極寒の地で拠点作り

無意識天人

神様の元眷属さん


「はっはっは!まさか奴はそんな所に引き篭もって居たとはな」

一旦ギルドホームに戻って神様にあの部屋のことを報告すると、一度驚いた素振りをしたと思ったらいきなり笑い出した。ハープはそんな風に笑い出した神様に対して怪訝な顔で問うた。

「どういうことですか?」

「ふふふっ、いやな。過程を説明すると長くなるんだがな……」

「簡潔にお願いします」

「つれないな」

と、ハープは神様に対して辛辣に答える。
神様が残念そうにしてるけど私も重要な部分だけ聞ければいいからハープと同意見だ。

「仕方無いな……では要望通り簡潔に言うと、それは『元』我が眷属だ」

神様は『元』の部分を強調しながらそう答えた。
それにしても眷属かぁ……まあ神様くらいになれば居て当然なのかな。

「眷属ですか、それも『元』」

「ああ。以前、色々あってな……その時に逃げ出された」

またハープが何か言いそうな発言。
とっても嫌な予感。

「信用されてないんですか?」

「ぐっ!」

「ちょっ、ハープ!」

私の予想は見事的中し、その発言は驚くくらい、どストレートに神様の心を貫いていった。

「いや、ユズよ、問題無い。元はと言えば、奴の部屋にノックもせずに入ってしまったのが原因なんだ、その時の睨み具合と言えば……」

「反抗期かっ!」

なんて、ついツッコミを入れてしまった。
この調子だと私もいつかハープ化してしまいそうなので気をつけとく。だけど神様のこの発言のお陰で、あの部屋に入ったことで睨まれた理由が分かった気がする。
ハープも多分同じことを考えているのか横目で私を見て頷いた。

「まあそういういざこざが続いた結果、奴はある時突然姿をくらました……私は奴を血眼になって探した、が見つからず。そして現在に至る、だな」

逃げ出す理由にしては、些かくだらな過ぎる様な気がするんだけど。そんな疑問を神様に聞こえない声でハープに聞いたら、

「人望が元々薄かったんでしょ」

なんて尖った答えが返ってきた。
ハープ、それ絶対神様に言っちゃ駄目だからね?

「それでお主ら、奴と闘うつもりなのだろう?」

「えっ?」

私は神様のその言葉に驚いた。
ハープなんかは私に対して、何か微妙な顔をしている。

「え?ユズ、闘わないの?」

「だって、倒しちゃったらいけないかな、と」

そう、元とはいえ一応神様の所有していた存在だ。だから倒したりなんかしたらいなくなっちゃうかもで、悪いかなって思ったから止めておいた。

「それなら心配は要らないぞ?仮にも私の下に居た者だ。一度倒されただけで存在が完全消滅する程ヤワに育ててはいないからな」

確かに神様の力は絶大な物だ。こういう所は信じていいだろう。まあ、それも私達が倒せたらの話だけども。
そんな所でハープが、

「ユズにしては珍しいね、いつも『何とかなる』で自己解決するのに」

ハープは私が『倒して消えちゃってもまあ大丈夫』とでも言うと思ったのか、そう言ってきた。
実際私も言いそうだから何も言い返せない。

「いや、流石に人様の物をどうにかして人様に迷惑かけるのは……」

「あのさ、ユズ……それ今更じゃ?」

私なんか変なこと言ったかな?
ハープがそう言うことで現実世界での出来事がフラッシュバックするけど気にしない、ええ、気にしない。

「あははー、そうかなぁ?……で、神様がそう言うなら心置き無くやろうとは思うんだけど、ハープは?」

「ん?私は元から闘うつもりだったよ」

「なら決まりだな。自惚れるつもりは無いが、奴はこの私が育てた。強敵となるだろうがお主らなら問題無く勝てるだろうよ」

神様はそう言ってくれた。
巨大なボス敵に対して私達が問題無いなんていくらなんでも、過大評価されてる感を拭えないけどやるしかない。

「あー、ユズ。ポーション持ってるよね?」

「うん、大丈夫……だね」

ポーションとはMPポーションのことだ。
よく考えてみれば、どうしてあの時MPポーションだけしか買わなかったのか。HPポーションを買わなかったのは悔やまれるけど、少なくとも私は『あること』が出来るようになったからMPポーションを持っていれば回復が出来るようになった。

