ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

Xmas4-3「俺と堂庭のクリスマスの夜」

 一通りの買い物を済ませた俺達は出口に向かって歩いていた。時刻は午後四時。小腹が空いてきたな。

「はぁ……また満員電車に乗るのか、面倒だな……」

 移動だけで疲れてしまったあの道のりをまた繰り返すと考えると……。ため息しかこぼれない。
 だが堂庭はやけに澄ました顔をしていた。まさか既に覚悟を決めたというのか……?

「ふふ、それなら平気よ。メアちゃんにここまで迎えに来るように連絡してあるから。もう来てると思うけど」
「…………は?」

 迎えに来ているだと……!?

「待ってくれ。帰る時の迎えがあるなら行く時もメアリーさんに頼めば送ってくれたんじゃ……」
「そうね。その通りだと思うわ」

 即答。
 なら何故わざわざ俺に頼んで面倒くさい電車と新幹線を使ったんだよ。車の方がよっぽど快適じゃないか……。

「なんで最初からメアリーさんに頼まなかったんだよ」
「それは…………。晴流を道連れにする口実が作れなくなるから?」
「道連れってお前……。そもそも俺を呼ぶ必要が無いだろ」
「いいえ、必要アリアリだわ。だって荷物持ちとボディーガードがいなくちゃ買い物できないじゃない。まあ本来はメアちゃんに頼むべきなんだろうけど、あの子もあたしみたいにか弱いロリっ娘だから役が務まらないでしょ?」
「それで俺の力が必要になったと。なるほどね…………って納得できるかぁ!」

 俺はお前のメイドでもなければマネージャーでも無いんだぞ。どんだけお嬢様体質してるんだよこいつは!

「でも晴流が来てくれて良かった。…………楽しかったよ」
「…………え?」

 最後に聞き取れないぐらい小さな声で呟いた堂庭。俺の聞き間違いでなければ彼女はどうやら喜んでくれたらしい。
 何故小声で言ったのかは分からないけど、怒ってなさそうだから別に気にしなくてもいいか。


 ◆


「もうすぐ幼稚園に着きますが…………瑛美お嬢様はまだお休みになられてますね」

 堂庭家の専属メイド、メアリーさんがルームミラーを見ながら声を掛けてきた。彼女が運転するリムジンに揺られること二時間。地元である鎌倉に到着し、ようやく自由の身になれると…………思いたかった。

 残念ながら俺はまだ堂庭に付き合わなくてはいけない。愛川さんの妹、結愛ちゃんからクリスマスパーティーへ参加する誘いを堂庭が受けたのだそうだ。といっても幼稚園の授業参観らしいのだが、俺も一緒に参加することになったのだ。
 正直この内容であれば荷物持ちもいらないし、俺が行く必要は無いだろう。ただ『幼稚園』という場所が問題なのだ。堂庭が溢れんばかりの幼女を見て暴走しないよう見張らなくてはいけない。もはや今日一番の重大任務である。

 そんな当事者である堂庭だが、車に乗るや否やずっと眠っていた。恐らく昼間はしゃぎすぎて疲れたのだろう。子供かよ。

「おい起きろ。もうすぐ着くみたいだぞ」
「むにゃ……瑠璃ちゃんの手ぷにぷに……ぐへへぇ……」

 肩を揺すって起こそうとしたが、気持ち悪い寝言を吐かれた。
 でもすやすやと眠るその顔はとても幸せそうで、起こすのが勿体無いくらいだった。本当に欲に素直な奴だよな。

 とはいえこのまま放っておく訳にもいかないので、力を強めて叩き起こすことにする。

「ほら起きろっ!」
「わぁ! …………あ、瑠璃ちゃんが……いない」

 まだ少し寝ぼけているようだったが、目は覚めたようだ。


 ◆


「とうとうこの時が訪れたのね……。今日のメインディッシュがっ!」
「食うなよ」

 幼稚園前。リムジンから降り立った堂庭は両手を腰に当てながら高らかに叫んだ。うるさい。

「幼女に愛を捧げるこのあたしが合法的に幼稚園の中に入ることができるという素晴らしさ……! あぁ、結愛ちゃんと出逢えて本当に良かったわ!」

 合法って言うなよ気持ち悪いな。というか結愛ちゃんと知り合った事で愛川さんに恨まれたというのに、そこは気にしなくていいのかよ……。

「いいか。この先はお前より何千倍も心が綺麗な子供達と親御さんもいるんだ。決して「幼女最高!」とか叫ぶんじゃねぇぞ?」
「分かってるわよ、あたしだって馬鹿じゃないわ。こんなオトナの格好じゃ暴れられないもの。はぁ……。園服か小学校の制服に着替えてくれば良かったんだけど……」

