極寒の地で拠点作り

無意識天人

二人のお礼


「あっ、来た来たー!」

「おねーさんたちー!」

その通りに入った時、丁度私達を奥から手を振りながら呼ぶ声が聞こえた。ウィアちゃんとルミナちゃんだ。

私達はダンジョンを抜け出して街に着いてから、肝心の報酬の受け取り場所がわからなかった。なので、とりあえずクエストの流れ的にここだろうということで、二人の近所のおばさんが居る所に足を運んだ。
案の定二人はそこに居てイベント発生。眠そうにしてた時とは違って、今こうして元気な声で叫ぶ様に呼んでくるのである。

「どうしたの?」

「あのねあのねー」

「おねーさんたちに迷惑かけちゃったし、その、お礼がしたいなって」

「そんな、別に大丈夫だよ」

一応形として断っておく。何言ってもNPCだから報酬は結局受け取れるだろうけど。
あ、別にこれで良い人アピールして報酬沢山受け取ろうなんて思ってないからね?

「ううん、受け取ってー」

「わたしたちからの気持ちだからー」

と、言われて手渡されたのは、不思議な模様の枠で『特別待遇』という文字が囲われた一枚の紙だった。丁度、千円札とかぐらいの大きさでチケットっぽい。

「それはとくべつたいぐー券だよ!」

「るーちゃんのお家はびよーいんだからね!」

それからの二人の話を要約すると、どうやらこの券は美容院解放ってだけじゃなく、その美容院で髪色とかを変える際に必要な素材をこっちで用意しなくてもよくなった上に、必要なゴールドを半分まで減らすという破格な代物であるらしい。それに期限は無期限で幾らでも使えるということだった。

素材を集めなくてもいいところが凄く良いと思う。このアップデート前から髪色が違う人は色系の素材を沢山集めなきゃいけなかったっぽいし。
言わなかったけど、リザはあの団長から偵察の時に少しでも繋がりを悟られない為にと染めさせられたらしい。その素材集めも一人でやらされたみたいだから相当大変だっただろう。

変わった今は一つ集めてくればそれでいいらしいけど、それすらしなくてもいいというのはとんでもなく手間が省けて良い。

ここまでの効力だと、当然、こんなの貰っちゃっていいのかな…………なんて思っちゃうけれど、あんなダンジョンに呑み込まれたんだし、妥当な方なのかもしれないので何とか納得しといた。
そして何よりテンション高めだったのは、

「確かこの美容院って、髪の長さも長いのから短いのにするだけじゃなく、短いから長いにすることも出来るんですよね!」

「リンちゃんすっごい嬉しそう」

「来る前から楽しみにしてましたからね」

リンちゃんが言うには、美容院と言っても散髪する訳じゃなくて髪型とか指定して、どうやるかは知らないけどパパッとやっちゃうみたい。

「早速やっていく?」

「元の髪型に戻すのはタダだからねー」

「どうする?」

「うーん。まあ、面白そうだしやってみようか」

そうして早速、特別待遇券を使ってみることになった。二人に連れられて店の中に入る。内装としてはリアルのとあまり変わらず、無いのは洗面台
とか椅子とか理髪用具……って殆ど無いね。
まあ、あるのは鏡と待合室とそれから謎の円筒状の怪しい装置くらい。多分これでやるんだろう。
あとは…………あれ?

「ねえ、ウィアちゃん。お店の人は?」

「…………?」

キョトンとしてる、友達のウィアちゃんでもわからないのかな。いや、違うか。NPCだから流れ通りのことしか話せないんだ。確かお店の名前も『ルミナの美容院』ってニュアンスだったから、あまり気にしなくていい、そういう設定なのかもしれない。

「で、誰からやる……ってもう決まってたね」

クスッと、ハープが笑う。

「はい! 私やります!」

「はーい。ではこちらに入ってくださーい!」

元気良く返事をして、お仕事モードに入ったルミナちゃんに促されて装置に入る。

「そうしたら、そちらのウィンドウで髪型と色を選んでください」

「はーい」

リンちゃんの声は装置越しでもわくわくさが伝わってきた。そんなになりたい髪型とか髪色とかあるのかな。

「出来ました!」

間を置いて、リンちゃんの声が響いた。
 
「それではフードを取って、びしっ! と立っててください。ちょーっとだけ眩しいかもしれないので、目をつぶっててくださいねー」

「わかりました!」

すると、ルミナちゃんがその装置の外側にあるパネルを弄り出した。直後、大丈夫なの、って言いたくなるくらい装置がガタガタ言い出した。暫くすると動かなくなったので、多分これで完了なんだろう。そして、プシューという音と共に扉が開く。

