ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

6-3 「婚約ならできますから」

「これしか無かったんですけど大丈夫ですか?」
「いや、有名店の最高級ケーキしか無い時点で俺の家の千倍凄いので大丈夫です」

 目の前に置かれたのは苺の乗った美味しそうなショートケーキ。包まれていた箱に書いてある某ブランドのロゴを見て俺はついため息がこぼれた。
 金持ちを身近に持つのも意外と大変だ。言われる言葉が一々皮肉に聞こえてくる。

「コーヒーはあるので淹れておきますね。砂糖とミルクはどうしますか?」
「ミルクは要らないです。微糖くらいでお願いします」
「はいはーい。宮ヶ谷君はまだまだお子様なんですねぇ。瑛美お嬢様はブラックじゃないと怒るんですよ?」

 そういえば堂庭はコーヒーにうるさかったな。というか微糖はお子様なのかよ。
 メアリーさんがお盆に載せた二つのマグカップと一枚の書類を持って慎重に歩いてくる。
 俺は差し出されたコーヒーを一口啜った。

「それにしても宮ヶ谷君がお嬢様より早くいらっしゃるのは珍しいですよねぇ。……もしかして私にプロポーズをしに来たんですか?」
「ぶふぉ!? ち、違いますよ!」

 吹き出すところだった。危ない危ない。

「そうなんですか? でも難しいことじゃ無いんですよ。ここに宮ヶ谷君の名前を書くだけでほら、新たな夫婦の誕生です!」

 そう言ってメアリーさんは片手に持っていた書類の『夫になる人』の部分を指差した。
 紛れも無い婚姻届である。しかも記入できる欄は全て埋まっているから驚きだ。
 この人……どんだけ結婚に飢えているんだ。誰か貰ってやれよ。

「大体、俺はまだ十六ですよ? 年齢的に無理なんですが」
「ふふふ、それなら大丈夫。結婚はまだできなくても婚約ならできますから」

 ニッコリと笑うメアリーさんが怖い。無言の圧力とはこのことか。

「ま、まあ俺は広い視野でそういうのは考えたいんで……」
「あらあら、今のは冗談ですよ。私が高校生の子に本気で求婚する訳無いじゃないですか~」

 あははと子供のように無邪気に笑うメアリーさん。
 それでもさっきのは本気だったとしか思えない。必死すぎて軽いホラー体験を受けた次第である。
 それから俺は年の差を全く感じないメアリーさんから年の差を凄く感じる大人の愚痴(主に恋愛)を長々と聞かされていた。

「ただいまー」

 高級ケーキも食べ終わった頃、遠くから堂庭の声が響いた。どうやら帰ってきたようである。

「おっと、主役が来たみたいですね。宮ヶ谷君、私の話に付き合ってくれてありがとうございました」

 メアリーさんはぺこりとお辞儀をすると食べ終えた皿をお盆に載せて後片付けを始めた。

「あ、自分のは俺がやりますよ」
「いえいえお気になさらず。これも仕事ですから」

 柔らかな笑顔で断られた。流石はメイドと言うべきか大人と言うべきか。公私混同せずしっかりと割り切っているんだな。

「お気持ちは嬉しいので是非先程の紙にお名前を書いてください。後片付けより楽な作業ですよ?」

 前言撤回。私情挟み過ぎだよ、この人。


 ◆

 玄関に向かうと制服姿の堂庭と一緒に帰ってきたと思われる桜ちゃんが革靴を脱いでいるところだった。
 既に自分専用のスリッパを取り出し、履き替えようとしていた堂庭と目が合う。

「え、ちょっ、何で晴流がここに居るの!?」
「その……何というか、用があってだな……」
「まさかストーカー!? ロリに興味を持ってくれるのは嬉しいけど流石に家にまで押し掛けられると困るんだけど」
「全然違うから! 近所なんだし別に構わないだろ」

 自分で言っておいて難だが、近所だから勝手に家に上がっても良いという理屈はおかしいと思う。でも他にまともな言い訳が浮かばなかったのだから仕方無い。ご近所の皆さん許してください。

「だとしてもお兄さんが私達の家に遊びに来るなんて珍しいですよね。お姉ちゃん、早くおもてなしをしてあげないと!」
「え、えぇそうね。取り敢えずあたしの部屋に来なさい。その後適当に茶菓子を出すわ」

 堂庭は捨て台詞のように吐くと、そのまま階段を上っていった。
 俺はその姿を何となく見上げていたが堂庭のスカートの奥が見えそうになったため急いで視線を逸らした。

「今日のお姉ちゃんの柄、縞々で可愛いですよね」
「いや、俺見てないからね!?」

 それよりも桜ちゃんは何故堂庭の穿いているパンツを把握しているんだよ。まさか一緒に着替えてたり……しないよな。

「知ってますよ。お兄さんがそんな事をするような人じゃないって、私知ってますから」
「そ、そうか……」
「はい! だから私達も早く行きましょう。そうしないとまたお姉ちゃんに怒られますよ?」
「はは、それもそうだな」

 広すぎる幅の階段をゆっくりと上がっていく。
 さっきの堂庭との会話。普段なら特筆すべき点は無いやり取りであったが、僅か数時間前までお互い無視を決め込んでいた事を考えると驚くべき変化だ。
 球技大会の件が功を奏したのだろうか。ともかく俺は安堵していた。このまま堂庭と仲直りをしてロリコンを直しつつ、愛川さんの脅威を密かに取り除いていく。
 いつも通りに適度に頑張れば大丈夫だろう。風は後から吹いて来る。
 この時の俺はまだ楽観的に考えていた。

コメント

  • 千寿ムラマサ

    この作品がすごく面白くてハマりました次回作も楽しみに待ってます
    頑張ってください

    1
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