極寒の地で拠点作り

無意識天人

エンブレム作りと発表会


「おはよー」

「もう皆さん揃ってますよ」

「皆、暇だねぇ」

「ハープさんだって言えないじゃないですか。それに今日は日曜です」

ハープがそんなことを言うものだから、ケイ君は食ってかかる。

「日曜だからって休みとは限らないのよ。ね、ユズ」

「火、木、土曜日の活動だけだけど、私達テニス部入ってるから。ケイ君は入ってないの?」

私達の学校、兎に角グラウンドが狭い。
県内高校一狭いって話を聞いたことがあるけど、実際もっと行ってるかもしれない。その関係でコートも少ない。その癖、場所の有効活用もしようとしないから屋上にコートを作ろうともしない。それだけじゃなく、その狭いコートに私達の所属する女子テニス部、男子テニス部、そしてそこに軟式も入ることになる。

そんなの無理って訳で、何日おきかを決めて活動する形に落ち着いたのだった。
まあその三部活の内どれかが練習試合とかで予定を変えると、突然三連休が出来たりその逆にもなったりするからめんどくさい。

「俺は入ってませんね……って意外でした。ユズさん運動部だったんですね」

少し愚痴っぽくなった所で話を戻す。ケイ君は何処にも入ってないらしい。

「うん。でも意外って通り、ハープみたいに運動神経良くないからさ。まー、運動出来る訳でも出来ないって訳でもないけどね」

「部活かぁ、何にしましょう……」

「そっか、リンちゃん来年だもんね」

「はい。私、そもそも運動部にするか文化部にするかの時点で迷ってるんです」

「そうね。でもまだ時間はあるし、中学に入ってからわかることもあるから大丈夫だと思うよ」

私も迷ったものだ。リンちゃんくらい早く考え始めた訳じゃないけど、元々運動が得意じゃなかった私は文化部にするか運動部にするか迷ってた。結果としてソフトテニスを選んで高校では硬式をやっている。因みに琴音とは中学の頃同じ部活ではなく陸上部だった。

「それじゃ、本題に入ろうか……皆、考えてきた?」

「おお、やっとか」

「ん? どうしたんです神様」

「ああいや……お主らいつ本題入るのかとな。そう思っていた所だったから、つい、な」

「せっかちだなぁ……そんなに早く見せたいの?」

「い、いや違う、違うぞ! 私はそんなくだらない理由でソワソワなどするものか!」

「へぇ」

それを聞いたハープは最早信じていない。
というか思ったんだけど、神様って絵、描けるのかな。あ、センスとかそういうんじゃなくて手とか指とかそういう話ね。石像がどう頑張っても石像だし動けない。

そういえば言い忘れてたけど、エンブレムは基本、丸とか四角とかの図形のパーツを組み合わせたり、好きなフォントを選んでその文字を入れたりして作る。
基本ってだけで手書きも出来る。上手い人はそれこそフル手書きなんだろうけども、私達一人一人絵が上手い訳でもないので、細かい所だけ手書きで行く。

珍しく狼狽える神様を尻目に、とっとと書き始めることにする。

「えーっと、メニュー開いて……ああ、これだ」

前に言った通り、私しか開けないので開いてあげる。エンブレム作成の欄をタップしてやればまた別のウィンドウが開く。このウィンドウなら私以外でも触れることが出来、作ることが出来るという訳だ。

「はい、じゃあ皆、始めちゃって!」

「うん!」

そうして作業に取り掛かる。
皆で一度に出来るのは、各々のお絵かき機能が連動してくれるからだ。

「暇なんだが……」

皆がパーツやら手書きやらで作業を始める中で一人、困った様な声を発する人がいた。人というか神様か。そのまんまだけど、どういうことだろう。

「だいぶ前に描き終えてるものでな……」

ああ、なるほど。神様はこの世界に生きてるんだもんね。なら既に考えて、終わってても仕方ない。でもさっきも言ったけど、システム的な意味でも手的な意味でもどうやって書いたんだろ。
それについてはハープが質問してくれた。

「あれ、神様どうやって描いたの? ウィンドウ開く程度ならよく見るからわかるけど、石像だし。それにギルドのリーダーはユズじゃない?」

「ああ、そんなことか。まず私はこの城の主だ。ギルドの建物であるギルドホームと同一の存在である私には、ギルドリーダーのみ開ける欄も開くことが出来るのだよ」

「そんなものなの?」

「そんなものだ。それで後は思い浮かべる。以上だ」

「そんなざっくり……」

まあとりあえずはそんな感じらしい。
神様には悪いけど、それは置いといてとっとと描いてしまう。

「はあ、そうかそうか。リンはそういうアレか……」

「み、見ないでください!」

その神様は神様で、私達の作業を一人ずつ覗いて何やら呟いて暇を潰すことにしたらしい。私の所にも来たけど、なかなか鬱陶しい。
石像からの視線だから身体で隠すことも出来るんだけど、全体を隠すにしてはウィンドウが大き過ぎる。よって逃れられない。