 園服に着替えるとか言ってる時点で十分馬鹿だよ!
 だが本人はブレーキをかけるみたいだから大きな問題は起きなさそうだな。取り敢えず一安心、か。



 堂庭の様子に注意しながら教室に入る。
 部屋の中は既に集まっている園児と多くの大人達で賑わっており、如何にも授業参観といった雰囲気だった。

「あ! やさしーおねーちゃんだ!」

 そんな中、いち早く気付いた結愛ちゃんがこちらに駆け寄ってくる。まだ教室に入ったばかりなのに気付くのが速いな。

「こんばんは、結愛ちゃん!」
「こんばんはぁ! やさしーおねーちゃんの旦那さんもこんばんはぁ!」

 俺に輝かしい笑顔を振り撒く結愛ちゃん。可愛い。
 でもこの子、何やら重大な勘違いをしているぞ……!

「俺は旦那じゃないよ。堂庭とはただの友達だから」
「そうなの……? 二人はふーふだよって聞いたけど……」
「「夫婦じゃないよ!」」

 堂庭と声が重なる。
 誰だ! こんな小さい子にまで俺達のデマを広めた奴は……!

「あれぇ? 二人ってまだ結婚してないのぉ?」

 直後、背後から声が掛かる。振り向くとニヤニヤと笑う愛川さんが立っていた。

「愛川さん……もしかして君が……?」
「もちろん。逆に私以外に教える人がいると思った?」

「頭大丈夫?」とでも言わんばかりの顔。なんで俺が馬鹿にされてるんだよ……。

「愛川理沙、久方振りね。あんたの楽しみ方ってイマイチ理解できないけど、結愛ちゃんに嘘を吹き込むのは良くないんじゃないかしら?」
「ふふふ、貴方に口出しされる筋合いは無いわ。結愛は私の妹だし」
「あんたねぇ、子供の素直さを舐めるんじゃないわよ……」
「ん、何? それ貴方の自慢? 隙あらば自分語りってやつ?」
「…………一発殴られたい?」

 勝手にヒートアップする二人。おいおい喧嘩はやめてくれよ。和やかな雰囲気が台無しになるだろ。

「はい二人ともそこまでー。喧嘩はよそでやりましょうねぇー!」

 間に入って仲裁する。まったく、犬猿の仲だなこの二人は……。

「ちょっと晴流! あたし喧嘩なんてしてないんだけど。ただ意見を主張しただけだし」
「私も堂庭さんと議論していただけだよ。勝手に邪魔しないでくれるかな?」

 えぇ……なんで俺怒られてるの……?

「おぉ! これって『しゅらば』だよね! すごーい! 本物が見れたぁ!」

 一方結愛ちゃんは俺達とのやり取りをキラキラとした目で見届けていた。
 でも結愛ちゃん……これ、修羅場では無いと思うな。というかそんな難しい言葉、どこで覚えたのかな?


 ◆


「今日はおうちの人に手伝ってもらいながらクリスマスキャンドルを作りましょう!」

 幼稚園の先生の一声で場は静まり返り、クリスマスパーティーという名の授業参観が始まった。
 行儀よく座る園児達の手元にこれから作るのであろうキャンドルが配られていく。

 ふと思ったのだが、幼児用の椅子が想像以上に小さかった。俺が座ったらぺしゃんこに潰れてしまいそうだが、幼稚園児だった頃は丁度良いサイズだったんだよなと思うと自身の成長ぶりを改めて感じる。
 でも俺はもう高校生だし、体力の限り遊び回る幼児と比べたらそりゃあねぇ……と思いながら隣にいる堂庭を眺めてみた。

 彼女の頭一つ以上低い身長と園服を着た幼女達を前にして興奮を隠せずにいる姿を見たら、俺の心身の成長はもしかしてノー〇ル賞級に凄いのではないのかと錯覚してしまいそうになった。
 というか堂庭……口が開きっぱなしで間抜けな上、涎も垂れそうだから早く閉めてくれ。



 先生からの説明は終わり、園児達は各々の作業に取り掛かろうとしていた。
 先生曰く、保護者と一緒に工作をするということでそれぞれの親御さんが隣に座っていくのだが、俺達は結愛ちゃんの保護者でもなければ身内でもないのでどうする事も出来ず、教室の壁際に立ちつくしていた。

