ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか
6-8 「泣いてなんかなぁい!」
時刻は午後三時を過ぎた頃。自宅の前に着いた俺はスクールバッグに手を突っ込んで鍵を取り出そうとしていた。
午後の授業をサボったせいで普段よりかなり早い時間に帰ってきてしまった。恐らく舞奈海もまだ学校にいるはずだ。
ガチャガチャと玄関の鍵を開け、中に入る。誰の靴も無かった。やはり俺が一番最初の帰宅者ということか。
どうでもいいことだがこの状況に何故か優越感のようなものを覚えた。時間も沢山あるし何をしようか。
とはいえ堂庭の件に加え修善寺さんの衝撃発言もあってか俺は普段より何倍も疲れていた。
とりあえず一眠りしよう。考えるのはそれからだ。
くたくたの身体を動かし自室へ直行する。
階段を上ってドアを開ける。すると思わぬ光景が目の前に広がっていた。
「な…………にぃ!?」
俺のベッドに制服姿の堂庭が身を丸くして眠っていたのだ。
何で俺の部屋にいるんだよこいつは! というかどうやって家に入ってきたんだろう。鍵は掛けてあったはずなのに……。
だが堂庭は困惑する俺なんかお構い無しにすやすやと寝ている。大声で叫んで起こそうと思ったがあまりにも気持ちよさそうに寝ているため俺は声を出さずに彼女の枕元に腰掛けた。
堂庭の顔をよく見てみると目元から涙の跡が残っていた。
一人で泣いていたのだろう。あんなメッセージを突然見たら無理もない。だって絶対にバレないよう守り続けてきたキャラにヒビが入ったのだから。しかもバレたらどうなるかなんて本人が一番よく知っているはずだから……。
それからしばらくの間、俺は堂庭の寝顔をぼんやりと眺めていた。
彼女の柔らかな表情に見惚れていた……訳では無いが、何か惹き付けられるものを感じていた。
俺の胸元までしか届かない低い身長と少し力を加えるだけで折れてしまいそうな程細い四肢。
こんな華奢な彼女だが今まで人並み以上の辛い思いや経験をしてきたのだと思うと俺はなんとも言えない気持ちになった。
堂庭を守ってあげたい。それは友達としての義務だと思っているが、その理由が全てかと問われると素直に頷けない気がした。
この胸が高鳴る思いは何だろう。自分でもよく分からない……。
一方、彼女は相変わらず起きる素振りを見せずにただただ寝息を立てていた。なんだか寒そうに見えたので俺は毛布を掛けてあげることにした。
堂庭の足先へ移動する。すると視界にあるモノが入った。
「……流石に無防備過ぎるだろ」
スカートが捲れており、彼女の艶やかな肌と共に真っ白なパンツが露になっていたのだ。
学校では真面目キャラな堂庭でもプライベートだと割とズボラなのである。だけどもう少し女子としての自覚を持っていただきたい。いくら幼馴染みでも異性の部屋で寝ているんだから。相手を間違えると酷い目に遭うぞ……。
因みに俺は堂庭の下着を見ようとも一切動じない。
それは単に幼馴染みだからではなく小学生の舞奈海と見た目に大差が無い為である。妹に慣れているので堂庭も平気。というかロリの下着で興奮する程俺は気持ち悪くないし。
慣れた手つきで毛布を堂庭に掛けてやる。なんだか舞奈海に続いて二人目の妹を世話してるような気分だな。それにしても起きる気配が無い……。
することが無くなった俺はカバンから教科書やノートを机に並べ、堂庭の寝息をBGMにして勉強に取り組んでみた。
本当は俺が寝たかったのに……眠い。最初は後ろめたい気持ちが強かったが段々と筆が乗ってきてあっという間に一時間が過ぎた。堂庭が目の前にいることで適度な緊張感を得られ、集中力に繋がったのかもしれない。
