ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

7-3 「悔しいと思わないか?」

「最低。もう近寄らないで」

 堂庭はいつにも増して不快な表情を浮かべていた。

「悪い……。でも俺、そんな酷いこと言ったか?」
「酷いどころじゃないわよ。もうほんっと最低。晴流なんか大嫌いっ!」
「堂庭…………」

 なんでだよ。一体俺は何をしたというんだよ。
 悲しませるような言動をしたつもりはないし、困った時は手を差し伸べていたというのに……。

 なんで俺、嫌われたんだよ。

「もう二度とあたしの前に現れないで。この人でなし」

 初めて見る堂庭の冷酷非情な態度。
 胸が苦しい。嫌だと叫びたい。逃げ出したい。
 だが記憶はそこで途切れた……。


 ◆


「おい――や。起き――の――。聞こえて――――」
「…………」
「おい起きろ宮ヶ谷!」
「どうわぁ!」

 突然の怒号に目が覚める。
 気が付くと頭の毛が寂しい数学教師が教卓から俺を睨んでいた。どうやら今は授業中だったようだ。いつの間に眠ってしまっていたのだろう……。

「ったく、お前のその居眠り癖はどうにかならんのか」
「すみません……」
「あと今日提出期限のプリント、ちゃんとやってきたか?」
「あ、すみません忘れてました。明日出します……」
「はぁ……。今は良いかもしれんが社会に出てからだと話にならんぞ? 卒業するまでには居眠りと忘れ癖くらい直しておけよ」
「すみません……」

 静まり返った教室にくすくすとした笑いが広がった。授業中に眠って叩き起された挙句に説教を食らうなんて俺にとっては日常茶飯事。取り敢えず申し訳なさそうな顔を作って教科書を開けばいいだろうと思ったが、ふと思い出した。

 堂庭は……!

 最前列に座る彼女に目をやる。場の空気を気にする素振りも見せず、黙々と板書をノートに写しているようだった。
 こちらを振り向くどころか興味すら無いといった感じだ。普段ならくすっと笑いながら俺を小馬鹿にしてくるというのに……。

 昨日、神社で堂庭が言った言葉……本当だったんだな。
 俺、嫌われたのかな。でもさっきのは夢だったから嫌っているのかどうかは分からないよな。


 でも……。堂庭はもう俺を助けてくれないんだよな。


 ◆


 放課後。誰もいなくなった教室に俺は一人自席に座って夕暮れの空を眺めていたが、背後から声が掛かった。

「おっと宮ヶ谷。まだいたのか」

 声の方向に振り向くと、俺に負けず劣らずのどうしようもない男、平沼が教室に入ってきていた。

「まぁな……。というかお前こそなんでまだ学校にいるんだよ」
「いやぁそれが帰り際に担任に捕まっちゃって、説教を受けてたんだよ。おまけに課題のプリントを仕分けする雑用付きだぜ。今日は本当に運が無い日だなぁ」

 そう言いながらもけらけらと笑いながら俺の前の机に座る平沼。こいつは気持ちの切り替えが早いというか、大抵は笑い飛ばす奴だよな。いつもの事だけど。

「そいつはひでぇな……。はぁ……」
「おいおいテンションが低いなあ宮ヶ谷。今日のお前、ずっと元気無いし……また堂庭ちゃんと喧嘩したのか?」

 やはりバレていたのか。
 堂庭が口にした「この関係はやめましょ」という言葉が頭から離れず、今日の俺はひたすら悩まされていた。
 何故こうなってしまったのか。
 あと堂庭に好きな人がいたなんて……。

「喧嘩って訳じゃないんだけど……。話、聞いてくれるか?」
「おぅ! 親友の頼みなら任せとけ!」

 非常に頼りがいの無い親友だが、俺は事の顛末てんまつを話すことにした。自分だけで解決できる問題ではないと思ったから……。


 ◆


「がっはっは! なんじゃそりゃ。そんなんで頭抱えてたわけ?」
「悪いかよ……」

 平沼は同情するどころか大きな声で笑い上げた。俺、おかしなことでも言ったのか?

