭とイチャつくのは危険極まりない行為なのかもしれない。

「あの、メアリーさん。話は変わるんですけど、これから行く場所を俺はまだ聞いてないんですが……」

 堂庭は家の前で待ってろとしか言わないし、母親も内容は知っているようだったが結局教えてくれなかったので、俺は現在未知の土地へ強制連行中なのである。もし同乗者がロリっ娘じゃなくてコワモテの兄ちゃんだったら、行き先は湾岸の倉庫街や山奥の森林が思い浮かぶだろう。夜のサスペンスにうってつけのシチュエーションだな。

「あら、そうだったんですか。てっきりお嬢様から伝わってると思いました」
「普通はそうですよね。でも堂庭は秘密って言ってたので……」
「ふふ、当日までのお楽しみにしてたんですね。ならその答えは瑛美お嬢様に聞いてみると良いでしょう」

 さらりと受け流され、振り出しに戻る。右隣を見ると少し不貞腐れた表情の堂庭。

「……なによ」
「今日行く場所、いい加減教えてくれよ」
「…………秘密」
「まだ駄目なのかよ!?」

 まさか本当に湾岸の倉庫街とかじゃ……ないよな。

「別に隠す必要も無いんだけど、サプライズみたいで楽しいじゃん」
「いや、俺は全然楽しくないんだが」
「じゃあクイズにしよっか。景色を見ればヒントになると思うし、近付いてきたら分かるから。もし一時間以内に正解したらご褒美として一つだけなら言うこと聞いてあげる!」
「な、なんでも……!?」

 キキィーッ!

 ここで強めのブレーキ。メアリーさん、また貴方ですか。

「あらあらごめんなさい。右足がまた勝手に……」

 俺達の身の平和のためにもメアリーさんの婚活を応援したいと思う。見た目は中学生だけど、免許も持ってるし家事は当然ながらプロだし、文句のつけ所は無いと思うのだ。誰かもらってくれる人、いませんかねぇ……。

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