いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

29話

「おらぁ!!ガラット!何匹狩った!?」
「おおぉぉぉぉ!!今ので15匹目だ!お前は!?」
「おお!俺は11だ!」
「まだまだだな!トーザ!」
「へっ!すぐに追いつくからな!」
飛びかかってくる魔獣、時には自分から飛びかかって魔獣を仕留めていくトーザとガラット。
「アル、あの二人黙らせてよ」
「自分でやったらどうだ?タリオ」
「どっちでもいいからあの二人を止めてくれない?」
「「無理」」
奮闘する二人の後ろで黙々と魔獣を狩る俺達。
だがいい加減二人の大声に嫌気が差してきた。
「トーザ、ガラット、そろそろ別れて狩らない?」
「そうだな!この程度なら単騎でも問題なさそうだ!」
「おっしゃ!見とけよガラット!俺が一番多く狩ってくるからな!」
「あ!!待てトーザ!抜け駆けはずるいぞ!」
俺の案は発案と同時に採用され、二人はあっという間に街角に消えていった。
「じゃあ、そうなったから。アインも適当なところで切り上げて、また旅に出なよ」
「…そうね」
「はぁ…それじゃあタリオ、俺はもう少し静かな場所に移動するぞ」
「わかった、二人とも気を付けて」


「やっと捕まえ…おっと」
「キャピュウ!」
「危ない危ない、間違えて尻尾を掴んじゃったよ…っと」
「キュウ…」
すばしっこく逃げ回るラパンリザードの頭を掴み、うなじの部分にショートソードの柄を突きつける。
コリッという骨を破壊する音と断末魔が耳に届き、同時に命を奪う感触が手に伝わってくる。
「…。自切されずに済んでよかった」
短い祈りを捧げ、手早く獲物を布で包む。
「いくら小さい魔獣でも、ここまで数があると持ち運ぶ労力は大物と変わらないな」
背負ってきた背嚢に隙間を作らないように収納して、再び背負う。
俺ですら軽く20を超えているのだから、トーザとガラットはきっとものすごい量狩ってくるだろうな。
それにしても
「この辺には魔獣も人も見当たらないな…」
現在地は帝国の西門近く、ヤトイに踏み込む手前ぐらい。
帝国軍はヤトイへの嫌悪感から、ヤトイの人間は帝国軍との無駄な衝突を避けるために接触を避け合っているのでこのように人手が足りていないのだろう。
だがラパンリザードがいないことは説明出来ない、一体何が…
「ん?なにか音がする」
目の前の曲がり角の先から何か生き物の鳴き声のようなものが聞こえる。
左手に持っていたショートソードを鞘にしまい、建物の陰に隠れて曲がり角の向こうを慎重に覗く。
「これは…何人倒れてるんだ?」
そこには老若男女問わず、かなりの人数がうつ伏せになって倒れていた。
その人達は一様に不規則で苦しそうな呼吸をしており、道には毒々しい色をした液体が至る所にぶちまけられていた。
その凄惨な風景の奥、モゾモゾと動く物体を視界に捉えた。
「あれは…」
目を凝らして見てみると、そこには俺が今まで狩っていたラパンリザードよりも一回り大きな個体が一匹佇んでおり、盛んに周囲を警戒していた。
ラパンリザードがいないのはあいつがいるせいか。
「「パピルリザード」です…」
控えめに被せられた声の方に振り向くと、濡れた布を鼻と口に当てながら建物から這い出してきている少年がいた。
「急に話しかけてすみません…」
「…君は?」
「あ、えっと、シーマです。軍校生です、一応…」
軍校生…帝国軍学校生徒。
未来の帝国軍指揮官を育成するための場所に通っているのなら、パピルリザードへの対応を知っていてもおかしくはない。
パピルリザードはラパンリザードの変異種で、一回り大きい体躯と体内で弱神経毒を生み出せるのが特徴だ。
毒そのものの威力は低いが、長い時間あてられた場合蓄積量によっては命を落とす。
水には干渉できない毒なので、しっかりと濡れた布で鼻と口を塞いでいるシーマの行動は正しい。
「軽蔑しますよね…僕のこと」
先程よりもさらに控えめな声で言葉を発するシーマ。
「しないけど」
「え?」
「どうして?」
「それは…倒れている人達を助けに行かないから…」
「あの人達はシーマの指示でああなったの?」
「ち、違います!」
「うん、なら軽蔑なんてしないよ。軍校生に人命救助の義務はないでしょ?」
「そう…ですけど…」
「気になるの?」
「…」
黙って倒れている人達のことを見ているシーマ、その視線を辿ると数人の少年少女が手に布を握っているのがわかる。
「あの人達、僕のチームメイトなんです…」
「チーム?」
「学校の外で活動する時、僕達はチームで動くんです。メンバーはいつも同じで…注意したんですけど」
「そうなんだ」
シーマは気の弱そうな少年だ。
おおかた珍しい獲物に浮き足立ってしまい、シーマの注意を聞かずに突っ走った結果があれなんだな。
なんて、単なる想像だけど。
「人命救助の心得その一、危険排除。学校で教わりました…」
「自分の安全が一番大事だからね」
「僕一人ではパピルリザードを…危険を排除出来ないんです」
当然だ。
「パピルリザードを討伐するには実力と経験の両方が必要だと言われてるからね」
「そうなんです、だから」
「下手に手を出さずに助けを待つ、ってことか」
「はい…」
シーマのチームメイトを確実に救出するためにはそれがベスト。
だがそれだと毒の後遺症が残ってしまうかもしれない。
だからといって焦って行動しない、冷静なところはシーマの長所だろう。
でも少し教範に固執している、頭の硬いところは良くないかもしれない。
「パピルリザードを討伐しなくてもチームメイトを救出出来ると思うよ」
「え!?」
背嚢から1匹のラパンリザードを取り出し、それを包んでいた袋を割いて口を覆う。
あいにく水筒を持ってこなかったので、水の代わりに袋に染み付いた血で毒を防ぐ。
「あの…一体何を…」
めったに出会うことの無い変異種。
「パピルリザード、実物は初めて見るから…色々確かめないと」
右手に握ったラパンリザードに向かってナイフを突き立てた。

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