記憶改竄的現世界物語

さも_samo

第18話:仮面の裏切り

仮面の表情にノイズが走る。

安い一眼レフのように安定しない視界。

俊介のかけたウッドソードはゆっくりと体に馴染んでいく。

金属の掠れ合う嫌な音が耳に入り、その方向を向く。
ボケた視界に入る火花の明かり。

闘っていたのはテラとテラ兄だった。
テラの子供らしさを感じさせない鬼気迫る表情が視界に入る。

ハッキリ見える視界。

体の回復に想像以上に時間がかかっているようで、立とうとすると全身がズキリと痛んだ。

「お兄様! いい加減目を覚まして!」

テラのその声と手に握られたナイフを全て払い除けるテラ兄。

ボケた視界では理解できなかったのだが、テラ兄がテラのナイフを素手で弾いていた。
彼は指先にはめられた指輪で全てのナイフを弾いているのだ。

その人間離れした能力に目を疑うのと同時に、テラの記憶改竄に成功している自分に気付いた。
季子は彼女の記憶に【ロック】をかけていたはずだが、いつの間に解除したのだろうか?

今なら彼女の....【テラ】の記憶を読むことが出来る。
しかしそれは許されない。
目の前に広がるこの光景。

恐らくテラの記憶に入った瞬間にテラは重心を崩し、瞬きする暇もなく殺されてしまうだろう。
それほどの緊迫した状況。

再び自分の記憶を改竄する。

体の回復が早まり、全身に血が回る感覚がピリピリ体に刻まれる。
俺が立ち上がると、テラ兄はこちらに気付き指をさした。

仮面を奪われ死体と化していた黒服が皆砂化し、その粒子が俺の目の前で【再構成】されていった。

!!?

徐々に出来上がっていくその人型のオブジェクトに、思わず生唾を飲んだ。

「なんでお前がこいつの事を知ってるんだ!」

必死に叫んだがその声がテラ兄に届くはずもなく、彼は依然テラのナイフを弾き続ける。

俺の視界にハッキリと写っているこのオブジェクト。

美和子....。

まさか再び彼女に逢えるとは思っていなかった。

....不快だ。

彼女の偽物を作るな。
いくら俺が救えないクズだったとしても、彼女の侮辱だけは絶対に許さない。

侮辱の象徴。純粋な怒りしか覚えないその美和子の形をした砂の何かは、サッという音と共に動き出した。

ゆっくりとこちらに近づき手を伸ばす。
その目的が俺の首を絞める事だと気付いた。

しかし時すでに遅し。俺の足は砂状の粒子にガッツリ掴まれていた。

「お前が愛した女に殺されるんだ。満足だろう?」

「お前しゃべ...ッ」

首が絞められ声が出せない。
突然喋り出したテラ兄。

テラの振ったナイフをフェイントかけて躱し、彼女の腹に重い蹴りを加えた。
空中に2M程飛ばされ地面に叩きつけられるテラ。

彼女の嗚咽が耳に入ると同時に、俺の目の前に居る女の感情一つ無い表情を見て何かがキレた。

腕をパシッと握り、そのまま力いっぱい潰した。
グシャッという音と共に血が飛び散るも液体はすぐ粒子になり、腕を【再構成】した。
体の何処かを吹っ飛ばせばこの状況を回避できると思った考え方は浅はかだったようだ。

粒子化して攻撃とか卑怯すぎる。
記憶を改竄しようとしてもそもそも命を持っていない。
自身の記憶を改竄しても出来る事と言えば精々苦しさを忘れさせる事ぐらいだ。

意識喪失のタイムリミットが近づく。

「ロストブランク」

ミレイ・ノルヴァの口からその単語が聞こえた瞬間、美和子は一瞬にして全部粒子化した。

突然の出来事に困惑しながらも、改竄された反射神経で束の間のチャンスを利用し逃げ出した。

「神が干渉するとロクなこと起きないから嫌なんだけどなぁ....」

「面倒事の処理はもう慣れたもんだろ?」

「貴方だって立場は同じなのよ?」

ミレイ・ノルヴァと俊介がこちらに向かって話している。

なるほど、彼女の時止めか。
普通に考えてチートすぎるその能力に、彼女の発したその言葉。

「ロクな事が起きない」

彼女等が今の今まで手を出さなかったのはその為なのだろうが、これは俺等で解決しろという【命令】なのだろうか?

詳しいことは後だ。
記憶の改竄は依然維持されている。

「お前さっき喋ったよな。テラ兄」

「あぁ、喋ったさ。人の恩をアダで返す狼藉者君」

「狼藉者はお前だろうよ。どうして美和子の事を知ってるんだ?」

「君はもう少し自身が誰に狙われてるか考えた方がいい。季子でさえ簡単に割れたんだ。僕に割れないはずがないだろう?」

そう言ってテラ兄が季子を見ると、彼女はブルッと一つ震え目を逸らした。

「そして君はさっき僕が見せたジェスチャーの意味を理解したほうがいい」

そう言って後ろを指差すテラ兄。

後ろを振り向くと、そこには蜘蛛を思わせるクリーチャーが居た。

「ギュルルルリ....ギギギギ」

気色悪い音を立てながらこちらに近づいて来る蜘蛛。

しかし数秒もしないうちにその蜘蛛は粉々になり、地面に落ちた。

テラが天井から降りてくると同時に、手に握られている糸を見て彼女が何をしたのか理解した。
この瞬間でそんな動きを見せるテラに尊敬の念さえ抱く。

「お兄様....私の呼びかけには反応してくれないのに、勝治の呼びかけにはあっさり反応するのね」

「出来れば君は巻き込みたくなかったよ。テラ」

そう言って仮面に手をかけるテラ兄。
その仮面を顔から外すと、彼は粒子化し、雪のように地面にスッと消えていった。

季子が寄ってきて、服を掴み膝から崩れた。

「ごめんなさい....私」

季子の泣きそうなその表情を見て、一瞬視界がぶれたように見えた。
しかしブレたのは視界ではなく....。

季子の顔が、【仮面に】なって行く。

「お前....」

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