ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

6-2 「早くお仕置きしたいなぁ」

 俺は自分の耳を疑った。聞き間違いかと思った。
 目の前にいる容姿端麗な美少女、愛川理沙は堂庭を潰すのに協力しろと言ったのだ。それも弾けるような笑顔で。
 こんなにも正々堂々と無茶苦茶な頼みをする人が他にいるのだろうか。余程自分に自身があるのか、それともプライドが高いだけなのか分からないが、俺や堂庭にとって目を離してはいけない存在になったのは間違いないだろう。

「無理に決まってるだろ。あんた自分で何言ってるか分かってるの?」
「ええもちろんよ。そりゃ宮ヶ谷君は素直に頷いてくれないだろうって思ってたわ」

 だから……と言葉を繋いだ愛川さんは再び顔を近付けてきた。お互いの吐息が肌に掛かるくらいの距離。
 俺の頬は反射的に熱くなってしまう。くそ、本能には逆らえないのか……。

「もし堂庭瑛美潰しに協力してくれたら……私の彼氏にしてあげるよ?」
「…………はぁ!? な、なに言ってんだよ
 」

 もう訳が分からない。俺をからかってるだけなのか本気なのか、さっぱりだ。

「私の彼氏になれるんだよぉ? 魅力的な取引だと思わない?」
「馬鹿にしているのなら時間の無駄だしこの話はやめよう。あんたがどこまで本気なのかも分からんし」
「え? 今の私は全部本音で喋ってるよ? 別に宮ヶ谷君が彼氏でも私は構わないし……ほら、こうしてマジで話してるのも君だけだもん!」
「だからそういう反応に困る返し方するのやめてくれないか。あと顔寄せるのもやめろ」
「むぅ、宮ヶ谷君ってば怖いなぁ。…………堂庭瑛美には優しいくせに」

 ムスッとした表情でこちらを睨む愛川さん。
 何故不満そうな顔をしているのかは知らん。あと俺は別に堂庭に優しくしてなんかいない。寧ろ厳しく指導しているつもり……なのだが。

「やっぱ宮ヶ谷君は乗ってくれないかぁ。でも私は堂庭瑛美を封じ込めるよ。一番は私じゃなくちゃいけないんだから」

 愛川さんは強い口調で宣言した。いや、こうなれば宣戦布告ともいえようか。
 一方的な都合で理由無く堂庭が陥れられるのを俺が見過ごす訳にはいかない。あいつが悲しんでいる姿を見たくは無いのだ。

「一番かどうか知らんが堂庭に手を出したらそれは唯のイジメだぞ。そしたら愛川さん、あんたの地位も危うくなるんじゃないか?」
「ふっふっふ。それはどうかしらね。こうみえて私、今まで何人もの邪魔な女を消してきたのよ?」

 悪魔のように不気味な笑みを浮かべる今の愛川さんはとてもじゃないが学園のアイドルと呼べない。
 自分の先を越そうとする者がいれば潰し、トップの座を守る。もし本当であれば非常に姑息な手段だし、想像するだけで怒りが込み上げてくる。

「堂庭瑛美はちょっとばかし可愛いけど私には到底及ばない。なのに何であんな調子こいてるのかしらぁ。早くお仕置きしたいなぁ」
「堂庭には手を出させねぇからな。そっちがその気ならこっちだって考えがある」
「あら、まさか私を妨害しようと思ってるの? ふふふ、やれるものならどうぞご自由に」

 悪役気取りになって高笑いする愛川さんを俺は睨みつけた。
 なにが学園のアイドルだ。こんな女子にベタ惚れする男子達の気が知れない。

「手を引くつもりは無いんだな」
「ええもちろんよ。こんなにも本音を晒しちゃったんだし、宮ヶ谷君を味方につけなくても私は徹底的にやるわ」

 徹底的、か。
 どのような手法で堂庭を排除するのか知らんがロリコンという強力なネタを愛川さんが持っている以上、軽視することはできない。
 一先ず堂庭に報告か?
 いや、言ったところで状況は変わらない。なら先手を打って対策を講じるべきか。でも相手はどんな手を打ってくるのか分からないしな……。
 突然の緊急事態に頭を抱えたくなるが、まもなくして横浜駅の入口まで辿り着いた。

「宮ヶ谷君、鎌倉だから横須賀線だよね? じゃあここでお別れだね」
「ちょっと待て。なんで俺の家の場所知ってるんだよ」
「ノートに住所書いてあったよ〜。堂庭瑛美の隣の隣の家なんだよね?」
「あの馬鹿……。覚えてろよ……」

 都筑のせいで俺の家まで特定されちまったじゃねぇか。
 俺の怒りはなお増すばかりだった。


 ◆


 俺は自宅をスルーして背の高い洋風な門の前で立ち止まった。
 相変わらず堂庭の家は大豪邸である。チャイムを鳴らし、中の住人を呼び出す。堂庭はまだ帰ってきてないかもしれないけど、それでも構わない。自分の部屋に一人でいても多分落ち着かなくて結局ここへ来るのだろうし。

「はい……あ、宮ヶ谷君じゃないですか。今開けますね〜」

 インターホンから聞き覚えのある女性の声。
 重量感のある物音と共に開かれた門をくぐり抜け、玄関まで向かう。
 扉を開けると先程の女性がにこやかに出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ。ご主人様っ!」
「ガチのメイドが言うと洒落にならないですよ?」

 所謂メイド服を着込んではにかんだ笑顔を見せているのは堂庭家が雇っているメイドのメアリーさん。見た目は中学生だけど既に三十路という堂庭に負けず劣らずのとんでもない人で、夏休みのキャンプ旅行では引率者として色々お世話になった。

「というかどうしてメアリーさんがここにいるんです? 担当は箱根の別荘なんじゃ……」
「あぁ、この前の別荘ですね。あそこは既に売り払っておりますので私は本家に戻されたんですよ」
「もう売ったんですか!? キャンプの為に別荘を買ってすぐ売るとか、まるで使い捨てじゃないですか」

 堂庭家の資産運用ヤバすぎ。友達とゲームの貸し借りをするような感覚で不動産を売買してるのかよ。

「まあご主人様のお考えに私は口を挟めませんのでこれ以上のコメントは差し控えますが。……それよりも宮ヶ谷君が一人でいらっしゃるのは珍しいですよね。何かあったんですか?」
「いや、その……堂庭に用があって……」

 流石に居ても立ってもいられなかったからとは言えない。

「なるほどですねぇ。ですが瑛美お嬢様はまだお帰りになってないので、よろしければリビングでお待ちください」
「分かりました。じゃあお邪魔させてもらいます」

 メアリーさんの後ろを歩きながら長い廊下を進んでいく。
 突き当たって曲がった所にある無駄に広い部屋。
 俺の部屋の五個分ぐらいあるだろう。一家族では勿体無いレベルのリビングだ。

「お茶とお菓子を用意してきますね」
「あ、わざわざすみません」
「ふふ、気にしないでください。これも仕事ですから」

 一礼してキッチンへと向かうメアリーさんを横目に、俺は真っ白なソファーへ腰掛ける。
 ため息を一つ。カチャカチャとメアリーさんが食器を動かしている音だけがこの広すぎる空間に響いていた。
 堂庭がいないと静かだな。でもこの時間も悪くない。
 窓の外の景色を遠目で眺めつつ、俺はこれからの行動について思案した。

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