極寒の地で拠点作り

無意識天人

谷底の洞窟

いつもは、幅の狭い所を通って渡る川を、そのままカーブに沿って南下する。
そのカーブを曲がると、すぐ森に入るので茂みをかき分けながら進む。
暫く進むと、道が二つに分かれた。

「これは、こっちかな」

「そうだね。右側の急な坂を登っていったら山の上だし、左側は谷底の河原っぽいからね」

「それにしても良かったですね。谷底が全部川じゃなくて」

「滝とかも無さそうですしね」

「だね。じゃあ、行こっか」

それからは、嬉しいことに道中は基本ちょっとした坂程度で済み、少し険しくなっている所はそこを迂回する様に登れる道があったので助かった。
暫く進むと、足元が岩場っぽくなってきて石がごろごろしている所に着いた。私達のすぐ右側は断崖絶壁、対岸の方も断崖絶壁だ。
つまり私達は既に谷の底にいることになる。

「うわぁ…………た、高いですね」

リンちゃんが下から上にかけて見上げていってそう呟く。確かに、こんな光景はゲームならではの物だ。

「店主さんはこんな所にまでわざわざ来るんだよね」

「うん、でもなんでこんな所にまで来れる人が行方不明になるのかな…………まさか」

「ハープさん、止めておきましょう。NPCでイベント上の演出とはいえ、崖から落ちて血だらけの遺体は見たくないですし」

「……それもそうだね」

ハープはケイ君が言ったソレを想像したのか、微妙な表情になったけど納得した。まあ、イベントの終わり方が店主さんの遺体を見つけてエンドなんてしっくりこないだろうし、そんな終わり方はされないと思う。
いや、でもどうだろう。寧ろそこからが本番で、謎解きが始まったりして…………実は事故じゃなくて誰かに突き落とされたのでした、とか。流石にそれは無いか。まああったらあったで面白そうなんだけどね。

そうして再び前進していると、何やら話し声が聞こえてきた。私達は崖や岩の陰に隠れて様子を窺う。

「おい、団長はまだ戻らないのか?」

「手こずってんだろ」

「あー、暇だ暇だ。もうかれこれ二時間半は経ってるぞ」

「な。ほんと、特殊イベントだか何だか知らないが、こんな所に人なんて来る筈ないのに見張りとかな。マジふざけてるわ」

どうやら、他の参加者達の様だ。
今、ちらっと見えている二人は見張りの様で、その先にある洞窟っぽい穴の入り口の両脇に立っている。

「見張り二人、どうする?」

「ハープ、私やるよ」

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫! ここ足場悪いでしょ? ならハープも大変かなぁ、って」

「うーん、まあ確かにそうだけど。じゃあ今回はお願いしようかな?」

「わかった。じゃ、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

「頑張ってください!」

行ってくるね、とは言ったけど、私にはもうアレがあるので暗転して殴る為に近寄る必要は無い。
私は岩陰から出て、

「『奈落の穴』!」

「え? うわぁぁぁぁ!」

「おい、どうした!?」

見張りの内、右側にいた方が落ちた。
そしてすかさず、

「もう一つ!」

「え? ああぁぁぁぁ!」

久々のお客様だったので、纏めて落とさずに一人ずつ丁寧に落としてあげた。もうね、あの表彰式の時に言ってしまったからにはとことんやろうと思うんだよね。うん。

「よし、完了!」

迅速にやってのけた私はガッツポーズをして、皆のいる方を見る。
すると案の定、陰から顔を出していた。
何気に奈落の穴を皆に見せるのは初めてなんだよね。皆さんの反応は、

「ああ、なるほどね」

と、何かに納得するハープ。
多分、私のあだ名の由来のことだろう。

「ユズさんはやっぱり凄いです……」

と、若干引き気味に言うリンちゃん。
少し悲しい。

「なんか、こう……エグいですね。流石です」

そして最後の「流石です」に何か悪意を感じさせるケイ君。
あの技ってそんなにアレな技かなぁ……?
私は例の如く、浮遊感が売りのアトラクションにご案内してただけだ。何らおかしい所は無い……筈……
そうして見張り二人をダストシュートで焼却、じゃなくて消却して一段落。

「で、ユズが消してくれたけど。入る?」

「でも店主さんがいるとは限らないんだよね」

「で、でも、他に行く所は無いですし、手当り次第捜していった方がいいと思います」

「そうですね。俺もリンに賛成です」

「って言ってるけど、ユズはそれでいいの?」

「うん。別に私行きたくないって言った訳じゃないし」

「よし、纏まったね。早速入ってみようか」

そうして私達はハープに先導してもらって洞窟内を進む。入るとすぐに下り坂になって、そこを下ると三本くらいの分かれ道があった。
流石に暗いので、フラッシュを使う。それにしても、普段闇魔法使ってるからか、光を生み出すことに違和感を感じる。

