極寒の地で拠点作り
手掛かり
「おっ、見えた見えた」
「やっとですか……」
「あと少しの辛抱です!」
森を抜けて丘の上に見えた第二の街は、白が基調の最初の街に比べて赤、青、緑とカラフルな建物が並んでいる様だった。
「すぅ……くぅ……」
「それにしてもよく眠るよねー」
件の少女は、最初に起きたのはどうしてだろうと思うくらいにはぐっすり眠っていて、途中戦闘になってかなり揺さぶられただろうに変わらず寝息を立てるばかりだった。
「あの街に本当に居るんでしょうか……」
「でもこれが一番手っ取り早いでしょ。クエストなんだからもしかしたら街のNPCから話が聞けるかもしれないじゃない」
休憩は度々していたけれど、それでもずっとおんぶしているケイ君は疲れ気味なトーンでネガティブに言った。
「るーちゃーん…………」
「ふふ。本当にるーちゃんという方と仲良しなんでしょうね」
「とっとと押し付けちゃおうよ」
「ちょっとハープ、言い方…………」
優しげなリンちゃんとトゲのあるハープとのギャップで余計にドライに感じるけれど、そういうクエストなのでハープの言う事も別におかしなことではない。
そうして私達は一人の少女を連れて目的地へと到着した。やはり既に開放されて一週間程度経っているせいか、それなりの人数で道はごった返している。
「さーてと、どうする? 手分けして探す?」
「良いと思うよ。ケイ君は私かハープ、どっちかに付いた方がいいよね」
「はい。そっちの方がこの子の護衛的な意味で助かります」
ケイ君が態々事細やかに言ったのはリンちゃんを傷付けない為だろうか。それこそリンちゃんに言ったとしても多分大丈夫と言うことでも配慮してしまうのはやっぱりあの出来事のせいなのかな。
「じゃ、私とリンちゃん。ユズとケイとその子でおーけい?」
「大丈夫です!」
「私もだいじょぶだよ」
「異議無いです」
「わかった。それじゃあ、私達はあっち。ユズ達はそっちお願いね」
「りょーかい。何かあったら連絡宜しく」
また後で、とお互いに手を振って私達は二手に分かれる。
「よーし、ケイ君。張り切って行こー!」
「お、おー! って何でそんなテンション高いんですか…………」
若干乗り気じゃ無さそうに腕を突き上げながらケイ君は言う。だって面白そうじゃん、こういうタイプの人探しってさ。
「それじゃ早速」
「あ、あれ? その人、NPCじゃなくないですか?」
その辺に居る人に声を掛けようとすればケイ君がそう指摘してくる。
「うん。ハープはああ言ったけどNPCが確かな情報を持ってるだろうって言っただけで、プレイヤーに聞いて回るのが非効率だとは言ってないでしょ?」
「ああいや、そういう事では無くてですね……」
「もう、いいのいいの! 数は圧倒的にプレイヤーの方が多いんだから……すみませーん!」
「あ、ちょっとユズさん!」
どういうことか、私を止めようとしてくるケイ君を振り切って壁に寄りかかっている杖使いっぽいプレイヤーの女の人に声を掛ける。
「えっ? 私?」
「すみません。あの、ちょっとお尋ねしたいことがありまし「ほ、他を当たって下さい!」……え?」
声を掛けた時は突然の事に驚きながらも柔和な表情であったものの、途中から何かマズい物でも思い出した様に顔が青ざめ始めて声を上げて後ずさりされた。
「あ、あの!」
「ひっ!」
そして悲鳴を上げて急ぎ足で去っていったのだった。なんかデジャヴ。
「だから言ったじゃないですか」
「どういうこと……って、まあだいたい理解したよ」
「ユズさん。悪い方向で有名人なんですから、もうちょっと考えて行動して下さいよ」
わかってた筈なのに、ド忘れしていた。うん、まあ……残念?
「あはは……ちゃんと後先考えてたんだけどね」
何処がですか、と呆れるケイ君。でもほんとに考えたつもりだったんだよ? さっき言った様にプレイヤーもアップデート一週間後だからそれなりに数は多いから効率は悪くないと思った。
だけど目先の事を考えてなかった。やっぱり何とかなるでしょ精神もそうだけど、大丈夫大丈夫精神の方もかなり染みついちゃってるね…………ともあれ反省反省っと。
「もういいですから。とりあえず移動しましょう。ユズさんについてまた変な噂が流れても仕方ありませんから」
周りを見てみれば、今の騒ぎをリアルタイムで見ていた人達と何だ何だと集まる野次馬でちらほらと取り囲む人数が増え始めていた。
ケイ君に背負われているこの子を見て、『恐怖の魔女は子供を攫って非人道的な実験の材料にする』とか突飛な噂が流れても得しないので、言う通りに駆け足で人と人の間を縫う様にして路地に逃げ込む。
因みに私に関しての変な噂というのは、今言った様なニュアンスの物が多い。また、というのもちょくちょく耳にするもので反応に困るくらいだった。例えば、
『恐怖の魔女はある程度歳を取ると、攫った生娘の血を飲んで永遠の若さを手に入れているらしいぞ』
とか
『あんな容姿だが現実世界の裏世界で生活していて、私利私欲で人を殺すこともあるらしい』
とかとか……っ
『ああ見えて、男のソレに興味津々でちょくちょく街へ出て男を攫っては食っているらしいが、気に食わなければ別の意味で食われるらしい……だけど俺、ちょっと攫われてみたい』
とかとかとか! 滅茶苦茶失礼な噂を頻繁に聞くんだよね。私は生娘の血を好んで飲んだりしなければ人を殺したりもしない。それにその…………経験も無い、立派なただの純粋な少女なんだから!
