極寒の地で拠点作り
初めての探索 その一
 
  私達は目的の山に到着後、早速山に入ろうとしていた。
  山への道中、敵にはエンカウントしなかったのでここでの戦闘は初めての物となる。他にも採集とか、ようやくVRゲームならではの行動が出来ると興奮していた。それなのに……
「よう!元気だったか?いやぁ、こんな寒い所でまた会えるなんてな!」
「あのー、どちら様で?」
  何やら、早くも面倒臭いことになりそうで気分が壊されそうだ。
  どうしてこうなったかと言うと、事は数分程前に遡る。
◇数分前◇
「あー、やっと着いたぁ」
  仕方無く遠回りをして川を渡り、目的地に着いた。それにしても迂回するのは意外と疲れる。今度橋でも設置しておこうかな。
  そんなことを考えている私を尻目に、ハープは地図を確認している。
「えっと、今、私達がいるのはここだから……」
  目の前の道は獣道で、曇天の下で増した薄暗さが、不気味さをより醸し出している。でも今の私はこれから起きるであろう初めての体験に興奮していて、そんな事は微塵も気にしていなかった。
「ねぇ、ハープ!何考えてるのか知らないけどさ、早く入ろうよ!」
「あ、待って!そっちからは駄目、ちゃんと整備された道がもう少し進んだ先にあるから」
  ハープに引き留められた、でもそんなんじゃ私のワクワクは収まらない。
「大丈夫大丈夫、私、転んだり滑ったりなんてしないから!」
「そうじゃなくて。山のこっち側は強い敵の目撃情報があるから、遭遇したら大変でしょ?」
「大丈夫だって、もし何かあっても何とかなるから!」
「何とかならないって!……全く、この世界でもユズのその精神は通常営業だね。流石に現実とは違って物理的な物はフォロー出来ないからね?」
  痛いの嫌でしょ?と脅しを掛けてくる。それもそうだ、このゲームは感覚を忠実に再現してるって受付の人も言ってたから、ショック死しない程度には痛みもそれなりに再現されている筈だ。
  という訳で私は渋々ハープの言うことに従って安全な道へ向かうことに決めた。
「わかった、ハープに迷惑かける訳にはいかないからね。じゃあ早速向かお――――「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
  何処からともなく物凄く大きな声が聞こえてきた。何処からだろうと、二人で辺りを見回していると山とは反対側の方向から何やらこちらに猛ダッシュで向かってくる点が見えた。あの距離からこんな大きな声を出すなんて並大抵の物じゃない。そしてその点は次第に大きくなり、やがて私達の目の前で止まった。
「お嬢さん方!その道は危険だ、回り道をして他の道へ!」
  点だった物は私達より年上の男の人で、そこの獣道から私達が山に入ろうとしていたと思ったのか、そう忠告してきてくれた様だ。まあ私は実際に入ろうとしてはいたけど。
「は、はぁ、ご親切にありがとうございます?」
  少し引き気味にハープは語尾を上げて答えた。ちょっとハープ、引くのはどうかと思うよ?と思ったけど私も突然のことに少し引いちゃってるから何も言わない。
「はっはっは!いいってことよ!……ん?そういえば君達は……どこかで見たような?」
◇回想終了◇
  そんな感じで今に至る。因みに私達はこの人の事は知らない。断言する。
「おいおい、忘れちまったのか?俺だよ、俺だ、ブラストだよ」
「知りませんって!何処で会ったって言うんですか」
「おいおい、そりゃ無いぜ。マジで連れないなぁ」
「だから!私達は貴方と会ったことは無いって言ってるじゃないですか!」
  さっきからずっとこんな感じで、このブラストとか言う男プレイヤーはハープの否定も振り払って私達を知り合いだと勘違いしている。とても面倒臭い。
「えー?ほら、あの時、君達が並んで喋ってる所に文字通り突撃しちゃったじゃん。あ、もしかしてその時に頭打って……」
「いい加減にしてください!私達、そんな目に遭っても無いし貴方とも面識はありません!そんなに疑うのなら、ほら、どうぞしっかり見ていってください」
  男プレイヤーの態度に痺れを切らしたハープが手を広げて、勘違いを認めさせようとしている。
おいおいハープさんや、初対面の男の人にそんな隙だらけな事してたら、ちと危ないんじゃないかい?
