ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか
6-10 「困ったら助けてね」
まさか愛川さんの名が俺が言わずとも出てくるとは思わなかった。
容姿端麗な上、愛想よく振る舞う姿から多くの男子を虜にしている彼女が他人を中傷するような悪人だなんて誰も考えないだろう、と見込んでいた俺は驚きの余り返す言葉が見つからなかった。
だが俺よりも驚いた奴が一名いるようで……。
「えぇぇぇぇ!? 何でだよ!?」
平沼はテーブルを両手でばんっと叩き、大声で叫んだ。気持ちは分かるがやかましい。
「宮ヶ谷君。当たり?」
「あぁ、恐らくだけどな」
都筑の問いかけに間髪入れず答える。するとテーブルを叩く音が再度鳴り響き……
「おい嘘だろ宮ヶ谷! 愛川さんが犯人だなんて……。お前、どうかしてるぞ!」
「あのな……」
反論しようと口を開けると堂庭から「待って!」と言われ、制止された。
「平沼君、どうかしてるのはあんたの方よ。前から思ってたけどいつまであんな性悪女に恋してるの? 他の男子もそうよ。皆見る目が無い馬鹿ばっかりなんだから……」
「なん……だと……!?」
堂庭の強烈な一言に平沼はダメージを受けていたようだった。こいつ、意外とメンタル弱いんだよね。ご愁傷様。
「ねぇ瑛美りん。今のって遠回しに宮ヶ谷君の惚気話を披露したと受け止めていい?」
「な、何でそうなるのよ!」
顔を真っ赤にして言い返す堂庭。そんなムキにならなくても……。
「まあそれはいいとして。平沼君、この際だし私が愛川理沙の正体を教えてあげるね! 新聞部独自取材のデータだから文句は言わせないよ~」
既に精神的ダメージを食らっている平沼にとどめを刺すのかよ。
だが都筑が持っている情報も知りたかった俺は平沼のフォローをする訳でもなく彼女に耳を傾けた。ごめんな、今度ジュース奢ってやるから許してくれ。
「愛川理沙の評判は女子の間では最悪。男子を手玉に取って弄ぶ姿から裏では『ビッチ女王』なんて呼ばれてたりするみたいだよ」
「それあたしも聞いた事あるー。なんか自分が一番可愛いと思っちゃってる所がウザいよねー」
都筑と堂庭は「だよねー」とお互いに共感し合っていた。
しかもその顔はとても楽しそうで……。俺は女子の怖さを垣間見た気がした。
「あと愛川理沙は基本的に二人の仲間を連れて行動してるんだけど、この前仲間の一人がモテはじめちゃって内輪揉めが始まったのよねー」
まるで動物の生態を説明するような口調で愛川さんを解説する都筑は相変わらず晴れ晴れとした顔だ。他人の不幸は蜜の味ともいうが、今の彼女はまさにそんな感じだ。
「それで怒った愛川理沙はLINEでその子の悪口垂らしまくってハブったらしいよ。仲間も逆らえないから渋々従ってたみたいだし……」
「…………ほほう。どこにもおるんじゃな、自分勝手の王様が」
都筑の言葉に頷いた修善寺さんがポツリと呟いた。恐らく小学生の頃に堂庭が受けた悲劇と重なる点があったのだろう。気に入らないという理由だけで人を蹴落とすなんで絶対あってはならない事だ。
「ねぇ紗弥加ちゃん。この前愛川は煙草吸ってるって噂聞いたんだけどあれ本当なの?」
「うーん、それはデマじゃないかな。でも深夜に東京のクラブ街を歩いてたって話は聞いたことあるよ」
「うわー酷いねそれ。あとさ……」
盛り上がる二人の会話を黙って聞いていたが、平沼の顔を見てみると彼は疑心暗鬼に陥ったような、強ばった表情をしていた。既に限界は超えているだろう。気がおかしくなって暴れても困るし、この辺で止めておくか……。
「おい都筑、もうその辺までにしてやってくれ。十分理解できたからさ」
「え? でも平沼君が納得するまで説明しないと……」
