ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

6-11 「でも断れたはずよね?」

 放課後。俺と堂庭は特別校舎の外れにある空き教室に向かっていた。恐らく愛川さんも今頃同じ場所を目指して歩いているだろう。
 今回、彼女を呼び出すための連絡は全て修善寺さんにお願いしていた。意外にも他のメンバーは誰も愛川さんの連絡先を知らなかったのだ。
 また修善寺さんは七夕祭りで愛川さんと会って以来、頻繁に交流をしていたそうだ。そこに彼女の黒い影は見受けられなかったらしく、今回の呼び出しも快く引き受けてくれたという。
 だが当初の予定とは大きく異なる点もあった。

 なんと愛川さんと話をするために集まるのは堂庭と俺だけになってしまったのだ。
 都筑は部活で急用が入ったらしく、桜ちゃんは体調不良で欠席。修善寺さんは私用で行けないと帰り際に言われた。尚、平沼は「俺に構わないでくれ」と言っていたので放っておいてやった。

「せめて都筑だけでも居てくれたら心強かったのになぁ」
「ふーん。あたしはそうは思わないけど」

 視線を前に向けたまま堂庭が答える。そこまで深刻に思っていないようだ。

「でも愛川さん怖いんだよな。俺、言いたい事言えるかな……」
「男子のクセになに弱腰になってんのよ。あたしを守るって誓った事、もう忘れちゃったの?」

 鋭い目で睨まれる。
 堂庭が弱音を吐いたあの日。大胆にも俺は彼女を守ると叫んでしまっていた。思い出すだけでも恥ずかしいな……。

「何を言っているんだ、俺は責務を果たす男だぞ。今までもなんだかんだで壁を乗り越えてきたじゃないか」
「はぁ、急に手のひら返してきて……相変わらず頼りないわね。でも今日は頑張れる気がするわ!」

 頬をぺたぺたと叩いて気合を入れる堂庭を見て、俺も頑張らなくちゃと思った。
 こいつの笑顔を守るためなら、全力を尽くすなんて当たり前だしな。……日頃世話になってるお返しとして。

 窓ガラスから差し込む夕日が眩しく、俺は少しだけ目を細めた。
 人の気配が無くなった廊下では二人の足音だけが鳴り響いていた。


 ◆


 集合場所である空き教室に入ると既に愛川さんが席に座っていた。
 彼女はスマホに手を滑らせていたが、俺達の視線に気が付くとすぐに顔を上げた。

「あ、堂庭さんにえっと……みや、宮園君?」
「宮ヶ谷です」

 こいつまだ俺の名前を覚えていないのかよ。それかわざと間違えて馬鹿にしているのか?
 答えは定かでは無いが愛川さんは透き通るような綺麗な笑顔でこちらを見ていた。
 今はまさにの顔。男子達のハートを掴む純粋で無垢な愛川さんの姿。

「愛川。今日はあんたに色々言いたい事があって来たのよ。覚悟しなさいよね!」
「おいお前、喧嘩腰になるなって」

 睨みつけながら話す堂庭の肩を掴んでなんとか抑える。
 鬱憤が溜まっているのは分かるが、できるだけ穏便に済ませたいからな……。

「あらぁ、やっぱ二人って仲が良いんだね。お似合いのカップルって感じ?」
「ぜ、全然仲良くなんかないわよ! それにカップルなんかじゃ……無いし」

 顔を真っ赤にして反論する堂庭。もうこの手のからかいは何度もされてるんだからいい加減慣れてくれよ。

「そうなの? この前私、宮原くんが雫ちゃんに「あ~ん」って口渡ししてたの見たけど、あれは浮気じゃなくて本命だから問題無いって事?」
「く、くちですって!?」

 堂庭は頭から蒸気が出そうなほどに顔を赤く染め上げていた。
 ってか待て。七夕祭りで修善寺さんと二人で行動していた時に遭遇した話をしているのだろうけど、重大な誤解をしているぞ!