「だよねっ! 私って少女だよね!?」
「わっ! びっくりした…………ユズさんは何の変哲もないと言ったら語弊があるでしょうが、立派な少女ですよ。でもそれがどうしたって言うんです?」
良かった。思い返して思わず必死になって声に出てしまったけれど、私は確かに少女だったらしい。中身はお婆さんとかそんなことは無かった。
「でもさケイ君。語弊がある、ってどういう意味?」
「それはまあ、自分の胸に聞いてみて下さい?」
「うっ……」
心当たりがあるというか、そういうことがたった今あったばかりだから反論出来ない。悔しい。
気を取り直して、切り替えてNPCに声を掛ける。NPCはだいたい最初の辺りで当たりか外れかがわかるのでやりやすい。ただ、柄の悪い人達に知ってそうな素振りを見せられて締め上げても、NPCだから意味が無いのが結構大変。
そんな中、女の子に反応するNPCを中盤ぐらいであろう頃合に見つけられたのは運が良かった。
そのNPCというのは、少女とるーちゃんのご近所さんを名乗る女性だった。
「あらー? その子、ウィアちゃんじゃないの!」
ここでわかったのは、この女の子は『ウィア』という名前だということ。それから、るーちゃんの家は美容院だということだった。狙った訳じゃないけどこれは丁度良かったと思う。
けれど、これで終わった訳ではない。まだ少女、もといウィアちゃんは起きてくれないのである。
「『手掛かりになりそうな事、見つけたよ』っと」
とりあえず、一旦ハープ達に連絡を取ってみようと思う。時間も経ったと思うし、あっちも何かしら情報を手にいれられたんじゃないかな。すると、間髪入れずにメッセージが送られてきた。
「何と言っているんです?」
「んとね、『こっちも良いの見つけたよー』だってさ」
「へえ。ウィア本人が居ないのによくやりますね」
ケイ君もそろそろキツいだろうから、向こうの二人がこっちに来てもらうことにして待つ。暫くすると、わかりやすい格好の一人がきょろきょろと周りを見回して私達を見つけると手を振ってこちらに歩いてきた。
「結構距離あるね……」
「ですね。人も多かったですし」
「お疲れ様。で、こっちはこの子の名前とるーちゃんの家についてだけだけど、そっちはどうだった?」
「うん。えっとね、こっちの反対側、つまり北側だね。で、そっちの方でNPCの男の子達が『ルミナもウィアも凄いよなぁ。化け物がうじゃうじゃいる森なんかでいっつもかくれんぼするんだからさー』って言ってたのよ。偶然通りかかった所で耳にしただけだけど、森の中って言うからもしやと思ってね」
ウィアという名前が出てきたことに、私とケイ君は顔を見合わせる。
「あれ? もしかしてビンゴだった?」
「うん。そのウィアって子、この子のことだよ」
「なのでルミナもウィアの言う、るーちゃんのことだと思います」
へえ、なるほどなるほど。あの森の真っ只中に居たのはかくれんぼしていたからなのか。と、すると…………
「ってことは、もしかしてルミナちゃんはまだ森の中ってこと?」
連れてきてしまったけれど、大変なことをしてしまったかもしれない。でもまあ、雰囲気壊すみたいで言いたくはないけど、そういう進行のクエストだから敵モンスターに食べられてるとかそういう後味の悪いことにはなってないと思う。というか信じたい。
「違う違う。ごめん、言い忘れてたけど、話には続きがあってね? その後追いかけて聞いてみたの。そうしたら、『ルミナの奴、今度は森の近くの洞窟に隠れるって話だ。あっ、姉ちゃん。この話はウィアには内緒だからなっ』らしいよ」
「つまりその洞窟にウィアちゃんを連れて行けばいいということみたいです」
リンちゃんが話を要約してくれた様に、恐らくこのクエストはウィアちゃんをルミナちゃんに会わせれば完了だと思うから、その洞窟に行けば解決すると思う。
「それでその洞窟というのは?」
「うん。ちょっと地図開くよ」
ウィンドウを開くと、ハープの指が地図の上をぐるぐると円を描く様に回る。
「あっ、ここだよ、ここら辺」
「何処?」
第二の街付近を拡大した地図の西側の森の北側の方。山と森の境目くらいの所をハープは指差している。まあ幸運なことに、神様の言った例のアイテムの在り処と重なってはいなかったのでそこは良かった。
目立つ問題と言えば、
「もしかして…………また?」
「うん、残念!」
「そんなぁ……」
ケイ君が引き続きウィアちゃんを背負って歩かなきゃいけないということだった。
「まあまあ。とりあえず、行ってみるだけ行ってみようか」
「キツかったら戻ってくればいいしね」
「その戻ってくれば、の時も俺が背負ってるんですよね」
「頑張って下さい!」
絶望顔のケイ君がリンちゃんに励まされて顔がほんの少し緩む。多分、この後のケイ君の気力はリンちゃん次第だね、これ。
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