態とらしく感嘆の声を漏らしたりそれだけじゃ暇なのか途中から実況っぽくしてきた、神様という邪魔者を乗り越え、持ってきた案に修正と描き直しを重ね、そして遂に…………

「出来たぁ!」

「おお、これで完成か! 凄いじゃないか!」

何故か褒めてくる神様。実況っぽくなってからこんなだけどうるさい。

「神様黙ってくんない?」

「む……私はただユズのを見てただけで」

「ハープさんに同意です。口チャックでお願いします」

「わ、わかった。仕方ないな……」

ハープだけじゃなく、ケイ君にも言われてしまったのだから流石に黙る。二人は作業中こそ無視を決め込んでいたものの、我慢出来なくなったらしい。ハープなんかもうキレ気味だよ。

「で、誰からやるの? なんなら私から行くけど」

私の完成待ちだった様で、どうやらすぐに発表に入るみたい。

「……よし、じゃあ私最初ね」

名乗り出て最初になったのはハープ。ずっと一緒にいるけど、センスは少なくとも私よりはある。

「私のはこんな感じよ」

「おぉー」

一旦閉じていたウィンドウを開いて、ハープは私達に見せてくる。
そこに描かれているのは、簡略化した城っぽい建物を背景として杖三つに短剣一つが並んだ絵だった。

「単純なもんだけどさ。こんなものかなって」

「良いと思うよ。特徴掴もうとするとやっぱりこうなるし、そこの所上手く纏めたね」

「そ、そう? ありがとね」

照れるハープを見て、次に行く。まだまだ始まったばかりなので決めるのはまだ早い。

「じゃあ次は……」

「私行きます!」

「リンちゃんね。じゃあ宜しく!」

そうしてリンちゃんもウィンドウを開く。比較する為にハープには閉じずにいてもらっている。

「わ、私のは……こんな、です」

リンちゃんは、恥ずかしげにしながらもドドンとウィンドウを前に出す。

「リンらしいな」

「ああ、いいものだな」

数少ない男性陣が唸っているのもわかる。
リンちゃんが描いたのは至ってシンプル。人型の図形が重なって手を繋いでいる様に見える。それらは輪を作り、一つの文字を囲んでいる。それは私達のギルドの象徴とも言える文字、『和』だ。『口』の方がハートマークになっていて可愛い。

「あ、もしかしてリンちゃん。『和』と『輪』を掛けた?」

「……? あ、いえ、そんなつもりは……」

「リン。こういう時は嘘でも頷いておくべきだぞ」

「ふぇ……」

ハープの問いに戸惑って、それに神様が口出ししてきて更に戸惑うリンちゃん。今回はあながち間違いじゃないけど神様、変なこと教えることあるからなぁ。注意しなきゃ。

「じゃ、次は俺ですね」

次は、と言おうとしたらなんか流れが出来てたっぽい。何の流れかは知らないけど。
とりあえずケイ君の番ということだ。別に私が最後でも構わない。まあ後の方になればなる程、頭が出る可能性が高まるから早い方が良いんだろうけども。

「俺はこんなのです」

ケイ君もまた独特な見た目。
武器や人型の図形が乱雑に並べられ、所々から火の手が上がっている。
その上にはゴースト系の敵モンスターに居そうな感じで浮遊する、フード付きの外套がそこには居た。外套は大きく広げられ、その内側は闇に包まれている。その背後には黒っぽい後光が射し、カオスさが増していた。
私は何となく、本当に何となくだけどこの光景に悪意を感じた。

「ね、ケイ君。これ……何?」

「えっとですね。人や武器が地面に倒れてたり平伏したりしてますね」

「この外套は何を表してるのかな」

「恐怖です。具現化してみました」

「なんで外套なの?」

「えっ? それはその……」

「なの?」

「っ……ユズさんがモチーフだから、です」

やっぱりね。そうだと思ったよ。
ケイ君が言うには、恐怖の象徴である外套が全ての暴力を支配している様子を表してるらしいんだけど、もうこれエンブレムちゃんと作る気無かったでしょ。そう思ったんだけどケイ君は、

