Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)

ノベルバユーザー173744

fünf(フュンフ)

台所に行くと、

「若君さま、姫さま、それにお客様……?」

 ばあやこと、この城の最も古い侍女頭が頭を下げる。
 アストリットはディーデリヒに降ろしてもらうと、

「ばあや、お願いがあるの。お客様……ディーデリヒさまも連れられている動物に食べ物をあげたいのだけれど、何かないかしら?」
「急に言われましても……」

 戸惑うばあやに、ディーデリヒが、

「昨日の残りや獣の骨でもいいんだが……」
「あ、ちょっと待ってください」

 アストリットは何かを見つける。

「ばあや、火を借りるわね」

 奥に行き、何やら準備を始める。

「ひ、姫さま!それは、森に捨てる予定の……」
「森に捨てたら野生の狼などが来るでしょう?それなら埋めるか料理してしまいましょう。獣の内臓は毒があるのではなく、腐りやすいだけなのよ。それか、人間には消化できない栄養分が蓄えられていることもあるの」

 言いながら大鍋に火をつけ、水を汲んで入れると、その中に、骨や野菜クズなどを一気に入れる。

「それに、骨には長い間煮込むと、詰まっていた体にいい栄養分が流れ出てきて、体にもいいの」
「姫さま」
「でも、長い間かかってしまうわね、どうしましょう……」

と空を見上げると、突然六面体が二つ現れ、落ちた。

 数字はそれぞれ6。

『クリティカル……攻撃大成功』

「はぁ?」

 すると、ポンっと鍋が白い煙に包まれ、次の瞬間、具沢山のスープ状になっていた。
 しかも、温度は適度に冷めている。

「魔法だ……」
「こんなのあったか?」
「見たことないし、知らない」

 カシミールとディーデリヒがいつのまにか近づいてきていて、アストリットの後ろで感心する。

「えっ?これが魔法?」
「多分……俺は攻撃魔法しか知らない。でも、カーシュどうだ?」
「うーん……術法が分からない。アスティは魔法を習っていないはずだし、無意識に使ったんじゃないのかな」

 首をひねる兄に、アストリットは内心手を合わせる。

 術じゃありません……。
 それに、攻撃成功って何?

「え、えっと、味見……」
「その必要はないみたいだぞ?」

 ディーデリヒの声に振り返ると、ディーデリヒの頭には見慣れない生き物がしがみついていた。
 美形の頭に、しがみついているのは大きな頭の緑のトカゲ……いや、翼が付いている。

 アギャァァ?

 首を傾げる様に、手を伸ばしよしよしと頭を撫でる。

「あら、可愛いですね。あ、このままだといけないので、何か器を……」
「わぁぁ!アスティ!この生き物は、凶暴な【GrünグリューンDracheドラッヘ】だよ?」
「そうなのですか?でも、ご飯食べる?」

うぎゃぎゃ……

 ブンブンと首を上下に振る。

「イタタ!コラ、リューンやめろ」
「リューンちゃんというのですか?」
「リューンと、【BlauブラウDrache】のラウ。ラウはあそこにいる」

 示す方を見ると、裏口から顔を覗かせている小さい……。

「可愛い!お兄様!抱っこしたいです!」
「お腹空いてるから、先にあげたほうがいいと思うよ」
「そうでした。えっと……器……」
「こ、これを……」

 ばあやは恐る恐る器を差し出す。
 それをアストリットに渡し、カシミールは鍋を掴む。

「持って行くよ。向こうであげたほうがいいだろうし」

と、器を持ったアストリットは、途中で、ディーデリヒがラウを抱き上げ連れて行くのを後ろからついて行った。

 キュ〜?

 ラウという生き物は肩越しにアストリットを見つめる。
 リューンよりも頭が一回り小さいという事は……、

「まだ、ラウちゃんの方が赤ちゃんですか?」
「うーん……多分。拾ったから。リューンはお腹空いたって食糧庫を漁ってたんだ。歯があったから。ラウの方が目が開いてなかった。道に落ちてた」
「み、道……」

 どうしたらドラゴンが道に落ちているのだろう……。

「まだ歯が生えてないと言うか、甘えん坊だな。な?ラウ」

 ぴぎゃぁぁ〜!

 ディーデリヒに頭を撫でられ、嬉しそうに甘える。

「まぁ、ラウは目が開いてから家族一緒だったから良いんだが、リューンは、気をつけないと餌だと認識するから困るんだ」
「アスティ。あそこ」

 庭の一角に、兄達の練習場があるのだが、そこに、出入り禁止と書かれており、それを見上げワクワクする。

「わぁ……きっと犬、猫……沢山いるのですね」
「皆、遅くなった……何をしている!」

 ディーデリヒが厳しい声を放つ。

「フレデリック?」

 カシミールは小さいテーブルに鍋を置くと、一角を閉ざしているはずの中にいる弟に近づく。

「お前、何をしてるの?」

 バタバタと翼を動かす鶏の首を絞めていたフレデリックは、振り返る。

「あ?……あぁ、し、知らない鶏がいたから、料理にと」
「この馬鹿がぁぁ!」

 背を向けた状態のカシミールはわずかに背の高い弟を、一撃で沈める。

「おい、大丈夫か……!」

 駆け寄ったディーデリヒは息を飲む。

「大丈夫ですか?」
「見るな……!」

 ディーデリヒはアストリットを止める。

「……見ないでやってくれ……」

 キュワー?

