ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

4-8 「私と結婚します?」

 おいおい三十とかほぼ俺の倍の年齢じゃねぇか……。

 目の前に立つ、フリフリとした白黒のエプロンを着た女の子はまさかの三十路だった。
 あの堂庭がロリと言うのだから相当なブツが来るのだろうと覚悟していた。
 だがそれでも驚いた。予想外というか規格外だ。もう世界って広いんだね。色んな人がいるんだよ、世の中には。

 呆気にとられていた俺だが、都筑はそんなのお構いなしのようで元気よく挨拶を始める。

「私、都筑紗弥加って言いまーす! あと質問があるんですけど、メアリーちゃんって独身なんですか? 指輪していないですけど」

 ビクッ

 その時辺りに電流が走ったような気がした。
 都筑……なんちゅうデリカシーの無い発言をするんだ……。

「フフフ、ええそうよ独身どころか彼氏すらいた事ないんですよ? こんなに可愛い顔なのに……どうしてだと思います?」

 うわ自分で可愛いとか言っちゃってるよこの人……まあ否定はできないけど。

 都筑のせいで鉛のように重たくなった空気に一同は言葉を発することができず、メアリーさんは不気味な笑みを浮かべながら話を続ける。

「男って小柄な女が好きなんでしょう? 守ってあげたくなるとかなんとかで。でも私みたいなお子様な見た目だと違うんですよ」

 何か語り始めたんですけど……。
 腕を組み、うんうんと一人頷くメアリーさん。

「学生の頃はモテましたよ。でもロリコンを嫌悪していた私には断るしか選択肢が無かったんです。近づく男全員が私の見た目だけが目的なんじゃないかって勘違いしてたんですよね」

 なるほど、過去にそんな出来事が……。
 ってそれより早く出掛けましょうよ。

「社会人になって自分から頑張ろうと思いましたが事態は一変しました。初めてできた好きな人に告白したら犯罪者と思われるのは嫌だとフラれ、合コンに行こうものなら子連れが来てるのかと気まずい空気になり、婚活パーティーに行けば入口で「子供の入る場所じゃない」と止められるし……」

 小さなメイドさんは涙混じりに過去の醜態を晒していた。
 なんというか……可哀想な限りである。

「メアちゃん……そんな経験していたなんて聞いてなかったよ……」

 堂庭も初耳だったのか同情の目で彼女を見ていた。
 というか年上なのにメアちゃんって呼んでるんだな。

「瑛美お嬢様、私の事は心配なさらないでください。それよりも自分を磨いてよりロリっぽく、そして学生のうちに捕まえるのです! 需要はあるのですから!」
「メアちゃん……!」

 何かを分かち合ったようで固く握手する二人。
 なんだよこの関係。
 ひょっとしてこの人、堂庭のロリっ娘磨きに手を入れているんじゃないか?
 この前のロリエロゲーだって……。

「良かったな宮ヶ谷」
「あ? 何がだよ」
「大切にするんだぜ、嫁さんをよ」

 白い歯を見せ、爽やかに笑う平沼。殴りたい、この笑顔。
 すると彼の頬に勢い良く平手打ちが飛んできた。

「な、何言ってるのよ馬鹿! 晴流とは別にそういうんじゃないんだから!」
「ん? 別に俺は嫁さんが誰かなんて言ってなかったぞ?」
「きぃぃぃぃ!」

 パチンッともう一度ビンタを食らう平沼。
 うーん、こいつもしかしてMなのかな?
 怒るの分かってて言ってるだろ。

 一方堂庭は顔を真っ赤にしてメアリーさんに「早く車を出して」と命令していた。
 メアリーさんは俺の方を見て微笑んだ後、運転席の方へ向かい車内に乗り込んだ。


 助手席には俺が座った。じゃんけんで勝った人から好きな場所に座るというルールで一番最初に勝った為、見通しの良い助手席を選んだ。
 因みに堂庭は運転席の後ろ側。所謂上座と呼ばれる位置で、立場上彼女の指定席となっている。残りの二人はその隣に適当に座った。

「メアリーさん、それでペダル届くんですか?」

 心配になり声をかける。
 運転席にちょこんと座りハンドルを握っている姿はまるでゲーセンのレースゲームで遊ぶ子供のようだ。
 座席は目一杯前に引き出し、クッションで高さも調節してあるが、それでも地面にすら届いてない足でアクセルを踏めるとは思えない。

「この車は私仕様になっているんですよ。オーダーメイドでペダルの位置や形を変えてあるんです」
「お金かかってるんですね」

 他にもメイドがいるというのにここまで我が儘を聞いてくれる堂庭家の懐というか財力が凄い。庶民には到底理解できん。

「皆さんシートベルトはしましたか? あと道中トイレに行きたくなったらすぐに言ってくださいね」

 メイドらしいその言葉を俺達に投げかけた後、車体は動き始めた。



「なんかメアリーさんって……カッコいいっスね」

 出発から十分ぐらいして、突如平沼が声を上げた。
 こいつはいきなり何を言い出すのかと思ったが、口調や声のトーンから察するに適当に言ったに違いない。
 つまり特に意味は無い、暇だから言ってみたということである。

 だが隣を見ると当の本人は何やら緊張した面持ち。うーん、これは信じちゃってる顔だな。

「平沼君……でしたっけ? その、どういった所が……カ、カッコいいと?」
「え? あ、あぁ、デカい車とか運転してるトコとかっスか?」

 質問を質問で返しちゃってるよコイツは。
 やれやれと呆れつつ運転席を見やると、メアリーさんは何やら嬉しそうな顔をしている。おいおい、疑いの余地無しかよ。

「見る目有りますねぇ。どうです? 私と結婚します?」

 コンビニ一緒に行かない? ぐらいの勢いでプロポーズしたぞこの人!?
 なんなんだ? そんなに焦っているというのだろうか。
 平沼の反応が気になった俺は後ろに体を向ける。
 すると平沼は窓の外に映る景色を見ながら

「俺、彼女持ちなんで無理っス」

 ズドーンッ!
 相手の胸中も知らず、無慈悲に放たれた矢。
 撃たれた本人はしなびた野菜のようにぐったりとしていた。

「宮ヶ谷君、でしたよね。……どうですか? 私と結婚は?」
「いやぁ……考えさせてください」
「ですよね。三十路の私なんかと恋なんて……気持ち悪いですよね、ハハ」

 自暴自棄に陥り、力なく笑うメアリーさん。
 俺達にはそんな彼女に声を掛けることはできなかった。

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