極寒の地で拠点作り

無意識天人

エントリー


「どう?振り終わった?」

「うん、終わった終わったぁ」

ギルドホームのレベルを3に上げた翌日、神様が言ってた、運営の催しについて街へと向かう前にポイント振り分けを行った。
今回のは、素材集めの四種類分と眷属さん分の経験値が入ってきたので、段々上がりにくくなってきたレベルがこれで5上がって28になった。同じくハープも5上がった様で26になったっぽい。これも大体眷属さんのお陰、判定が狂ったのか私とハープには同じ値の経験値が入った。

「ユズはまたSTRに?」

「また、って何?それを言うならハープだって……」

「私はいいの!AGI強化すればVIT要らないし、ちゃんとそこの所考えてるんだから。ユズは何か考えてたりするの?」

「うぐっ……それは……その時は、暗転すればいいし……ね?」

「MPが無かったら?」

「えっと……叩く?」

はぁ、とハープに溜め息をつかれる。
私だって『魔法使いデビューだね!』とか言ってたのが懐かしいと思えるくらいには、理想の魔法使いからかけ離れてるんだから仕方無い。
闇魔法が無かったら私の性格も相まって、やはり唯の脳筋と化してたんじゃないかって思う。
そして私は話題を逸らす為に、

「そういえば、ハープはもうAGI値、ブラストさん抜いちゃったんじゃない?」

「えっ!?いやいやいや、流石にそれは無いでしょ……あの人のユニークスキル、AGI四倍だよ?」

「そうだけどさ。今のハープのAGI値どれくらいだっけ?」

「えっとね……444だね」

「ゾロ目だけどなんか不吉な数字だね……ってそうじゃなくて!そのくらいなら抜かせてなくても、追いつく程度にはなってるんじゃないかな」

「うーん、でも、始めて五日目の私達と違って、絶対サービス開始からやってる感じだよ!私達なんかよりずっとレベルも高い筈だし……何より私達みたいなのざらにいると思うんだよね、私達でさえ五日目でこれだし」

「それもそっかぁ……」

ハープの言う通りかもしれない。
私達が五日目でこれなら、サービス開始からとか比較的長い期間やってる人達は私達を余裕で越している筈だ。もしかして、STR四桁とか居たりして……そんなことを考えてると突然、

「いや、授けた私が言うのもなんだが、お主ら大分強いと思うぞ?」

「うわぁっ!?」

「神様、居たの?」

「ここを何処だと思っている。我が城だぞ?」

それもそうだ、ここはいつも神様と喋ってる広間だ。
どうもハープと話してると周りが見えなくなる時があるんだよねぇ……まあ悪いことではないけれど。

「話は戻すが、お主らの今の状態は所謂、極振りに近い物となっている様だ」

極振り……シェーカさんが言ってた様な気がする。でも確か、やる人少ないんだっけ?

「そうですかね?」

「そうだとも。例えばお主ら、VITにポイント振っているか?」

私とハープは顔を見合わせる。
勿論、振ってない。なんかもう今更感あるし、どうせならスキルとか追加効果に合わせてSTRに大方振っている。
環境がそうさせているんだから仕方無いよね?

「いや、振ってないです」

「私も……」

「DEXには?」

「……」

DEXと言えば、もう完全に空気だ。
確か生産職っぽい人達が上げるステータスだったと思う。ならVITより必要ない。

「それでいて、ユズ、お主はSTR値がかなり突出し、INT値が比べて少々。ハープはAGI値がかなり突出し、STR値が少々……お主らこれでも自らのステータスが極振りから離れていると思うか?」

「そう言われてみれば……そうかも?」

「そうなのだ。そして極振りをしている人間は極端に少ない、理由は分かるな?」

シェーカさんに言われたことを思い出す。

「確か、リスクが大きいからでしたっけ?」

「ああ、そうだ。この世界は素のステータスのみではやっていけない。そのためのスキルや装備だ、それらはステータスを上げてくれる」

この辺りはシェーカさんも同じことを言っていた。

「だからそれらの恩恵をより受ける為に極振りをする者が出るのだが、大抵は振ったステータス以外が強化されてしまう。それを普通の者はそうならぬ様、どれが強化されても良い様に満遍なくポイントを振る……選んだステータスに良い様にスキルや装備が入れば大成功、外せば大失敗。そんな大きな賭けをわざわざ行って手遅れになっては仕方無い、だから極振りは敬遠されがちなのだ」