「じゃあ、ちょっと行ってきます」

「うむ、行ってこい」

そうして神様に見送られながら廊下を歩いて行こうとした所で、

「あ、ノックするのだぞ?」

そう付け足された。






◇神様の眷属の部屋の前◇

「じゃあ、開けるよ?」

「ノック忘れないでね?」

「あっ、そうだった」

いけないいけない、また忘れる所だった。
道中、作戦会議してたけどポーションは殆ど……というより、全部私が使っていいとのことだった。
ハープは戦闘開始後に『闇との同化』するだけで、影縫いは消費MP2だし投擲なんかは消費しないから比較的多く消費する私に、という考えらしい。

「じゃ、行くよ?」

「うん」

コンコン、と装飾付きの扉を叩く……が、反応が無い。まあ反応するとも思ってなかったから、作戦会議で決めた手はず通り、そのままお邪魔することした。

「失礼、します……」

「失礼しまーす」

さて、どうなる?
そんな不安と緊張に圧されながら、目を閉じたままの眷属さんをじっと見る。

「……何も、起きない?」

「えっと?どうすればいいんだろ」

目を開かないのはそれはそれで事が進まない。
という訳で私達はもっと近づいてみることにした。

「ゆっくりゆっくりね?」

最早、目を開いて欲しいのか瞑ったままでいて欲しいのか分からないけど、とりあえずこっそりと近づくに越したことは無い。
そろりそろりと歩いていた所で、それは突然起こった。

【静かなる老木が現れた! HP200/200】

「えっ!?」

「あ!見て、ユズ!」

ハープが指差す先を見てみると眷属さんが目を開いていた。でも一回目とは違って眠そうに半開きな状態だ。

「これって、つまり?」

「うん……戦闘開始、かな?」

そうして静かなる老木、もとい眷属さんとの戦闘は突然且つ微妙な形でスタートしたのであった。

「んじゃ、早速」

【ハープの闇との同化! MP25/30】

ハープが闇との同化を使用しハープのSTRとAGIが二倍になる。
毎回思うけど、私達って本当にSTRとAGIしか上がらないね……不自然なくらいだけどそれでアドバンテージが取れてるから、なんだかんだでこれで落ち着いてる感じがする。

攻撃は眷属さんが先に仕掛けてきた。

【静かなる老木の攻撃!】

眷属さんの枝が伸び、柔らかくしならせて鞭のように振り下ろしてきた。

「っ!」

「よっ、と」

パァン!と破裂音がする。
ハープはそのAGIを活かして軽々と、私はと言うとかなりギリギリの所で避けた。取り柄が単純な攻撃力ってのも難点だなぁ、って思う。
眷属さんは部屋の中心で動かずに、枝を蛇の様にうじゃうじゃさせて何時でも私達を叩ける状態だ。

「どうする?何だったら私、注意を引き付けながら接近して直接攻撃しに行くけど」

「うーん、私遅いし……お願いしよっかなぁ」

別にさっき言った、『あること』を使ってもいいんだけど、問題は私のVIT値。『あること』は攻撃を受けないと使えない技、だけど防御力の無い私には自分から攻撃されに行く勇気は無い。
なので、攻撃を受け次第使っていくことにした。

早速、ハープは枝の鞭の攻撃を避けて、眷属さんの懐へ潜り込んだ。

【ハープの攻撃!】

そしてその飛び込んだ勢いでダガーを突き刺す。
私の半分くらいのSTR値とはいえ、250ぐらいあるその一撃は確かな物だと思った。しかし、その攻撃が与えたダメージは、

【静かなる老木に10のダメージ! HP190/200】

僅か10ダメージ。
となると、単純計算で私の一撃はたったの20ダメージになる。でも攻撃し続ければ問題無いかなぁ、とか考えてると、

「あっ、ハープ!危ない!」

【静かなる老木の攻撃!】

ハープは私の声に反応して咄嗟に後ろに避けた。
ハープの元居た位置には鋭く尖った根が地面から突き出されていた。それからその一撃だけに飽き足らずもう一撃、一度避けて油断していたハープはそれに、下からもろに突き刺されてしまった。