「いやいや、お前らしいと思ってさ。でも堂庭ちゃんも大変だよなぁ。最強に鈍感な夫を持っちゃって」
「だから夫婦じゃねぇっての。それにもう堂庭とは会話すらしないと思うから……」

 堂庭との距離は再び離れることになるのだろう。小学生だった頃のように顔を合わせてもお互い話もせずに黙り込むだけ。そして平沼や都筑から夫婦とからかわれることも無くなるのだ。

「いいや、それは違うと思うな。だが宮ヶ谷。お前次第で堂庭ちゃんは変わると思うぞ」

 平沼は笑うのを止めて、極稀に見る真面目な表情に変わっていた。

「でももう俺と口を聞かないみたいだし、今更何を言っても無駄なんじゃ……」
「なあなあ、だからお前はヘタレで鈍臭いんだよ」
「人の事言えるのかよ」
「はは! まあそうかもしれねぇけどよ。…………なら質問を変えるか。宮ヶ谷、お前は堂庭ちゃんと絶交しても良いのか?」

 堂庭と絶交しても良いかって? そんなの決まってる……。

「嫌だろ、普通に考えて」
「おぅ即答じゃねぇか。なら……堂庭ちゃんの好きな人が俺だったとする。お前はその恋路を応援するか?」
「は? する訳ねぇだろ、殴り飛ばされたいの?」

 何言ってんのこいつ。そもそも堂庭が平沼を好きになるという前提が許せないし有り得ないだろ。

「うわぁ容赦ねぇな……。まあ今のは冗談として、仮に堂庭ちゃんが好きな人と付き合い始めて、お前と疎遠になったらどう思う?」
「どう思うって……堂庭が本当に好きというのなら仕方ねぇだろ」
「悔しいと思わないか?」

 平沼の一言が胸に刺さる。
 悔しい、か。
 密かに考えていたのだが堂庭の好きな人がいるという発言。もしかしたら相手は幼女ではないかと思った。自宅近くにある保育園に通うマイちゃんやユリカちゃん(堂庭曰く)、愛川さんの妹の結愛ちゃんに先日公園で会ったロリコンな女の子の瑠璃ちゃんなど、数多くの幼女に出会ってはラブコールを送り続けている。だがそれでも振り向いてくれないので堂庭は本気で恋をしようと考えているのではないかという憶測だ。
 しかも夏休みに堂庭の別荘へ行った時、好きな人はいるかという話題になり彼女は幼女が好きだと言っていた。でも言い方は曖昧で、はぐらかされた感じはしたけれど……。

 しかしながら、これらは単なる希望的観測に過ぎないのだ。
 もし堂庭の好きな人が幼女ではなく、年頃の男だったとしたら。そしてその人と付き合い始めたとしたら……。
 想像したら胸が張り裂けそうになった。何故だろう……でも今の感情を理解することはできた。だから…………。

「悔しい。十年以上前からずっと幼馴染みとして側にいたのに、誰よりもあいつの事を分かってるつもりなのに、得体の知れない男に突然取られるなんて嫌に決まってるだろ!」

 俺があいつにつぎ込んだ時間は計り知れない。別に俺は堂庭の親でもないし、恋愛は本人の自由だとは思うけど……。それでも堂庭に好きな人がいるのなら、まず俺に顔を見せに来い。相性が合うかどうか俺が見極めてやる。話はそこからだ。

「いいねぇ、宮ヶ谷良い答えだよ。つまりお前は堂庭ちゃんと仲良しのままでいたいし、堂庭ちゃんに好きな人ができたら嫉妬して許さないわけだ。まるで娘を溺愛する頑固親父のようにな」
「いや、俺は別に嫉妬なんて……」
「言い訳しなさんな。お前の答えからは妬み恨みが滲み出てたぞ? で、まあそういう事で今までの会話の流れをまとめた結果、お前が堂庭ちゃんに抱く感情はこうだ!」

 拳を強く握りしめて熱弁していた平沼は座っていた机から飛び降りて、某裁判ゲームの異議あり!のように指差しポーズを決めながら言い放った。

「宮ヶ谷。お前は堂庭ちゃんが好きなんだ!」

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