特殊科学研究事務所-muzina-
第10話 力の差
二人は互いに睨み合い動かない。
けれとも唯にはさっきまでの余裕が見えない。
朱の闘志。おじさんそんなかっこいい名前で呼ばれていたのか。
突如唯が両手を前に掲げ、反転させる。
『「枕返しっ!」』
おじさんは再び空へ落ちて行くが、さっきとスピードが全く違う。とんでもない速さだ。
枕返しは対象に絶対当るのだろうか。
まあおじさんが避けられないんだから俺では絶対に無理だろうけど。
しかしおじさんは何故か冷静で、いつの間にか持っている大量の小豆を下へ撒き散らした。
『「ハァハァ 流石のおっさんでも全力の枕返しからは逃れられないよ。さっきの十倍の重力反転だからね」』
余程力を出したのか息が上がっている。
おじさんは小豆洗いと一体化しているため、今度は唯に攻撃してさっきの様に止めることはできない。例え出来たとしても、流石に二度も同じ手はくわないだろう。
『「…………!」』
おじさんがなにか叫んでいるが、もはや聞こえる距離では無い。
おじさんはそのまま空へ吸い込まれて行った。
おじさんが完全に消えるのを見届け、唯はため息をついた。
『「ふぅ 仕事終わり! 今頃おっさんは大気圏かな? まあどこにいても、もう戻ってこれないよ。 あれ。君まだいたんだ。なんか喋られたら厄介だからついでに殺すけどいいよね」』
元の余裕を取り戻した唯が俺に近づいてくる。
おじさんが本当に大気圏にいるとするともう生きるすべはない。俺も覚悟を決めるしかないのか?
気が付くと目の前に唯がいた。
『「まだあんなおっさんが生きてると思ってるの? 強かったとしても昔の話。所詮今は衰えてるから僕に勝てるわけがないんだよ」』
『……私達も憑依しましょう。せめて……逃げるくらいは』
「俺らのスピードなら逃げられはするかもな。けど今は逃げる気分じゃない」
俺はおじさんを置いては帰れなかった。
『さようならぁ』
唯が氷のような声で言い、両手を前に掲げる。
その瞬間、
『「誰が衰えてるって?」』
唯がはっと振り向く。
そこにはまるで何事も無かったかの様におじさんが腕組をして立っていた。
『「うそだろ!? 枕返しは地球上では解除出来ないはずだぞ!」』
『「だろうな。成層圏辺りで重力が弱まってきたからな」』
『「だとしても何でここにいる! 宇宙からここに戻ってくるなんて不可能だぞ!?」』
唯が少しパニックになっている。
そりゃそうだ。常識的に考えて宇宙から戻ってくることなど出来ない。
『「意外と息止めときゃいけるもんだな! ガッハッハッ」』
『「なめるなっ!」』
もうヤケになった唯が瞬間的におじさんの背後に移動した。おじさんが振り向くのと同時にまた背後に移動する。
俺は横から見ているから分かるが、おじさんの視点から見たら、唯は確実に見えない。
『「驚いたでしょ? 枕返しの応用で“枕鳶”って言うんだよ。この速さにはついてこられないでしょ?」』
圧倒的な速さの唯。
しかしなぜかおじさんはガッカリした様子で項垂れている。
次の瞬間、おじさんは唯の背後にいた。
『「能力ダダかぶりじゃねーか!」』
『「は?」』
『「俺の能力は小豆のある所に瞬間的に移動出来るやつなんだよ!思いっきりかぶってるじゃねーか」』
おじさんは枕返しをくらった時、宇宙まで行って重力が消えた後に、落としておいた小豆に移動したってことか。それなら辻褄が合う。
『「一緒にするな! 僕の能力の方が強い! そんな能力は所詮は僕の下位互換だろっ」』
唯は枕鳶で消えては現れたりしながらおじさんに近づいて行く。
『「自分を過信しすぎるのはよくねーぜ」』
おじさんは小豆を親指にのせ、弾く。
弾かれた小豆は凄まじい勢いで唯の額にあたる。
『「痛っ」』
