いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

14話

「じゃあ早速作り始めようか」
「うん!」
「はい!」
「はーい」
「おう!」
「トーザはキッチンには入らないで、配膳だけしてて」
「お、おう…」
俺とテノ、ロン、イストはそれぞれエプロンを身につけて手を洗い、夕食作りの準備を始めた。
つまみ食い常習犯のトーザはちゃんと厨房から追い出す。
「私達はテーブル周りの片付けをしましょう」
「りょ〜か〜い」
「は〜い」
「アインさんは出入口の近くに座ってて、他の子供たちが来たら私に教えてください」
「え、私も手伝うわ」
「あら、子供の誘導って大変な仕事をほっぽり出してしまうの?」
「う…」
「それじゃあよろしくね♪」
食堂の方はセルノアがまとめていて、マイネとロロム、アインにテキパキと指示を出している。
「セルノア、今日は何人分作ればいいの?」
「え〜っと、タリオとアイン、ロロムに私にトーザにテノ、仲良し三人組の分とお兄ちゃんとアルの分も、それから帰ってくる子達が七人だから…」
「十八人分ね」
「わたくしにも!ぜひ作ってくだされ!」
「あら、忘れてたわ。ごめんねグラヴェルさん」
俺も忘れてた。
帰り道、肉屋で出会った三人組のことがよっぽど気に入らなかったらしくずっと罵っていた。
貴族としての誇りを履き違えている!あれではただの傲慢で不遜なだけだ!と。
そしてそのまま屋敷までついてきてしまったのだ。
「どうぞお気になさらずに、気配が薄いのは良い執事の証でございますから」
「それより帰らないの?」
「坊っちゃまの手作り料理を堪能した後、帰らせていただきます。使用人たちも優秀ですからわたくしがいなくても問題ありません」
「ほんとに?」
「グレゴール家の皆様はとても大きな器をお持ちです。まさに貴族にふさわしき方々、これしきのことではお怒りにはなられません」
グレゴール家。
代々有力な帝国兵士を排出する歴史ある貴族家だ。
父さんと母さんが生きていた頃には家族ぐるみで深い交流があり、よくお互いの屋敷に出向いたものだった。
両親が死んで働き手を失ったうちの屋敷の使用人を多く雇いあげてくれた恩人でもある。
一度だけそのことに対して正式にお礼を言うために姉さんと一緒に屋敷に行ったことがあったなぁ…
「ですので坊っちゃまも、また遊びに来るようにと旦那様のみにならず奥様やラキ様も毎日のように仰っています。なのでどうか…」
「そういう話は姉さんとしてよ。とりあえずグラヴェルさんの分も作るから」
「…よろしくお願い致します」
全く…一体どっちに対する言葉なんだか。
「うん」
あの家の人達には感謝してるし尊敬もしてる。
でも、俺は両親の思い出話をするためにわざわざ出向くなんてしたくなかった。


「タリオ!付け合せのサラダの味付けはどうする?」
「そうだなぁ、ステーキソースはさっぱり目だからガーリックを摩り下ろして濃いめのドレッシングと混ぜる味付けはどうかな?」
「え!?ガーリック!?やめてよ!口臭くなるじゃない!」
「え?夕食だし別にいいでしょ?」
「いや!!」
「タリオ…止めておこ、ね?」
少し寂しそうな目をしたロンが俺の肩に手を乗せている。
「ん〜、じゃあロンはどうしたい?」
「ガーリックさえ抜いちゃえばドレッシングの選出はいいと思うよ」
「そっか、テノ、サラダにはガラのドレッシングで」
「わかった!」
意見を交わしながらもどんどんと料理が完成していき、食堂にはいい匂いが漂っている。
「ただいま〜!お!いい匂いだな!」
「そだね」
「あ!」
玄関から聞こえる声にセルノアが真っ先に反応し、食堂から出て行く。
「帰ってきましたね」
「もうそんな時間か、これからどんどん帰ってくるな」
「でもなんとか間に合いそうで良かったです」
「良くないわよ!あのうるさいチビ達が帰ってくる前に終わらせるわよ!」
イストが一人意気込んでまな板に向かう。
「イストはどうしたんだろ?」
「実は…」
どうやらロンとイストの二人は夜中にこっそり料理の練習をしていたらしい。
俺とアインを除いて今日買い出しに行ったメンバーとガラットとアルには流石にバレていたらしいが、他の子供に知られるのは恥ずかしいらしい。
「そっか」
「?タリオ?」
よしよし
「!?」
「頑張って終らせよう」
「と、当然よ!!///」
「はぁ、天然かなぁ」
少し気合を入れて残りのステーキを焼き上げる。
「タリオ!帰ってたのか!どうりでセルノアやみんなが浮き足立ってると思ったぜ!」
「お、お兄ちゃん!?」
「やめてやれよな…」
「あん?何を?」
「もう!!」
「エグ…」
「おかえりガラット、アル。久しぶり」
食堂に入ってきた三人はよく目にするセットだ。
裏表のない性格で少々ガサツなガラットとそれに振り回される妹のセルノア、そしていつも物静かにそんな二人を観察しつつ毒を吐くアル。
「おう!久しぶり」
「ほんと、タリオの作ったものなんて久々に食べるな」
「といっても作ったのはソースだけなんだ」
「そうか!そりゃ楽しみだな!アル!」
「まあ、そうだね」
「ありがとう、それじゃあ帰ってきて早々で悪いけど準備を手伝ってもらえないかな」
「任せろ!ぐえっ!」
元気な返事とともに泥だらけの両手で皿を掴もうとするガラットの襟をアルとセルノアが引っ張って止める。
「まずは」
「手を洗ってきて!お兄ちゃん!」
「おお!そうだったな!」
「…二人ともありがとう」
「「どういたしまして」!」
これが無ければガラットに言うことはないんだよなぁ…

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