  まあハラスメント行為には重大なペナルティが課されるからそんなことになることは無いとは思うけど。
「うーん、確かになぁ……スマン、人違いだった様だ」
「ですよね?私達にわざわざ忠告してくれたのは有難いですが、もうちょっと相手の話を聞かないと駄目だと思います」
「ハイ、スミマセンデシタ」
  そう言って男の人は頭を下げる。
  いつも私の事を振り回してばっかりなハープだけど、意外と面倒見が良かったりする。
「と、言う訳で改めて自己紹介、俺は〖爆走〗のブラストだ。以後よろしく!って、訳だからじゃーな!」
「あっ、待っ……!」
  反省したと思ったらそうでもなく、荒々しく自己紹介をして、足早に走り去っていった。さっきも見たけどとんでもないスピードだ。それにしても〖爆走〗って何のことだろう。何かの称号?まあ今見て分かることは、
「嵐みたいだったね……」
「そうだね……というかそのもの?」
  嵐と言う言葉が似合うその男の人が走り去った後、私達は疲れに対してデジャヴを感じながら少しの間呆然としていた。
「あ、そうだよ!こんなことしてる場合じゃ無かったんだ」
「そうだった、あんなの気にしてる場合じゃない……あーでも、ムカつく!」
  あのブラストとかいう男の人は忠告してくれたから、多分悪い人では無いんだ。ただ、少しばかり面倒臭いだけ。そう思っとこう。
  そうして、今やるべきことを思い出した私達は一旦ブラストさんのことは忘れて獣道とは別の入り口を目指して進み、無事着くことが出来た。
「あ、そうだ。パーティ組んどかないと」
  パーティは複数人で一緒に行動する時に組む物で、確か組むことで一人が敵を倒せば、割合は下がるけど他のメンバーにも経験値が入ったりとか色々やれることがあった筈。
  そしてハープとパーティを組んだ後、その入り口に入ってすぐの所で、
「さて、これからやっと探索に赴ける様になった訳だけど」
と、ハープが先導して言う。
  確かにやっと、だ。思い返せば、冷たい川を迂回しては疲れ、着いたと思ったら嵐がやって来て疲れ、と。恐るべしVRMMOと冗談を零して、遂に今回のメインイベントに辿り着いたことを実感した。
「ここからはいつ敵が襲ってきてもおかしくないから気を引き締めてね?」
と、続けてハープが言う。
最初のターゲットは洞窟うさぎ。
ハープによれば、ここから道なりに進んだ所にある洞窟に生息している様だった。
  少し進んでみると、ちょっとした崖が見えてきて、その中にぽっかりと穴が空いている場所があった。
「ハープ、あれ?」
「うん、そうっぽいね。早速入ろうと思うんだけど、ユズは準備大丈夫?」
「問題無いよ!」
うぅ、ドキドキしてきた。
「それじゃ、洞窟に入るよ!」
そうしてハープの後に続き、崖の洞窟に潜入した。
「あー、やっぱり暗いね」
「そうだね。でもユズなら初級の光魔法とか使えるんじゃない?」
「あっ、そうだった」
【ユズのフラッシュ! MP13/15】
そうして私は光魔法Lv.1で元から習得している、『フラッシュ』を詠唱した。光の球が杖の先に浮かんでいる。何気にこれが私の初の魔法となる。使った感じは何の違和感も無く、普通に使えた。因みに、攻撃魔法の種類は六種類あって、炎魔法、水魔法、土魔法、風魔法、光魔法、そして毒魔法だ。それに回復魔法が加わって、基本的な魔法七種となる。
  魔法Lvは、ステータスの方のレベルが上がった時にステータスポイントとは別に、スキルポイントと言うものが得られる。これを杖系は魔法、剣系は剣術と言った、各武器固有のスキル群に振り分けて一定のポイントまで溜まったら、魔法Lvが上がる様になっている。また、特定のレアアイテムでスキルポイントを得て、レベルを上げることも可能だ。
「わ、意外と明るいね」
ハープが驚く。なんか私が褒められたみたいでちょっと嬉しい。
  喜んでいるのも束の間、光に照らされた洞窟の隅の方で何かが動いた様な気がした。
「ん?ねぇハープ、今何かあっちの方で動かなかった?」
「どうだろう、ちょっとよく見えないなぁ」
「ちょっと見てくるね?」
「気をつけてよー!敵かもしれないし」
「敵だったとしてもまあ何とかなるよー」
  いつも通りの答えを返して、私はその一瞬動いた物体に近付いてみる。その物体は近付くにつれてはっきり見えてきて、それが白い毛に覆われた動物だとわかった。
「あっ、うさぎさんだ!」
「えー?ユズ、何がいたのー?」
少し離れた所でハープがそう聞いてきてる。
「えーっとねー、うさぎさんがいたー!」
「え!?ちょっと、ユズ!もしかしてそれ――」
ハープの言葉も虚しく、私がそのうさぎさんを抱き抱えようとしたその時、
「痛っ!」
【ユズは3ダメージを受けた! HP17/20】
私の胸の所で赤いエフェクトが散った。
そのうさぎさんが私に体当たりをしてきたのだ。その体当たりの衝撃で私は尻餅をついてしまう。
「ちょっと、何するの……って、もしかしてこのうさぎさん……」
よく見たらそのうさぎさんには角が生えており、当たったら痛そう、というか実際当たったし痛かった。その程度には鋭かった。
まあ、そんな特徴的なうさぎさんに流石に私も気付かない筈が無く、
【洞窟うさぎが現れた! HP5/5】
「ちょっとユズ、大丈夫?……ってやっぱり洞窟うさぎじゃん!」
