極寒の地で拠点作り
完遂したけど……
「い、たくない……?」
前回イベントの件もあってか、浮遊感にはあまり良い思い出は無い。
でも、今回の落下は崩れた訳でもなければ着地の時に何故か痛い思いをしなくて済んだので、不快感は浮遊についてのみだった。
「大丈夫ですか?」
「うわあっ!」
「ええっ!? 声掛けただけなのに……」
嫌な思いはしなくて良かった、と安心した時に声を掛けられたものだから過剰に驚いてしまった。
「あはっ。ケイ、驚かれてやんの」
「俺は普通に声を掛けただけですよ」
その声の主はケイ君で、それを笑うのはハープ。良かった、今度は皆一緒だ。
「安心したよ。皆バラバラになっちゃってたら嫌だから」
「ええ。恐らくこれ、トラップだったのでしょうから、別々の所じゃなくて真下に落ちたのは奇跡ですね」
「でも変な所だよね。上でのこともそうだけど、破壊不可になっててそれやったら一人ずつ落とし穴作動、からのこの…………柔らかい地面?」
「そういえば、そうだね……柔らかい」
「見た目に合ってないです。そのお陰で勢いが吸収されましたが」
地面を改めて触ってみるとゴツゴツした見た目なのに割とふわふわしてて変な感じだ。
「すぅ……すぅ……」
「それにしてもさ。ウィアちゃん、こういうストーリーとは言ってもよく起きないね」
「いや、それよりもケイ君だよ。よく落とさなかったね」
「身体の向きがあまり変わらなかったのが幸いでしたね。お陰で後は着地だけでした」
かなーり今更なもので、今まであまり気にしていなかったけれどふと気づいた。偏見になるけど、ケイ君ってなんか杖使いのイメージと違って良く身体動かせるよね。体力あるし。今だって突然起こったことだし、落下から着地までもそんなに時間がある訳でも無いのにそこでしっかり対応してみせた。私なんて尻餅ついたっていうのに。
多分リアルでは運動神経良いんじゃないかな。まあそうじゃなきゃ、件の飛び込みでああは決まらないね。
「ところで」
「うん。言いたいことはわかるよ」
「というかこれ、最初に話題にするべきだったと思うのだけれど」
「すぅ……くぅ……」
「ぐぅ……むにぃ……ウィアちゃーん……」
さて、今ここには二つの寝息が響いている。ウィアちゃんだけの物ではない、もう一人分のソレだ。発生源はすぐそこ。目と鼻の先で眠るのは紫色の髪を持った少女からだ。
見た所だいたいウィアちゃんと同じくらいの歳っぽいし、こんな所で寝る様な女の子がホイホイ居たら堪らない。とすると、ほぼ確定だろう。
「ウィアちゃんと呼ぶからにはこの子がそうなんでしょうか」
「とりあえず起こしてみようよ」
「ここで『眠る少女②』なんて来ないといいけどねぇ」
「ハープさん、冗談でもそんなことは……本当になっちゃったらどうするんですか」
そして、新しいクエストなんて来ないよう祈りながらルミナちゃん(仮)を揺さぶる。
「おーい、起きてー」
「むぅ……なぁによぉ、ウィアちゃ……んじゃない?」
「本人はここに居るけどね」
フラグ回収なんてすること無く、無事その少女を起こすことに成功した。
「あっ、ウィアちゃん! どうして寝てるのよー、私待ってたのにぃ……ほら起きてー」
今度はケイ君におんぶされるウィアちゃんを揺さぶり始めたので、一旦ふかふかの地面に下ろしてもらうことにした。
「もう少しぃ……って、るーちゃん?」
「そうよもー、隠れんぼウィアちゃんが鬼でしょー?」
「あー、ごめんね。森の中って静かで風が気持ちいいからウトウトしちゃって寝ちゃったの。ごめんね」
「ううん、大丈夫。私だって寝ちゃったから」
「じゃあ今度は鬼ごっこやろっかー!」
「さんせー!」
「あっ、ちょっと!」
仲直りしたウィアちゃんとルミナちゃんは次は鬼ごっこをするということで、ケイ君の制止も聞かずに走っていってしまった。
「それにしても元気だねー」
「なんだか小さい頃を思い出すね」
「あー、懐かしいね」
私とハープの家は少し離れているものの、幼稚園の頃、近くの公園によく集まって遊んでいたら自然と仲良くなった感じだった。鬼ごっこしたり隠れんぼしたり砂場遊びしたり滑り台滑ったり、上げてったらキリが無いくらいで全部良い思い出だ。
「二人共! まだクエストは達成していません! つまりこれは外まで見送ってやらないといけないのでは!?」