「非常に気まずいわね、これ」
「そうだな。俺は今すぐにでも帰りたいが」

 堂庭も一応空気は読めるんだなと感心しつつ、辺りを見回してみたが結愛ちゃんの両親はどうやら来ていないようだった。だとすると身内は愛川さんだけか。

「堂庭さん、行ってきたら? 結愛と話せるチャンスでしょ?」

 俺の隣に並ぶ愛川さんがニヤリと口角を上げながら話す。堂庭に対しては相変わらず煽り口調だな……。

「でもこれは「おうちの人」としなくちゃ駄目なんでしょう? なら姉のあんたが行きなさいよ」
「ふふ、別に本人が満足すれば誰だっていいでしょ。それとも何? 堂庭さんは人の言う事を全部鵜呑みにしちゃう素直なワンちゃんなのかしら?」
「……何その嫌な言い方。凄く腹立つんですけど」
「あらぁごめんなさいね。つい事実が口からこぼれてしまったわ」

 俺を間に挟んで睨み合う二人。口を開けばすぐ喧嘩するんだな……。
 やれやれと溜め息をついて事態の収束を図ろうとしたその時、救世主の声が届いた。

「やさしーおねーちゃん! 一緒につくろー!」

 結愛ちゃんがこちらに向かって大きく手招きをしていた。屈託の無い笑顔が可愛らしい。
 一方堂庭も喧嘩腰のしかめっ面から輝くような笑みを浮かべながら……

「うんっ! つくりゅうぅぅぅ!」

 精神年齢まで五歳児に合わせた彼女は結愛ちゃんのもとへ向かっていった。なんて単純な奴……。

「アホみたいに素直な子なのね、堂庭さんって」
「…………まぁな」

 呆れるような口調で愛川さんが言う。

「でもちょっと羨ましいかも」
「え……? あんな馬鹿のどこが良いんだよ」
「だってほら、怒ったと思ったらすぐ笑ったり、はたまた泣いたり……。気持ちを引きづらないんだなあって思ったの。本心は分からないけど、あの切り替えの早さは少なくとも私には真似できないよ……」

 堂庭は結愛ちゃんの隣に座って楽しそうに笑っていた。数分間までイライラモード全開だったとは思えない。
 彼女は欲のままに生きており、幼女の為なら全力を尽くす。でもしたくない事はしない。それを俺は子供みたいで情けないと思っているけれど、もしかしたら堂庭が持っている数少ない長所なのかもしれないな……。

「あともう一つ羨ましいところがあるかな。……結愛に好かれていること」
「やっぱ嫉妬しているのか?」
「当たり前でしょ。結愛ったら姉である私を差し置いて堂庭さんを誘うのよ? 家でも堂庭さんの話ばかりするし……」

 愛川さんは唇を噛み締めながら悔しい顔をする。
 姉を差し置いて……か。俺も舞奈海が別の男に興味を持って愛想を尽かされたら嫉妬してしまうかもしれないな。
 ……あれ? それってただのシスコンじゃないか……?

「でもさ、妹の成長である証だし、優しく見守れば良いんじゃね?」
「……どうしたの? まとめ方が雑じゃない?」

 訝しげな顔で見つめられる。まあシスコンだろうとロリコンだろうと人は誰しもコンプレックスを抱いているという事だ。
 別に俺は動揺している訳じゃないぞ。愛川さんだって結愛ちゃんを溺愛しているようだし、兄妹、姉妹の仲が良い事は素晴らしいじゃないか。

「…………あ、堂庭さんの周りに人が……」

 愛川さんは俺の返答を待たずして真っ直ぐ前を見つめていた。
 彼女の視線の先――堂庭の周囲には他の園児が三人ほど集まっていた。どうやら作り方を教えているようだ。

「あいつ、保育士とかに向いているのかもな……」
「そう? でもロリコンだったら流石に無理じゃない? 保護者との信頼関係とか色々あるだろうし」

 素朴に感じた俺の意見に愛川さんは現実的な批評をしてくる。
 堂庭は幼女を見ると興奮して暴走する。でも最近はなんというか、暴れ具合が収まってきている気がするのだ。
 ロリが大好きである事に変わりは無いのだろうけれど、あいつはあいつなりに大人に成長しているのかもしれない。

「超変態なロリコンだけどロリには迷惑を掛けてないどころか好かれているんだよな。だから……案外天職なのかもしれないって思っただけだよ」

 将来どんな仕事をするのかなんて考えた事も無かったが、俺達もあと三ヶ月ぐらいで高校三年生になるんだよな。将来は何をしているのだろう、俺。

「ふふ、旦那様が言うなら間違いないね!」
「だから旦那じゃねぇよ」
「じゃあ……亭主!」
「意味同じだろうが」
「そっかー。でもがそう思うなら、きっとそれは正解だと思うな」

 最後は微笑みながら言われた。
 いくら幼馴染みで長い付き合いがあるとはいえ、俺の考えが全て堂庭に当てはまるとは思えないけど……。子供達と見分けがつかないロリコンの保育士さんがいても良いのではないかと思った。

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