いつの間にか唯の目の前にいるおじさんは、唯のみぞおちを数回殴った。
一発一発が重く、耐えきれなかった唯は崩れ落ちる。
『「確かにお前の能力は俺のより優秀だ。けどな、こっちはお前がこの世にいない頃から戦場で戦ってたんだよ! 能力が強くても俺の熟練度がお前の上をいったってわけだ!」』
唯は倒れ込み、戦意を喪失している。
荒い息が聞こえることから気絶してはいないようだ。
『「あれ? ちっとやりすぎたか? まあいいか。それより、こいつを殺人犯として警察へ突き出さねぇとな」』
おじさんは唯を持ち上げようとしたが、何かに気づいた様にいきなり後ろに跳んだ。
直後、次元の歪みができ、中から二人の男が出てきた。
一人は黒のスーツを着こなしており、もう一人は教祖の様な身なりをしていて他とは別格の雰囲気を醸し出している。
おじさんは急に真剣な顔つきになり、教祖風の男と殺気をぶつけ合っている。
凄まじい圧迫感で立っているだけなのに足が震えてくる。
「まさかその姿を見られるとは思っていませんでしたよ」
『「神崎。てめぇ今更なにしにきた?」』
「唯君を回収しに来たのです」
そう言って神崎と呼ばれた男は唯を持ち上げ、肩に担いだ。見かけによらず、力があるようだ。
『「おい。そいつは俺が警察へ突き出そうとしてるんだか?」』
「また会える日を楽しみにしていますよ」
おじさんの言葉を無視して神崎とスーツの男は次元の歪みに入って行く。
同時に次元が元に戻り始める。
おじさんは小豆を連続で弾いたが、神崎は未来でも見えるかのように全て躱した。
神崎は邪悪な笑みを浮かべ、次元の狭間へ消えた。
俺はその場に倒れ込む。
極度の緊張が緩んで安心したからなのか、足でうまく立つことが出来ない。
『「情ねぇな。そんなんじゃまだまだ戦えねぇな! ガッハッハッ」』
いつもの雰囲気に戻ったおじさんはいつもの様に豪快に笑った。
おじさんを超えてみせると思わなかったわけではないが、今のを見てしまっては何も言えない。
「また……きます」
取り敢えず家に帰ってゆっくりしたい。
『「もうそんな時間か。じゃあな! 気をつけて帰れよ! あっこれ持ち帰りのおはぎだ」』
持ち帰りをすっかり忘れていたが有難く受け取りお金を払って店を出た。
俺はムジナに支えられながらフラフラと家へ帰った。
けれとも唯にはさっきまでの余裕が見えない。
朱の闘志。おじさんそんなかっこいい名前で呼ばれていたのか。
突如唯が両手を前に掲げ、反転させる。
『「枕返しっ!」』
おじさんは再び空へ落ちて行くが、さっきとスピードが全く違う。とんでもない速さだ。
枕返しは対象に絶対当るのだろうか。
まあおじさんが避けられないんだから俺では絶対に無理だろうけど。
しかしおじさんは何故か冷静で、いつの間にか持っている大量の小豆を下へ撒き散らした。
『「ハァハァ 流石のおっさんでも全力の枕返しからは逃れられないよ。さっきの十倍の重力反転だからね」』
余程力を出したのか息が上がっている。
おじさんは小豆洗いと一体化しているため、今度は唯に攻撃してさっきの様に止めることはできない。例え出来たとしても、流石に二度も同じ手はくわないだろう。
『「…………!」』
おじさんがなにか叫んでいるが、もはや聞こえる距離では無い。
おじさんはそのまま空へ吸い込まれて行った。
おじさんが完全に消えるのを見届け、唯はため息をついた。
『「ふぅ 仕事終わり! 今頃おっさんは大気圏かな? まあどこにいても、もう戻ってこれないよ。 あれ。君まだいたんだ。なんか喋られたら厄介だからついでに殺すけどいいよね」』
元の余裕を取り戻した唯が俺に近づいてくる。
おじさんが本当に大気圏にいるとするともう生きるすべはない。俺も覚悟を決めるしかないのか?