俺はシャーペンを置いて両腕を真上に伸ばした。
すると微動だにしなかった堂庭の体がむくりと起き上がり、彼女の目がぱちっと開いた。ようやく、か。
「おはよう。他人の家に勝手に上がりこんで勝手に寝るんじゃないよ」
「むにゃ……あー。…………あぁ」
まだ寝ぼけているようである。
「あれ? あたし何で晴流の部屋にいるのかしら」
「それは俺が聞きたい」
「……もしかしてあたしに睡眠薬を飲まして誘拐しようとしたの? それなんてハイエース!?」
「何でお前を連れ去らなきゃいけないんだよ。あと自分で自分にツッコミを入れるな」
「ぬぅ…………。あ、思い出したわ。はぁ、やっぱあれは現実なのね……あはは」
突如顔を曇らせて力無く笑う堂庭。良くも悪くも目が覚めたようである。
「取り敢えず一から聞くが、どうやって俺の家に入ったんだ? 中に誰もいないし玄関の鍵も閉まっていたはずだが」
「晴流の家って裏側に物置があるでしょ? その中にある隠し扉からお邪魔させてもらったのよ」
「あぁなるほど。あれか、秘密のワープホールとか言ってた奴か」
俺の家の物置と母屋は扉一枚で繋がっており、普段は段ボールが積み重なって見えないが、どかしてしまえば鍵不要で屋内に入れるという我が家で一番のセキュリティホールなのである。
俺達がまだ幼稚園の頃、堂庭と面白がって遊んでいたが未だに覚えていたとは……。
「早退しちゃったから真っ直ぐ家に帰るとメアちゃんに心配されるだろうし、晴流の部屋ならいいかなーと思って」
「良くねぇよ。こっちは滅茶苦茶ビビったんだからな!」
「ふふ、それもそうかもね。……というか晴流も早退したの? もしかして具合が悪いとか……?」
「違うよ。お前が逃げ出したのが心配で追いかけてきたんだ」
「え……? あたしを…………?」
目を丸くして驚いた顔をする堂庭。
「まあ途中修善寺さんに止められたけどな」
「修善寺に…………!」
俺の言葉を聞いた堂庭は一瞬のうちに訝しげな表情に変わる。実に分かりやすい。
「先に言っておくが邪魔をされた訳ではないぞ。修善寺さんはお前を助けたい。そう言ってきたんだ」
「助ける……? ふんっ。何を今更」
やはり二人に生まれた溝は深いようだな……。
「親友として仲直りしたいそうだ。無念を晴らしたい、とも言ってたな」
「……は? もしかしてあいつ、昔の事話したりした?」
「え、あ、あぁ。小学生の時の話を……」
「あの馬鹿姫。…………晴流には知られたくなかったのに」
堂庭は吐き捨てるように言った。
過去の苦い記憶を掘り起こされるのは嫌だろう。でも何故俺に知られたくなかったのか分からなかった。もっと早く気付いていれば手助けが出来たかもしれないのに。
「でも驚いたよ。まさかお前がそんな辛い経験をしていたなんて思わなかったし……」
「だろうね。あたしは秘密にしてたんだから。……でも心配しないで。死ねと言われて死ぬ程あたしは馬鹿じゃないし全く動じないから。そう……何を言われてもへい……き……」
堂庭の口が震えていた。明らかに見栄を張っており、全然大丈夫そうに見えない。
ったく……こんな時まで余計なプライドを立てるんじゃねぇよ……。
「LINEを送った奴の犯人探しとか対策は俺や修善寺さんとするから。だからお前は普段通り学校に行けばいい」
「それは断るわ。もういいの……あたし転校するから。そうすればまた……リセットできるし……」
「は!? それは…………」
「大丈夫。晴流と会えなくなったりはしないから。このままだと多分……桜や晴流に迷惑掛けちゃうし、いっその事あたしが……」
「ふざけんなよ!」
気付いたら俺は叫んでいた。堂庭の体がビクッと震える。
本性がバレたから転校して逃げる?
俺達の迷惑になるから?
