極寒の地で拠点作り
まさかの場所で再々遭遇
「ふっふっふ、教えてあげましょう。貴方達の悪い所!」
「あの、早く帰りたいんだけど……」
私は目の前に居る、二人の内一人に向かって言う。彼女は帰ろうとした所、それも長々と続きそうな失礼なテーマでそんなことを言い出せるものだから驚いた。
どうしてこんなことになったか遡ると、
『あー、疲れたぁ』
『色々あったもんね』
『色々ね……』
ハープはあのダンジョンを出てきてからちょっと様子がおかしい。考え事をしてるのか、不意に話しかけたりすると応えてくれなかったりする。と言っても疲れてる、で片付けられる程度だし本人も大丈夫と言っているから問題無いかな。
まあそんな感じだから、ウィアちゃん達の時の『不意打ち』の件は帳消しになった。
で、今は第二の街のすぐ近くだ。暫く来ないかもしれないので、一応ウィアちゃんとルミナちゃんに挨拶しにいくつもり。相手はNPCだけど、そういうのはあまり気にしない。
『リンちゃんも突然叩いちゃってごめん。痛かったよね』
『もー、いいんですってば! ユズさんもわざとじゃ無かったんですからって言ってるじゃないですか』
『うん。ありがとね』
あぁ、良い子だ。もうさ、ぎゅっ、って抱き締めたくなるよ。でもここは街の近く、そんじょそこらに人が居るので止めておく。
そして、街の中へ入る。
美容院は中心部から少し南東に寄った所にある。そして、どうしても入るのは北門からなものだからやっぱり遠い。だからと言って、外周の壁沿いに進んで行ってもこれがまた面倒なのでこれが最適ルートなのだ。
『相変わらずわかんなくなるねー』
『迷路みたいよね』
『こんな所にあって儲かるんでしょうか』
『いいんじゃないですか? ああいう所にあったって。どっち道、美容院クエストの開始場所はあんな所なんですから』
確かに、クエスト難易度もまあまああるけど、そもそもクエストを始めるのに骨を折ることになるだろうね。
もしかしたら、ルミナちゃんのとこ以外にも美容院はあるのかもしれない。でも、美容院関連が掲示板に載っていない辺り、とっても簡単か、若しくは本当にルミナちゃん以外美容院やってないか、だ。
まあ見渡す限り、染まっている人や奇抜な髪の人が少ない所を見ると恐らく後者。ルミナちゃんの美容院の場所すら掴めていないんだろう。
そうやって考えると私達はかなりラッキーだったんだね。
大通りを外れて路地を進み、何度か行き止まりを踏みつつ美容院へと辿り着く。案の定、店の前に人は居ない。
『お邪魔しまーす』
『そんな他人の家に上がるみたいに……』
店だけど、一応ルミナちゃんの家でもあるから大丈夫だろう。
『あら』
『ルミナちゃんと、それから……』
『えーと、見たことないNPCですね』
私達が店に入ると、そこには男女一組が待合室の椅子に座っていた。
『NPC、ですって……?』
『まあまあ、落ち着けよ』
『み、皆さん! この方、NPCじゃないみたいですよ……?』
『うぇっ!?』
違うの? やっば、失礼なこと言っちゃった。
だってあんな話したばっかりだもん。私達以外にクリアしてる人そうそう居ないでしょ、って思ってたから、勝手にNPCだと思い込んでた。
『ふん。失礼な方達ね……まあいいわ、ってあら?』
彼女はじーっ、と私を訝しげに見てくる。
『今気づいたのだけれど貴方、魔女さんよね?』
『魔女さん、と言ったら不本意ながら恐怖の魔女だけど…………』
『あ、マジ? ってことは、その隣の子は』
『ええ。概ね貴方の考えてる通りよ』
『マジか……』
え、なになに? なんか勝手に納得されてるんだけど。ハープは良くも悪くも有名になってはいないけど、私のせいで変な噂付いてたらなんか悪いし。