「へぇ……」

「最も……お主らは一握り、いや一摘みの大成功の部類に属しているがな」

大成功って……そもそも私達は環境に従っただけで、初めから特定のステータスに振るつもりは無かったんだから賭けた訳でも何でもない、ただの偶然が重なっただけだ。

「まあ、お主らが望んだか否か、賭けたか否かは関係ない。とりあえずお主らは大分強いのだ」

何かさっきから神様が色々言ってるけど、一応その偶然の大きな一歩を作ったのは神様の筈なんだよね。

「まあとりあえずそれはお世辞として受け取っておきますね?」

世辞では無いのだが……と神様が呟く。

「そのブラストとやらがどれだけのAGI値なのかは分からんが、文字通り追いついて抜かす素質は持っている筈だ。まあ、それももう少しで分かることなのだが……」

「え?」

神様が最後に意味深な言葉を残した。
それを神様はかき消しながら、

「いや、何でもない……さあ、ほら、街へ行ってこい、イベントの内容を調べに行くのだろう?」

「え?あの、神様?」

あとはだんまりだった。
よく分からないけど、今は今日の予定通り街へ行くしかない。

「仕方無い、ユズ、行こ?」

「うん、そうだね」

静かになった広間を後にして、出口へ繋がる廊下の前で混沌の鍵を掲げて外に出る。これで迷路は通らなくて済むから楽だ。
そうして私達は、街へと向かうことにした。






◇最初の街◇

「うわぁ……相変わらず、凄い人」

「ね。でもなんか前より人多くない?」

街の中へは、前回と同じく商店街から入ったけど元々賑やかだったのが、何やら一層それが増した様な感じがする。

「何処行けばいいんだっけ?」

「それが分からないんだよね。役所かもしれないし、何処かの広場かもしれないし」

「つまり、この広い街を延々と歩き回るってこと?」

「いや、でもまあ何か分かりそうな場所を探してみるからそんなことにはならないと思うけど……」

そう、うんざりしかけてると突然、

【メッセージが届きました!】

と、ウィンドウがいきなり現れてピコーン、と音を鳴らす。

「うわっ!」

「どうしたの?」

私は驚いて声を出して立ち止まってしまった。

「メッセージが届いたってさ……」

「え?ちょっと開いてみて」

そう言われて私はウィンドウを操作して開いてみる。すると、

「シェーカさんからだ!」

「何?なんて書いてあるの?」

メッセージの内容は、

『おーい!ユズ、ハープ!ここ、ここ!』

と、書いてあった。
私達は慌てて辺りを見回す。
すると何だか見覚えのある人だかりに紛れて、深緑の短髪で温厚そうな女性がこちらに向かって手を振っている姿が見えた。

「シェーカさん!お久しぶりです」

「久しぶりね、ああでもまだ三日ぶりかしら」

「そうでしたね……で、この人だかりは?」

ハープが聞くけど、まあ大体予想はついてる。

「あの人が野菜を切ってるのよ」

「……野菜?」

なんか斜め上の答えが帰ってきた気がする。
野菜って、何でまた……?

「ふふっ、驚くわよね。行列が出来てたお店で……新人さんだったのかしら?その新人さんは野菜担当だったんだけど極端に遅くて、それであの人が『遅いっ!野菜ってのはこう切るんだよ!』なんて言って飛び込んで行った結果があれよ」