ふざけるな。勝手に転校された方が何千倍も迷惑だよ。
「でも……」
「なんでそんな弱気なんだよ。さっきと言ってる事違うじゃねぇか」
「別に弱気なんかじゃない。ただあたしが学校に居ても迷惑になるだけだから……」
「あのな。そういう勝手な事言うのが迷惑なんだよ。らしくねぇぞ、もっと歯向かうぐらいの態度じゃないと」
「ふん、どうせ晴流には分からないのよ。あたしの辛さが」
独り言のように呟いた堂庭。
俺はその言葉にカツンと頭にきてしまった。
「……分からなくねぇよ。何年一緒にいると思ってんだ」
「何よ、知ったかぶっちゃって。なら自分以外全員が敵になった時の気持ち分かるの? この世界に裏切られたような痛くて辛い気持ちがあんたに分かるの?」
堂庭の目には涙が浮かんでいた。頭に血が上っている俺は構わず続ける。
「んなもん分かる訳ねぇだろ。そういう事じゃなくてだな」
「じゃあ何よ」
「本当は転校なんてしたくないだろ? 平沼や都筑、他にもクラスの奴らと一緒にいたいだろ?」
「…………でもそれはあたしの我儘よ。現実は甘くないの。事態はこれから悪化するだけだわ」
「それはお前の経験則だろ? 取り敢えず転校はするな。お前が無理する必要は無いから」
「あたしは同じ思いをしたくないから言ってるのよ! それとも何? 全員敵である学校にあたしを閉じ込めたい訳?」
「お前それ本気で言ってるのか? 昔は知らないが今度は全員敵じゃないだろ」
「ふぅーん。でもあたし修善寺は信用してないから」
「あぁもう! 違うってんだろ!」
何でこうも俺の意図が分からないんだよ。たとえ学校全体が敵になろうとも、修善寺さんや桜ちゃんが裏切ったとしても……。
「俺だよ! いつだって俺はお前の味方だから。世界中の人間が襲いかかろうとしても俺はお前を守る。イジメを正当化するなんて許さねぇからな」
「え…………?」
「だからお前は何食わぬ顔で学校へ行け。逃げたら相手の思うツボだ」
「晴……流…………?」
見つめる堂庭の頬が急激に染め上がった。
同時に自分の体も熱くなっていく感覚になる。
ヤバい。気持ちが高ぶってつい口にしてしまったが今の俺、物凄く恥ずかしくないか!?
「な……ば、馬鹿じゃないの!?」
堂庭は蒸気が吹き出しそうな顔のまま、ぷいっと俺に背中を向けてしまった。
確かに俺は馬鹿だ。柄にもない事を言ってしまった……。
「もう本当晴流ってば……。晴流ってばぁ……ぐっ」
ぶつぶつと小声で呟いていた堂庭だったがその声は震えていた。ひょっとして……。
「お前…………泣いてる?」
「泣いてなんかなぁい! 泣いてなんか……ひっぐ、えっぐ……ぐすん」
いや、完全に泣いてるじゃないですか。
そんなに俺の一言がショックだったのか……。
「悪かったよ。ごめん……」
「な、なんで晴流が謝るのよ……。意味分かんなぁい……」
「えぇ…………」
「嬉しい……訳じゃないけど、なんというか……安心しただけ……だから……」
「はぁ……」
俺が思わず間の抜けた声を出すと堂庭は泣きながら吹き出した。忙しい奴だ。
「ふふ、晴流ってやっぱ晴流だよね。まぁ別にいいんだけど」
一人で勝手に納得した堂庭は両手で涙を拭く素振りを見せ、くるっとこちらに振り返った。
彼女は笑顔だった。
残った涙が頬を伝って零れ落ちたが、それでも堂庭は優しく笑っていた。
そして俺は思い出した。
中一だった頃。堂庭がロリコンだと知り、疎遠だった関係が終わったあの日。彼女は優しい笑顔を俺に向けていた。
そしてあの時「友達」と言ってくれた堂庭を今の俺が裏切る訳にはいかない。ピンチなら共に戦おう。友達なら当然である。
「実のところ、犯人の目星はついているんだ。証拠を押さえて忠告すれば事は収まるだろ」
「あら、晴流のくせに有能なのね。というかそれもっと早く言ってほしかったんだけど」
「言うタイミングが無かったんだよ。それに一言余計だ」
ロリコンが原因で色々騒ぎを起こす堂庭と比べれば俺なんて人畜無害だし有能過ぎて困っちゃうくらいだぞ。
