Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)

ノベルバユーザー173744

drei und zwanzig(ドライウントツヴァンツィヒ)

 旅をするのに必要なのは足、体力、そして……ライターとマッチである。

「わぁぁ!またそれか!」

 特にライターに怯えるのはディーデリヒ。

「と言うか、ディさま。普段は使わないでしょう?私が偶然、持っていたもので、あとはマッチ」
「な、なんで使うんだ?」

 見慣れないものが苦手なディーデリヒである。

 一応、火を常に起こしておく松明もいいが、ディーデリヒが連れて来た猟犬のカミル、カスパル、クラウス、アーダは大丈夫だが、神経質な馬や狼の一家はやはり警戒するため、夜や暗くなった時以外付けない。
 その為には、この時代、鉄の硫化物である塊状の黄鉄鉱や白鉄鉱……火打ちがねに、火打ち石と呼ばれる硬い石を削るように打ちつけて赤熱した火花を出し、その火花をある種のキノコの消し炭などの火口ほくちに移して火をおこす技術が1万年以上も古くからあり、それを利用していたのだが、湿度の高い今日のように雨の降る時に火はうまくつかず、時間がかかった。

 アストリット……まどかは、火打ち石をうまく使えず、普段、ディーデリヒが器用に付けてくれるのを待っているが、今回のように大降りや湿気の多い時だと、何度火打ち石を打っても火花だけ、湿った枝に火はつかない。
 持って来ていた水よけシートをテントのように上に張り、なるべく皆が濡れないようにするには、早く火をつけてしまいたかったのである。

 一応、旅の間、野営もするので、枯れ枝や薪になるようなもの、食べれそうなハーブなどは移動中に収集しているが、濡れたところに座るのはごめんと、下にはバッグの中にあったレジャーシートを広げ、荷物など濡れないようにし、自分たちは石や薪の上に座る。
 犬たちは穴を掘って、濡れた部分をどかして、定位置に座る。

 馬は一般では高級なもので盗まれてはいけないと、犬たちが守っている。
 そして。

 ガサガサ……。

 姿を見せたのは、狼たち。
 アナスタージウスの家族が、狩りをしてきたらしい。
 自分たちの分でいい、それに干し肉もあると言うのだが、律儀に時々大物を捉えてくるのだが……。

 ぽて、ぽて、ぽて……。

 大物のシカとともに現れたアナスタージウスたちの後ろから、ヒョロとした狼の子供が姿を見せる。
 やせ細り、足なども傷だらけ、弱っている。

『イタカラ、ヒロッタ。マドカ、ゴハン』

 アナスタージウスが、ビクビク怯える3匹を前に押し出す。
 その間に、ディーデリヒがさばく。
 いつもはそのまま食べる狼たちだが、最近はそのまま食べるより、人間が食べれる部分と食べれない部分を分けてもらい、食べられない部分や余り物を瞬にスープにしてもらい、それをより美味しく食べる方が美味しい上に翌日が元気になると解ったらしく、ディーデリヒがさばくのを待つ。
 ちなみにさばいた後の革はなめして、次の街で売るのである。
 スープは馬やロバも口にして、翌日に備えるようになった。

「まぁ、いらっしゃい。ご飯食べる?」

 プルプル怯える3匹をアナスタージウスがぽいぽいぽいと投げ、火に近づけてはいけないと受け止める。

「大丈夫?残り物だけど少し温めたものがあるの、食べましょう」

 朝の残り物のスープを暑いか確認し、

「大丈夫ね。はい、器は一つ。食べてちょうだい」

しかし、警戒心の強い狼は後ずさろうとしたが上からアナスタージウスが器に顔を突っ込むと、

『オイシイ。ミンナタベロ。オナカガスイテイルンダロウ』

子狼を見て促す。
 クルクルとお腹が鳴っていた狼たちは、我慢できなくなったらしく器に頭を突っ込み、食べ始める。
 すると、三匹の周囲に光が広がり、しばらくして消える。
 そして、皿まで舐めた三匹は口の周りを舐め、手で顔を洗おうとして、傷がなくなっているのに驚いたように、アナスタージウスと瞬を見る。