こうしてる間にも人だかりは大きくなり、騒ぎが大きくなる。下手したら前回より酷いかもしれない。

「あはは……大変ですね」

「そうね、でもそれがあの人の長所でもあるから……」

まあ、どういう理由にせよ、相変わらず苦労してそうだ。そう話した所でシェーカさんが、

「ところで……貴女達もイベントに参加するの?」

そう聞いていた。
貴女達も、というかことはシェーカさんやブラストさんも参加するのか。

「まあ、そのつもりなんですが……その、イベントについて詳しいことを知らないので街まで調べに行くことにしたんです」

「あら、じゃあ私が貴女達のエントリーついでに教えてあげるわ」

「え?あ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

丁度良い、渡りに船だ。
私達はその厚意に乗っかることにして、詳細を聞くことにした。

「じゃあちょっと待っててね?」

「はい!」

そう言って、人だかりに潜り込んだと思ったらすぐ出てきた。多分、ブラストさんに言いに行ったんだろう。

「はい、じゃあ話しながら行きましょうか」

「お願いします」

「じゃあ早速、イベントについてね?イベントは運営が開催する物で、これから三ヶ月おきくらいに行っていくらしいわ。因みに今回が第一回だから、当然ながら私も初参加よ」

「あ、そうなんですか。私もうてっきり何度か催されてる物かと……」

「ふふふ、ごめんなさいね?さらっとしたルール程度しか教えられないけど」

「いえいえ!とんでもないです!」

「そうかしら?……それじゃあルールなんだけど、簡単に言えば、用意されたフィールドで相手を倒しまくる個人戦、そんな所かしらね」

シェーカさんが言うには、こことは違う、運営が用意したイベント専用フィールドに移ってそこで
倒した回数や倒された回数を競って戦う、言わば『バトルロワイヤル』だ。

「それで個人戦とは言ったけれど、上位十名に配られる景品の中にはギルドホームに関する物も含まれるから実質、団体戦なんじゃないか、って私は踏んでるけどね?」

「へぇ……ところで、シェーカさんも参加するんですよね?」

シェーカさんが参加するということはほぼ間違いなく、

「ええ、そうよ。因みにあの人も参加するわね」

私はハープの方を見る。
神様が言ってたのはこういうことなんだろうか。

「それにしても、大丈夫かなぁ……」

「ふふ、大丈夫よ。貴女達みたいにまだ始めて少ししか経ってない人達も居る様だし……何より貴女達もユニークスキル持ちなんだから、きっとそれなりの上位には行けるわよ」

「そう、ですか?ありがとうございます」

「いいのよ、お互い頑張りましょ?……あら、話してる間に着いちゃったみたいね」

前来た噴水の広場とはまた別の広場の一角に何やら人が列を成して集まっている所がある。
人がいっぱいいて見えないけど、多分そこで受付けを行っていてエントリー出来るのだろう。

「それじゃあ、私はもうエントリーしちゃったから並べないけど、何かあったらチャットで聞いてね?」

「ああ、はい。何かまた、色々教えて頂いてありがとうございました!」

「ありがとうございました」

「どういたしまして、それじゃあ」

そう言って、シェーカさんは手を振って去っていった。

「じゃ、並ぼうか」

私達は長い行列に並び、エントリーの順番を待つことにした。



暫くして、やっと私のエントリーの番が来て、シェーカさんが言ってくれた様な説明を受けた。私はプレイヤーネームを、表示されたウィンドウに入力して番号の書かれた紙を受け取ってインベントリにしまい、外に出た。少し遅れてハープも出てきた。

「ユズー!何番だった?」

「え?うーんとね……258かな?」

「私は259ね。ということはもう私達の前に257人既にエントリーしてたってことね」

今の様子を見るにその参加人数は更に増えるだろう。私達の中では悪名高い運営も馬鹿では無いと思うから、相当広い専用フィールドを用意してるのだろう、してなかったらそれこそ乱戦になるから大丈夫だと思う。

「じゃ、どうしよっか」

「そうね。開催されるのは今週の日曜日、今日は水曜日だからそんなに時間は無いよね」

エントリーが今日始まって日曜日開催だというのは短いんじゃないか、って思うかもしれないけど実際、告知自体は前々から、私達がプレイ開始するより前からされていたみたいだから仕方無い。

「じゃあ普通にレベル上げでもする?あ、ギルドホームじゃなくて私達のね?」

「良いと思うよ。私は別にユズと楽しめればいいから、単純に敵を倒していくのは連携も出来て良いかもね」

「よし、じゃあ決まりだね!」

レベル上げの場所は特に決めてない。
敢えて転移の石を使わずに敵を倒しながら帰ろうと思ったからだ。その後はギルドホーム近くの山で戦ってればいいし。

「と、いう訳でイベントに向けて頑張っていこう!」

「おー!」

そう気合いを入れてから商店街を通って街を出る。シェーカさんに挨拶するためだ。
因みにブラストさんはまだ野菜を切ってた。
ご苦労様です。

「極寒の地で拠点作り」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く