「これくらいの意味が込められていた方が強気に出られて対外的にも良いと思うんですが……」

「いや、そもそもここ、『和みの館』だから。どっちかって言うと平和を望む方だから。こんな殺伐とした世界、必要ないから!」

意外と真面目に考えていたらしかった。
でもさ、エンブレムの意味聞かれた時どうするの。恐怖が暴力を従えてます、なんて言うの? 恥ずかしいし、絶対私のこと連想する人出てくるから! ただでさえ私の噂ヤバいのに、ギルドまでそんなになったら手に負えないよ……。

「はぁ……それじゃ、私だね」

溜め息を吐き、気を取り直して発表に臨む。

「もう皆やった後だし、特に私のは面白みも何とも無いかもしれないけど」

「いいからいいから」

保険をかけつつ促されて私はハープのより更にシンプルな、その作品を皆に見せる。

「わぁ……国旗みたいです」

「そ、リンちゃん正解。あっちの方の国みたいに色を重ねてみたんだ」

「赤、橙、黄色ね」

色は三色。暖色統一だ。

「だからセンス無いって言ったじゃん……」

「いやいや、そんなこと無いって! ちゃんと意味あってのこのシンプルさなんでしょ?」

「まあ、和みって言うくらいだからオール暖色で行ったよ。周りもこんなに寒い訳だし色だけでも暖かく見せたかったんだ」

「あーもうそんな立派な…………私のなんかよりずっと良いよ」

「そうですよ! 私のハートマーク付きの和よりもずっとです!」

「リンの言う通り、俺の殴られ覚悟のウケ狙いの絵よりもです!」

「いやいやいや、皆してなんでそんな庇ってくれるの? ってケイ君そうだと思ってたけど、やっぱりネタだったんだ!?」

「正確には、真面目半分のネタ半分です!」

「おうおう、お主らなんかよくわからないことになっているが、もう全員個性が出ていてよろしい、全員満点、全員見事、でいいだろうに」

突然の擁護で謎の盛り上がりを見せた所で神様が上手く纏めてくれた。流石城主。何が流石かわからないけど流石。

「そうだね。神様の言う通り全員満点で終了…………」

「って訳にも行かないんだよね」

今やってるのはエンブレムを決める為の案の出し合い。エンブレムは一つだけだからその通り、一つに絞らなくちゃいけない。

「うん。まあその最終決定の為の、この後の他ギルド訪問だから」

「他ギルドって言ってるけどだいぶ限られてきますよね」

「とりあえず! まずは騒乱ノ会に行こう!」

限られたギルド、そのだいたい二つの内片方に行くことにする。二つしかないので皆、異論は無い。私の一声で決まった。

「んじゃ、早速出発ね」

「おおい、ちょっと待て」

「ん? 今度はどうしたの神様」

雪の降りしきる外へ出ようとすると、焦り気味に私達を止める。

「いやな、自分で纏めておいてなんだがお主ら。私がまだ案見せてないこと、忘れていないか?」

「あっ、そうだった」

「全く……私が一番初めに描き終えたというのに。いつ発表出来るか待ち構えていたんだがな」

「じゃ、神様手短に」

「……それで勢いに乗れなかったせいか、扱いがぞんざいになっている気がするな。まあいい、私のは、これだ」

神様の出したウィンドウは私達のよりも二倍くらいある大きさでドドン、って感じだった。それをドヤって感じの声で出すものだから余程自信作なのかな、と思ったのだけど、

「あー」

「どうだ? 良いだろう?」

「……ユズ」

「うん、そうしよう。リンちゃん、ケイ君、行くよー」

「おお、お主ら何処へ行く!」

あ、やば、気づかれた……!

「何処へ、って騒乱ノ会です」

「しかし何故このタイミングなのだ。まだ私の番は終わっていないだろう」

「いや、だって、ねぇ?」

神様が自信満々に提示したのは、ニュアンス的にはケイ君方向。私達のよりも相当リアルに描かれていたので理解するのも簡単だった。

「む、別に良いではないか。私は闇と混沌の神だぞ? これくらいが一番良い」

更に自信を増す神様が描いた物。
それは真っ黒い太陽と空に燃え盛る街、建物は倒壊し、人々は右奥の方からやってくる『闇』からもがく様に逃げ惑う、そんな混沌味溢れる地獄絵図だった。こんなの、とてもじゃないけどエンブレムにはしたくない。

「何よりインパクトがある。私への畏怖を覚えさせるならこの……」

「『混沌の鍵』! 皆、今の内にっ」

「わかった! 『消音』」

「あっ、ハープズルい!」

神様が説明で熱が入っている間に抜け出してしまおう。神様って石像状態だし動かないから熱弁してるとはいえ、見えてるかも聞こえてるかもわからないから怖い。
とりあえず音を立てないことに越したことは無いので、私達はそそくさと長い廊下を外へと進んでいった。

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