言いながら平沼の様子を伺った都筑は目を見開いて驚いた顔をする。ようやく気が付いたか。
「ご、ごめんね平沼君。ちょっと言い過ぎちゃったかな?」
「もう誰も信じない誰も信じない誰も信じない誰も信じない誰も信じない……」
平沼は顔を俯けてぶつぶつと呪文のように呟き続けていた。どうやらフラれた時よりショックだったようだ。しばらく放っておいてやろう。
「じゃあ仕切り直すけど犯人は多分愛川さんだ。何故なら……」
それから俺は球技大会の後に愛川さんの口から発せられた言葉の数々を包み隠さず話した。
◆
「あからさまな宣戦布告じゃのう。お主、相当ナメられてるんじゃないのかえ?」
一頻り話したところで修善寺さんが感想をこぼした。
愛川さんにナメられてると言われれば否定はできない。現に「私を潰せるならやってみなさい」と挑発されてるし、俺に対しても上から目線な態度だったしな。
「まあ、だらしない晴流だから仕方ないかもだけど愛川も調子乗り過ぎよねぇ」
堂庭よ、一言余計だ。俺の生活態度は今は関係無いだろ。
「でもLINEのメッセージは二人で会話しておるからのう。もう一人犯人がいるんじゃないのかえ?」
「ですが先輩。お姉ちゃんの悪口を言ったアカウントは『鰐宇土助』と『irakimie』の二つ。名前から察するに、私は同一人物の犯行だと思います」
桜ちゃんが事件を暴く探偵のように淡々とした口調で推理する。
アカウント名に共通点があるのだろうか……。
考える俺をよそに都筑が補足を付け加える。
「まず両方の名前を平仮名に直すと『わにうどすけ』と『いらきみえ』になって……。それを反対から読むと『消す堂庭』と『瑛美嫌い』になるんだよね」
「うわ、マジか! 全然気付かなかった……」
桜ちゃんと都筑は知っていたのか……。変な名前だと思っていたがまさか暗号のようになっていたとは思わなかった。
「はぁ何それ! 流石にあたしを馬鹿にし過ぎじゃないの!? 腹立つなぁもう」
堂庭は怒り心頭のようである。愛川さんへの恨みがどんどん溜まっていくな……。
「やっぱ犯人は愛川さんで間違い無いよね? でもどうやって対策をとろうか……」
問題はここからだ。諸悪の根源を見つけても動きを封じなければ意味が無い。こうしている間にも愛川さんは次の一手を打つかもしれないのだから。
「宮ヶ谷殿。悩む余地も無いじゃろう。手段はただ一つ、『直談判』じゃ」
「いや待て。直接物申すのはちょっとリスクが有りすぎるんじゃないかと……」
「何言っておる。自分勝手な馬鹿に回りくどい真似をしても通用しないのじゃぞ?」
「私もそう思う! それに新聞部員であるこの都筑紗弥加もいるんだから大丈夫だよ!」
「晴流、あんたは男なんだからもっとガツンといきなさいよ!」
「お兄さん、大丈夫ですよきっと!」
俺を除く全員が楽観的な考え方をしていた。直接やめろと言ったところで愛川さんは頷いてくれるだろうか。でも行動しなければ事態は悪化するかもしれないしな……。
「じゃあ明日、皆で愛川さんと話に行くか」
いよいよ結論を下した俺に堂庭達が大きく頷く。
平沼のテンションは変わらず低いままだったが、作戦会議は解散となった。
◆
「ねぇ、晴流」
部屋に最後まで残っていた堂庭が話し掛けてくる。
「明日、少し怖いけどあたし頑張るから。でも、困ったら助けてね」
「あぁ、もちろんだ」
若干弱気な堂庭の口調は優しかった。先程のハツラツとした態度とは丸っきり異なっていたので俺は内心驚いた。二人きりになったからか? いや、関係無いか。
「うん、ありがと。頼りにしてるからねっ!」
その後見せた堂庭の無邪気な笑顔に、俺はまた惹き込まれそうになった。
同時に胸の鼓動も早くなる。なんだよこの感覚。どうしたんだよ俺。
そんな子供みたいに笑うなよ、堂庭。