『あっ、ユズ。この人達アレだよ! 前イベントの時に闘ったじゃん!』
『あー、ポイズンシャワーの人!』
間隔はそれなりに空いたし、前回思い出せたのも奇跡に近かった。あっちもあの時は必死だっただろうから、すぐには顔を思い出せなかったみたいだし。まあお互い様でしょ。
で、私が言ったらまた怒り出してしまった。
『ポイズンシャワーポイズンシャワーって、私にはちゃんと、カナカって名前があるの! ポイズンシャワー浴びせるわよ!?』
『あー、だから落ち着けって、な? 悪気があった訳じゃないんだろうから』
『むぅ……』
『ま、そういう訳だ。俺は『ラギ』だ。今はプレイヤー同士、仲良くしてくれ』
ラギさんはニカッ、と良い笑顔で振り向きざまにそう言ってきた。
『宜しく! ……それじゃあ私達はこの辺で』
『おう、もう行くのか』
『うん、何回も会ったんだから。また、ね』
そうして私達は二人に別れを告げてさっさと帰ってしまおうとする。
『ちょっと待ちなさいな』
しかしカナカさんがそれをさせない。
ツカツカと音を立ててやって来ると、再び私のことを見つめてくる。
『な、何……?』
『……ふふっ』
寄ってきたかと思えば今度は微笑みかけてきた。怖い怖い。
『ずばり言って上げるわ! 貴方達、ギルドとしてなってないわよ!』
『は?』
皆して同じ反応だ。因みに皆には、ラギさんも含まれる。この人、仕返しかは知らないけど失礼なことを声を大にして言ってくる。それも効果音が付きそうなくらいのドヤ顔で。
そうして最初の『悪い所~』の話に繋がる。
「そうだぞ、カナカ。困ってるじゃないか」
「ラギったら煩いわね。もう魔女さんともこれで三回目だって言うのに、お互いまだちゃんと自己紹介もしてないじゃないの」 
「それならどうして悪い所探しになったんだよ……」
ラギさんは、カナカさんの言葉に額を手で抑えて嘆いている。
「とにかく! 一つ目行くわよ!」
「すまん。コイツ、こういう奴なんだ」
悪いが付き合ってやってくれ、と重ねて謝りつつ、苦笑いで嘆く様にしてきた。何だか苦労してそうだ。
私達は頷き返す。単純に彼女が何を言うのか興味が湧いていたのもあった。正しいことなら参考にすべきだろうから。
「では一つ目、『統一感が無い』!」
「統一感?」
これまた効果音が付きそうな勢いで繰り出してきたのはそんな言葉だった。
「ええ、そうよ。見れば貴方達、ギルド皆でそれぞれのギルドらしい物、身につけてないじゃないの」
「それが何だって言うのさ」
「私達のを見なさいな。ほら、ラギ」
「はいはい」
カナカさんはラギさんに身体ごと後ろを向くよう促して自身も後ろを向く。
「例えば私。ローブの背中側の中央、見て」
「うんうん」
「そこに模様が描かれてるわよね」
言われた通り見てみると、今まで何か描いてあるなぁ程度にしか思ってなかった模様が載っている。
「これが共通ってこと?」
「ああ。俺が俺達のギルドに所属している証みたいな物だな」
ラギさんはマントで、同じく中央に大きく描かれている。
「えっ、それって何? ソレ専用の装備があるの?」
「いや、元からの装備で問題無いぞ。必要なのはその貼り付けるシールの方だから」
なるほど、それならお手軽だしやりやすい。
「へぇ、そうなんだ……帰って作業したら買いに行こうか」
「いいですね!」
「あれ? でもちょっと待って下さい? 俺達そもそも…………」
ハープが提案して賛成された中、ケイ君は一人何か突っかかった様な思案顔になった。
「ふふっ、当ててあげましょうか」
「わっ、また出てきた……!」
ずいっ、と話に割り込んできたカナカさんは得意気に笑う。
