記憶探偵はミルクパズルの謎を紐解くか?

巫夏希

第二十一話 顛末


 私は事の顛末をWWW部の部長と、その妹に話した。

「……と、いうわけだ。一応確認しておくが、心当たりはないか?」
「心当たり、というのは」
「言った通りだ。BMI端子を介して、何らかのプログラムを使われた履歴」
「そんなこと、有り得ない。だって記憶は……」
「記憶は絶対。嘘は吐かない。そう思っているなら、それは古い歴史だ。記憶は朧気で、嘘を吐く。人間の脳が会ったことのない人間を、あたかも会ったことがあるかのように振る舞うことだって認識することもある。つまりはそういうことだ。人間の脳は完璧には出来ちゃいない。あくまでも……不完全だ。そう認識しておいたほうがいい」

 不完全。
 はっきりと言ってみたものの、実際はそんな簡単な結論に辿り着けられる程のものではない。
 そう。実際はもっと小難しい話題になってしまうのが常だ。もし医学の知識を少しでも囓っているなら――記憶の改竄なんて、簡単にできやしないし、それが出来る人間はこんあ私立探偵(自称するつもりはないが、私立ですら無い)に任せておくことなんて出来ない。それこそ警察に一任しておくべきだが。

「……とはいえ、警察は使えないしな。強いて言えば、足に使うくらいか」
「……何か言いましたか?」

 いや、何も。と私は言った。
 とにかく不安だけは解消させておかねばなるまい。それについてはこの二人には無関係だ。いや、正確には無関係とは言いがたい。何せ彼女には『爆弾』が埋まっていたのだから。その爆弾は解除してしまって――正確に言えば犯人とともに消え去ってしまったわけだけれど。

「取敢えず……妹は無事なのか?」

 WWW部の部長が尚も私に質問する。五月蠅いな、大丈夫だと言っただろう。
 でもやっぱり言葉にして聞かないと納得しないのだろう。……あれほど落ち込んでいる様子に見えた彼女の表情を見ても、未だ分からないと言うのであれば。

「大丈夫だよ。彼女の記憶の海にあった『腫瘍』は完全に取り除いた。正確に言えば、腫瘍というよりは不要なデータ……バグの一種だ。それによって、彼女は記憶に障害を負って、性格をも変えてしまっていた……ということだよ。ま、それも取り除いたし、次第に戻っていくと思う。それはあんたが決めることだ。どうだい? 様子は」

 宮地希未は、それを聞くとただゆっくりと、しかしはっきりと頷いた。
 ほら、結果はもう出ていることだ。あとは周りが理解するか、否か。それでも理解できないというならあとは専門の病院にでも行くことだね。

「ありがとう。君たちのお陰だ。お礼に、昨日言っていた……ホームページの件はこちらで何とかしよう。一週間もあれば出来ると思うが、それで問題ないか?」

 ああ、そうだった。そういえばそんな形のお礼にしていたんだっけ。

「ああ、特に問題ないよ。メールフォームも作っておいてくれ。メールは私の学校ドメインのメールに届くように設定しておいてくれよ」
「はいはい。随分と注文の多い依頼人だな。……とは言えないな、妹の不安を取り除いてくれた恩人だ。それくらいお安いご用だ。まだできあがったらこっちに来るよ。ありがとう」

 また深々と頭を下げて、二人は部屋を出て行った。
 これで二人の問題はおしまい。
 あと残されたモノは――彼女の記憶の海に浮かんでいた、あの空箱だ。
 さて、それについては専門家に頼ることにするかね。私はあくまでも知識をもとに考察するだけに過ぎないし、ダイブすることで成果を得る。科学者で言えばフィールドワークが専門だ。こういう奇妙奇天烈なデータはデータを解析できる専門家に預けちまったほうがいい。……そろそろデータのアップデートも必要だ、とか言っていたし。
 そうと決まれば話は早い。私は鞄を仕舞うと、逃げるように外へ出て行こうとして――ふと思い出す。

「あ、そうだ。ワトソンくんに、えーと」
「舞です」
「そうだ。舞。今から少し時間空いているか?」
「空いているか、って……部活動だろう? お前の『依頼人』が来ない限りこちらとしてもやることはないよ」
「それは私も同じです」

 二人の意見は一致。オッケイ、つまりフリーってわけだね。話は早い。だったら一緒に挨拶も済ませてしまおう。そう思って私は二人に彼の話を軽く済ませて急いで帰る支度をするように命じるのだった。もちろん、会長命令で。

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