ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

6-5 「お兄ちゃんがそう言うなら」

「えっ……。一体何があったの!?」

 小洒落た紙袋を片手にして帰ってきた桜ちゃんが驚嘆の声を上げた。
 それもそのはず。先程の乱闘(?)のせいで堂庭の部屋は大地震が起きたかのように物が散乱していた。

「晴流がエッチだからいけないのよ」
「はぁ!? そもそもお前が無防備すぎるのがいけないだろ」

 いくら俺とはいえ男の目の前でパンツが見える格好で座るのははしたないだろう。
 外ではしっかりとした淑女を演じているので問題は無いと思うが、俺に対しあまりにも気を使わないので少し心配になってしまう。

「まあよく分からないけど二人とも怪我は無いんだよね?」
「あたしは……多分大丈夫ね」
「多分じゃなくて絶対平気だろ。投げつけたのは全部お前なんだから」

 わざとらしく手先や身の回りを確認する堂庭を睨みつける。まったく、桜ちゃんが来た瞬間涼しい顔をしやがって。

「俺も多分大丈夫だ。桜ちゃん、心配してくれてありがとな」
「いえいえです! 二人とも無事で安心しました。ささ、早くケーキを食べましょう!」

 にこやかに答えた桜ちゃんは手にしていた紙袋の中身である駅前のケーキを取り出し、早速準備に取り掛かっていた。
 またケーキか……。いや、それより桜ちゃん、あなたは天使ですか! 神対応とも呼ぶべき振る舞いに俺は感動しつつ、散らばったフィギュアや文房具等を集める。
 すると足元に転がっていたフィギュアに目が止まった。

「あらら、これ壊れたんじゃないか?」

 手に取ってよく見てみる。小さな女の子が大剣を構えているようなポーズをしているが刃の部分が無い。恐らく投げ付けられた衝撃で取れてしまったのだろう。だが堂庭が勝手に投げたのだから俺には関係無い。自業自得である。
 しかし俺はすぐに堂庭へ報告せず、しばらくの間その壊れたフィギュアを見つめていた。
 何故か知らないがどこかで見た覚えがあるキャラクターだったのだ。
 やがて俺の様子に気付いた桜ちゃんが声を掛けてきた。

「あ、それ幼女伝記のターニャンじゃないですか!」
「ターニャン……?」

 なるほど、思い出した。
 夏休みの時に本屋でこのキャラクターが描かれたポスターを見ていたのだ。
 そして幼女伝記のラノベを読んでいた桜ちゃんと偶然会ったんだよな。

「うわぁ、剣が見事に抉れちゃってますね……。お姉ちゃん、これ大丈夫なの?」

 桜ちゃんの問い掛けでようやく堂庭は事態の異変に気付く。

「わぁぁ!? ターニャンがぁぁ!」

 俺から奪い取る様にフィギュアを受け取った堂庭はそのまま顔まで近付けて頬擦りを始めた。

「ごめんねぇ。痛かったんだよねぇ」

 涙声でフィギュアに謝る堂庭。
 というか俺には謝罪無しかよ。割と痛かったんだぞ。

「限定ものだったのに……。はぁ……」
「なぁ、取れたパーツは多分近くに落ちてるだろうし、接着剤でくっつければよくないか?」

 幸いにも壊れた部分は一つだけの様だし修復自体は容易い事だろう。

「はぁ何言ってるの!? あたしが心配してるのは剣じゃないんだけど」

 何故か機嫌を損ねた堂庭は近くに来いと手招きをする。

「よく見て。このふくらはぎの部分が少し剥げちゃってるじゃない。これは流石に直せないでしょ」
「うわ細かっ! ってかこれ前から付いてた傷なんじゃないのか?」
「それは無いわ。だって今朝この子の足を舐め回した時は綺麗だったもん!」
「うわキモっ」

 余計な事を聞いてしまった気がする。
 俺がこのフィギュアを触ってた部分を堂庭が既に舐めていたとしたら……。

「桜ちゃん。洗面所ってどこだっけ? 台所でもいいけど」
「えっと……。洗面所なら一番近いのは右に進んで突き当たりにある所ですね」
「ちょっと晴流、別に汚くないわよこの子達は!」

 堂庭の抗議を無視して俺は洗面所へ駆け込んだ。


 ◆


 午後八時を過ぎた頃。
 豪華な夕食までご馳走になった俺は満腹状態で帰宅した。
 リビングで寛いでいた両親に一言掛け、二階の自室へ向かう。
 扉を開けて中に入る。すると何故か部屋の灯りが点いていた。
 消し忘れか? でも朝は電気点けてないし……。
 疑問に思ったのも束の間、俺のベッドで寝転がっている舞奈海を見つけた。あいつ、俺の部屋で何してんだ?

