記憶改竄的現世界物語
第12話:自己【改竄】
男は足を抑えながら蹲っていたが、ゆっくりと立ち上がるとこちらに向かって一つ溜息を付いた。
「そうか」
バァン!と響く銃声。
撃たれたのは季子だった。
肩を押さえ蹲る季子。
その様を不安そうに見つめるテラ。
なる程、計算したのは逃げる所までか....。
反撃手段も用意してくれよ....。
いや、俺は子供に何を求めてるんだ....アホか。
この距離からでもギリギリ記憶を読めるが、改竄できて数秒って言ったところだろう。
足りない。
近づくか触れるかしなくては....。
視線を下に落とすとさっきテラが落とした電車があった。
ラバーチェアの向こうにいる銃持ちの男。
その机の下に落ちている電車。
肩を押さえ蹲る季子。
その奥で半泣きになりながら何かを考えてるテラ。
この状況で....何をすれば....。
時間がない。
男は数秒もしないうちに季子に止めを刺すだろう。
俺がここで騒いで撃たれればターゲットを季子から俺に移す事は出来るだろうが、そんなの時間稼ぎにもならない。
一体...ハッ!
可能性だ。
人間の可能性。
達也は自分の記憶の中に【自分は殺し屋】と言う記憶をねじ込まれていた。
そして実際に季子のあの一撃を防いだ。
なら、俺も俺自身の記憶を【改竄】したなら....。
試す価値はある。
ただしリスクが大きすぎるのも事実だ。
どうする――――
間髪入れず男が二発目を季子に撃ち込んだ。
背中を撃たれ絶叫する季子。
もう時間は無い。
自分の記憶を【改竄】する。
【自分には人間離れした身体能力がある】
....。
瞬間。俺の中の何かが【書き換えられた】。
無意識のうちに瞳を閉じ、そしてゆっくりと開ける。
自分でも信じられない集中力だ。
男の動きがコマ送りの様に見える。
季子の絶叫が耳で分散されて脳まで入ってこない。
それ程の集中力。
右足を深く踏み込むと同時に、男がこちらに銃を向ける。
何の躊躇いもなく引き金を引く男。
弾の軌道が見える。
ゆっくりとコマ送りの様に....。
体が追いついていない。
間に合わないことがすぐに理解できた。
なら簡単な話だ。
足元に落ちていた電車を蹴り上げる。
顔面0距離まで近づいて来たその弾は、蹴り上げられた電車に当たり軌道を変えた。
躱すのに足りなかった距離が補われ、男の弾が俺に当たることは無かった。
男の怯む表情がよく見える。
心なしか視界もクリアだ。
踏み込み十分。
地面を蹴り上げ男の元に向かう。
「オラァァァァ!」
拳を深く握り、男の顔面に一撃加えた。
脳震盪を起こしそのまま地面に倒れる男。
「フゥ....」
手をパンパンと払った。
人の顔面を殴る機会なんて滅多にないものだから少し痺れた。
しかし想像以上だ。
記憶の改竄によって自分の無意識を【操作】してみたが、まさかここまで出来るとは....。
「何者なの...?」
「え?」
「勝治...だっけ?お兄さん何者なの...?」
テラが怯えた目で聞いて来る。
「さっき言ったばっかりじゃないか。俺は理由あって季子の手伝いをしてるただの高校生さ」
「あの男は綿密に【殺しの手段】を立ててこっちに来てたはず。でもそんな計画を実行させる前に倒すなんて....ありえない!」
テラの怯えた目は、どこか嬉しそうに見えた。
「取り敢えず先生呼ばないとな....」
「こっちに来るまでに時間かからない?」
「ん?あぁ、そっちの先生じゃないんだよ」
携帯を取り出す。
電話の相手は当然【俊介】だ。
ツー。ツー。ツー。
出ない。
おいおいおいおい。
季子の出血量....医者を呼んで間に合うか?