「口で渡すとかアホか! 箸を使って食べさせたんだろうが!」
「…………ふーん。でも「あ~ん」はしたんだ?」

 ギロリと堂庭に睨まれる。あらゆる食材を切れそうな、鋭い目。怖い。すごく怖いんですけど。

「楽しかった? 女子と食べさせ合いっこして」
「いや、あれは修善寺さんが無理矢理言うから……」
「でも断れたはずよね? あたしに隠れてイチャイチャして……晴流のくせに生意気だわ」
「…………悪かったよ、すまん」

 怖ぇ、切り裂かれるかと思ったぞ。どうして堂庭がここまで怒っているのかは分からないけど……。

「ふふ、私余計な事喋っちゃったかな? ごめんねぇ、宮ヶ島君」
「お前確信犯だろ、絶対」

 申し訳なさそうに謝る愛川さんだったが、俺には唯のあざとい仕草にしか見えなかった。全て演技。全て策略通りと言わんばかりに……。

「修善寺の件は後できっちり話してもらうから。愛川、本題に入るわよ」
「はぁーい! じゃあ二人とも椅子に座ったら? どうせすぐには終わらないでしょ?」

 瞬間、愛川さんの表情が切り替わった。
 それは悪魔のような不敵な笑顔で……。学園アイドルとかけ離れた彼女のの顔だった。


 ◆


「これ、あんたの仕業でしょ」

 椅子に座るや否や堂庭はスマホを取り出し、例のメッセージ画面を愛川さんに見せつけた。

「…………どうしてそう思うの?」

 問う愛川さんの目は笑っていた。純粋な疑問ではなく、明らかに分かりきった、そんな目。

「晴流から聞いたのよ。前にあんたがあたしを潰したいって話したらしいじゃない」

 険しい表情で話す堂庭に対し、愛川さんは楽しそうな顔をしている。
 まるで挑発しているかのような彼女の態度に堂庭はイラついているようだった。俺ももちろん良い気分はしない。

「そっかー。話しちゃったんだー。まあ別にいいけどね」
「……なあ愛川さん。どうしてあの時俺に話したんだ? 本当に堂庭が嫌いなら普通言わないんじゃないか?」

 ずっと疑問に思っていた事を聞いてみる。
 冷静に考えれば分かるはずだが、堂庭の関係者である俺に堂庭を潰したいと打ち明けるなんて敵に「今から攻撃しますよ」と宣言するのと同義だろう。デメリットしか考えられない行動を彼女は何故したのだろうか。

「ふふ、楽しそうだから? それにあの時の宮ヶ谷君の驚き方は凄かったなぁ。いい顔してたよぉ? インスタに上げておけば良かったねぇ」
「ちょっと愛川いい加減に」

 腕を振り上げようとした堂庭を急いで制止させる。
 煽り耐性が無いこいつと愛川さんとの相性は最悪だな。いつ殴り合いの喧嘩になるか分かったもんじゃない。

「取り敢えず理由は分かった。で、今回の件は愛川さんが犯人という事でいいんだね?」

 確認の為に問うと、愛川さんは大きく高笑いをした後

「だいせいかーい! あれは私の本心だよ。堂庭さぁーん、あなたってマジウザいよねぇー?」

 堂庭の顔を覗き込みながら煽ってくる愛川さん。
 傍から見てる俺でも分かる。マジウザい、愛川さんが。

「…………ふふ、ふふふ」

 一方、堂庭は顔を下に向けた状態で全身を震わせていた。しかも笑っているような声も聞こえる。度重なる煽りを受けてとうとう狂ってしまったのか?

「あれぇどうしたのぉ? まさか私が怖くてお漏らししちゃったぁ? あ、でもお子様だから仕方無いかぁ」
「…………」
「でもいいよぉ。尻尾巻いて逃げるのも悪くない手だもんねぇ。どっちにしろ堂庭さんには消えてもらわないと困るから」
「……ぇるのは……んたよ」

 普段聞くことのない低い声で堂庭は小さく呟いた。顔は俯いたままで表情を汲み取ることはできない。

「え、何? 聞こえないんですけどー。クラス委員長なのにそんな小さい声で務まるのぉ?」

 明らかな煽り。大体、堂庭が委員長かどうかなんて今は関係無いだろうが。

「…………っ!」

 数秒の間があった後、堂庭は顔を上げて鬼のような形相で愛川さんを睨んだ。
 そして今度ははっきりと聞き取れる声で言った。

「消えるのは愛川理沙、あんたの方よ」

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