「お兄ちゃん帰るの遅い。今まで何してたの?」
「堂庭の家に行ってたんだ。夕飯までご馳走になっちまってな」
「ふぅーん」

 顔をしかめる舞奈海。俺と堂庭が一緒に居た事を知るとこいつはいつも不機嫌になるのだ。

「で、お前は何で俺の部屋にいるんだ?」
「聞きたいことがあるの」

 ぶっきらぼうに答えると、彼女はポケットからスマホを取り出した。

「……そこからじゃ見えないでしょ。隣に来てよ」

 ぼんぼんとマットレスを叩きながら合図する舞奈海。小学生のくせに偉そうな態度だな。
 俺は仕方なく彼女の横に座り、スマホの画面を覗き込む。

「これ、新しい瑛美りんファンクラブの招待メッセなんだけど、どう思う?」

 画面にはLINEのグループへの招待メッセージが表示されていた。瑛美りん大好きクラブ2という名前でアイコンは堂庭の後ろ姿らしき写真が使用されている。ここには数多くのロリコン野郎が集っているのだろうか。想像するだけで気持ち悪いな。

「どうって……こんな集まりがあるんだなって思ったが」
「え!? もしかしてお兄ちゃん、ファンクラブに入ってないの!?」

 驚きの声を上げた舞奈海は素早くスマホを操作し始める。
 寧ろ舞奈海が堂庭のファンクラブに招待されてる事に驚くのだが。
 堂庭が大嫌いな舞奈海には招待されて何故俺には来ないのか。まあ別に構わないけど。

「前のファンクラブのメンバーにもいないわ……。お兄ちゃん、瑛美りんの事大好きだしてっきり入ってるものだと……」
「大好きじゃねぇし! あいつがロリコンで迷惑を掛けないように世話してるだけだ」

 舞奈海には分からないだろうが、俺はいつも学校からの帰り道に堂庭が園児と遭遇しないようにルート計算をしているのだ。今日は散歩だからこの道は使えないとか、コンビニで時間を潰そうと促したりと結構なストレスになるんだよね。

「別にそこはどうでもいいんだけど。それよりこのファンクラブなんだけどさ、ちょっとおかしいと思うの」

 軽快にスマホを弄る舞奈海が続ける。

「グループをわざわざ変えるのもおかしいけど変える理由も前のグループが使えなくなったからって言ってるんだよね」
「使えなくなるって……そんな事あるのか?」
「分かんない。でも私の携帯だとちゃんとトーク画面も開けてるし更新もされてるんだよ? だから新しいグループに入る必要は無いと思うんだけどどうかな?」

 首を少し傾げ、上目遣いで俺の返答を待つ舞奈海。
 聞かれても困るのだが、こういうのは流れに逆らってはいけないだろう。集団においては目立たずに川の流れのように皆に同調するのが平和且つ安全だ。俺もそうやって生きているしな。

「招待されてるなら断る必要は無いんじゃないか? 別に減るもんじゃないし」
「そっか。お兄ちゃんがそう言うならそうしよっと」

 答えた舞奈海はすぐに『グループへ参加する』ボタンをタップした。
 なんだか俺に多大な責任が課せられたような気がするが……。
「ありがとね」と微笑んだ舞奈海は軽やかな足取りで俺の部屋から出て行った。
 わがままが多いけど小学生としては十分できた妹だ。
 俺は一人で頷いて自分のスマホを手にした。堂庭にお礼のメッセージを送っておこう。

『今日はありがとな』と送ってから数秒後にどういたしましてと幼女がぺこりとお辞儀するスタンプが返ってきた。
 あいつどんだけ暇なんだよ。俺は思わず画面に向かって笑ってしまった。
 明日、積み重ねて来たブロックが崩されるような悲劇が待っているとも知らずに……。

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