いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

18話

燃え盛る火球から飛び出した赤い機士は、空中を滑るようにして戦闘中の三機の機士に向かっていった。
「機士が空を飛んでいる?翼も無いのにどうやって…」
この世で空を飛べる生き物は少ない。
翼を持つ上位の天使と悪魔は、魔法で風を操り翼でそれを受け止めて飛ぶ。
野生の生き物だと鳥と昆虫だけだ。
空を飛ぶ魔獣は未だ発見されていない。
そのため、魔獣は大きすぎて空を飛ぶことが出来ず、空を飛ぶことが出来る大きさの限界は天使や悪魔までだろう、と言われて覆らなかった。
その枠にアングラーターが追加された以外は。
なのに。
「なぜ?」
帝国の研究所で開発されたという話は聞いていない。
そもそも空を飛ぶ魔獣は存在しないのだから、魔獣討伐の為に存在する機士が空を飛ぶ必要はない。
…分からない
「だめだ、メリットから逆算しよう」
飛べることのメリットと言えば、まず第一に地形の影響を受けずに移動することが出来ることか。
魔獣の生息する土地のほとんどは未開の地だから、その影響を受けずに済むのはいい事である。
第二に…だ、第二に…
「…これだけ?」
アングラーターが開発されたのも、空中を移動することで人や物の流れをスムーズにするためだった。
「それならデメリットは…」
一つ、機士の巨体を浮かすために使うエネルギーは凄まじくなること。
おそらく研究所が稼働できるほどのエネルギーをごっそり使うだろう。
二つ、そのエネルギーがもし魔力なら搭乗者に多大な負担がかかること。
機士を操縦する為には搭乗者の魔力が必要不可欠で、手足を動かすのでさえ難しいというのに飛ぼうと言うのなら尚更だ。
三つ、それらを克服したとして空中の姿勢制御の難しさと危険性。
飛行中に魔力切れを起こした場合、そこから地面に叩きつけられることになりいくら機士と言えど耐えられないだろう。
四つ、飛べたとしても魔獣を攻撃する為に結局地面に降りること。
機士用の遠距離武器はまだ開発されておらず、結局は近接戦闘になってしまう。
「割に…合わない…」
機士が飛べたところでマイナスしかないじゃないか。
その考えは間違いではないらしく、空中から三機の機士に近づいた赤い機士は結局地に降りて戦っていた。
そして、機士の動きもかなり悪い。
「…くだらない」
飛べることでどんな可能性が生まれるのかと思えば、その機能に足を引っ張られるとは。
「考えた人は研究者失格だな」
いよいよ赤い機士が囲まれて身動きが取れなくなったことで、この勝負も俺の考察時間も終わりを迎える。
あの赤い機士を操縦するのは、アインだろう。
彼女はなぜ機士を持っていたのか。
そんな問いに対する答えを一生得ることができないのは少しだけ心残りだけど、この呆気ない別れに思うことは何も無い。
ゴオォォォォォォ!!!!
「うわっ、砂埃?」
突然響いた機械音と強風、それに乗せられた砂埃が立ち込めて、壁の上に居るにも関わらずに視界が奪われる。
そんな最悪な視界の中で赤い残像を残して一機の機士が見たことのない速さで飛んでいく。
さっき飛んでいた時とは段違いのスピード。
あれは
「すごい…!」
今の速さは、おそらく世界で最速だろう。
あの巨体をあの速度で飛ばすことの出来る技術なら
「欲しいな」
アインの赤い機士は西の空に飛んでいった。
おそらくあそこに向かったのだろう。
「ゲホッゲホッ!なんだこの砂煙は!おいそこの君!これは一体何があったんだ!?」
「分かりません。階段に向かおうと振り向いているあいだにこうなっていました」
「き、君はフィア隊長の…!そうか、わかった」
「それじゃあ、俺はこれで」
「ああ、砂埃で視界が悪いから気をつけて降りてくれ」
会話を終えて壁の淵にかけていく兵士達とすれ違い、階段に向かう。
「急がなくちゃ、これだけ砂埃が舞ってれば誰にも見られないだろう」
両足に履いている自作のブーツを操作して、壁の上から一気に飛び降りた。


「…なんで」
「銅像のある広場なんてここしか無いから、すぐ分かったよ」
「そうじゃない」
丸い広場の真ん中に二つの銅像が置かれていて、床は形の揃えられた石が規則的に埋め込まれている。
広場の周りにはほとんど木材になり果てた廃墟がいくつも残っていた。
広場の直径は20メートル程、そして俺と彼女の距離も同じ。
「何しに、来たの?」
完全に警戒されてるのは最初に会った時と同じ。
それ以外は
「あなたとは理解し合えない、二度と関わらないで」
どうやら嫌悪と憤怒らしい。
「理解はしなくてもいいよ、でも関わらない訳には行かない」
「…」
「分かってるよね?君の機士が見たいんだ」
おそらく歯を食いしばったのだろう彼女の口の端からは少しの血が流れていた。
「それで?その後この子を帝国に差し出すつもり?」
「まさか」
俺が即答したために少し安堵したのか表情から険しさが薄れる。
それもつかの間
「俺の気が済むまで弄りたいだけだよ」
続く俺の言葉に、一層深いシワを眉間に刻む。
「…ダメに決まってるでしょ。この子は家族、一緒に家に帰るんだから邪魔しないで」
「でも、帰れないよね?」
「っ!」
「今どこにいるのかは分からないけど、あの機士はもう動けない、でしょ?俺が修理するよ」
「もうあなたを…信じられるわけない」
「元から俺自身の事は信用してない癖に。でも俺の腕は信用できるよね」
「…」
「どうかな」
やり取りの間も彼女の瞳は俺を睨み続けた。
少しの時間、遠くに聞こえる人々の喧騒だけが小さく耳に届き、目線の合う俺と彼女だけの世界が広がっているように錯覚する。
「修理するのは私が見ている間だけ」
「それで構わないよ」
沈黙を破った彼女が出した条件にすかさず同意する。
俺を信用できない彼女と
彼女を見ていない俺との
つかの間の歪んだ二人三脚が始まった。

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