Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)

ノベルバユーザー173744

vierzehn(フィルツェーン)

 ところでこちらは、実家を追い出された、フレデリック……。
 護衛とは名ばかりの監視に囲まれ、まずは、南方にある都市シュマルカルデンを目指していた。



 本当は、実家のすぐ南に位置するベルリンの方が近いのだが、兄が豪語していたように、フレデリックの父エルンストの名声は高い上に、その嫡子であるカシミールは数年前隣の領のディーデリヒと共に戦場に立ち、勝利を収めており、その母親譲りの美貌から『戦場の妖精』と呼ばれ、知略と強さを称えられた。
 実は共に戦場に出向いていたフレデリックだが、出陣に怖気付き、体調不良を言い訳にして陣の中で寝台で震えていた。
 その為、兄とは逆に『あのエルンスト卿の名に泥を塗った』『ビビり野郎』と呼ばれていた。
 そのようなところに行って、再び嘲笑されたくはない。
 見た目は妖精だが、内面は悪魔の兄なら、自分のことをすでに、『実家から放逐された愚か者』と噂にしているに違いないと見ていた。

 ちなみにカシミールは、弟の想像をはるかに超えた策略を駆使し、次男の愚行に激怒した父親の名も出して、

『フレデリックはこの家の者にあらず。何かあったとしても、こちらに連絡を入れてくれるな』

と早馬などで南方にまで、すでに送っていたとまではフレデリックは思ってもいない。
 数年ふらふらと放浪し、戻って兄を殺してやると思っていた。



 そして目的地のシュマルカルデンは、現在のフランクフルトの東北東に位置する、現在のドイツの中心部にある街になる。
 約50年ほど前に『シュマルカルデン戦争(Schmalkaldischer Krieg)』(1546〜1547)があり、フレデリックの住まうカトリックを信仰する神聖ローマ帝国(Heiliges Römisches Reich)軍と、プロテスタントを信仰するシュマルカルデン同盟との戦いで、一応神聖ローマ帝国軍が勝利した。

 神聖ローマ帝国は800年から約1800年代までドイツを中心に続く国であり、ローマ教皇に認められた君主国家である。
 本来は800年カール1世からはフランク・ローマ皇帝時代、962年のオットー1世即位からを正確にみなす場合もある。
 そして、正式に神聖ローマ帝国を名乗るのは1254年から……とかなり面倒なのだが、一応、この時代は神聖ローマ帝国が形式上支配していたということになるだろう。

 ベルリンからフランクフルトまでは約550キロ、現在ならば交通の便が良く移動も楽だが、当時はこの地域は森と川、そして、小さい街を繋ぐ、森を分けて作った馬車の通る程度の道しかない。
 フレデリックと護衛4人は、馬に乗り進んでいた。
 しかし、ベルリンに向かう道と、そのまた南のシュマルカルデン方向に向かう道を前にして、4人は馬を止めた。

「何をしている。ここからどのように行くんだ?進め!」

 怒鳴りつけるフレデリックに、4人のうち最も年齢の高い男が、

「進むのはお主のみ。我らは命令に背くわけにいかぬ。では」
「なっ!どういうことだ!」
「……エルンストさまの命令は、領内を出た時点で、お主はエルンストさまのお子ではなく、ただの旅人。一応戻ってこないように、ベルリンへと向かう道まで案内してやった。戻って来れば……」
「俺たちが、処罰するぜ」

一番年下……だがフレデリックと同じ年のテオがニヤッと笑う。

 テオは孤児となってはいたが、身分の差はあれどもエルンストの戦場での盟友の一人息子だった。
 母はすでになく、父の死後エルンストが息子同様に可愛がり引き取った。
 エリーザベトも、素直で賢く気の利く少年を可愛がり、丁度死産が重なり気落ちしていたこともあり、息子として引き取りたいと思っていた。

 ある日、同じ年のフレデリックと遊んでいたテオだったが、わがままと暴力に振り回され、嫌になっていたものの、引き取ってくれた恩人エルンストの息子に手は出せないと我慢していた。
 しかし、フレデリックが妹であるアストリットを何に腹が立ったのか分からなかったが、殴ろうとしたのをかばった。
 アストリットはまだ幼いが愛らしく、とても賢い女の子である。
 その体を覆うようにして盾になり、代わりに散々殴る蹴るを受け、動けなくなった時に地面にけり転がされ、顔を蹴られた。
 何回かの激痛に意識を失い、次に起きると顔を包帯で覆われ、片目を失ったと医師に聞かされた。

 フレデリックが又乱暴を働いたと聞いたエルンストは即座に駆けつけ、惨状に怒り狂い、エリーザベトは嘆いた。
 だが、テオは目を失っても記憶力と、元々の負けん気でのちにアストリット付きの護衛として昇進した。
 で、今回着いてきたのは……、

「気に入らねえってツラしてるが、俺やロッホス隊長の方が、てめえのこと気にいらねぇんだよ!」
「なっ!無礼な!」
「はぁぁ〜?何がだ?お前はもう、貴族でも何でもねぇだろ?俺たちはディーツ家の命を受け、ディーツ家の為に働き、戦う者!お前のように布団かぶって、仮病使って戦場に出なかった『ビビり野郎』と一緒にすんなよ」

