ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

6-12 「言いたい事は全部言えた?」

「私が? 消える? ぶふっ、何それー。マジウケるんですけどー」

 腹を抱えて笑う愛川さん。俺と堂庭は爆笑する彼女を顔色一つ変えずに睨んでいた。

「中々面白い冗談を言うんだね堂庭さんは。少しだけ見直しちゃってもいいかも」
「……あたし、本気なんだけど」
「ふふ、面白いわ。そんなマジな顔までしちゃってぇ」
「あんたの本心を晒してやるわ。全校生徒にね」
「ふぅーん。…………で?」

 愛川さんの表情が少し曇る。煽りに反応しなくなった堂庭が面白くないと感じたのだろうか。

「仲間を裏切ってまで自分を守る最低な女よね? いい加減反省したらどうかしら」
「最低…………ねぇ」

 吐き捨てるように言った愛川さんは身を乗り出して、堂庭の目の前まで近づいた後

「あまり生意気な口を叩かないでくれる? 変態なガキ委員長さん」

 地を這うような低い声。
 一切の笑いを含まない顔で彼女は淡々と告げた。

「…………」

 教室は沈黙に包まれ、鉛のように重くなった空気に押し潰されそうになる。
 刺すような視線を送り続ける愛川さんに対し、堂庭は再び顔を俯けたまま全身を震わせてしまっていた。

 これはマズいな……。堂庭も頑張ってはいたが、愛川さんの並々ならぬ威圧に負けてしまっている。

「あれぇどうしたのぉ? もう声も出なくなった感じ?」
「…………」
「まさかもう怖くなっちゃったぁ? 吠えるだけ吠えといて結局ただの雑魚っていう臆病なワンちゃんだったんだねぇ堂庭さんはー」
「…………」
「ワンワンっ! 私は強いワンっ! クゥーン、でも勝負はしないワン!」

 犬の鳴き真似をしながら、これでもかと言う程堂庭を煽ってくる愛川さん。
 俺の握り拳は震えていた。もう我慢できない……。

「もう弱者は目障りだからさー、隅で大人しくしててほしいんだけど。というかさっさと消え――」
「いい加減にしろっ!」

 気付けば俺は大声で怒鳴っていた。感覚的にはガラス窓が割れるくらいの大きさで。
 愛川さんは驚いたのか肩をビクッと震わせて目を見開いた。隣から堂庭の視線も感じたが、俺は構わず続ける。

「お前言っていい事と悪い事があるぞ。そんな分別もできねぇのか」
「いやいや。私は事実しか言ってないよ? だって堂庭さんは変態じゃん? なのにそれを隠して偉そうにしてるじゃん? もうこれって軽い詐欺みたいなもんじゃん? だから私は懲らしめてあげようとしただけなんだよ」

 口を尖らせて正論っぽく語る愛川さんだが、俺はこの発言を当然受け入れるはずもなく。
 だが事実である一片はきちんと受け止めた上で、俺は堂庭瑛美のの事実を彼女に話そうと心に誓った。
 ――幼女を見て涎を垂らすだけが堂庭なんかじゃない。小耳に挟んだ情報だけで知ったかぶるんじゃねぇよ、愛川!

「あぁそうだよ。堂庭は確かにロリコンで変態だよ。気持ち悪いしいつも俺に迷惑かけてる。その癖学校では上から目線で色々指示をしてくるどうしようもない奴だ」
「晴流…………?」

 堂庭のか細い声と視線が気になったが、俺は目の前の相手を見つめ続けた。

「でしょー? だから私と一緒にこのお馬鹿さんを――」
「でもな、こいつは分かってるんだよ。ロリコンが軽蔑される事くらい重々理解してる。自分の好きな事と学校生活をどっちも守りたいから隠してるだけだろ。それのどこが悪いっていうんだよ!」
「……欲張りなのよ。都合良く見栄張っちゃってるとこも生意気だし」
「お前が言うセリフかよ。それに堂庭は努力してるんだよ。仲間を蹴落として地位を守るお前と違って、こいつは自分の力で這い上がってきた。クラス委員長だって自分で立候補して仕事も率先してこなしてる。それを生意気って一言で片付けてしまうのか?」
「…………」
「人に言えない秘密ぐらい誰でも持ってると思うけどな。愛川さん、あんただって持ってるんだし。その怖い顔、表では絶対に見せないだろ?」
「…………悪い? 怖くて?」
「いいや、個人の生き方に口を突っ込むほど俺は偉くないんでお好きにどうぞとしか言いませんが。でも一つ言えるのは愛川さんは俺と同じ一般市民ピープルだ。神様じゃないんだから人の生き方を否定する権利は無い。だから堂庭のロリコンについて文句を垂れ流すのはやめてくれないか?」

 気持ち悪い、調子乗ってる……それだけで懲らしめようと考えるなんてただのエゴイズムでしかない。確かに堂庭の性癖は矯正すべきだが俺達が強制できる問題ではないのだ。

「……ふっ、ふふふ。もう言いたい事は全部言えた? 宮ヶ谷君?」
「え…………? あ、あぁ……」

 不気味な笑顔を浮かべる愛川さん。
 俺の説得により一歩引いてくれると思いきや、まるでノーダメージの模様だ。何故……?