「まぁいいわ。あと晴流。あたしを守ると言ったのだから責任持って全力を尽くしなさいよ」
「偉そうな態度だな……。でも今回は任せてくれ。約束する」
「ふふ、もし守れなかったら晴流は一生あたしの奴隷ね。ロリコン漬けにしてやるわ」
「何それ怖っ」
「嫌なら約束を守るのよ。あと解決できたらご褒美をあげちゃおっかなー。もれなくロリなあたしとロリゲーを満喫できる券、とか?」
「何それいらねー」
どっちも罰ゲームじゃねーか。
それでも元気に笑う堂庭を見て俺は安心した。
頼りないかもしれないけど、俺の言葉で彼女が勇気づけられたのなら嬉しい。
修善寺さんには任せると言ってしまったが、やはり俺は堂庭を支えたい。彼女にとって一番の存在でありたいと無意識に思っていた。
「口答えしないのー。でも……」
一拍置いた堂庭は満面の笑みで
「ありがとっ!」
瞬間、心臓の鼓動が急に早くなり、彼女の屈託の無い笑顔に惹き込まれそうになった。
俺は不覚にも堂庭を愛しいと感じてしまっていた。
午後の授業をサボったせいで普段よりかなり早い時間に帰ってきてしまった。恐らく舞奈海もまだ学校にいるはずだ。
ガチャガチャと玄関の鍵を開け、中に入る。誰の靴も無かった。やはり俺が一番最初の帰宅者ということか。
どうでもいいことだがこの状況に何故か優越感のようなものを覚えた。時間も沢山あるし何をしようか。
とはいえ堂庭の件に加え修善寺さんの衝撃発言もあってか俺は普段より何倍も疲れていた。
とりあえず一眠りしよう。考えるのはそれからだ。
くたくたの身体を動かし自室へ直行する。
階段を上ってドアを開ける。すると思わぬ光景が目の前に広がっていた。
「な…………にぃ!?」
俺のベッドに制服姿の堂庭が身を丸くして眠っていたのだ。
何で俺の部屋にいるんだよこいつは! というかどうやって家に入ってきたんだろう。鍵は掛けてあったはずなのに……。
だが堂庭は困惑する俺なんかお構い無しにすやすやと寝ている。大声で叫んで起こそうと思ったがあまりにも気持ちよさそうに寝ているため俺は声を出さずに彼女の枕元に腰掛けた。
堂庭の顔をよく見てみると目元から涙の跡が残っていた。
一人で泣いていたのだろう。あんなメッセージを突然見たら無理もない。だって絶対にバレないよう守り続けてきたキャラにヒビが入ったのだから。しかもバレたらどうなるかなんて本人が一番よく知っているはずだから……。
それからしばらくの間、俺は堂庭の寝顔をぼんやりと眺めていた。
彼女の柔らかな表情に見惚れていた……訳では無いが、何か惹き付けられるものを感じていた。
俺の胸元までしか届かない低い身長と少し力を加えるだけで折れてしまいそうな程細い四肢。
こんな華奢な彼女だが今まで人並み以上の辛い思いや経験をしてきたのだと思うと俺はなんとも言えない気持ちになった。
堂庭を守ってあげたい。それは友達としての義務だと思っているが、その理由が全てかと問われると素直に頷けない気がした。
この胸が高鳴る思いは何だろう。自分でもよく分からない……。
一方、彼女は相変わらず起きる素振りを見せずにただただ寝息を立てていた。なんだか寒そうに見えたので俺は毛布を掛けてあげることにした。
堂庭の足先へ移動する。すると視界にあるモノが入った。
「……流石に無防備過ぎるだろ」
スカートが捲れており、彼女の艶やかな肌と共に真っ白なパンツが露になっていたのだ。
学校では真面目キャラな堂庭でもプライベートだと割とズボラなのである。だけどもう少し女子としての自覚を持っていただきたい。いくら幼馴染みでも異性の部屋で寝ているんだから。相手を間違えると酷い目に遭うぞ……。
因みに俺は堂庭の下着を見ようとも一切動じない。
それは単に幼馴染みだからではなく小学生の舞奈海と見た目に大差が無い為である。妹に慣れているので堂庭も平気。というかロリの下着で興奮する程俺は気持ち悪くないし。
慣れた手つきで毛布を堂庭に掛けてやる。なんだか舞奈海に続いて二人目の妹を世話してるような気分だな。それにしても起きる気配が無い……。