「うぁっ!」

【ハープに12のダメージ! HP48/60】

「ハープ!」

HPが一気に五分の一削られた。
ハープは飛ばされて、よろよろと立ち上がった。
飛ばされた先までは根が届かないみたいで追撃は無かった。

「だ、大丈夫だよ。うん、問題無い」

「あ、枝が!」

今度は枝がハープを襲う。
所々当たりつつもなんとかその連撃を避けきったが、

「はぁ……はぁっ……」

「ハープ!戻ってきて!」

ハープの残りHPは早くも二分の一に差し掛かろうとしている。ハープも、私と同じVITは初期値……今は足の遅い私に変わって積極的に攻撃してくれているけど、この調子だと多分かなりきつくなってくるだろう。

「いや、まだやれるよ」

もう、躊躇ってる暇は無い。ハープばかりに任せているのは心が痛むってのもある。
そういう訳で私も鈍足ながら、私も懐に潜り込もうとする。

「ユズ!何やって……」

「大丈夫だって!ハープは攻撃しなくてもいいから枝の注意引きつけといてー!」

「でも!」

「大丈夫、信じて!」

私がそう重ねてそう言うと、

「……わかった。でも危なくなったら替わってね?」

「ありがとう!」

「よし、眷属さん!私はこっちだよー!」

そう煽る声が聞こえたのか、枝は再びハープの方向へ伸びていく。この隙に、

「いくよっ!」

私は出来る限りのスピードで懐に潜り込まんとする。すると勿論、眷属さんも対策してくる訳で、

【静かなる老木の攻撃!】

「っあ!」

【ユズに12のダメージ! HP52/64】

ハープにやった様な根っこ攻撃を加えてくる。
しかし、私も痛いながらも更に幹に向かって進む。そして辿り着き次第叩く。

【ユズの攻撃!】

【静かなる老木に22のダメージ! HP168/200】

そしてこの後すぐに眷属さんは私に根っこの連続攻撃を仕掛けてくるだろう……だが、

【静かなる老木の連続攻撃!】

「っあ!……うあっ、ああっ!」

私は敢えて何度もそれをもろに受ける。

【ユズに40のダメージ! HP12/64】

「ユズ!」

遠くで見ていたハープが心配そうにこちらを見て駆け寄ろうとしてくる。

「大丈、夫……だから、ね?」

ハープからは満身創痍で絶望的な状態に見えるだろうが攻撃を敢えて何度も受けたのには勿論意味がある。

「じゃ、行くよ……」

私は眷属さんに向けて杖を掲げ、

「『生気の強奪』」

【ユズは生気の強奪を唱えた! MP5/47】

すると、眷属さんのHPバーがみるみるうちに減っていく。

【静かなる老木に126のダメージ! HP42/200】

【ユズは126回復した! HP64/64】

あまりのダメージに眷属さんは動きが止まった。
次いでに言うと、ハープもぽかーんとしている。まあ自分でも割りと驚き。こんな大技が出てくるとは思わなかったから。

この『生気の強奪』は、自分のMPの内最大MPの90%分消費して、相手のHPの内現在のHPの75%分を削り、その削った分のHPを自分に与える大技だ。簡単に言うと、ドレイン技だ。
こんな物、それに私の魔法の中で初めての攻撃可能な魔法がまさか回復もこなせる上かなりの大技と来たものだからとんでもない。
ただ、大技だけあって、消費MPがとんでもないことになるから、MPポーション無しでは一度しか使用出来ないし他の魔法も殆ど使えなくなる。
色んな意味で大技だった。

「さて」

私はHPが四分の一を下回った眷属さんを一瞥し、ハープの方を見る。うん、まだ驚いてるっぽい。
私はそんなハープに向かって笑ってみせた。

そんなことをしているけど、眷属さんだっていつまでも固まったままの筈は無い。
半開きだったその目は一度目の時の様に見開かれ、私の方をぎょろりと見つめる……と、同時に地面が突然揺れだした。

「じ、地震?」

「ハープ、こっち!」

とりあえずハープを一旦呼び寄せ、固まることにした。
その地震を少し不安になりながら耐えていると突然、眷属さんは巨大化、そしてなんと地面から飛び出し、根っこも枝の様にうじゃうじゃと動かし始めた。

「は?」

「え?」

そんは状況に私達は困惑する……だって木がその場から離れて歩き出すとか聞いたこともなければ勿論見たこともなかったから。まあ神様の所から逃げ出す、って聞いて気づくべきだったのかもしれないけど、その時はあまり気にしてなかったから今となっては仕方無い。

とりあえず、今分かるのは眷属さんも本気を出したということで、それは、まだ戦闘は終わらないということでもあった。

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