「ど、どうでしょうか……」

照れながら私達に姿を見せてくるリンちゃんが、ピンク色の超がつくほどの長い髪を靡かせて装置から降りる。

「すごいね」

「すごいよ」

「……すごいな」

私達三人、これ多分微妙に違う『すごい』だと思う。私は、可愛いってのとすごい髪長くしたね、って感じ。ケイ君に至っては……抑え込もうとしてる、この変な表情から察するに多分可愛いオンリー何じゃないかな。いやほんと、こっちもすごい顔してるよ。

「さ、鏡どうぞー」

「わぁー……すごい……でも、嬉しいです。ふふふっ」

「気に入った?」

「はい! リアルじゃ、こんな髪だと大変なので。一回やってみたかったんです!」

リンちゃんは小さい頃やってた女の子が主人公の、所謂魔法少女ものでその主人公がこんな感じの髪型だったので憧れてたそう。夢が叶って良かったね。

「他の皆さんもやってみますか?」

リンちゃんを見て癒されているとルミナちゃんが今度は私達に聞いてきた。

「どうする?」

「お金は有り余ってるし、大丈夫じゃない?」

「じゃあ皆一回ずつやっちゃう?」

「一回ずつと言わずもっとやっちゃおう!」

「おっけー! じゃあ次、私ね!」

そうして私達はイメチェンにイメチェンを重ねた。ケイ君にしては装置に入っては出、入っては出を繰り返す私達を見て半ば呆れて半ば面白そうに見てたけど、途中ハープが巻き込んで金髪のロン毛にしてもらった時は凄く笑った。そこからはヤケになった様でネタに走りまくってた。ハープはリザっぽく白髪にしたり、髪を伸ばしたりしてた。
私は金髪とか銀髪とか白髪とか色々…………そこ、ユズには『変装』があるから必要無いだろ、とか言わない。変装の方は全部私の想像だから、髪型とか変になっちゃったりするし。
逆に言えば自由度高いんだけどしっかりしてないと失敗しちゃうから、ちゃんとやるなら美容院でやるのが一番だ。

それで結局、

「満足頂けたでしょーか!」

「はい。ありがとうございました!」

「あれだけやったのに結局こうなるんですか」

いつもの髪型が一番良いということで元の髪型に戻してもらった。

「楽しかったからいいよ」

「ケイ、面白かったよ。っはは!」

「あー、もう……忘れてください」

ハープに言われて恥ずかしがるのはケイ君だ。今、頭の中は恐らく、数々の変な髪でいっぱいになってることだろう。可哀想だけどケイ君、面白かった。だからきっと忘れないよ、ごめんね。

そうして私達はお見送りしてくれるルミナちゃんとウィアちゃんに別れを告げて店を後にした。

「良い子達でしたね」

「うん。NPCなのが惜しいくらい」

「いつかまた行こうね」

「はい!」

楽しい思い出も出来たし、クエストも完全に完了したし満足満足……って、何か私達忘れてない? 最近物忘れ凄いんだよね。うーん、なんだっけ。

「まあいっか!」

「ん? ユズ、どうしたの?」

「ううん、何でもないよ!」

「変なユズさんですね」

「こら、リン。ユズさんが変なのはいつも……」

そうケイ君が言いかけた所で杖の先で手を叩いてみる。

「何か言ったかな」

「い、いえ何も!」

「あはは。ケイ、ざまぁないわね」

ケイ君にはすこーし脅す程度で許しておいた。今日は何故だか疲れたけれど、凄く楽しかった。平和っていいね。

そうして私達はやるべきことを終えたので、ログアウトした。って、あれ? やるべきこと? 何か引っかかる。
どうして美容院に行ったんだっけ。ウィアちゃんとルミナちゃんに会ったから? そうじゃなくて、いや合ってるんだけど。
そこじゃなくて……報酬を貰うため、その報酬はウィアちゃんの人探し。人探しで見つかったのはルミナちゃん。ルミナちゃんは何処で、何処で…………あっ!

「そうだよ、ダンジョンだよ! ダンジョン行くんだよ!」

「柚葉? いきなりどうしたのよ」

「あ、ううん……何でもないの」

いつの間にかリビングにまで来てたらしく、そこに居たお母さんに心配されてしまった。完全におかしな子だよ、私。

でもどうしてこんな大事なこと忘れてたんだろう。覚えてるのにも簡単なことなのに。多分笑ったりして疲れたんだろう。そう思うことにして、今夜は早めに寝ることにするのだった。

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