ハッと鼻で笑う。

 小さい頃はテオも小さく、フレデリックの格好の贄だったが、5年前あの大怪我をし、アストリットが泣きながら看病してくれ、時々領主夫妻やカシミールも手を握り、命があることを願ってくれた。
 そして、カシミールにほとんど読み書きのできなかった自分に教えて欲しいと頼み込み、起き上がれるようになると、片目で戦えるように訓練した。
 最初はめまいや頭痛に悩まされたが、それよりも、

「テオお兄ちゃん、ごめんなさい。私のせいで……ごめんなさい……それに、ありがとう……」

と泣いてくれた、幼いアストリットや、食事を食べさせてくれた領主夫妻、汗を拭ってくれたカシミールの為にと必死に努力した。
 その後の戦場には、本当はアストリットを守りたいと残るつもりだったのだが、カシミールに、

「ねぇ、テオ。見せつける気ない?お前の本当の強さを」
「何がです?」
「悪いけど、フレデリックと同じ……いやそれによく似た装備を着て、私やディの近くにいて欲しいんだ」
「カシミールさま?」

アストリットや母のエリーザベトによく似た、一つ上の少年を見る。

「父の命令なんだ。お前は髪は少し緩めのウェーブだけど、父と同じ茶色の髪、肌の色も瞳も一緒。ただ、父には悪いけど顔はお前の方が整ってる」
「左目の周りこれですよ」
「前髪で隠せばいい。で、して欲しいのは、私とディの補佐。それに、ディーツ家の恥をこれ以上晒したくないんだ。いいかい?あまり無理はしなくていい。フレデリックの代わりに私たちの弟として側にいてくれないかい?当然堅苦しい敬語で喋らなくていい。頼めるか?」
「……かしこまりました。いえ、分かりました。カシミールさま」
「兄上でいい。私はテオ……テオドールと呼ぶ」
「は、はい、兄上」

 テオは必死ではあったが、その役目をこなした。
 カシミールはフレデリックの代わりに側にいてくれと言ったが、ディやカシミールがいない間の周囲への周知や、前線に出る二人のサポートなどの様子に、カシミールはテオを両親に弟として引き取って欲しいと頼み、3人で内々にテオを養子として迎えることにした。
 しかし、これ以上恥を晒してくれるなと出陣を禁じられた、できの悪いフレデリックの代わりに、エルンストがテオを養子を迎えるかもしれないと噂になった。
 だが、エルンストは『すでに迎えていた』ので、『迎えるかもしれない』という噂を否定していた。
 でないと、愚息が姑息な手段を用いるかもしれないと思ったのである。

 そして、ロッホスが、

「テオ……いえ、テオドールさま。父上と母上、兄上、妹姫がお待ちです。お帰りくださいませ」
「何ぃぃ!お前のような者が、俺の地位を奪い取ったって言うのか!」
「悪いが……」

そうは思っていないテオは、笑う。

「何の関わりもない男に、家のことなど言えるはずもないだろう?お、私は、カシミール兄上の命令で、罪人を放逐できたか確認に来た。私はディーツ家の次男、テオドールだ」

 ちらっと片目で睨むと、すぐに、

「皆、夜になっては帰るのに大変だ。ここから近い街で休もう。行こうか」
「はっ、テオ若様、参りましょう」
「ではな、罪人。我が領地に戻ってみよ。私だけでなく兄上、父上の厳しい叱責があるだろう」

側近たちに促され、去っていったのだった。



 森の中の小道に置き去りにされたフレデリックは、

「許さない!許さないぞ!俺をバカにしやがって!絶対に許さない!」

と叫んだのだった。



【名前:テオドール・ヘルムート・ボニファティウス-ディーツ(旧姓がボニファティウス)(声優:一条那岐いちじょうなぎ
キャラクターの略式設定:ディーツ伯爵エルンストの養子で、次男。
年齢:17歳
性別:男性
髪:茶色だが少し明るめで、緩めのウェーブ
瞳:瞳は優しい茶色だが、5年前にフレデリックに蹴られて左目失明。
家族設定:実母は幼い頃に病死、父はエルンストの友人で戦死し、10歳までにエルンスト夫婦に引き取られる。その後、養子となる。ディーツ家次男。
職業:【Einエイン Edelmannイーデルマン】……ノーブルなのだが、本人にあまりそこまでの気はない。

初期レベル:20
初期体力:400
初期精神力:400
初期敏捷性:480(最高数値)
初期知力:400

HP:800
MP:800
武器:槍、Morgensternモルゲンシュテルン……モーニングスターと呼ばれる打撃系武器の一種、ロングボウ(長距離弓)サブに回る武器が多い。
特殊能力:表に出るよりも参謀と言うか補給、補助タイプ。素直だが照れ屋……ツンデレに近いものを持っている。ちょっとどころか熱血。アストリット親衛隊長】

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