記憶改竄的現世界物語

さも_samo

第1話:過去のトラウマ

トラウマ。思い出したくも無い記憶。

そんな記憶がほぼ毎日の様に思い起こされる。
保健室の前を通るとき、椅子に座るとき。

色々な場面が【トリガー】となって、呼び起こす。

そんな【負の記憶】


━…━…━…━…

小学校高学年ともなると学校にはマドンナが誕生しているものだ。
何を血迷ったのか俺はその当時のマドンナ。【美和子みわこ】に恋をした。

きっかけは本当に些細。

弁当を忘れた俺に彼女が分けてくれた。今思い返すと本当に些細なものだ。

しかし、学校のマドンナ程に人気のある彼女が、自分の為に寄越してくれたその弁当が俺の中に何かを、弁当以上の何かを残していった。

それが発展して恋に墜ちたのだろう。

本当に血迷っているとしか言い様がない――――

俺は事もあろうに、彼女を手に入れるため自身の能力を使ってしまった。
記憶を改竄するなんて言う地味な能力故に、友人に俺の能力が悟られることは無かった。

だからこそ、なんの躊躇いも無しに使ってしまったのだ。

俺は彼女の中あった俺の印象を【最強度で最高のモノ】にしてしまった。

翌日から、彼女は俺にベタベタくっつく様になってきた。

何か行動するのでも自分と一緒。
美和子の全部を任されている様な、そんな時間。

周りの男子も、俺に羨望の眼差しを向けた。
どうやって?と言った疑問の眼差し。嫉妬の目が最高に心地よかった。

全てが最高。
この能力を俺に与えた神に心の底から感謝した。

そこから起こるであろう事を全く考えずに、ただ感謝した。

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美和子と恋人のような生活を送り始めてから1ヶ月が経った辺りだろうか。
俺は美和子の首筋に傷跡が出来てる事に気が付いた。

「お、おい。その首元どうしたんだ?」

「ん?....何でもないよ」

笑顔でそう返す美和子のその表情が、俺の記憶の中にベットリこびり着いている。

俺は再び能力を使って、彼女に起きていることを洗いざらい吐かせた。

答えは非常なまでに簡単シンプルだった。


【いじめを受けている】。


その事を聞いて、ハッとした。
夢から覚めた気分だった。

自身は売りにしていないようだったが、その純白さがマドンナ足る所以だったと言っても過言では無かった彼女が、突然冴えない男とベタベタし始める。
そんなもの、夢を木っ端微塵に破壊する事以外のナニモノでも無い。

みんなの彼女に対するイメージは【マドンナ】から、不衛生な【牝豚】へと成り下がった。

俺に心配をかけまいと、ずっと黙っていたのだ。
だから気付けなかった。

いや、気付いていたのかも知れない。

だが、夢の様なその生活があまりにも魅力的すぎて、俺はその問題から目を背けていたのだろう。

本当に【怠惰】だ。

俺は彼女が涙を流しながら洗いざらい吐く様を見て、彼女に残してもらった心の中の何かが毒のように体中を蝕む感覚を味わった。

「ほら、顔向けて」

「....ふぇ?」

俺は再び、能力を【使った】。

彼女の額に手を当てて、記憶を【深く】改竄する。
感情、ここ1ヶ月の記憶。いじめを受けていた事実。

全てまるっと改竄した。

1ヶ月程の膨大な記憶を一気に改竄したものだから、彼女はその場に倒れた。

彼女の涙で崩れまくった顔を拭き取り、保健室に運んだ。

彼女の意識が戻ったとき、美和子は保健医の質問に対して「分からない、覚えていない」と答えたそうだ。
記憶の改竄はしっかり行われていたようで、それを聞いて俺は安心した。

後の事は保健医に任せる事にし、俺は家に帰った。

そして、泣いた。

布団にもぐり、涙で枕を濡らした。
自分の怠惰さに、自分の行った行為の重さに、涙した。

「まさかこうなるとは思わなかった。」なんて無責任な言葉が心の中を駆け巡った。

若さ故の失態。若さ故の罪。

悔しくて、悲しくて。辛くて。

泣いた。

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小6の夏。彼女は自殺した。

俺は更に罪を重ねた。

彼女の記憶を改竄したところでいじめは無くならない。
それどころか、彼女はいきなり【エスカレート】した状態のいじめを受けるのだ。
そりゃぁ耐えられる訳もない。

俺の最後の記憶改竄以降、美和子から目を逸らしていたのが裏目に出た。
いじめが続いている事に気付けなかった。

学校全員の記憶を改竄すれば良かったのだ。
相当の苦労。相当の疲労。
下手すれば俺の命が無くなるかも知れない。

そんな大仕事を、俺はやらなかった。

彼女の自殺のニュースがテレビから聞こえ、俺は心の底から【なんで死ぬのが俺じゃなくて彼女なんだ】と叫んだ。

美和子の両親は学校に憤怒し、葬式に生徒を呼ばなかった。

まぁ、当然だろう。

だから俺は彼女の【葬式】にすら参加できなかった。

それこそ記憶を【改竄】して参加すればよかったのかもしれない。
でも、そんな失礼な事。俺にはできなかった。

━…━…━…━…

失って初めて気付くという言葉の重みを痛感させられたあの日以降、俺は能力を乱用している。
俺の能力は【鍛える】事が出来るのだ。

あの時、学校全員分の記憶を簡単に【改竄】出来ていたなら。
俺が【怠惰】じゃ無ければ。

そんな思いから能力を乱用し、鍛えた。

今じゃ相手に触られれば、記憶の中の感情さえ【自由に】改竄出来る。
悪用すれば、道端の犬の糞に自殺レベルのトラウマを植え付けてやる事だって出来る。

自殺....。

そうだ。俺だって自殺を考えたさ。

でも、無駄死にこそ俺が恐るべき【怠惰】だと思った。

嫌だから【死ぬ】。

なんだその逃げ文句。
そんな惨めな醜態だけは晒したくなかった。

だからこうしてダラダラと今の今まで生きてきた訳だが。

本当に退屈だ....。

生きてる今が、殺人を犯した俺用の牢獄なのだから。

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