「良かったね。まだあげてもいいけれど、一気に食べるとお腹壊しちゃうから、おやすみしようね」
『オトウチャン……』

 子狼がアナスタージウスを見る。

『ワタシハ父ジャナイ』
『オトウチャンハ?オカアチャン……』

 うなだれて、座り込み、人間の赤ん坊のように泣き出しそうになる。

『アー、オマエノ父ハでぃーでりひ、母ハ瞬ダ。』
「アナスタージウス?」
『オマエタチノ母ノ瞬ノ側ニイロ。ワタシタチハ家族ダ』
『オカアチャン?』
『オカアチャン……』

 上目遣いで見上げる子狼に、ほだされる。

「はい。じゃぁ、一番はだあれ?」
『アーイ』
『チガウモン』
『……ネンネ』

 上二匹は普段から好奇心が旺盛、しかし一番小さい、満腹でよろよろ……あくびをしている子は……。

「あぁ、女の子ね。二匹は男の子。じゃぁ、貴方はエッダ、貴方はエルマー、エーミールね」
『……エッダ……ネンネ』

 くぅぅ……

目を閉じて寝いる。
 名前はこっちがいいと言い合って飛び跳ねていた二匹も疲れたのか、エッダに寄り添い丸くなって眠る。
 少し濡れている毛をタオルで拭い、火を確認しつつ、料理の材料と、テントから滴り落ちる水を集めておいた器から鍋に砂が入っていないか確認しつつ移し、途中で買ったポットとカップ、みんなの器を準備し、まずは馬に水に濡れないようにしていた干し草を桶に入れる。

「いつもありがとう」

 餌や水は与えられるようになったが、まだ毛の手入れはダメなので声をかけてその横にいるロバのエルゼに干し草に好物のハーブを混ぜる。
 もしゃもしゃと食べるエルゼに、声をかけて、今度は主人のそばにいる犬たちと狼たちを見る。
 そして、

「アナスタージウスたちは、ディさまが言うように、自分で毛を乾かすだろうけど……このおチビちゃんは大丈夫かしら……」

食事を食べ疲れを眠りで癒す三匹に、思いつき、料理の時には外す自分のマントをかけておいた。

「よし……」

 保存食の中身を確認していると、ディーデリヒが戻ってくる。
 最初は肉の生々しさに驚いたが最近は、

「今日はどこのお肉ですか?」
「柔らかい部分は、アナスタージウスたちにお礼に置いておいた。貰ったのは、モモの肉。それと、解体した時に出た部分だよ。で、何で腸なんか……」
「今日、ディさまは言ったでしょう?二、三日、動かない方がいいって。だから、干し肉もいいですが、燻製を作ろうかと思って。燻製の肉とソーセージ。前は茹でたものでしたけど、燻製の方がいいかもと思って」
「君はなんでも挑戦するんだね……。それに……」
「あ、生臭いので、ちゃんと洗ってきてください!石鹸はあそこですよ」

お手製の石鹸はハーブを入れている。

「本当に、結婚したらいい奥さんになるよ、君は。それに、皮のなめし方について、手が黒くなるのに、よくするね」

 この時代の皮のなめし方法は『タンニンなめし』と言われる方法である。

 タンニンは柿渋、茶、ワインなどの植物の中にある渋みのことで、これを用いてなめすことで、切り口が茶褐色、型崩れしにくく丈夫、染色しやすい、吸湿性に富む、使い込むほど艶や馴染みがでる革が出来る。
 よく皮革製品で「飴色になる」と表現されるが、それはこのタンニンなめしによるものである。
 手縫いを用いるような鞄等にはタンニンなめしの材料が用いられる。
 だが、工程の手間もあり高コストである。