目の前の彼女に否定をぶつけることで俺は湧き上がる何かを押さえつけていた。
容姿端麗な上、愛想よく振る舞う姿から多くの男子を虜にしている彼女が他人を中傷するような悪人だなんて誰も考えないだろう、と見込んでいた俺は驚きの余り返す言葉が見つからなかった。
だが俺よりも驚いた奴が一名いるようで……。
「えぇぇぇぇ!? 何でだよ!?」
平沼はテーブルを両手でばんっと叩き、大声で叫んだ。気持ちは分かるがやかましい。
「宮ヶ谷君。当たり?」
「あぁ、恐らくだけどな」
都筑の問いかけに間髪入れず答える。するとテーブルを叩く音が再度鳴り響き……
「おい嘘だろ宮ヶ谷! 愛川さんが犯人だなんて……。お前、どうかしてるぞ!」
「あのな……」
反論しようと口を開けると堂庭から「待って!」と言われ、制止された。
「平沼君、どうかしてるのはあんたの方よ。前から思ってたけどいつまであんな性悪女に恋してるの? 他の男子もそうよ。皆見る目が無い馬鹿ばっかりなんだから……」
「なん……だと……!?」
堂庭の強烈な一言に平沼はダメージを受けていたようだった。こいつ、意外とメンタル弱いんだよね。ご愁傷様。
「ねぇ瑛美りん。今のって遠回しに宮ヶ谷君の惚気話を披露したと受け止めていい?」
「な、何でそうなるのよ!」
顔を真っ赤にして言い返す堂庭。そんなムキにならなくても……。
「まあそれはいいとして。平沼君、この際だし私が愛川理沙の正体を教えてあげるね! 新聞部独自取材のデータだから文句は言わせないよ~」
既に精神的ダメージを食らっている平沼にとどめを刺すのかよ。
だが都筑が持っている情報も知りたかった俺は平沼のフォローをする訳でもなく彼女に耳を傾けた。ごめんな、今度ジュース奢ってやるから許してくれ。
「愛川理沙の評判は女子の間では最悪。男子を手玉に取って弄ぶ姿から裏では『ビッチ女王』なんて呼ばれてたりするみたいだよ」
「それあたしも聞いた事あるー。なんか自分が一番可愛いと思っちゃってる所がウザいよねー」
都筑と堂庭は「だよねー」とお互いに共感し合っていた。
しかもその顔はとても楽しそうで……。俺は女子の怖さを垣間見た気がした。
「あと愛川理沙は基本的に二人の仲間を連れて行動してるんだけど、この前仲間の一人がモテはじめちゃって内輪揉めが始まったのよねー」
まるで動物の生態を説明するような口調で愛川さんを解説する都筑は相変わらず晴れ晴れとした顔だ。他人の不幸は蜜の味ともいうが、今の彼女はまさにそんな感じだ。
「それで怒った愛川理沙はLINEでその子の悪口垂らしまくってハブったらしいよ。仲間も逆らえないから渋々従ってたみたいだし……」
「…………ほほう。どこにもおるんじゃな、自分勝手の王様が」
都筑の言葉に頷いた修善寺さんがポツリと呟いた。恐らく小学生の頃に堂庭が受けた悲劇と重なる点があったのだろう。気に入らないという理由だけで人を蹴落とすなんで絶対あってはならない事だ。
「ねぇ紗弥加ちゃん。この前愛川は煙草吸ってるって噂聞いたんだけどあれ本当なの?」
「うーん、それはデマじゃないかな。でも深夜に東京のクラブ街を歩いてたって話は聞いたことあるよ」
「うわー酷いねそれ。あとさ……」
盛り上がる二人の会話を黙って聞いていたが、平沼の顔を見てみると彼は疑心暗鬼に陥ったような、強ばった表情をしていた。既に限界は超えているだろう。気がおかしくなって暴れても困るし、この辺で止めておくか……。
「おい都筑、もうその辺までにしてやってくれ。十分理解できたからさ」
「え? でも平沼君が納得するまで説明しないと……」
言いながら平沼の様子を伺った都筑は目を見開いて驚いた顔をする。ようやく気が付いたか。
「ご、ごめんね平沼君。ちょっと言い過ぎちゃったかな?」
「もう誰も信じない誰も信じない誰も信じない誰も信じない誰も信じない……」
