きみの「美味しい」のためにできること
プロローグ
はぁ、はぁ、と荒い息が白く変わって、まだ闇の方が深い道に溶けた。
鬱蒼と茂った木々の間を一つ影が通り過ぎる。
ガタガタと軋む車輪の音を引き連れて。
閑静な森の道は誰一人、一匹とて通ることはない。
彼以外は一人として、だ。
夕闇の色濃く残る、坂道を行くのは少年。
まだ頭を出しただけの太陽の光では、少年の姿をはっきりと映し出すことは叶わない。
ただ、大ぶりなリアカーの影を引きずっていることはわかる。
そのリアカーにはたくさんのなにかが積まれており、それが少年の前へ踏み出す足を重くさせているようだ。
懸命に足を引きずるも、汗が滴り落ちて地面にしみを作るばかりで大して進んでいない。
更に、ここは山道であるためだろう。車輪が道に転がった小石につまづいてバランスを崩すたび、少年も大きく傾いた。
しかし、その度ぐっと力いっぱい踏ん張って体勢を立て直すから、リアカーが倒れて中身をぶちまけることはない。
「はぁ、はっ、あと…少し…。」
そう息を切らしながら自身を奮い立たせて少年はまた脚に力を込める。
やっぱり進みにくい道が続く。
小石も、雑草も次第に増えてく一方だ。
それでも少年は…、
それでも足を前へと運ぶ。
「チャオ…、待ってて、ね。」
台車の取っ手を掴む手に力がこもる。
少年は、一際大きく一歩を踏み出した。
少年は長い長い坂道を、重たい一輪車を引き連れて登っていく。
愛おしいひとの面影に頰を緩ませながら。          
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