Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)

ノベルバユーザー173744

zehn(ツェーン)

 アストリットをエスコートして現れたディーデリヒに、先に妻の元に赴き席についていたエルンストは微笑む。
 ちなみにその後ろにはカシミールがフィーと手を繋いでいる。

「遅くなりました。申し訳ありません」
「いいのよ」

 エリーザベトは微笑む。

「でも、4人揃ってリボンがお似合いね」
「そうですか?私は似合わないと思うのですが……」

 アストリットを案内して座らせ、自分の席に着きながらディーデリヒは苦笑する。

「とても似合っていてよ。あら、フィーちゃん。お友達の席も用意しましょうか?」

 微笑む姿は母性に満ち、ディーデリヒもフィーも胸が温かくなる。

「お母さま。ありがとうございます」
「まぁ、改まってお礼なんて、娘に言われたら、悲しいわ。フィーちゃんはお母さまの娘ですもの」
「はい、お母さま。えっと……」

 食卓に並ぶ料理に、キョトンとする。

「今日のお料理、ちょっと違うのですね」
「アストリットが考えたものよ。ばあやが作ったのよ」
「へぇ……」

 家族は覗き込む。
 ただ肉を焼いているだけではなく、何かを添えている。

「これは?」
Kartoffelカルトッフェルですわ。お兄様が捨て値で買い叩いて、倉庫に置いておいたものを見つけたのですわ」

 アストリットの言葉に家族はギョッとする。

 Kartoffelジャガイモは、1570年ごろ、新大陸……南米ペルーからスペイン人によって持ち込まれた比較的新しい食物である。
 しかし、食べられると聞いていたのだが、船で運ばれてくると芽が出て毒があり、食べた人々が中毒死した為『悪魔の植物』と呼ばれていたのだ。

 こちらにも入ってきていたが、誰もが食べるのを躊躇っていたのだった。
 アストリットは微笑む。

「Kartoffelは大丈夫ですわ。実は、食べる芋の部分は無毒なのですが、芽の部分が毒を持つので、その部分をくりぬいたら大丈夫なのです。でも、日が経ちすぎて食べれる部分がシワシワになったら、食べずに芽の部分を残すように切って植えると増えますわ。火を通すとホクホクして美味しいですの」

 言いながら自分で食べてみせる。
 思い切ってディーデリヒは口に運ぶが、すぐにあれ?と目を見開く。

「塩だけなのに美味しい……」
「香辛料も良いですが、塩だけで味は引き立つんですよ」
「でも、アストリット。植えるにしても、腐って増えないと聞いたけど……?」

 兄のカシミールは恐る恐る口に運びながら問いかける。

「確か……お、えっと、噂で聞きましたが、切り口を灰にまぶすと腐らないそうですわ。お兄様」
「ふーん……そういえば、倉庫にしなびて芽が出てるKartoffelが沢山あったよね……今からでも植えてみようか」
「そうですね。少し時期が遅いのですが……本当は夏の終わりが植える時期なのですわ。それに聞いたところ、Kartoffelは飢饉などにも役に立つそうです。それに、温度が高いと芽が出るので、温度の低いところに保存すると、芽も出ずに済むので冬の長期保存用の食料に向いているかと思います」
「へぇ……それはいいことを聞いたよ。アストリット。すごいじゃないか」

 父親のエルンストの言葉にハッと我にかえる。

「えっ、あ、ま、前に町に行った時に、旅人から聞いたと……『悪魔の植物』と言われるのに不思議だと思いましたの」

 実は、まどかが小学校の理科の授業で、さつまいもとジャガイモを植えた経験があり、つい口にしたのだった。

「そう言えばお兄様。こんな蔓の成長したら根っこが細長いですが、膨らんでいるものができるものはありませんか?」
「ん?Süßkartoffelズルスカルトッフェルのことかい?南の方で売られているのを今度仕入れようと思っているんだ」
「それですわ。そのSüßkartoffelさつまいもは、甘いのでお菓子にもなるのです。あちらは春に植えて秋に収穫です。お兄様、出来ればここで育ててみたいですわ。うまくいけばとても増えます。こちらも保存できます。お願いですわ。お兄様」
「はいはい。なんか急に料理人になっちゃった?」
「いつ飢饉が起きてもおかしくありませんし……戦いが起こってもおかしくないこの時ですわ。私たちだけでなく、領地の人々の命を全て守ると言うのは無茶ですけれど……一人の命を守れたら幸せだと思いませんか?」

 アストリットは呟く。

「私はお父様やお兄様、ディ様のように戦えませんが、その代わりここでできうる限り支援いたしますわ。
 この地域はあまり麦などが安定して採れませんし、狩をして、保存している肉も硬く辛く……春まで持たないこともありますわ。私は、それが心配ですの」
「アストリットは、本当によく出来た娘だね……」
「本当に……カシミールも賢い子だと思いますが、アストリットは優しい自慢の娘ですわ」

 両親は微笑む。
 そして、食べるために兄に小さく切ってもらっていたフィーが、kartoffelを食べて、

「お姉様。美味しいです。フィーもお姉様みたいにお勉強します!」
「あら、フィーちゃんはとってもお利口よ?あ、もしよかったらお母様とお散歩しましょうね?お部屋に飾るお花を探しましょう?」

 エリーザベトは提案する。



 最近妊娠したにしては少し太ったことを気にしていたエリーザベトは、娘に愚痴ると、

「お母様。ちょっといいですか?」

 アストリットは足首を指で押さえ、

「お母様、お母様のお身体は太ったのではなく、むくんでいるのですわ……お腹の赤ちゃんがいるからと、じっとしていては体がむくみが出て、体に溜まった疲れが出ていかないのです」
「どうすればいいの?」
「フィーちゃんも少しずつ元気になってますし、お散歩は如何です?少しずつ、ばあやたちと一緒に」
「あら、それはいいわね」

と提案したばかりである。
 まだあまり丈夫ではないが、熱も落ち着いたフィーに、まだ暖かい秋の庭や森を見せてあげたいと思ったらしい。

「お花ですか?」
「えぇ。こちらはまだ暖かいのよ。それに……何なのかしら、雪が降ってもすぐに溶けてしまうのよね」
「冬に解けるんですか?」
「えぇ。それに、このお城は暖かいのよ。だから中庭も雪は積もらないし、もう少し楽しめるのよ?冬になったら、お母様たちのお隣の部屋にフィーちゃんのお部屋を用意していますからね」
「もしかして、地熱……」

 ポツリとアストリットは呟き、

「お父様。ここの近くに、熱いお湯が地下から湧いているところとか、もしくは赤い燃えている土……は、ありますか?」
「うん?お湯が沸いているところ?」
「どうしたの?アスティ」
「お兄様。ご存知ですか?」
「俺が知ってる。伯父上……父上に許可をいただいて、領地を見て回ったんだ。その時に見つけた」

ディーデリヒが答える。

「そこは熱い湯が渾々と湧いていた。自分の手では触れないくらいだ。とても熱いし、臭いがひどい。危険だと思うぞ?」
「……あの……」

 アストリットは何度か躊躇い、

「すみません。少し下がらせてくださいませ」

頭を下げて食堂を出て行った。



 アストリットの中にいる瞬は、思いついたことを伝えるために、隠していた秘密を伝えることにしたのだった。

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