することが無くなった俺はカバンから教科書やノートを机に並べ、堂庭の寝息をBGMにして勉強に取り組んでみた。
本当は俺が寝たかったのに……眠い。最初は後ろめたい気持ちが強かったが段々と筆が乗ってきてあっという間に一時間が過ぎた。堂庭が目の前にいることで適度な緊張感を得られ、集中力に繋がったのかもしれない。
俺はシャーペンを置いて両腕を真上に伸ばした。
すると微動だにしなかった堂庭の体がむくりと起き上がり、彼女の目がぱちっと開いた。ようやく、か。
「おはよう。他人の家に勝手に上がりこんで勝手に寝るんじゃないよ」
「むにゃ……あー。…………あぁ」
まだ寝ぼけているようである。
「あれ? あたし何で晴流の部屋にいるのかしら」
「それは俺が聞きたい」
「……もしかしてあたしに睡眠薬を飲まして誘拐しようとしたの? それなんてハイエース!?」
「何でお前を連れ去らなきゃいけないんだよ。あと自分で自分にツッコミを入れるな」
「ぬぅ…………。あ、思い出したわ。はぁ、やっぱあれは現実なのね……あはは」
突如顔を曇らせて力無く笑う堂庭。良くも悪くも目が覚めたようである。
「取り敢えず一から聞くが、どうやって俺の家に入ったんだ? 中に誰もいないし玄関の鍵も閉まっていたはずだが」
「晴流の家って裏側に物置があるでしょ? その中にある隠し扉からお邪魔させてもらったのよ」
「あぁなるほど。あれか、秘密のワープホールとか言ってた奴か」
俺の家の物置と母屋は扉一枚で繋がっており、普段は段ボールが積み重なって見えないが、どかしてしまえば鍵不要で屋内に入れるという我が家で一番のセキュリティホールなのである。
俺達がまだ幼稚園の頃、堂庭と面白がって遊んでいたが未だに覚えていたとは……。
「早退しちゃったから真っ直ぐ家に帰るとメアちゃんに心配されるだろうし、晴流の部屋ならいいかなーと思って」
「良くねぇよ。こっちは滅茶苦茶ビビったんだからな!」
「ふふ、それもそうかもね。……というか晴流も早退したの? もしかして具合が悪いとか……?」
「違うよ。お前が逃げ出したのが心配で追いかけてきたんだ」
「え……? あたしを…………?」
目を丸くして驚いた顔をする堂庭。
「まあ途中修善寺さんに止められたけどな」
「修善寺に…………!」
俺の言葉を聞いた堂庭は一瞬のうちに訝しげな表情に変わる。実に分かりやすい。
「先に言っておくが邪魔をされた訳ではないぞ。修善寺さんはお前を助けたい。そう言ってきたんだ」
「助ける……? ふんっ。何を今更」
やはり二人に生まれた溝は深いようだな……。
「親友として仲直りしたいそうだ。無念を晴らしたい、とも言ってたな」
「……は? もしかしてあいつ、昔の事話したりした?」
「え、あ、あぁ。小学生の時の話を……」
「あの馬鹿姫。…………晴流には知られたくなかったのに」
堂庭は吐き捨てるように言った。
過去の苦い記憶を掘り起こされるのは嫌だろう。でも何故俺に知られたくなかったのか分からなかった。もっと早く気付いていれば手助けが出来たかもしれないのに。
「でも驚いたよ。まさかお前がそんな辛い経験をしていたなんて思わなかったし……」
「だろうね。あたしは秘密にしてたんだから。……でも心配しないで。死ねと言われて死ぬ程あたしは馬鹿じゃないし全く動じないから。そう……何を言われてもへい……き……」
堂庭の口が震えていた。明らかに見栄を張っており、全然大丈夫そうに見えない。
ったく……こんな時まで余計なプライドを立てるんじゃねぇよ……。
「LINEを送った奴の犯人探しとか対策は俺や修善寺さんとするから。だからお前は普段通り学校に行けばいい」
「それは断るわ。もういいの……あたし転校するから。そうすればまた……リセットできるし……」
「は!? それは…………」
「大丈夫。晴流と会えなくなったりはしないから。このままだと多分……桜や晴流に迷惑掛けちゃうし、いっその事あたしが……」
「ふざけんなよ!」
気付いたら俺は叫んでいた。堂庭の体がビクッと震える。
本性がバレたから転校して逃げる?
俺達の迷惑になるから?