 ペロン

とラウに舐められるが、カシミールが、

「ディ!アスティと向こうに行って。何とか回復魔法を使ってみる!」
「……無理だ」

 ディーデリヒの声が暗く低くなる。
 アストリットには見せないようにしているのか、それほど無惨な場所になっているのか……?
 アストリットは、ラウの目を見つめながら頭を撫でる。
 青い瞳が見つめ返してくる。

「命は戻らないのだと解るけれど……息があるのなら……一人でも、助かって欲しいわ……」

『……それが願い?』

 頭の中に声が響く。
 青い瞳から引き寄せられる何かに微笑む。

「うん。使って……」

 体から意識と力が抜けるのを感じながら、目を閉じた。



「……いっ、おい、大丈夫か?アスティ?」

 肩を揺すられ、目を開けるとディーデリヒが心配そうに覗き込んでいた。

「あ、すみません……ディさま。あの……」
「君がしたのか?」
「えっ?」
「……いや、大丈夫か?」
「はい……あら、ラウちゃん」

 自分の肩にピタッとくっついているラウは、瞬きをするとすりすりとする。

『願い叶えた。褒めて、褒めて?』

「お願い?」
「どうしたんだ?」
「いえ、ラウちゃんが、何か、『お願いを叶えたから褒めて』って言ってるような気がします」
「……いや、多分、ラウは言ってるんだろう。【BlauDrache】は、癒しの魔法を使うから」
「癒し?」

 ラウの頭を撫でながら問い返すと、カシミールが、

「ずっと絞められていたらしい鶏は、二羽無理だったけれど、狼や他のは全て生きてる。ディ!」
「本当か?良かった……ラウとアスティのお陰だ……」

 目を閉じると、息を吐く。

「また、失うのかと思った……家族を……」
「ディ、アスティ。私は、この馬鹿を連れて行く。皆に食事を……」

 言いながら、縄で戒めたフレデリックを連れ、城に戻って行く。

「あぁ、じゃぁ、ご飯を……」
「いや、寝ていてくれ。今起きると、多分倒れる。それに、ラウとリューンといてくれ」

『お腹空いた』
『あれ、食べたい、食べたい!』

 ディの頭の上と真横から今度ははっきりと声が聞こえる。

「あの、リューンちゃんとラウちゃんが、『お腹空いた』って言ってます。『あれ、食べたい』って」
「あれ……これか?」

 ディーデリヒはアストリットが持ってきていた器に盛ると、ラウの前に並べて置いた。
 すると、ラウはすぐに動き、リューンは飛び降りて二本足でトコトコ近づくと頭を突っ込み食べ始める。

「……みんなにも、やって見るか」

 言いながら、器に盛り付け中に入って行く。
 アストリットも起き上がり、よそうのを手伝い、中にいるディーデリヒに手渡していく。
 すると、青い光が訓練場内に満ち溢れ、しばらくして落ち着く。

「……これは……癒しの魔法……あの料理に癒しの魔法が込められていたのか……すごいな……まだ小さいラウが魔法が使えるのも驚いたが、アスティがこんな魔法を使えるなんて……」
「わ、私は知らなかったです。本当に」

 首を振るアストリットに近づくと手を握り、頭を下げる。

「……ありがとう。俺の家族を助けてくれた……」
「でも、全ては無理でした……ごめんなさい。兄が……」
「アスティのせいじゃない。俺が気を抜いていたからだ……」
「いいえ……」

 自分の手を包む大きな手にドキドキとし、頬が赤くなる。
 今日は二度目だ……なんでだろう……。

 すると、スカートの裾をツンツンと引っ張る何か……ラウである。

「どうしたの?ラウちゃん」
「ん?何を言ってるんだ?」

『アストリットはラウの。ディーデリヒはリューン!』

「えっと……『アスティはラウの、ディさまにはリューンがいる』と言ってます」
「はぁ?拾って育てた俺の立場は?」

 ディーデリヒはラウを抱き上げようとするが、その前にリューンが割り込み腕を上ると、定位置らしい頭に乗る。

「コラ、リューン。それはやめろ。頭の上は情けないから」

『よく見えるからいいの。それに、ディーデリヒはリューンの』

 アストリットは、リューンの言葉も伝える。

「くぅぅ……リューンは解ってやってたのかぁぁ!【Wolfヴォルフ】たちから逃げていたわけじゃなかったのか」

『あんなの、怖くないもん』

「えっと……」
「いや、アスティ、今のは何となく伝わった。だが、小さい頃は怯えていたのは覚えているんだぞ」

 自分の頭の上に向かって伝えるディーデリヒに、プイッとそっぽを向く。

「コラ!リューン。降りろ」

『いやぁよ』

 通じないらしいが、どうやってか会話を成立させている二人に、アストリットはつい、吹き出す。

「す、すみません。ディさま」
「……ほら、リューン、アスティに笑われたぞ。降りろ」

 ディーデリヒの声に、肩を震わせ笑いを堪えるアストリットの目に飛び込んできたのは、

『アストリット……【BlauDrache】、ラウの加護と、癒しの魔法……?を覚えた』

 という文字だった。

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