平沼は顔を俯けてぶつぶつと呪文のように呟き続けていた。どうやらフラれた時よりショックだったようだ。しばらく放っておいてやろう。
「じゃあ仕切り直すけど犯人は多分愛川さんだ。何故なら……」
それから俺は球技大会の後に愛川さんの口から発せられた言葉の数々を包み隠さず話した。
◆
「あからさまな宣戦布告じゃのう。お主、相当ナメられてるんじゃないのかえ?」
一頻り話したところで修善寺さんが感想をこぼした。
愛川さんにナメられてると言われれば否定はできない。現に「私を潰せるならやってみなさい」と挑発されてるし、俺に対しても上から目線な態度だったしな。
「まあ、だらしない晴流だから仕方ないかもだけど愛川も調子乗り過ぎよねぇ」
堂庭よ、一言余計だ。俺の生活態度は今は関係無いだろ。
「でもLINEのメッセージは二人で会話しておるからのう。もう一人犯人がいるんじゃないのかえ?」
「ですが先輩。お姉ちゃんの悪口を言ったアカウントは『鰐宇土助』と『irakimie』の二つ。名前から察するに、私は同一人物の犯行だと思います」
桜ちゃんが事件を暴く探偵のように淡々とした口調で推理する。
アカウント名に共通点があるのだろうか……。
考える俺をよそに都筑が補足を付け加える。
「まず両方の名前を平仮名に直すと『わにうどすけ』と『いらきみえ』になって……。それを反対から読むと『消す堂庭』と『瑛美嫌い』になるんだよね」
「うわ、マジか! 全然気付かなかった……」
桜ちゃんと都筑は知っていたのか……。変な名前だと思っていたがまさか暗号のようになっていたとは思わなかった。
「はぁ何それ! 流石にあたしを馬鹿にし過ぎじゃないの!? 腹立つなぁもう」
堂庭は怒り心頭のようである。愛川さんへの恨みがどんどん溜まっていくな……。
「やっぱ犯人は愛川さんで間違い無いよね? でもどうやって対策をとろうか……」
問題はここからだ。諸悪の根源を見つけても動きを封じなければ意味が無い。こうしている間にも愛川さんは次の一手を打つかもしれないのだから。
「宮ヶ谷殿。悩む余地も無いじゃろう。手段はただ一つ、『直談判』じゃ」
「いや待て。直接物申すのはちょっとリスクが有りすぎるんじゃないかと……」
「何言っておる。自分勝手な馬鹿に回りくどい真似をしても通用しないのじゃぞ?」
「私もそう思う! それに新聞部員であるこの都筑紗弥加もいるんだから大丈夫だよ!」
「晴流、あんたは男なんだからもっとガツンといきなさいよ!」
「お兄さん、大丈夫ですよきっと!」
俺を除く全員が楽観的な考え方をしていた。直接やめろと言ったところで愛川さんは頷いてくれるだろうか。でも行動しなければ事態は悪化するかもしれないしな……。
「じゃあ明日、皆で愛川さんと話に行くか」
いよいよ結論を下した俺に堂庭達が大きく頷く。
平沼のテンションは変わらず低いままだったが、作戦会議は解散となった。
◆
「ねぇ、晴流」
部屋に最後まで残っていた堂庭が話し掛けてくる。
「明日、少し怖いけどあたし頑張るから。でも、困ったら助けてね」
「あぁ、もちろんだ」
若干弱気な堂庭の口調は優しかった。先程のハツラツとした態度とは丸っきり異なっていたので俺は内心驚いた。二人きりになったからか? いや、関係無いか。
「うん、ありがと。頼りにしてるからねっ!」
その後見せた堂庭の無邪気な笑顔に、俺はまた惹き込まれそうになった。
同時に胸の鼓動も早くなる。なんだよこの感覚。どうしたんだよ俺。
そんな子供みたいに笑うなよ、堂庭。
目の前の彼女に否定をぶつけることで俺は湧き上がる何かを押さえつけていた。
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