Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)

ノベルバユーザー173744

sechs(ゼクス)

 ディーデリヒがアストリットと話をしているのを横目に、カシミールはフレデリックを引きずりながら父の執務室の扉を開ける。

「父上!」

 苦手な書類作業をしていた父、エルンストは、顔色を変えた長男と、眉を寄せる次男を見る。

「どうした?」
「父上。フレデリックが、客人の……ディーデリヒの連れてきた動物たちの元に乗り込み、剣や素手で次々に手をかけました!」
「何だって!」

 エルンストは隣の領の状況を知っている。
 それに困っているディーデリヒのことも……昔は行き来があったが、ディーデリヒの母の死後、ギクシャクしている……。

「何てことをしたんだ!フレデリック!ディーデリヒは客人!客人の連れてきたペットはちゃんともてなすようにと昨日あれ程言っただろう?」
「Ein Kaninchenカニーンヒェン……うさぎとかHuhnフーン……鶏とかいたので、猟の時の足りない為の予備かと」
「言い訳をするな!まず、あそこに立ち入るなと私が命じただろう!」

 温厚なエルンストもふてぶてしい次男に叱りつける。

「お前はいつもそうだ!私は知っているんだよ?アストリットに難癖をつけて暴力を振るったね?」
「あいつがいうことを聞かなかったからだ!」
「ふーん……お前の手下に弄ばせようとしたらしいね……」

 父親の言葉に怖気付くが、すぐに、

「15にもなって、ここに居座るからだ!早く嫁に出せばいい!」
「なら、17にもなってここに居座るお前も同じ。アストリットは、エリーザベトとともにこの城を守ってきた。城のことを覚え、勉強をし、自分が結婚する時まで努力していた。男と女の仕事は基本的に違う。お前はアストリットをバカにしている」

 エルンストは次男を睨みつける。

「……中央に送る者を決めた。恥さらしでも何でもないが、フレデリック、お前が行きなさい。だが、二度とこの地を踏むな。そして、アストリットに近づくな!この愚息が!」
「何で!兄貴が中央に!」
「何故?カシミールは私の片腕として……ついでに、隣の領のディーデリヒ殿と親友。これからも隣とはうまくやって行きたいからね。誰か。フレデリックに支度をさせなさい」
「はい、私が送り出します」

 カシミールが手をあげる。

「父上、多分、ディーデリヒとアストリットが一緒です」
「解った。謝罪してこよう。フレデリック、今生の別れだ」
「何で!親父は、お袋と同じ顔ってだけで、兄貴やあいつを可愛がる!贔屓じゃねぇか!」
「顔だけで贔屓をしたつもりはない」

 怒鳴り散らす息子が出ていくのを見送り、ため息をついたのだった。
 そしてすぐに、

「ディーデリヒに謝罪を……謝って済む問題じゃないけれど……」

歩きながらため息をつく。

「フレデリックは、何故あのように育ったんだ。アストリットは本当にいい子で、カシミールもクセはあるけれど賢い子に育ったのに……分け隔てなく育てたつもりだったのに……」

と遠ざかっていった。



 カシミールは数名の侍従と共に、弟の身支度を見守る。
 持ち出せるのは身の回りのものと武器と防具のみ。

「支度を終えたかい?」
「これを待っていたんだな?クソ兄貴!」
「クズ弟がよく言うよ。はい。大金だけど、渡しておくよ」

 皮袋を投げる。
 その中身は、まどかが渡されたものと同じテーラー銀貨……しかし、枚数は少なく10枚。

「これだけかよ!」
「ん?これだけでもあげたんだけど、いらないなら返せ」

 渋々フレデリックは懐に収める。

「この領を出るまでは監視がつく。出てからは自由だ。でも、このディーツの名を名乗るな!二度と!去れ!」
「はっ!去ってやるさ。そして、中央で権力を握って、兄貴……この家を潰してやるとも!」
「そう簡単にいくものか。すでに隣の領には受け入れるなと書状を送っておいた。隣と繋がっていたのはバレバレだ。他にも受け入れるなとこの辺りに中央にも使いを送っている。そう簡単にいくと思うなよ」

 兄の一言に目を見開く。
 にっこりと微笑むと、

「では、去れ。二度と顔を見せるな。連れて行け」

周囲に命じる。
 何やら文句をいう声はしたが、無視する。
 遠ざかるのを確認し、来ていたメイドに、

「この部屋のものを処分しろ。綺麗にし、ディーデリヒの部屋にする。金目の物は宝物庫に戻すが、その他の物は、皆で分けるか、余れば村に寄付を。このことはアストリットが詳しい。頼んだぞ」
「はい」

そう言い残し、去っていった。



 エルンストはディーデリヒに使いなさいと伝えた訓練場の一角に近づくと、彼と自分の娘が何やら話しているのが見えた。
 しかも、端正なディーデリヒの頭には凶暴なはずのGrünグリューンDracheドラッヘが、アストリットの腕にはBlauブラウDracheが抱かれている。

