極寒の地で拠点作り

無意識天人

防衛について


「それで、具体的にはどうすれば?」

「ああ、それなんだが」

私達が最初に伺った日はブラストさんが不在だったので、いらっしゃる日に改めてお伺いすることになった。それで、今日がその日で既に騒乱ノ会ギルドホームの中なんだけど、この前の客間じゃなくて会議室で話し合うことになった。

「まず、ハープちゃん達のギルドとはこの問題が解決するまで臨時の同盟関係を結ぶ……それはいいか?」

「はい、問題無いです」

私とリンちゃんも同様に頷く。
これで私の思った通り、『騒乱ノ会』と『和みの館』は同盟関係となった。
こんな時だけど、なんか同盟ってかっこいいよね。名前は、言ってみれば『騒和同盟』になるのかな? うん、なかなか良い名前だと思う。

「ということで、両ギルド承認の下で俺達は正式に同盟関係になった訳だが……今後の話だったな」

「はい」

「そうだな……偵察とか戦闘行動を共にしてもらうことくらいか?」

ブラストさんは隣に座るシェーカさんに確認を取る。

「ええ、それぐらいよ。あ、戦闘行動って言うのは今の所、拠点防衛だけよ」

「シェーカの言う通り拠点、要するにギルドホームを相手の攻撃から守ることだ。一応聞くが、特にちょっかい出されたりしてないんだよな?」

「はい、大丈夫です」

あの日は客間の魔法陣から外に出た後、騒乱ノ会の庭から直接、転移したからつけられてはいない筈だ。でも、それも帰りの話だからあっちからこっちに来る時はかなり警戒して来てる様にはしてる。それでその時、神様に事情を説明したら、

「私を誰だと思っている?」

なんて言い出して張り切り始めちゃったものだから、私達は安心して外出することが出来る。
具体的に言うと、神様曰く小迷路の落とし穴増やした、だとか闇の濃さ十倍にしたから精神へのダメージ十倍だぞ、はっはっは、とか言ってた。因みに、侵入者が来た時には私達に知らせてくれるというので更に安心して任せることにした。

「なら良いんだが……ああ、そうだ。ついでに話しておこうか」

「……?」

「ハープちゃん達はギルドがどういう形で占領されるか知ってるか?」

あ、それ神様に聞くの忘れてた。あまりにも自信満々に「私は闇と混沌の神、アフィポスだぞ?」とか言う様な勢いなものだから仕方無かった。というか実際、言ったんだけども。

「いえ、知りません」

「私も」

「私もです……」

「そうか、それなら説明しよう。まず、ギルドリーダーを倒せばいいって訳じゃないのは、俺がこの前不在の時に知ったことだろう。ではどうしたら占領することが出来るのか……ついてきてくれ」

ブラストさんとシェーカさんは席を立ち、扉に向かう。私達はその後に続く。相変わらず部屋の多い廊下を進み角を曲がったり、時には隠し扉を抜けてようやく辿り着いたのは、何処か見覚えのある感じの広間だった。

「ここは……?」

「ここはギルドの中心部、それからギルド防衛での最重要部屋だ」

「あれ? この部屋なんか見たことある様な気がするんだけど」

「あ、やっぱりハープもそう思う?」

「うん、リンちゃんも?」

「わ、私もそう思います!」

「そりゃそうだ。何処のギルドホームにもある筈だぞ? この部屋とか、この……」

そう言って部屋の中央へ向かったブラストさんは、ポン、ととある物体に手を置いて、

「石像とかな」

「あっ!」

なんで忘れてたんだろ。いつもの広間じゃん。
でも、あの休憩兼雑談スペースがどうして最重要部屋なのか……まあ、そうしてるのも私達だけかもしれないから何とも言えないけど。
そんなこと言ってるとリンちゃんが、

「あ、あのぅ……」

「どうした?」

「あ、いえ、ブラストさんじゃなくて……」

「は?」

「石像さーん?」

石像に向かって話し始めた。
その光景は二名を除いて、ここにいる人にはおかしな行動に見えるだろう。

「何、してるんだ?」

「あ、あれ? ユズさん、この石像さん喋りませんよ!?」

そういえば、リンちゃんとかシェーカさん達に私達のギルドホーム自体のことを話すの忘れてた。意外だったのは、シェーカさんもブラストさんも裏ツリーのことは知らないっぽいことだ。ハープと私は何となく、私達のギルドホームが異常だって気づいてたから話しかける様な真似はしなかった。
とりあえずリンちゃんに教えてあげよう。

「あー、リンちゃん。なんかすっごく言いにくいんだけど……」

「は、はあ」

「普通は石像喋らないんだよ?」

「え、ええっ!?」

リンちゃんはそんな衝撃の事実を耳にした瞬間から、みるみるうちに赤くなっていき俯いてしまった。ああ、イベントの時の私もこんな感じだったんだろうなぁ……。

それから、ここにいる殆どの人が訝しげにしてるけど、敢えてどういうことかは言わないでおく。ブラストさんとかシェーカさんにも言わない、私達だけの秘密があったっていいんじゃないかって思ったからね。それをジェスチャーで口の前に指でバツ印を作って伝えると、こくりと頷き返してくれた。