と言うか医者を呼ぶのは非常に危険だ。
警察が関与してくるだろ、こんな怪我。
そうなったらもう【捜査】を続ける事は出来なくなる。
一体どうすれば....。
━…━…━…━…
一瞬、世界から色が消えた。
世界に色彩が戻る。
圧倒的なプレッシャー。
俊介に似た、この感覚....。
「ミレイ....ノルヴァ?」
「あら、私の事覚えてくれてたのね」
テラが理解不能と言わんばかりの表情をしている。
そりゃ何の前触れもなく急に現れたら驚くだろう。
まぁ、この女の場合は自分の思った【シナリオ通り】に動いてくれなかったから驚いているのだろうが....。
ミレイ・ノルヴァは季子の怪我を見て、手をかざした。
【ロストブランク】
彼女がそう唱えると同時に季子の傷は跡一つ残さず消えた。
「弾丸は?」
「消えてるわ」
「一体...何を?」
テラが俺の後ろにしがみつきながらミレイ・ノルヴァにそう聞いた。
「私の能力【ロストブランク】は望んだモノのパラメーターを【0】に出来るの。今は季子の怪我のパラメーターを0にしたわ」
テラはゆっくりと目を閉じ、何かを考える仕草を取った。
目を開けると、そこにさっきのタジタジさは消えていた。
どうやら常識を書き換えた様だ。
「どうしてここに?」
「外を歩いてたらたまたま貴方達を見つけてね、今にも死にそうだったから助太刀しようと思ったのよ」
そう言って手元に魔法陣の様なモノを広げるミレイ・ノルヴァ。
魔法陣の上に円形の液体が浮かび、その液体にはこの部屋が監視カメラ映像の様に映っていた。
非現実的すぎるその光景に、無性に【美しさ】を感じた。
「ただちょっと距離が遠くてね、今になっちゃったって訳」
「驚いたわ勝治。まさか貴方があんな人間離れした身体能力を持っていたなんて」
ミレイ・ノルヴァがそう言うと、俺の体は本来の自分を思い出したようで、虚偽で固めていた肉体疲労が一度に襲いかかってきた。
その場に倒れこむ。
薄れていく意識の中、ミレイ・ノルヴァの【ロストブランク】だけはハッキリと聞こえた。
o0O○O0o0O○O0o0O
「※▼□....える?おーい」
「あ、あぁすまん。能力で身体能力を無理やり書き換えてたもんだからつい....」
「そういうことだったのね」
気付くと季子が起きていた。
どれぐらい寝てたんだ....?
「さぁ、俊介の所に連れて行ってもらってもいいかしら?」
「え?」
「そうか」
バァン!と響く銃声。
撃たれたのは季子だった。
肩を押さえ蹲る季子。
その様を不安そうに見つめるテラ。
なる程、計算したのは逃げる所までか....。
反撃手段も用意してくれよ....。
いや、俺は子供に何を求めてるんだ....アホか。
この距離からでもギリギリ記憶を読めるが、改竄できて数秒って言ったところだろう。
足りない。
近づくか触れるかしなくては....。
視線を下に落とすとさっきテラが落とした電車があった。
ラバーチェアの向こうにいる銃持ちの男。
その机の下に落ちている電車。
肩を押さえ蹲る季子。
その奥で半泣きになりながら何かを考えてるテラ。
この状況で....何をすれば....。
時間がない。
男は数秒もしないうちに季子に止めを刺すだろう。
俺がここで騒いで撃たれればターゲットを季子から俺に移す事は出来るだろうが、そんなの時間稼ぎにもならない。
一体...ハッ!
