いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

5話

「…それって結構失礼じゃない?」
出会ってからまだ一日と経っていないうちに俺は彼女から鈍感で残酷とまで言われてしまった。鈍感ならまだ彼女はそう感じたんだと割り切れるけど、残酷は無いだろう?そんな一面見せたつもりもないし、そもそも違うし。
「…確かに唐突だった、ごめんなさい」
彼女は座ったままだが深く頭を下げて全く動こうとしなかった。
「そこまでしなくていいよ」
「知っている人に似ていたからつい言葉にしてしまった」
鈍感で残忍な知り合いって…かかわらない方がいいんじゃないか?
「まぁ、感じ方は人それぞれだし」
「それはそうだけど…」
さて、あんまりこの話題を引きずってもしょうがないし先を促そう。
「それでほかに質問は?」
その言葉を聞くと彼女ははっと我に返ってすぐに居住まいを直し、質問を投げかけてくる。
「機士を見たことは?」
「…もちろん」
若干の憎悪を含んだ俺の声に彼女はあまり反応しなかった。気が付かなかったのかもしれないな。
「実際に機士に触ったり修理したことは?」
彼女の言う機士とはアングラーターの他に歴史に名を残した唯一の発明のことだ。用途は主に魔獣討伐。全長約20メートルのその人型の鋼鉄の騎士は胸部に帝国軍人ひとりを乗せ、その身を守る鎧にも、その者の戦闘力を何倍にも引き上げる最強の剣にもなる。
機士が実戦投入されたのは8年前。普段よりも凶暴になった魔獣の群れが、謎の強力な魔獣一頭に統率されて帝国を襲った時だった。その群れの前に生身の帝国軍はことごとく敗れさり、ついには全壊させられてしまった。その時に数体の機士が現れ魔獣をすべて討ち取ってしまったのだ。最初の実戦投入で有用性を示し、多くの名声を欲しいままにしたその機士達は英雄と呼ばれ、その生みの親である帝国の研究所員アルトレー・フォン・ブライトは、新しく出来た『機士団』の団長となった。
今では最も人気の高い帝国軍のエースになった。だが…
「どうかした?」
彼女の問いかけに、今度は俺がはっとさせられる番だった。
「何でもない…質問に答えるよ。触ったことはある。機士の知識に抜けは無いと言いきれるけど修理したことはまだないな」
思考によって詰まっていた息を吐き出して言葉を並べる。彼女は特に俺の変化に気づいた様子はなかった。
「そうなの…」
「どうしてこんなことを聞いたの?」
態度にはあまり現れてはいないが確実に落胆している。そもそも機士の修理なんて帝国軍に所属していないと不可能だ。他の工房の人達はそもそも触れる機会もないだろう、そう考えると俺は運がいい方だ。
「今日他の工房にも訪れたけれど、その中でも君が一番腕が良かった」
さらっと嬉しいことを言ってくれた。しょうがないから代金はちょっとおまけしてあげようか。
「その君でも経験が無いとは思わなくて…」
「それはそうだよ、機士の修理なんて俺らみたいのには一生まわってこないから」
「…え?」
彼女はかなり間の抜けた顔をしたが本人は気づいていないらしい。
「機士の修理は軍が管理した技術者しかやっちゃいけないからね」
「そ、そうなの?その人達は君より腕が立つのね」
「修理の腕はそれほど変わらない。たまに大きな仕事のある彼らより、下手したら普段から修理を請け負ってる俺たちの方が上だよ。違うのは肩書き、資格だけでほんとにすごい軍の技術者はほんの数人だけさ」
「な、なにそれ…」
彼女は拍子抜けといった感じでうなだれてしまった。
「だから俺たちはその資格がないからと見下されるのが嫌いでね、腕に自信のある他の工房の人達も機士の修理をやったことがないと認めるのは屈辱なんだ」
「…謝らないと」
そう言う彼女はとても疲れた様子だった。
「なんで?」
「他の工房でもさっきの質問を…」
つい顔が引きつってしまうのを感じる。それは随分とプライドを傷つけてしまったのでは?と。
「おかしいと思った…その質問を境に態度が一変したから、仕事の話しは無かったことにして逃げてきた」
そりゃあこんな愛嬌のある少女がむさくるしい工房に訪ねてきた上に仕事の依頼をしたいなんて喜びの絶頂だろう、それが急に仕事を無しにされてどん底まで突き落とされたとなったら…
「知らなかったとはいえ、君も結構残酷だね」
「うぅ…///」
まあちゃんと謝れば許してくれるようないい人達ばかりだし平気だろう。それはそうと、やっぱり照れた顔は年相応に可愛いな。

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