「お前はいいってのに……」
「だから煩いわね。まあいいわ。貴方達、エンブレム設定してないでしょう」
「エンブレム?」
「あっ。それです、それ!」
聞き慣れない単語に一瞬色々思い浮かべた。
ロゴみたいな物だっけ? わかんないや。
「団長、つまりギルドリーダーの役職ね。ソレに就いてる人間だけが変更出来るの。その場で出来るのかしら……ラギ、貴方立ち会ったでしょ」
どうなの? と、カナカさんは、どうやら彼らのギルドのエンブレム作成に関わったらしいラギさんに問う。
「あーいや、どうだったか……確か出来なかったと思うぞ? ちゃんとギルドホームに戻って、そこでメニュー開いて何かしら~って感じだった筈だ」
「……だそうよ。まあそういうことだから、ちゃっちゃと決めなさいよ。見てわかる、記号みたいな物だから早いに越したことは無いわ」
「へぇ、優しいね」
「なっ!」
優しいと言ったのは正直な思いだ。馬鹿にしてきたと思ったけど、ほんとは親切なアドバイスだったんだね。
「そ、そんなこと無いわ! だいたい貴方達は……」
それを聞いたカナカさんは顔を紅くして突然早口に、且つ声が小さくなった。
「はは、カナカの奴、恥ずかしがってんな。……さ、カナカがこんな調子になってる間に帰った方がいいぞ」
いつ二つ目が始まるかわからないからな、と笑いながら帰そうとしてくれる。丁度、顔を抑えて下を向き、相変わらずの早口でぶつぶつ何か言っているので悪いけどラギさんの言う通り、帰らせてもらおう。
「それじゃ、今度こそまたね」
「ありがとうございました」
「おう。また会おうな」
そうしてこっそり後退して、音を立てずにドアを開閉して店を後にした。
「さて、やるべきことが増えたね」
「まあ急いでやることも無いし、丁度良いんじゃないかな」
「じゃ、帰ってギルドホームレベル上げてエンブレムの参考に知り合いのギルド回ってエンブレム作ろうか」
「……長くないですか?」
「ああ、その後シールね」
「長いなぁ……あとなんか増えてない?」
具体的に言うと知り合いの参考の条り。要らないと思ったけど、そもそも知り合いのギルドって騒乱ノ会くらいしか居なかった。
「いいの。こういうのってセンスでしょ? この場でセンスあるよって自信持って言えるの居ないと思うから。既に作ってる所に、どういう理由でこういうエンブレムにしたんですかって聞くのも意味があることだろうし」
あ、そういうこと。因みに私はセンスあるとは言えない、当たり前だけど。
「ま、アレだよ。今日はもう皆疲れてるし、ギルドホームのレベル上げしたら終わりにするつもりだからさ。休みついでにエンブレム考える時間も作れるよ」
「じゃあ皆で参考前に一度考えてこようか」
「そうですね。それで良い物が出ればそれでもういいですし」
「なんだかんだ言ってその後参考には行きそうだけどな」
「とりあえず帰ろう。ここに立ち止まってたらラギさんの提案が無意味になる」
耳を済ましてみると、ボソボソとした声らしき物音が壁越しに聞こえる。まだカナカさん続けてるの?
その場で転移の石を使ったので、その声が途切れる前に何とか抜け出すことには成功した。いつの間にか、メインがギルドホームレベルからエンブレムに切り替わっていたけど、楽しいから別にいいかなって、そう思った。
「SF」の人気作品
-
-
1,797
-
1.8万
-
-
1,274
-
1.2万
-
-
477
-
3,004
-
-
452
-
98
-
-
432
-
947
-
-
432
-
816
-
-
415
-
688
-
-
369
-
994
-
-
362
-
192
コメント