ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

5-9 「…………ありがと」

「悪い悪い。俺の秘伝技を披露できると思ってつい調子に乗っちまった」

 上半身をぐるぐる回しキレッキレのオタ芸をお披露目していた平沼をつまみ出し事情聴取。

「お前オタクとかそういうキャラじゃねぇだろ。いつそんな汚い真似を覚えたんだ」

 リア充とは程遠いものの努力している姿勢を見せている奴だ。堂庭のようにフィギュアを集めてぐへぐへ言っている輩とは違うはずなのだが……。

「おいおい汚いとは失礼だろ。……俺は全ての人種に対応したオールマイティーなリア充なのさ」
「あー何言ってるか分からねぇや。取り敢えず部外者は持ち場へ帰ってくれ」

 平沼が調子に乗りそうなので阻止する。

「話を最後まで聞けって宮ヶ谷。俺があの秘伝技を習得したのは堂庭ちゃんのためだけでは無いんだよ」
「じゃあ何だってんだよ。まさかお前、本気でオタクに……」
「そうじゃないって。俺はあの技を愛川ちゃんに捧げたいんだ!」

 ガッツポーズをする平沼。
 彼は以前、学校内で有名なアイドル的存在の愛川さんに告白し玉砕していた。それなのにまだ諦めないというのか。
 いやそれよりも。七夕祭りに平沼を誘った時にこいつ彼女いるから行けないとか言ってなかったか?

「めげない奴だなぁ。大体、お前彼女持ちだろ。他の女子に色目を使ってたらまたフラれるぞ」

 とんだ浮気野郎だと思ったが、平沼は段々と顔色が悪くなっていき……。

「安心しろ宮ヶ谷。俺は今独身だ。……前に話した彼女は七夕の時にフラれたんだ……」

 マジッすか。数ヶ月での恋の破綻、お疲れ様です。
 同情の言葉でも掛けてやろうと思ったが、また調子に乗られると面倒なので少し煽ってみる。

「悪い。決してお前の傷を抉ろうと思った訳じゃないんだ。まさかフラれてたなんて思わなかったよ。まさかねぇ」
「じゃあなんでそんな嬉しそうな顔で言うんだよ」
「お、そう見えたか? 悪いなぁ本心が表に出てしまったようだ、ごめんな」

 平沼は悔しそうな顔をしていた。これでいいだろう。どうせまた「次なる恋を求めるぜ」とか言って立ち直るんだろうし。

「反省する気ゼロだろ……。まあいい、俺は未来主義なんだ。過去は振り返らない、常に今を生きているんだからな!」

 立ち直り早いな。一瞬じゃねぇか。
 でも結局何が言いたいんだよ。よく分からないが時間も無いし早く追い出さなくては。

「ならさっさと愛川さんにその汚い求愛ダンスを見せてこい。こっちは試合が始まるからな」
「だから汚いは失礼だろ。でも俺はやり遂げる男だ。待ってろ、愛川ちゃん!」

 気持ち悪い宣言をした平沼は体育館に向かって一目散に駆けていった。実に気持ち悪い。
 また、ベンチから気持ち悪い声援を送り続けていた堂庭親衛隊(?)はいつの間にか居なくなっていた。きっとそれぞれの持ち場へ戻ったのだろう。一件落着である。
 俺は振り返って試合が始まる直前のコートへ戻る。
 学校の一大イベントの一つ、球技大会が始まる。


 ◆


 試合は他学年を交えたクラスごとのリーグ戦を行い、勝ち数の多いクラスが決勝トーナメントに進出する。
 俺達の初戦、三年A組との対戦は上級生相手にも関わらず快勝した。的確なボールパスや男子の強力な攻撃が功を奏したのだろう。
 その後も勝利が続き、難なく決勝トーナメントに進出。あら、もしかして優勝狙えるんじゃね?
 そんな風に軽く思っていたが、やがてそれは現実味を帯びてくる。

「ドッジボール決勝戦は二年B組対二年C組です。試合は十四時からAコートで行います。各キャプテンは選手オーダー表を本部まで提出してください」

 グラウンドに置かれたスピーカーから試合の案内放送が流れる。
 俺達二年B組のドッジボールチームはとうとう優勝を争う決勝戦まで辿り着いてしまった。

「ねぇ宮ヶ谷君。急に緊張してきて上手くボールを避けられるか心配になってきたんだけど……」
「ここで勝てば優勝……。プレッシャーで心が押し潰されてしまいそうじゃ……」

 顔をひきつらせた都筑と修善寺さんが話し掛けてきた。二人ともとても緊張している様子だ。

「まずは落ち着こう。相手は同学年だ。今まで通り動き回れば勝てるはずだ」

 コートに集まっている相手チームの顔を見てみた。
 顔は見たことあるけど名前は知らない奴が多い中、一人だけ名前も分かる人がいた。

 愛川理沙。言わずもがな、学校トップクラスの美少女だ。C組なのでまさかとは思ったがドッジボールに出場していたとはな。
 異彩を放つ彼女の周りには複数の男女が取り巻いていた。どうやら作戦会議をしているらしい。正に集団のボスといった風貌だ。
 そしてその集団の更に外側には詰め掛けた大勢の観客が声援をあげている。が、大半はチームではなく一部の者に向けて送られており……。