懐かしい思い出に浸っている所に水を差してきたケイ君だったけど、言うことは確かにそうだったので従ってさっさと追いかけることにする。
「あ、居たっ」
「良かった。あ、角曲がるよ!」
ウィアちゃんがルミナちゃんを追いかけて手を伸ばす形だったので、もう鬼ごっこは始まっているのかも。そんな時、二人が角を曲がった所で聞き覚えのある声がした。
「きゃっ!」
「え? この声は…………」
元から急いでるけど更に急いで駆け寄ってみれば、ウェーブのかかった茶髪の少女が座る様な形で倒されていた。
「リンちゃん! どうしてこんな所に……」
「あ、す、すみません! あ、あのユズさん達のアイコンが急に…………」
「リン、悪い。とりあえずウィア達を追うぞ」
「えっ? あれっ? 合流出来たんですか!?」
「ああ、だがクエスト完了はしていない。何だったらお前のことも背負っていってやるぞ」
「ふぇ? だ、大丈夫です!」
自分よりも小さい女の子がおんぶされていたのを思い出したからか、リンちゃんは慌てて断った。もっと遠くに居た筈のリンちゃんがここに居る理由は後で聞くとしてとりあえず追いかける。
暫く進むとY字路になっている道に通りかかった。何か立て札が立っていたけれどあまり気にしていられず片方の道に入っていったので何が書いてあるかはわからなかった。きっとリンちゃんはここら辺から来ただろうから見ていると思う。それも後で聞こう。
「あっ、あの穴に入っていきます!」
「入ればいいのね」
そうして二人が潜っていったのは丁度小学生の子達が通れるぐらいの穴でリンちゃんとケイ君はどうにかなったけれど、私とハープは屈んでいかないと無理だったので、とりあえずリンちゃんとケイ君が前に行ってもらうことにした。
「きゃはは!」
「待て待てー」
「ん? 光が……」
フラッシュの光が目立たなくなる程の光だったのでこれは多分外に繋がっていたんだろう。そういう設定とはいえ、あんな小さな女の子がよくダンジョンの抜け穴なんて見つけたね、と思う。
そうして体勢のキツい私達もお構い無しに先に穴を抜けていってしまった女の子二人の後を遅れて抜けるとそこはスタート地点によく似た崖の一部だった。
「あっ、あれ? ウィアちゃんとルミナちゃんは……」
『クエスト完了』
辺りを見回してみても居なかったから、見失っちゃったと思っていたらクエスト達成のファンファーレが響いたので安心した。これでクエスト完了なのだろう。
「うーん。それにしても、何だか腑に落ちないというか、締まらないというか」
「ダンジョンに向かわされてダンジョン攻略か、と思わせた所でクエストほぼ達成でしたもんね」
「そのダンジョンも変だったし、最後立て札のある分かれ道の片方も気になるし。不完全燃焼って感じだね」
「あ、あの今回はすみませんでした……」
私達が愚痴を漏らす中、リンちゃんは一人、ぺこりと謝ってきた。
「いいのいいの。悪いのはこの二人だから」
「いえ、でも……」
「大丈夫だから、ね?」
「そう、ですか?」
その『ね?』の時、一瞬だけ私とケイ君の方へと目が向いた気がした。その眼光と言ったらもうヤバい。まだ許されてなかった。
完全に忘れてたけど不意打ちが来るんだよね。でも逆に警戒させちゃうだろうから、今思い出させることやってきたってことは多分この後はやってこないと信じたい。いつやってくるんだろ……こわい。
「で、この後どうする?」
「って言っても一つじゃない?」
「そうね。じゃあ早速ダンジョン攻略! と、言いたい所だけど」
「疲れました……」
ケイ君が挙手してそう嘆く様に呟いた。そうだよね、ずっと女の子一人背負ってたんだもの。そりゃ疲れる。
「まあそんな訳だからさ。街に戻って今日はもう休もう。それにまだクエスト報酬貰ってないでしょ?」
「そういえばそうですね。『???』になってます」
「ではまずそっちからですか? 多分アレですよ! 私、楽しみです!」
さっきまでとは打って変わってはしゃぐリンちゃんに癒されながら、街でのログアウトついでに報酬を受け取りに行くのだった。
その道中でも、リンちゃんがわくわくしている様子がどうにも愛らしくてとっても癒された。もう和みの館の由来、リンちゃんからで良いかもしれない。
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