ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

6-15 「視野を広げるのじゃ」

「お待たせいたしました。こちらご注文の品でございます」

 営業スマイル全開な店員さんがお盆に載せていた商品をテーブルの中央へと運んでいく。
 アーモンドの甘い香りとコーヒーの上品な香りが辺りを支配する。桜ちゃんが頼んだスコーン、美味しそうだなぁ。
 ぺこりとお辞儀をして立ち去る店員に俺は軽く会釈をして見送る。それから並べられたコーヒー等から桜ちゃんが頼んだ物を彼女の手元へ運んであげた。

「はい、はいそうです。お陰様で、はい。……ええ、先日はどうもありがとうございました」

 スマホを耳に当て、ひょこひょこと頭を下げながら話す桜ちゃん。電話越しの相手には見えないのについ出てしまう仕草。良い人である証。

 俺はブレンドコーヒーを手元に持ってきてそのまま口へ運ぶ。ミルク・砂糖無しのブラックだ。今まで飲んだことは無いが、喫茶店なら美味しいはず……。

「うわ苦っ!?」

 一口啜った瞬間、突き刺さるような喉への刺激に俺は思わず咳き込んでしまう。何だよこれ、堂庭はブラック以外はコーヒーと呼べないとかほざいてたけど、こんなのコーヒーじゃないだろ。ただの苦い液体じゃねぇか。コーヒー愛好家には申し訳ないけど俺にはまだ分からない味のようである。だからミルクと砂糖をたっぷり入れさせていただきます。

「ちょ、お兄さん大丈夫ですか!?」
「うん、全然大丈夫。少しびっくりしただけだから……」

 電話中にも関わらず心配の目を向けてくれる桜ちゃん。優しいなぁ。
 それから俺は改めてコーヒーカップを口元へ運ぶ。今度はまろやかでほんのりと甘い味だった。

「ふふ、ええそうです。お兄さんが……はい、いえそんな事は無いですよ」

 桜ちゃんは電話の先にいる修善寺さんと楽しそうに談笑を続ける。この二人は先輩後輩の間柄で仲が良さそうに見えるな。頼れる先輩と頼れる後輩……いや、どっちも頼れるぞ? でも組み合わせとしては悪くないのかも。
 コーヒーを啜りながらぼんやりと考える。すると桜ちゃんがスマホを俺の方に差し出してきた。

「先輩がお兄さんとお話したいそうです」
「あぁ、分かった」

 渡されたスマホを耳元に当てる。

「もしもし、俺だけど……」
「ほっほっほ。なんじゃ、事故ったから百万円必要になったって? 残念じゃがわしはその手の詐欺には騙されないぞ?」
「オレオレ詐欺じゃねぇよ、俺! 宮ヶ谷だけど!」

 大体、電話代わった途端に詐欺とか可笑しいだろ。業者の人もびっくりだよ。

「分かっとるぞ、ただの挨拶じゃ。そんなムキになったらわしが困る」
「いやいらんからそんな挨拶……」
「ほっほ。で、先日はどうだったのじゃ?  何やら上手くいかなかったと桜殿から聞いたのじゃが」
「あぁ、それなんだが……」

 愛川さんと話し合い、堂庭への誹謗中傷は彼女の仕業だと分かったが反省の色を見せなかった。それどころか堂庭がロリコンを止めざるを得ない状況に追い込まれている。
 事のてん末を修善寺さんに話すと彼女はふふっと笑いながら

「情けないのう宮ヶ谷殿。せっかくあの日、わしが気を利かせて席を外したというのに男を見せられなかったのかえ?」
「…………ちょっと待て。修善寺さんは用があるから行けなかったんじゃ……」
「そんなの建前に決まっとるじゃろう。因みに桜殿が病欠でなければ彼女も席を外させる予定じゃった」
「なん……だと……」

 最初から俺と堂庭の二人にさせるつもりだったのか……。というか男を見せるって何だよ。俺はただ堂庭のフォローを入れてただけなんだが。

「じゃが瑛美殿に落ち度があるのなら仕方無い。でもわしはそう思わないのじゃ」
「いやいや、愛川さんの妹が堂庭を嫌がったって聞いたし……」
「証拠はあるのかえ?」
「…………証拠は無いけど」
「裏の顔を持つ愛川殿の発言を鵜呑みにしたのじゃな? …………お主、よく考えてみるのじゃ」

 大きな溜め息が聞こえた。俺、呆れられたのかな?

「愛川殿は瑛美殿を陥れたい。なら口実にできそうな事は利用するのが自然じゃろう。よって愛川殿の発言は嘘である可能性が高いと思うのじゃ」
「なるほど……。でもそれを愛川さんに言っても素直に認めてくれるとは思わないけどな……」

 修善寺さんの推測には裏付けが無い。事実を証明できなければ意味が無いのだ。

「宮ヶ谷殿、視野を広げるのじゃ。証拠が無ければ作れば良い。実際に愛川殿の妹と会って言質を取ればいいのじゃ」
「だけど愛川さんが応じてくれないと思うぞ。向こうにメリットは無いしな」
「確かに直談判しても駄目じゃろう。ならば拳で……じゃなくて嘘の用事で騙して呼び出せば良い」
「うわぁひでぇ……」
「お互い様じゃろう。でもわし達が誘うのは怪しまれるだろうから、彼奴はどうじゃ? お主の周りに情報通がいるじゃろ?」
「都筑か。確かにあいつは顔が広いみたいだし上手くいくかもな」

 愛川さん呼び出しドッキリ作戦とでも呼ぼうか。罪悪感があるけど事実を証明する手段ならやむを得ない。

「なら後はお主に任せるぞ。進捗は逐次連絡してもらえると助かるのじゃ」
「了解。また何かあったら電話するよ」

 じゃあ月曜日で、と挨拶をして電話を切る。

 愛川さんの妹である結愛ちゃんに直接聞く――修善寺さんから良いアドバイスを貰ったな。後は堂庭の善良さを信じるだけか。

「お兄さん、どうでした?」
「最後の賭けを教えて貰ったってところかな。まあ、聞いてよかったよ」
「そうでしょう。先輩は凄いんですから!」

 えっへんと得意気になる桜ちゃん。修善寺さんをかなり尊敬してるんだな。

「でも今日はありがとう。桜ちゃんが誘ってくれなかったら多分俺何もできなかったよ」
「そんな事無いですよ! お兄さんならきっと一人でも動いていると思いますよ。そういう優しいところ、私知ってますから……」

 ここまでベタ褒めされると流石に照れるな。
 でも、桜ちゃんはどこか寂しそうな笑顔を浮かべていた。何故だろうか……。

 手元のコーヒーを啜り飲む。舌触りは生ぬるかった。

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