「愛川ちゃん頑張ってー!」
「リサリサ可愛いよリサリサー!」

 あっちもいるんだな熱烈なファンとやらが。
 一方、我がB組サイドに集まったギャラリーも負けてはいなかった。

「堂庭ちゃんファイトー!」
「きゃわたんきゃわたん!」

 何だよこれ。アイドル応援合戦かよ。
 当の堂庭は熱烈な親衛隊に背中を向け、一人でうずくまっていた。多分恥ずかしがっているのだろう。
 このまま遠目で見ているのも申し訳ない気がするので、何か一言話し掛けたかったのだが無視されそうな予感がした。
 しかしながら堂庭との仲を戻すにはこちらから行動を起こすしかない。分かってはいるのだが……。

「お兄さーん! 頑張ってくださーいっ!」

 聞き覚えのある声。振り返ると大きく両手を振っている桜ちゃんと目が合った。

「勝ったらご褒美あげちゃいますよー。なんちゃって」
「お、おぅ。頑張るよ……」

 うわなにこれめっちゃ恥ずかしいんですけど!
 周囲の人(主に男子)から鋭い視線が向けられているのを感じた。やばい、今すぐここから逃げ出したい。
 しかし堂庭も同じ気持ち――いや、それ以上のプレッシャーを抱えているだろう。やはり一言声を掛けてあげるべきか……。

「まもなく試合を開始します。両チームの選手はコート内に入り準備をしてください」

 考えている内に試合は始まってしまった。


「B組、アウトです。四人対九人になりました」

 C組の猛攻により完全に劣勢となっていた。
 これまでの戦いではほぼリードを保てていたのだが今回はまるで違った。速いスピードでボールを投げてもキャッチされてしまい、すぐさま投げ返されてしまう。

「B組アウト。残り三人です」

 気付けば内野には俺と堂庭、都筑しかいなかった。男子は俺だけかよ……。
 しかし杞憂している暇は無い。C組の内野と外野でのパス回しが非常に素早く、俺達はボールを目で追って避け続けるのに必死だった。
 しばらく相手の猛攻が続いたが、やがて都筑が果敢にボールへ立ち向かい見事キャッチした。

「よく取れたな今の」
「ふっふっふ。水切りで培った私の球捌きを甘く見ないでよね!」

 言いながら放ったボールは力強く相手チームの内野へ飛んでいき、男子の脇腹に接触。ボールはそのまま地面に落下した。

「C組アウト。三対八です」

 ここから都筑は本気モードに入ったらしく、次々とボールを投げ続け、外野と連携してC組を追い詰めていった。ってか俺の出番は無いわけ?
 ところが。

「B組アウト。これで二人対三人になりました!」

 ついに都筑がボールを取り損ねて内野から退場。残るは堂庭と俺だけになってしまった。相手は愛川さんとその前に盾のように並ぶ二人の男子。

「宮ヶ谷ァ! 体を張って妻を守るのが旦那の仕事だぞ!」
「二人の愛の力を見せ付けてやるのよ、宮ヶ谷君!」
「お兄さんもお姉ちゃんもファイトですー!」

 一部のやかましいギャラリーは無視しておく。
 俺は内野にこぼれたボールを手に取り力を込めて相手へ投げつける。

 しばらく攻撃と防御が続いたが、なんとか愛川さんを守る二人の男子を仕留めることができた。
 これで二対一だ。逆転勝利も狙える……!
 しかし現実は甘くない。内野からはともかく、外野からの攻撃は依然として脅威なままなのである。
 相手チームの精鋭と思われる男子からの強力な投球。一旦ボールが手に渡ってしまえば俺達はただ避けることしかできなかった。
 そして外野から飛んできたボールは避けようとする堂庭の上半身を捉え……。

 ドンッ。

 接触。ところがボールは地面に落下せず上に高く跳ね上がった。

「……いけるっ!」

 すぐさま俺はボールの着地点に向かって走る。
 ドッジボールのルールはボールが体に当たった瞬間にアウトになるのではなく、当たったボールが地面と接触して初めてアウトになるのだ。
 つまり地面に落ちる前のボールを誰かがキャッチすればセーフなのである。

 咄嗟の判断が功を奏し、跳ね上がったボールは俺の手元に落下した。
 そして間髪入れずにボールを愛川さんへ投げる。
 堂庭がセーフになるのを見届け、油断していた愛川さんは飛んできたボールをキャッチすることなく足元に接触。ボールは地面に転がった。

「C組アウト! 優勝は二年B組です。おめでとうございますっ!」

 見事逆転勝利を収めることができた。
 堂庭の様子を見てみる。すぐに目が合った。

「痛くなかったか……?」
「うん……。…………ありがと」

 小声で聞き取りづらかったが確かに堂庭は礼を言った。俺はその一言でとてつもない安心感を覚えた。
 謝るなら今だろう。そう思ったのだがすぐに応援していた観客に取り囲まれてしまい、タイミングを逃してしまった。

「おいおい。俺は体を張って妻を守れと言ったがあそこまで格好良くやれとは言ってないぞ」
「か弱い瑛美りんを庇う宮ヶ谷君……。明日の一面はこれに決定ね!」
「お兄さん凄い良かったですよ! 素敵すぎますっ!」

 一部のやかましいギャラリーは無視しておく。
 その後、表彰式が行われ、堂庭と会話する暇も無いまま解散となった。

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