 しかし、当時はこれが一般的である。

「でも、雨が降るので、腐りやすくなりますね……」
「そういう時には、近くの村で売るのさ。安価でも買い取って貰った方がいい」
「じゃぁ、ディさま。私の作った石鹸とか、ハーブとか売れませんか?荷物になりそうで……」
「そうだな……それか、次の大きな街に行ったら、手紙と一緒に城に送ればいい。カーシュやテオが喜ぶさ」
「……そうでしょうか……。あ、少しだけ、情報があったことお伝えします」

 俯き料理に専念する瞬に、

「そうだ、皮ではなく、これからの時期は冷えるから、毛皮にしないか?」
「毛皮。でも、手間がかかりませんか?」
「皮や毛の部分はそのままで、身の部分をギリギリまで削いで、広げて干すんだ」
「そうなんですね。でも、時間はかかりませんか?」
「燃えないように、焚き火の近くで干すようにすれば、大丈夫だろう」
「……そうですね」

ディーデリヒは、石鹸で手を洗い、テントの屋根から落ちてくる雨水を貯めておいた水でゆすぐ。
 そして水は一回捨てて、また貯めておくようにした。
 水は貴重で、飲み水、今回のように洗ったり、料理に使い、火を消したりもできる。
 皮の水筒に入れて移動もできる。
 どこに泉があるか、飲める水か……一番安全なのは降り始めてすぐの水ではなく、しばらく降ってからの水だと瞬は言った。

「それか、一回沸騰させたものですね。安全です」
「瞬は賢いな……」
「実際経験したことはありませんが、聞いたんです。でも、暖かくしてくださいね。ディさま。すぐ脱がない」
「着替えだけはさせてくれ。血の匂いは獣を呼ぶ、ん?」

 上着を脱ぎ、それを一旦石鹸で洗うとゆすぎ絞り干す。
 そして自分の荷物から上着と、干していたマントを被る。

 すると瞬のマントがあり、ちょっと覗くと、ピスピスと鼻を鳴らしながら眠っている子狼。

「これは……」
「女の子がエッダ、そしてエルマーとエーミールです」
『……オカアチャン……?』
「お母さん……?」
「アナスタージウスが、この子たちに、父親はディさまで、母親は私だと言い聞かせて……お母さんって言うんです。どうしたの?エッダ」
『エルマーとエーミールにトンされた。イヤ』

 這うようにして近づくと、甘えるようにスリスリとする。

「エッダ。お母さんは、皆のご飯を作っているから、ディさま……お父さんのところに行きなさい」
『オトウチャン……イヤ!』
「熱いわよ?」
「こらこら、危ないからこっち」

 ディーデリヒは、小さい獣を抱き寄せる。

「エッダだったか?火は熱い。火傷したら大変だ。あぁ、リューン、ラウ。どこにいたんだ?」
『雨がしばらく続くってラウ言うから、見てきた』
『おウチある。いない』
「近くに家があるのか?瞬どうする?」
「今日はこのままで、明日移動しましょうか。もう日が陰っているし……」
「そうだな。エッダ。寒いか?」

 プルプル震える子狼を甘やかすように撫でる。

「瞬。塩辛くない前に作った燻製の肉はあったかな?」
「あぁ、これですか?」

 細長く切って燻製にした肉を差し出すと、一本取り、小さくしてエッダに与える。

「まだ、歯が生えそろっていないから舐めるといい」

 膝の上でハムハムとしていたエッダはそのままスヤスヤ眠ってしまう。

「本当に歯も生え始め位かな……生え始めるとやたらかみかみするんだ」
「じゃぁ、ご飯は柔らかいものと、味を覚えさせるために燻製ですね」
「今日はどうだい?」
「そうですね。先にみんなのを作った後に、ライ麦のパンがあるので、肉を焼いてサンドイッチにしましょう。スープと途中で、ベリーを取りましたし」
「……あぁ、パンは炙るとカリカリで、美味しくなるな。それにソースが美味しい」

 瞬は笑う。

「同じような食べ物じゃ飽きるでしょ?美味しいものを食べましょう?ね?ラウちゃんはどうかしら?」

 しばらくして出来上がった瞬スペシャルスープを二人は配り、そして自分たちの食事を作ると、

「頂きます」

と食べ始めたのだった。

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