「ユズ、ありがと」

「うん、大丈夫だよ」

「それでどうする? 手分けして捜す?」

「そうですね。三本なので、俺はリンと一緒に行きます」

「わかった。んじゃ、他の一本を私がやって、ユズが残りね」

「任せといて!」

「それじゃ、行き止まりになったらとりあえずここに戻ってきて。何かあったらパーティの方でチャットね。それから危険だと思ったらちゃんと逃げてくるんだよ? 特にユズ!」

ハープが私に指差してそう言った。

「なんで!?」

「いや、だってこの中で一番AGI値低いのユズだし……」

ああ、そういえばそうだったね。
そんなことをハープが言ったら、二人共こっちを見てきた。

「あれ、そうなんですか?」

「知らなかったの?」

それこそ、リンちゃんとケイ君のステータスは見せてもらってたけど、こっちのは見せてなかったんだよね。こっちも、そういえば、だった。

「大丈夫ですよ、ハープさん。ユズさんなら、何とかやってのけます」

「……それもそうだね」

なんか知らないけど、ケイ君からはちょっとした悪意を感じるんだよね。しかもそれで納得するハープ。

「それってどういう意味?」

「ユズさんなら、逃げずにそのまま倒しちゃうってことじゃないですか?」

「うん。リンちゃん、正解!」

「いやいや! すっごい強いの来たら私無理だよ? 第一、他のギルドの団長さんがまだいるかもしれないし」

一本道なのでここで会わないということは絶対にいる筈なんだけど、何かに遭遇して倒されていることも考えられるので、かもしれないを付けた。

「ほらほら、いつもの『何とかなる』はどうしたの?」

「ハープ、前に私の『何とかなる』は信用出来ないって言ったばっかじゃん……」

「あはは、そうだっけ?」

「そうだよ!」

あはは、と笑い続けるハープ。

「……じゃあ、そろそろ行きますか」

「うん、そうだね」

「さっきも言ったけど危なくなったら逃げてきてね。何とか出来たら何とかしていいけど」

何とか~の所でハープは私を見てくるけど、無視しておく。

「じゃ、各自、それぞれの持ち場に!」

「うん!」

「わかりました」

「今度は死なないように頑張ります!」

そうして私達は分かれて、別々の道へ進んでいく。ハープはいいとして、リンちゃんとケイ君が心配だ。年下だからってのもあるのかもしれないけど。
あと、気づいたんだけどハープって魔法使えないんだよね。魔法使えないとすれば勿論、フラッシュなんて使えないからハープは今、真っ暗な中、真ん中の道を進んでいることになる。まあ、暗闇なんて慣れっこだろうけど。
十五分くらいぐねぐねとした一本道を進んでいると、何やら人の気配が…………あれ?

「え、ハープ?」

「えっ? あれ、ユズ? なんでいるの?」

「ハープこそ、どうして?」

どうやら、真ん中と右側の道は繋がっていたようで実質、分かれ道は二つだった様だ。

「と、いうことは?」

「うん、リンちゃんとケイ君の方だね。少なくとも、あのギルドの団長さんと遭遇する可能性があるから、早く行ってあげないと」

「そうだね。とりあえず、連絡を……」

パーティのチャットで、今からハープとそっちに行くといった旨を伝え、返信を待たずに私とハープは元いた分岐点を小走りで目指す。
十分程で戻ることが出来たけど、二人からの返信は未だに無い。やられてたらやられてたでギルドホームに転送されている筈なので、何らかの理由で今、話が出来なくなってるんだろう。
それなら、そこに行って状況を知る必要がある。
二人に何か起きていることも拭いきれないからね。

「ユズ、行くよ!」

「りょーかい!」

そんな訳で私達は左側の道を進む。
道の様子は左側や真ん中と同じくグネグネしていてあまり変わらない様子だった。

その曲がりくねる道を同じ様に進むと、何やら広さ的にも高さ的にも巨大な空洞に着いた。そこは何故か全体的にぼんやりとした明るさで不気味さを漂わせていた。

「リンちゃん! ケイ!」

ハープが必死そうに叫ぶ。
二人を奥に見つけたのだろうが、何故そんな声で二人の名前を呼ぶのか。それはすぐにわかった。

「は、ハープさん! 来ちゃ駄目です!」

私がその声のした方を見ると、確かにリンちゃんとケイ君が立っている。二人共、杖を構えて目の前のソレを見上げながら…………

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