いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

12話

「おお!やはりフィア隊長の弟ではないか!」
「彼がそうなのか?」
「確かに髪の色は似ているな」
どんないちゃもんを付けられるのかと身構えていたが肩透かしを食らってしまった。
とりあえず無難に
「こんにちは」
「ああ」
挨拶を交わす。
「皆さんはここで一体何を?」
この三人組の態度はいかにも貴族っぽい。
実際、元貴族の俺以外の子供はまるで眼中に無いようだし。
そんな人達が庶民の集う商店街になんの用があるのだろうか。
「うむ。我々は第三兵種第二部隊に所属しているのだが、普段は壁の外での魔獣討伐を任されている」
第三兵種。帝国軍の新参者だが、実力は既にトップ。
機士に乗って戦う彼らは生身の人間が苦労して倒す魔獣を圧倒出来てしまう。それなら第一、第二兵種の兵士達は一体何をしているかというと、第三兵種が討伐した魔獣の解体を第一兵種が、機士や魔獣、魔法の研究を第二兵種が請け負っている。
「今朝も大物のべッグを見つけたのでこの私が単騎で立ち向かい、圧倒していたのだが。思わぬ邪魔が入ってね」
どうやら最初に俺に気づいたリーダー格の兵士が謎の敵からの襲撃を受けた張本人らしい。
「追い払うことは出来たのだが、べッグとの戦闘でだいぶ消耗していたらしく気絶してしまったのだ。まったく情けない」
「いえ、治療を受けた兵士がもう職務に戻っているなんて驚きました」
「まあ、訓練の賜物だな」
「弟君はここに何の用なんだ?」
自慢げに胸をはるリーダー格の男を押しのけて爽やかそうな雰囲気の青年が話しかけてくる。
「今晩のメインになる肉を買いに」
「それは運がいい!」
三人組が一気に盛り上がり俺の肩や背中をバシバシ叩く。
「というと?」
「今出回っているべッグの肉は先程解体が終わったばかりでね、鮮度は保証するよ!」
「なにせ今日は魔獣討伐が達成出来なかったからな!代わりに解体の方を手伝ったのだ!」
「たまには肉を断ち切る感触を直接味わうのもいいものだ!」
「おいおい、子供の前だぞ?」
「これは失礼!少々刺激が強かったかな?」
さっきまで解体作業をこなしていたせいか、随分とテンションが上がっているみたいだ。
「たくましいですね」
「いやいや、君も将来フィア隊長のような立派な兵士にきっとなれるさ!」
「ありがとうございます」
「うむうむ!そういえばそのフィア隊長は一体…」
「姉さんはしばらく事務仕事が続くようです。ですが、これだけの大事ですし、もう既に聞き知っていると思いますよ」
「そうか!」
まあ、あなた達が帝国軍の英雄である機士を操り謎の敵に敗北。さらに気絶させられ、市民の生活を支える魔獣討伐も完遂できなかったという失態のオンパレードの報告だから、姉さんへのアピールになるどころか悪い覚えられ方するだろうけど。
満面の笑みで何度も頷く三人組に心の中で冷笑を浮かべる。
「それでは俺はそろそろ…」
「ああ、待ちたまえ。せっかく知り合えたのだから君にこれを、おい店主!」
そろそろ頭が痛くなってきたから切り上げたいのにまだ何かあるのか。
「えっ…?」
「さっき解体したべッグの肉だ!今日一番の大物だぞ!」
肉屋の店主が猛スピードで店の奥に走っていったと思ったら
「一体何キロあるんです?」
「わからん!だが全部君のものだ!」
ドンッ!!
という音がなりそうなほどの肉の塊がアングラーターに乗せられて運ばれてくる。
「あ、ありがとうございます…」
「気にする事はない、またいずれな!」
高笑いして去っていく三人組を見送り、残された俺達はただただ肉塊を見つめるしかなかった。

「迷惑かけたな青髪の」
「えっと、これをさっきの人達が解体したの?」
「…そうだ」
ため息しか出ない。
普段生身で剣を振ったりしないとはいえこれは…
「下手」
「言うなって…」
血抜きは甘いし筋はところどころ引きちぎれているしでとてもべッグの肉には見えない。
「あいつら貴族だからよ、おだててたら調子乗っちまってな」
だからって…
この肉塊だってまだまだコンパクトに切り分けられるはずだ。このままだったらエルちゃんがすっぽり入ってしまえそうな大きさだ…あ。
「俺が切り分け直してもいいかな?」
「もちろんだ!包丁は厨房のを使うんだろ?」
「うん、この後トムさんのところに行くしおすそ分けしたいから。おすそ分けの分とと俺たちの分だけあればいいから、残りは売ってもらえると助かるかな」
「わかってるねぇ!」
店主と話をまとめて肉塊を厨房に運び直してもらう。
頭のゴーグルをピンの代わりにして前髪を上げる。
「メニューはみんなで決めちゃっていいよ、出来る限りリクエストには答えるから。あ、ちゃんとべッグ料理にしてね?」
「お!もしかしてタリオが作ってくれんのか!」
「まあ、たまにはね」
「いよっしゃあ!!」
「ちゃんと手伝ってね?じゃないと食べさせないよ」
「わ〜かってるって!」
ほんとかな。
トーザはいつもつまみ食いしかしないんだよなぁ。
「タリオ!俺も手伝う!」
「僕も手伝います!毎日練習してますから、ね?イスト」
「ま、まあね…」
テノもロンも頼もしい。
イストは少し不安だけど。
「ありがとね」
「えへへ///」
「どういたしまして!」
「…ふん」
「タリオ!俺は!?」
「それじゃあちょっと行ってくるね」
「「行ってらっしゃい!」」
「タリオぉぉぉ!?」
「ちょっとトーザ!うるさいわよ!」
「うぅ…タリオもイストも酷いな…」

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