ふざけるな。勝手に転校された方が何千倍も迷惑だよ。
「でも……」
「なんでそんな弱気なんだよ。さっきと言ってる事違うじゃねぇか」
「別に弱気なんかじゃない。ただあたしが学校に居ても迷惑になるだけだから……」
「あのな。そういう勝手な事言うのが迷惑なんだよ。らしくねぇぞ、もっと歯向かうぐらいの態度じゃないと」
「ふん、どうせ晴流には分からないのよ。あたしの辛さが」
独り言のように呟いた堂庭。
俺はその言葉にカツンと頭にきてしまった。
「……分からなくねぇよ。何年一緒にいると思ってんだ」
「何よ、知ったかぶっちゃって。なら自分以外全員が敵になった時の気持ち分かるの? この世界に裏切られたような痛くて辛い気持ちがあんたに分かるの?」
堂庭の目には涙が浮かんでいた。頭に血が上っている俺は構わず続ける。
「んなもん分かる訳ねぇだろ。そういう事じゃなくてだな」
「じゃあ何よ」
「本当は転校なんてしたくないだろ? 平沼や都筑、他にもクラスの奴らと一緒にいたいだろ?」
「…………でもそれはあたしの我儘よ。現実は甘くないの。事態はこれから悪化するだけだわ」
「それはお前の経験則だろ? 取り敢えず転校はするな。お前が無理する必要は無いから」
「あたしは同じ思いをしたくないから言ってるのよ! それとも何? 全員敵である学校にあたしを閉じ込めたい訳?」
「お前それ本気で言ってるのか? 昔は知らないが今度は全員敵じゃないだろ」
「ふぅーん。でもあたし修善寺は信用してないから」
「あぁもう! 違うってんだろ!」
何でこうも俺の意図が分からないんだよ。たとえ学校全体が敵になろうとも、修善寺さんや桜ちゃんが裏切ったとしても……。
「俺だよ! いつだって俺はお前の味方だから。世界中の人間が襲いかかろうとしても俺はお前を守る。イジメを正当化するなんて許さねぇからな」
「え…………?」
「だからお前は何食わぬ顔で学校へ行け。逃げたら相手の思うツボだ」
「晴……流…………?」
見つめる堂庭の頬が急激に染め上がった。
同時に自分の体も熱くなっていく感覚になる。
ヤバい。気持ちが高ぶってつい口にしてしまったが今の俺、物凄く恥ずかしくないか!?
「な……ば、馬鹿じゃないの!?」
堂庭は蒸気が吹き出しそうな顔のまま、ぷいっと俺に背中を向けてしまった。
確かに俺は馬鹿だ。柄にもない事を言ってしまった……。
「もう本当晴流ってば……。晴流ってばぁ……ぐっ」
ぶつぶつと小声で呟いていた堂庭だったがその声は震えていた。ひょっとして……。
「お前…………泣いてる?」
「泣いてなんかなぁい! 泣いてなんか……ひっぐ、えっぐ……ぐすん」
いや、完全に泣いてるじゃないですか。
そんなに俺の一言がショックだったのか……。
「悪かったよ。ごめん……」
「な、なんで晴流が謝るのよ……。意味分かんなぁい……」
「えぇ…………」
「嬉しい……訳じゃないけど、なんというか……安心しただけ……だから……」
「はぁ……」
俺が思わず間の抜けた声を出すと堂庭は泣きながら吹き出した。忙しい奴だ。
「ふふ、晴流ってやっぱ晴流だよね。まぁ別にいいんだけど」
一人で勝手に納得した堂庭は両手で涙を拭く素振りを見せ、くるっとこちらに振り返った。
彼女は笑顔だった。
残った涙が頬を伝って零れ落ちたが、それでも堂庭は優しく笑っていた。
そして俺は思い出した。
中一だった頃。堂庭がロリコンだと知り、疎遠だった関係が終わったあの日。彼女は優しい笑顔を俺に向けていた。
そしてあの時「友達」と言ってくれた堂庭を今の俺が裏切る訳にはいかない。ピンチなら共に戦おう。友達なら当然である。
「実のところ、犯人の目星はついているんだ。証拠を押さえて忠告すれば事は収まるだろ」
「あら、晴流のくせに有能なのね。というかそれもっと早く言ってほしかったんだけど」
「言うタイミングが無かったんだよ。それに一言余計だ」
ロリコンが原因で色々騒ぎを起こす堂庭と比べれば俺なんて人畜無害だし有能過ぎて困っちゃうくらいだぞ。
「まぁいいわ。あと晴流。あたしを守ると言ったのだから責任持って全力を尽くしなさいよ」
「偉そうな態度だな……。でも今回は任せてくれ。約束する」
「ふふ、もし守れなかったら晴流は一生あたしの奴隷ね。ロリコン漬けにしてやるわ」
「何それ怖っ」
「嫌なら約束を守るのよ。あと解決できたらご褒美をあげちゃおっかなー。もれなくロリなあたしとロリゲーを満喫できる券、とか?」
「何それいらねー」
どっちも罰ゲームじゃねーか。
それでも元気に笑う堂庭を見て俺は安心した。
頼りないかもしれないけど、俺の言葉で彼女が勇気づけられたのなら嬉しい。
修善寺さんには任せると言ってしまったが、やはり俺は堂庭を支えたい。彼女にとって一番の存在でありたいと無意識に思っていた。
「口答えしないのー。でも……」
一拍置いた堂庭は満面の笑みで
「ありがとっ!」
瞬間、心臓の鼓動が急に早くなり、彼女の屈託の無い笑顔に惹き込まれそうになった。
俺は不覚にも堂庭を愛しいと感じてしまっていた。
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