記憶探偵はミルクパズルの謎を紐解くか?

巫夏希

第十三話 広報活動

「ウェブサイトが必要だと思うのよね」

 沢宮明里がそんなことを言ったのは、ある土日のスイーツバイキングの日のことだった。なぜそんなことをしているかというと、先日記憶探偵同好会の初の依頼人である岬先輩から戴いたクーポン券を有効活用するためだった。
 食べ放題、と書いてあったがよくよく見てみると九十分スイーツ食べ放題と書いており――とどのつまりがスイーツバイキングの割引券だった。
 というわけで土日を利用して記憶探偵同好会の三名で集まってスイーツバイキングに興じようということだったのだが――。

「ワトソン。手が止まっているわよ。こういうのは食べないと元が取れないの。だからさっさと食べる。手を動かす。食べる。さあ、簡単なことでしょう?」
「そんな甘い物ばかり食べてらんねえよ……。で? ウェブサイトってどういうことだ」
「文字通りの意味よ」

 明里は四皿目のティラミスを食べ終えてナプキンで口を拭きつつ、

「要するに広報活動の一環ね。記憶探偵として活動していくためにはやはり広報活動が必要だと思うわけ。この前みたいにローラー作戦をしてもいいけれど、ローラー作戦って効率度外視でやる作戦だからね。はっきり言って少人数じゃ無意味と言っても過言じゃない」
「じゃあ、なんでこの前はローラー作戦をやってのけたんだ」
「暇だったから」

 今も暇じゃねえか。
 そんな突っ込みも野暮なので、取敢えず持ってきたショートケーキだけは完食しておこうと、一口分をフォークで切る。

「とにかく、広報活動の一環としてウェブサイトを作ることは、どの部活もやっていることらしいわよ。ほら」

 そう言って明里はスマートフォンの画面を俺に見せてきた。スマートフォンを明里が持っていることはあまり意外には思わなかったし、普通のことだ。今では八割を超える学生がスマートフォンを所有しているわけだし、逆にスマートフォンを所有していない、と言ったら周囲からは好奇の視線を送られることだろう。それくらいに、スマートフォンを所有していることはステータスと化しているわけだ。
 それはそれとして。明里のスマートフォンに映し出されていたのはウェブブラウザだった。そしてブラウザが表示していたのは、あるウェブサイトだった。

「……これは?」
「うちの学校の、WWW部のウェブサイト」

 WWW部?

「ワールドワイドウェブ部、だって。コンピュータに関することの部活らしいわよ。なんというか内容のない部活よね」

 お前に言われたくないと思うぞ、そのWWW部の部員も。
 スマートフォンに表示されているWWW部のウェブサイトはスマートなレイアウトだった。写真が数秒ごとに切り替わっていて部活動の活動内容が見た目ではっきりと分かるし、メニューバーをタップすると別のメニューがオープンしてさらに小メニューが表示されるようだった。どうやらWWW部は自分たちでウェブサイトを作ることも部活動の活動内容の一つらしく、活動内容の所にそんなことが書かれていた。

「で。これのアクセス数が、二万アクセスを超えているわけよ。オープンから……恐らく一年くらい前らしいから、それくらいで二万アクセスとなると、かなりの宣伝効果よ」
「それは分かるけれど、それと同じ宣伝効果が得られるとは限らないだろ」

 ショートケーキを漸く食べ終えて、口直しのアイスコーヒーを啜りながら俺は答える。

「……だーかーらー、そのノウハウを借りるのよ」
「借りる?」
「そ。WWW部にノウハウを借りるわけ。正確に言えばウェブサイトを作ってもらう、とでも言えば良いかしら?」
「そんなこと、どうやって依頼するんだよ」
「それはあなたがやることよ、ワトソンくん。私は依頼が来たら記憶探偵の仕事をこなすだけだから」

 いやいや。
 それってただ面倒なことを押しつけただけじゃねえか。
 確かに記憶探偵同好会は明里がいないと何も出来ない独りよがりの同好会だ。だが、だからといってそれ以外のことを全部俺がやらないといけないという道理には繋がらないはずだ。しかしながら、舞にそれを依頼するわけにもいかないし……ああ、もう、面倒くさい。結局は全部俺がやる羽目になるのだろうか。

「あの……もし、忙しいようでしたら、私も手伝いますから」

 舞がそう言ってアシストしてくれた。もしその言葉がなかったらもう少し駄々をこねているところだったがそう言われてしまっては俺も言い返せない。結局の所俺も甘い人間だし、女子と一緒に行動することになるとそれを甘んじて受け入れることになるんだな――そんなことを思いながら俺は三皿目のスイーツを取りにバイキングスペースへと向かうのだった。

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