可能性だ。
人間の可能性。
達也は自分の記憶の中に【自分は殺し屋】と言う記憶をねじ込まれていた。
そして実際に季子のあの一撃を防いだ。
なら、俺も俺自身の記憶を【改竄】したなら....。
試す価値はある。
ただしリスクが大きすぎるのも事実だ。
どうする――――
間髪入れず男が二発目を季子に撃ち込んだ。
背中を撃たれ絶叫する季子。
もう時間は無い。
自分の記憶を【改竄】する。
【自分には人間離れした身体能力がある】
....。
瞬間。俺の中の何かが【書き換えられた】。
無意識のうちに瞳を閉じ、そしてゆっくりと開ける。
自分でも信じられない集中力だ。
男の動きがコマ送りの様に見える。
季子の絶叫が耳で分散されて脳まで入ってこない。
それ程の集中力。
右足を深く踏み込むと同時に、男がこちらに銃を向ける。
何の躊躇いもなく引き金を引く男。
弾の軌道が見える。
ゆっくりとコマ送りの様に....。
体が追いついていない。
間に合わないことがすぐに理解できた。
なら簡単な話だ。
足元に落ちていた電車を蹴り上げる。
顔面0距離まで近づいて来たその弾は、蹴り上げられた電車に当たり軌道を変えた。
躱すのに足りなかった距離が補われ、男の弾が俺に当たることは無かった。
男の怯む表情がよく見える。
心なしか視界もクリアだ。
踏み込み十分。
地面を蹴り上げ男の元に向かう。
「オラァァァァ!」
拳を深く握り、男の顔面に一撃加えた。
脳震盪を起こしそのまま地面に倒れる男。
「フゥ....」
手をパンパンと払った。
人の顔面を殴る機会なんて滅多にないものだから少し痺れた。
しかし想像以上だ。
記憶の改竄によって自分の無意識を【操作】してみたが、まさかここまで出来るとは....。
「何者なの...?」
「え?」
「勝治...だっけ?お兄さん何者なの...?」
テラが怯えた目で聞いて来る。
「さっき言ったばっかりじゃないか。俺は理由あって季子の手伝いをしてるただの高校生さ」
「あの男は綿密に【殺しの手段】を立ててこっちに来てたはず。でもそんな計画を実行させる前に倒すなんて....ありえない!」
テラの怯えた目は、どこか嬉しそうに見えた。
「取り敢えず先生呼ばないとな....」
「こっちに来るまでに時間かからない?」
「ん?あぁ、そっちの先生じゃないんだよ」
携帯を取り出す。
電話の相手は当然【俊介】だ。
ツー。ツー。ツー。
出ない。
おいおいおいおい。
季子の出血量....医者を呼んで間に合うか?
と言うか医者を呼ぶのは非常に危険だ。
警察が関与してくるだろ、こんな怪我。
そうなったらもう【捜査】を続ける事は出来なくなる。
一体どうすれば....。
━…━…━…━…
一瞬、世界から色が消えた。
世界に色彩が戻る。
圧倒的なプレッシャー。
俊介に似た、この感覚....。
「ミレイ....ノルヴァ?」
「あら、私の事覚えてくれてたのね」
テラが理解不能と言わんばかりの表情をしている。
そりゃ何の前触れもなく急に現れたら驚くだろう。
まぁ、この女の場合は自分の思った【シナリオ通り】に動いてくれなかったから驚いているのだろうが....。
ミレイ・ノルヴァは季子の怪我を見て、手をかざした。
【ロストブランク】
彼女がそう唱えると同時に季子の傷は跡一つ残さず消えた。
「弾丸は?」
「消えてるわ」
「一体...何を?」
テラが俺の後ろにしがみつきながらミレイ・ノルヴァにそう聞いた。
「私の能力【ロストブランク】は望んだモノのパラメーターを【0】に出来るの。今は季子の怪我のパラメーターを0にしたわ」
テラはゆっくりと目を閉じ、何かを考える仕草を取った。
目を開けると、そこにさっきのタジタジさは消えていた。
どうやら常識を書き換えた様だ。
「どうしてここに?」
「外を歩いてたらたまたま貴方達を見つけてね、今にも死にそうだったから助太刀しようと思ったのよ」
そう言って手元に魔法陣の様なモノを広げるミレイ・ノルヴァ。
魔法陣の上に円形の液体が浮かび、その液体にはこの部屋が監視カメラ映像の様に映っていた。
非現実的すぎるその光景に、無性に【美しさ】を感じた。
「ただちょっと距離が遠くてね、今になっちゃったって訳」
「驚いたわ勝治。まさか貴方があんな人間離れした身体能力を持っていたなんて」
ミレイ・ノルヴァがそう言うと、俺の体は本来の自分を思い出したようで、虚偽で固めていた肉体疲労が一度に襲いかかってきた。
その場に倒れこむ。
薄れていく意識の中、ミレイ・ノルヴァの【ロストブランク】だけはハッキリと聞こえた。
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「※▼□....える?おーい」
「あ、あぁすまん。能力で身体能力を無理やり書き換えてたもんだからつい....」
「そういうことだったのね」
気付くと季子が起きていた。
どれぐらい寝てたんだ....?
「さぁ、俊介の所に連れて行ってもらってもいいかしら?」
「え?」
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