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Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)

ノベルバユーザー173744

ein und zwanzig(アインウントツヴァンツィヒ)

「……雅臣まさおみさん……が、好き……」

 アストリットの唇が、小さく動き囁く。

「マサオミ……?」
「何だ?」
「人の名前か?」

 ディーデリヒは一番反応する。

「好きだって……誰なんだ!」
「こらこら……ディ。寝てるんだから、起こさない!」
「そうだよ、兄貴。寝言、寝言」

 カシミールとテオが抑え込む。

「だ、だが!」
「落ち着いてって……全く……」
「自覚遅すぎで、男の嫉妬ってコエェ〜」
「そうそう。それに、マサオミ……って、マドカの知り合いじゃない?」
「そうだよ〜……」

 アストリットのまぶたが震えて、目を覚ます。

「……あ、ディさま……お兄さま、テオお兄様」
「瞬……」
「アスティ。大丈夫?起き上がれる?」

 ディーデリヒの言葉を遮るように、カシミールは笑う。

「は、はい。ディさま。すみませんでした」
「……マサオミって誰?」
「えっ?」
「マサオミって、誰?」

 瞬は硬直する。
 頭の中がぐるぐるする。

「え、えっと……し、知り合い、です……」

 目の前のディーデリヒの声をあてている声優さんとは、言いにくい。
 それに理解できないだろう……。

「ふーん……。で、好きなんだ……」

 頬を赤くして、硬直した。
 高嶺の花そのものの雅臣まさおみに憧れている。
 初恋かもしれない。



 しかし、その雅臣の声で問い詰められる、どれほど精神力が必要だろう。

「あ、あ、憧れの人……で……」
「ふーん……」
「じゅ、10年前に、初めて知って……」
「10年?」
「はい、えっと、歳はわ、私よりに、20位上の……」

 顔を赤らめる瞬に、3人は愕然とする。

「えっ?アスティの20上って……30代……父上と同じくらいだよね?」
「えっ、お父様ってまだそんなにお若いんですか?」

 長兄を見る。

「はぁ?アスティ。僕が生まれた時は母上は16、父上17だよ」
「……え、えぇぇぇ!雅臣さん……多分38……」
「じいさんじゃないか」

 テオの言葉に、半泣きになりながら、カバンから取り出した写真を見せる。

「おじいちゃんじゃありません!ま、雅臣さんです!テオお兄さまのそのメガネは、雅臣さんが下さったんです!」

 写真の中には、ゆるく巻いた天然パーマの髪をまとめ、照れたようにはにかむ美男がいた。
 メガネはもちろんかけられていて、よく似合っている。
 そして、次の写真は、金髪に碧眼の美男子と並んで写真を撮っている。
 二人は少年のように、笑っていた。
 三枚目が、童顔の青年と、やんちゃな青年の言い合いを仲裁している……ため息をついている。

「2枚目は、一緒にいるのがグレートブリテンの貴族の方です。三枚目が、こちらの方が25歳くらい、こちらがディさまと変わらない歳で、雅臣さんの甥だそうです」
「……は?この人が、30後半?……うちの親父とは似ても似つかぬ若い人だな……」
「黒に近い茶色の髪と瞳……『Japanヤーパン』の人の特徴だけど……でも、中肉中背と聞いているけれど……」
「……ん?これは?」

 カバンからはみ出ていた手帳を見つけ、テオは出すと、

「いやぁぁぁ!テオお兄ちゃん!やめて!」
「何で?ん?黒髪で黒い目のお人形……」
「あ、その胸元……アスティが行方不明になって見つけた時に着ていた服だ」

 ディーデリヒは指摘する。
 クリクリとした丸い潤んだ瞳をした小さいが整った顔、アストリットは美貌の持ち主だが、可愛らしい少女である。

「……見ないで〜返して〜!酷い!」
「可愛いよ?これ、アスティ……瞬でしょう?」
「……アスティよりも、不細工っていうんでしょう……」

 半泣きの妹と写真を見て、

「アスティは見慣れてるけど、瞬は本当に可愛いよ。あぁ、似てると思ったけど、フィーのお人形に似てる!」
「うんうん。似てる。可愛い」
「ディ。どう思う?」
「……綺麗……かな」
「う、嬉しい……ちがぁぁう!」

雅臣の声で言われて一瞬、呟いたが、必死に写真と手帳を取り戻そうとする。

「返して!大事なものなの!お願いだから返して!」
「この中から……あれ落ちた!」

 テオの手から落ちた写真やメモの束に真っ青になる。
 かがみこみ取ろうとした3人の手を振り払い、自分で集めると、目に涙を溜め、3人を睨む。

「ディ……ディさまも、お兄さまも、テオお兄様も……だ、大嫌い!雅臣さんを馬鹿にして……からかって……もう、知らない!顔も見たくない!」

 その言葉に呆然とする兄の手の写真と手帳も取り戻し、涙をぬぐいながら走り去っていった。

「姫さま?どうされましたか?」

 声がするが、アスティの返事はなく、遠ざかっていったのだった。



 その日の晩、家族が集まっての夕食だったが、

「あの……父上、母上……アスティは?」
「それが分からないんだよ」

困惑した様子で、エルンストは答え、

「泣き腫らした目で厨房に現れて私たちと、ディーデリヒのペットたちの食事を用意するとそのままペット達の元にいったのだそうだ。皆がどうしたのかと問いかけると、口を開かず、ただ首を振るだけで……」
「一体どうしたのでしょうね……」
「お母様、フィーも心配です」

エリーザベトとフィーは顔を見合わせるのだった。

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