「それで、その石像がどうなんですか?」

「あ、ああ……」

ハープはちゃんと私のジェスチャーを理解してくれたらしく、話を進めるように言ってくれた。流石私の幼馴染み、わかってくれてる。

「ギルドホーム及びギルド自体の占領・征服は、この石像を破壊することで完了するんだ」

「へぇ、そうなんですか」

なるほど、運営もよくやるね。
それなら何処かに移動されることも無く、ちゃんとした感じでギルドホーム防衛をさせることが出来る。

「それで、占領されるとギルドの主導権が奪われる。その後、ギルドから抜けるのも再びギルドを作るのも自由だが、勿論引き続きは不可能。また一からのスタートだ。だから皆、必死で守るんだよ」

「……そういえば、『守る』を中心にブラストさんはやってるみたいですけど、逆に向こうに攻めることは無いんですか?」

「ああ、前に一度攻め込んだんだが」

ブラストさんは周りの団員を見回す。

「なんというか……手も足も出なかった」

「えっ?」

「驚くだろ? 自惚れるつもりは無いが、俺含めた団員はあの時も今もかなり強い自信がある。それが……な?」

ブラストさんはその時の様子を教えてくれた。
まず最初、相手ギルドホームに入った瞬間、目も開けてられない様な眩い光が一面に広がったそうだ。それで目を瞑ったら、一瞬にしてバタバタと倒されていってしまったらしい。
倒される、と言っても倒したらリスポーンしてまた攻め込まれるとの懸念があったのか、囚われそうになったみたい。でもブラストさんは、必死でなんとか出口から出ることに成功した様で他の団員も数名脱出出来た様だ。ただ、まだ残り数名が囚われている模様、因みにこれは今から一ヶ月前の話だそうだ。
それにしても一面の光ねぇ……?

「得意分野じゃん!」

「お、おう……まあそういう理由もあって俺はユズちゃんに期待してるんだがな」

今の所、闇魔法が使えるのはこの世界で私一人。
私の闇がその光に打ち勝てればアドバンテージが取れるけど、その光がただ明るいだけなら呑み込める自信がある。私の闇は暗いだけの物じゃないから。
さっきから闇闇闇闇言ってるけど、『暗転』なんだよね。普段から私の魔法は暗転中心に動いてるものだから、もしかしたら私、暗転にかなり愛着湧いてるのかもしれない。仕方無いよね、Lv.1の癖に滅茶苦茶強いんだもん。

「ただ……」

「ただ?」

ブラストさんは少し悩む様な素振りを見せた。

「全部知り尽くした訳じゃないが、ギルドホームのトラップには一面の光なんて無かった筈なんだよな」

「え? じゃあ、あっちのプレイヤーの光魔法とか?」

「それも考えたのだけど、フラッシュだとそこまでの光度は出せないし、何せ一面のソレだからね」

今度は光魔法の専門家であるシェーカさんが説明してくれた。
杖の一般スキルの光魔法にはそれに該当する技は無いとのことだった。それってつまり、

「……要するに、先方もユニークシリーズ持ち、ということですか?」

「ご名答。ま、私達もそれしかないと考えてるのだけれどね」

私の代わりにハープが答えた。
そう、一般スキルに無ければ特殊なスキルということになる。

「え? でもシェーカさんのも光魔法の延長魔法ですよね」

「あぁ、私のは……なんて言ったらいいのかしら。延長と言うよりかは、光魔法のおまけ魔法群ね。相手方の魔法がどんな物かは三つくらい予想はあるんだけど、一つ目は光魔法の正式な後継魔法だということ……二つ目は」

「あ、すみません。後継魔法って何ですか?」

「ごめんなさい、言ってなかったわね。武器スキルにはレベルがあるでしょう? Lv.10まで。後継魔法というのはその先、Lv.11以降のことよ。恐らく、ユニークスキルで後継魔法を解放してユニークスキルの杖でそれを使っている筈だわ」

ここまで聞いて、私って異常なのかな、って思い始めた。シェーカさんや相手方はユニークスキルで新たに使える魔法を増やして、武器はそれを使う為に用いてる。
ところが私はどうだろう。私の場合、武器である杖で新たに使える魔法を増やして同時にそれを使ってる。魔法自体にユニークスキルは全く関与していない。言ってみれば、この『闇ノ戦棍』こそが闇魔法そのものなんだと思う。
まあ何にせよ、ユニークシリーズとユニークスキルを組み合わせて使ってる他の人よりは、ユニークシリーズのみで使ってる私の方がユニークスキルが他の効果に使われるので、お得なんだろう。

「へぇ。あ、話を遮ってすみません、どうぞ続けて下さい」

「別にいいのよ? それで、二つ目は私と同じおまけ魔法群、三つ目は光魔法とは全く別の……ユズちゃんみたいなパターンね」

つまり、私の闇魔法みたいに一般魔法六種から外れた特殊魔法ということだ。

「一つ目と二つ目はまあ対策は同じ様な形になるでしょうけど、三つ目は少しばかり変わった対策になるかもしれないわね。はい、私の予想はこんな所よ」

「そうだな、俺は魔法に詳しくは無いがだいたいそんな感じだろう」

違う。
シェーカさん達は言い切ったけど、あともう一つ、四つ目がある。これが私達のソレと同じ様な形なら、個人の技である魔法なんかよりもっと大変で、攻略は難航することだろう。
そしてもし、高度な知能を持つ存在が付いていたとしたら…………
そんな私の考えを見透かしてか、ハープが私にのみ聞こえる声でブラストさん達に気づかれないように呟いた。

「裏ツリー……」

「それも、神様の宿る……ね?」

私も同じ様な声で、ハープの言葉にそう付け足して答えた。

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