気が付くと目の前に唯がいた。
『「まだあんなおっさんが生きてると思ってるの? 強かったとしても昔の話。所詮今は衰えてるから僕に勝てるわけがないんだよ」』
『……私達も憑依しましょう。せめて……逃げるくらいは』
「俺らのスピードなら逃げられはするかもな。けど今は逃げる気分じゃない」
俺はおじさんを置いては帰れなかった。
『さようならぁ』
唯が氷のような声で言い、両手を前に掲げる。
その瞬間、
『「誰が衰えてるって?」』
唯がはっと振り向く。
そこにはまるで何事も無かったかの様におじさんが腕組をして立っていた。
『「うそだろ!? 枕返しは地球上では解除出来ないはずだぞ!」』
『「だろうな。成層圏辺りで重力が弱まってきたからな」』
『「だとしても何でここにいる! 宇宙からここに戻ってくるなんて不可能だぞ!?」』
唯が少しパニックになっている。
そりゃそうだ。常識的に考えて宇宙から戻ってくることなど出来ない。
『「意外と息止めときゃいけるもんだな! ガッハッハッ」』
『「なめるなっ!」』
もうヤケになった唯が瞬間的におじさんの背後に移動した。おじさんが振り向くのと同時にまた背後に移動する。
俺は横から見ているから分かるが、おじさんの視点から見たら、唯は確実に見えない。
『「驚いたでしょ? 枕返しの応用で“枕鳶”って言うんだよ。この速さにはついてこられないでしょ?」』
圧倒的な速さの唯。
しかしなぜかおじさんはガッカリした様子で項垂れている。
次の瞬間、おじさんは唯の背後にいた。
『「能力ダダかぶりじゃねーか!」』
『「は?」』
『「俺の能力は小豆のある所に瞬間的に移動出来るやつなんだよ!思いっきりかぶってるじゃねーか」』
おじさんは枕返しをくらった時、宇宙まで行って重力が消えた後に、落としておいた小豆に移動したってことか。それなら辻褄が合う。
『「一緒にするな! 僕の能力の方が強い! そんな能力は所詮は僕の下位互換だろっ」』
唯は枕鳶で消えては現れたりしながらおじさんに近づいて行く。
『「自分を過信しすぎるのはよくねーぜ」』
おじさんは小豆を親指にのせ、弾く。
弾かれた小豆は凄まじい勢いで唯の額にあたる。
『「痛っ」』
いつの間にか唯の目の前にいるおじさんは、唯のみぞおちを数回殴った。
一発一発が重く、耐えきれなかった唯は崩れ落ちる。
『「確かにお前の能力は俺のより優秀だ。けどな、こっちはお前がこの世にいない頃から戦場で戦ってたんだよ! 能力が強くても俺の熟練度がお前の上をいったってわけだ!」』
唯は倒れ込み、戦意を喪失している。
荒い息が聞こえることから気絶してはいないようだ。
『「あれ? ちっとやりすぎたか? まあいいか。それより、こいつを殺人犯として警察へ突き出さねぇとな」』
おじさんは唯を持ち上げようとしたが、何かに気づいた様にいきなり後ろに跳んだ。
直後、次元の歪みができ、中から二人の男が出てきた。
一人は黒のスーツを着こなしており、もう一人は教祖の様な身なりをしていて他とは別格の雰囲気を醸し出している。
おじさんは急に真剣な顔つきになり、教祖風の男と殺気をぶつけ合っている。
凄まじい圧迫感で立っているだけなのに足が震えてくる。
「まさかその姿を見られるとは思っていませんでしたよ」
『「神崎。てめぇ今更なにしにきた?」』
「唯君を回収しに来たのです」
そう言って神崎と呼ばれた男は唯を持ち上げ、肩に担いだ。見かけによらず、力があるようだ。
『「おい。そいつは俺が警察へ突き出そうとしてるんだか?」』
「また会える日を楽しみにしていますよ」
おじさんの言葉を無視して神崎とスーツの男は次元の歪みに入って行く。
同時に次元が元に戻り始める。
おじさんは小豆を連続で弾いたが、神崎は未来でも見えるかのように全て躱した。
神崎は邪悪な笑みを浮かべ、次元の狭間へ消えた。
俺はその場に倒れ込む。
極度の緊張が緩んで安心したからなのか、足でうまく立つことが出来ない。
『「情ねぇな。そんなんじゃまだまだ戦えねぇな! ガッハッハッ」』
いつもの雰囲気に戻ったおじさんはいつもの様に豪快に笑った。
おじさんを超えてみせると思わなかったわけではないが、今のを見てしまっては何も言えない。
「また……きます」
取り敢えず家に帰ってゆっくりしたい。
『「もうそんな時間か。じゃあな! 気をつけて帰れよ! あっこれ持ち帰りのおはぎだ」』
持ち帰りをすっかり忘れていたが有難く受け取りお金を払って店を出た。
俺はムジナに支えられながらフラフラと家へ帰った。
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