「否定する権利が無いって? 宮ヶ谷君、私が堂庭さんをウザいって理由だけで陥れようとしたと思ったの?」
「…………違うのか?」

 答えると、愛川さんは大きく高笑いした。その姿はもはや悪の女王と呼んでも過言では無いだろう。

「私は被害者でもあるの。七夕祭りの時、私の可愛い妹を拉致ったのって堂庭さんでしょ?」
「…………え?」

 彼女が放った衝撃の一言に俺は一瞬だけ思考が停止した。

 ――堂庭が愛川さんの妹を拉致した? いや待て待てそれは有り得ない。

 俺はすぐさま記憶を七夕の夜へ辿らせる。
 あの日の堂庭は……そう、途中ではぐれてしまって街中探し回ったんだよな。結局見つかったけど本人曰く魅力的な幼女に付いていってしまって、その幼女が愛川さんの妹、結愛ちゃんだったと。
 確かに堂庭と結愛ちゃんは一緒にいたが拉致という言葉は当てはまらないだろう。二人仲良く迷子センターで保護されていた訳だし。
 しかも堂庭はロリコンとはいえ相手が嫌がる行為は絶対にしない奴なのだ。真のロリコンは紳士的であるべきだという謎の豪語を本人も繰り広げていたし、実行もできていると思う。

 頭の中で一頻り整理がついた俺は安堵の溜め息を漏らす。
 しかしながらとんでもない言いがかりだな。どうしても堂庭を悪者扱いにしたいらしい。

「待ってくれ。こいつは確かに愛川さんの妹さんと会っているが、後をつけただけだ。褒められる行為では無いけど……別にやましい事は一切していない。そうだよな?」

 できる限りのフォローを入れつつ、確認の為に視線を隣へずらす。
 瞬間、堂庭と目が合う。彼女は目を大きく開けて、口は小さく開きながらこちらを見つめていた。
 誰が見ても分かるような不安な顔。我を忘れて熱弁していたせいで気付かなかったが、彼女は完全に萎縮してしまっていた。
 声も出さず、涙を見せないように堪えながら隣で怒鳴り散らす俺をただただ見つめ続けていたのだろう。というか何か喋ってくれ。また胸の鼓動がおかしくなってきたじゃないか……。

「う、うん。そう……。あたしは結愛ちゃんを傷付けたりしてないわ……」

 数秒後。ようやく返事をしてくれて、俺は妙な圧迫感から解放された。
 さて、事実は全て言った。後は愛川さんがどう切り返すかだが……。

「何言ってるの? 私は被害者って聞こえなかった? 結愛から聞いてるよ。「怖いお姉さんに変な事された」って」

 笑顔で答えた愛川さんの一言に、俺は開いた口が塞がらなかった。

 マズい。非常にマズい。

 いくら堂庭が人並外れた行為をしていないと弁明しても、相手が怖いと感じてしまえば圧倒的に不利な立場に追い込まれてしまう。
 しかもあの時の堂庭は結愛ちゃんとお医者さんごっこという名目で体を触ったと言っていたよな。正直、これに関しては一切擁護ができない。だって犯罪じゃん。訴えられたら間違いなくバットエンドルートまっしぐらである。

 堂庭には悪いが俺はこれ以上フォローする事はできなさそうだ。
 黙りこくる俺達に追い討ちをかけるように愛川さんは言葉を紡いでいく。

「あの日、家に帰ったらさぁ、泣いて私に飛びついたんだよ? もう怖くて仕方なかったみたいだし。うちの可愛い妹を傷付けた責任、きちんと取ってもらわないと困るんだよねぇ」
「…………」

 堂庭は再び顔を俯かせてしまった。きっと悔しいのだろう。自分の振る舞いが相手に受け入れてもらえなかった事に。そして不快な思いをさせてしまったあの時の行いを後悔しているに違いない。
 ロリを愛し、自身のロリ体型まで愛す堂庭。でも今回は行き過ぎた行為だったんだ。事実は事実として飲まなければいけない。

「二週間後に裁判を行う手続きを始めるから。嫌だったらその見苦しい性癖を何とかして、やたら出しゃばるのもやめなさい」

 捨て台詞のように言い放った愛川さんは鞄を手に取ると、席を離れて教室から去ってしまった。

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