「ディーデリヒ殿、アストリット!」
「エルンスト様」
「お父様」

 二人は振り返る。
 二人の前のテーブルには、二羽の息絶えた鶏が置かれている。

「この……フレデリックがしたんだね……申し訳ない!」

 ディーデリヒを見、頭を下げる。

「他の君の家族は?無事かい?」

 ディーデリヒは、ちらっとアストリットを見ると答える。

「実は、アスティ……アストリット姫が、BlauDracheのラウと回復の魔法を使って、助けてくれました」
「アストリットが?」

 娘を見る。
 娘は確か魔法の力を持っていたが、それを使うのを怖がり勉強していなかったはずである。

「あの……お父様。ラウとリューンとお話ができるようになって……助けてあげたいって思ったら、この子たち以外は助かったのです……」
「……でも、本当に……愚息が申し訳ない……私が、甘やかしてしまったのだろうか……」
「エルンスト様……ありがとうございます。あの……この、二羽を料理に使って下さい。そのまま埋めても、他の生き物に食べられる……私達のお腹を満たしてこそです」
「だが……」
「下処理をしますね」

 ディーデリヒは微笑む。
 何とか笑みを浮かべていると言いたげである。
 無理な笑みを心配そうにアストリットは見上げ、

「あの、私が料理を作ります。それと、ディさま、お願いがあるのですが……」
「何だ?」
「お辛いと思いますが、あの、羽根を頂けませんか?」
「飾りに使うのか?」
「いいえ、布団を作ろうかと……本当はGansガンス……ガチョウ……とHausenteハオスエンテ……アヒル……のがいいと思いますが、二羽の命をありがたいと思って……」

恐る恐るお願いする。

「でも、汚れているが……」
「洗って、乾かすと膨らむので、作ってみようかと。命を捨てるのはこの子たちにも可哀想です。今まで溜めている他の鳥の羽を合わせて作ろうと思います」
「分かった……」
「お父様。ディナーの時間が近いですわ。お母様の所に向かわれて下さいませ。私はお手伝いをします」
「頼んだよ。アストリット」

 エルンストは気遣わしげに様子を見て戻っていった。

「では、行きましょうか……ご案内します」

 鶏を手にしてさばく場所に移動する。
 そこで血抜きをしながらさばいていくのだが、まずは羽をむしり、アストリットの用意した袋に入れていく。
 そして、一気に血が回らないように血管を触らないようにさばき、内臓を取り、部位を分けていく。
 ディーデリヒは可愛がってきた鶏が肉塊になるのを、寂しげに見ながらも慣れた手つきでさばく。

『ねぇねぇ。ディーデリヒ。リューン食べる』

「駄目。リューンは食べるな」
「晩御飯に作りましょうか……?それに、ディさま、手をよく洗ってくださいね」
「アスティは?」
「羽を清めて膨らませようと思います。ラウちゃんに手伝ってもらおうかと思います。ディナーに行ってください。ラウちゃんよろしくね?」

『がんばゆっ』

 えっへん。
 胸を張るラウに苦笑する。

「じゃぁ、手を洗って先に行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 見送る。
と、台所にカシミールが姿を見せる。

「ディ。アスティもいたね」
「カーシュ」
「ディと行くから、アスティは後でおいで。着替えもね」
「はい」

 見送ると、

「ラウちゃん。お手伝いしてくれる?」

『何?アストリット』

「この布の袋の中の毛を清めたいの。洗濯をすると羽が潰れてしまうから、空気を回して膨らませながら綺麗になぁれってしたいの。できないかしら」

『うーん、綺麗になぁれ……うん、分かった』

 コクンと頷く。

「じゃぁ、庭で……」

『綺麗になぁれ』

 出て行こうとしたアストリットの手の中で魔法がはじける。
 慌てて袋を開けると血などの匂いが消えたふわふわの毛が現れる。

「……まぁ!凄いわ。ふわふわだし、綺麗になってる。匂いもしないわ。ありがとう。ラウちゃん。お利口ね」

『お利口』

綺麗なふわふわの羽が潰れないように、部屋に持って帰ったアストリットはドレスを着替え、そして思いついたように、

「はい、ラウちゃん。青いからピンクのリボンが似合うと思うの」

首にリボンを結ぶ。

『りぼん?』

「えぇ、私の髪にもよく結ぶのよ。今日はお揃いね」

示すと、アストリットと自分のリボンを確認し、

『一緒。嬉しい』

「私もよ。そうだ。リューンちゃんにも赤がいいかしら?それとも淡いクリーム色……」

『ディーデリヒと一緒?』

「そうねぇ……ディさまは緑かしら……赤だときついわね……色違いにしましょう」

お揃いの刺繍入りの色違いを準備し、兄には濃いブルーのリボンを選ぶと、部屋を出て行ったのだった。

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