「ああ、うん。大丈夫、まさか洞窟うさぎだとは思わなくて……あはは」
「全く。これがもっと強い敵だったら何とかなる物もならなかったんだよ?」
「はい、気をつけます……」
落ち込んでる暇もなく、洞窟うさぎは追撃してくる。
【洞窟うさぎの攻撃!】
「っ……ちょっとユズは下がってて!」
襲いかかってくる洞窟うさぎと私の間にハープが入る。そういえば、ハープの武器は何だったっけ。確か、両刃になってるダガーって短剣だった様な気がした。
【しかしハープは攻撃をかわした!】
おおっ、流石ハープ。洞窟うさぎの攻撃を躱した。単に私が鈍いだけなのかもしれないけど初戦闘で避けるなんて凄いと思う。
「っと!……うさぎさん?一体ユズに何してくれてるのかしら?」
ハープがダガーを構え直す。今度はハープの番だ。心做しか、ハープの目付きが鋭くなっている。
「いくよ!」
【ハープの攻撃!】
「らぁっ!」
【ハープは洞窟うさぎを倒した! 洞窟うさぎは洞窟うさぎの角を落とした!ハープは経験値 5を手に入れた!】
「やったぁ!」
見事、ハープは洞窟うさぎを倒し、ついでに洞窟うさぎの角も落として戻ってきた。
「流石、ハープ!初戦闘なのに凄いよ!素材集めにも貢献してさ」
「はは、ありがとう。それと、さっきも言ったけどこれから気をつけてね?」
「ごめん、これからはちゃんと考えてからにするよ」
「よし、ユズも反省したことだし……」
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎ×5が群れで襲ってきた!】
「ちょっと相手してみますか!ほら、ユズも」
「うん!」
そうして私はハープが伸ばしてきた手を掴んで立ち上がり、初戦闘に臨むのであった。
  私達は目的の山に到着後、早速山に入ろうとしていた。
  山への道中、敵にはエンカウントしなかったのでここでの戦闘は初めての物となる。他にも採集とか、ようやくVRゲームならではの行動が出来ると興奮していた。それなのに……
「よう!元気だったか?いやぁ、こんな寒い所でまた会えるなんてな!」
「あのー、どちら様で?」
  何やら、早くも面倒臭いことになりそうで気分が壊されそうだ。
  どうしてこうなったかと言うと、事は数分程前に遡る。
◇数分前◇
「あー、やっと着いたぁ」
  仕方無く遠回りをして川を渡り、目的地に着いた。それにしても迂回するのは意外と疲れる。今度橋でも設置しておこうかな。
  そんなことを考えている私を尻目に、ハープは地図を確認している。
「えっと、今、私達がいるのはここだから……」
  目の前の道は獣道で、曇天の下で増した薄暗さが、不気味さをより醸し出している。でも今の私はこれから起きるであろう初めての体験に興奮していて、そんな事は微塵も気にしていなかった。
「ねぇ、ハープ!何考えてるのか知らないけどさ、早く入ろうよ!」
「あ、待って!そっちからは駄目、ちゃんと整備された道がもう少し進んだ先にあるから」
  ハープに引き留められた、でもそんなんじゃ私のワクワクは収まらない。
「大丈夫大丈夫、私、転んだり滑ったりなんてしないから!」
「そうじゃなくて。山のこっち側は強い敵の目撃情報があるから、遭遇したら大変でしょ?」
「大丈夫だって、もし何かあっても何とかなるから!」
「何とかならないって!……全く、この世界でもユズのその精神は通常営業だね。流石に現実とは違って物理的な物はフォロー出来ないからね?」
  痛いの嫌でしょ?と脅しを掛けてくる。それもそうだ、このゲームは感覚を忠実に再現してるって受付の人も言ってたから、ショック死しない程度には痛みもそれなりに再現されている筈だ。
  という訳で私は渋々ハープの言うことに従って安全な道へ向かうことに決めた。
「わかった、ハープに迷惑かける訳にはいかないからね。じゃあ早速向かお――――「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
  何処からともなく物凄く大きな声が聞こえてきた。何処からだろうと、二人で辺りを見回していると山とは反対側の方向から何やらこちらに猛ダッシュで向かってくる点が見えた。あの距離からこんな大きな声を出すなんて並大抵の物じゃない。そしてその点は次第に大きくなり、やがて私達の目の前で止まった。
「お嬢さん方!その道は危険だ、回り道をして他の道へ!」
  点だった物は私達より年上の男の人で、そこの獣道から私達が山に入ろうとしていたと思ったのか、そう忠告してきてくれた様だ。まあ私は実際に入ろうとしてはいたけど。
「は、はぁ、ご親切にありがとうございます?」
  少し引き気味にハープは語尾を上げて答えた。ちょっとハープ、引くのはどうかと思うよ?と思ったけど私も突然のことに少し引いちゃってるから何も言わない。
「はっはっは!いいってことよ!……ん?そういえば君達は……どこかで見たような?」
◇回想終了◇
  そんな感じで今に至る。因みに私達はこの人の事は知らない。断言する。
「おいおい、忘れちまったのか?俺だよ、俺だ、ブラストだよ」
「知りませんって!何処で会ったって言うんですか」
「おいおい、そりゃ無いぜ。マジで連れないなぁ」
「だから!私達は貴方と会ったことは無いって言ってるじゃないですか!」
  さっきからずっとこんな感じで、このブラストとか言う男プレイヤーはハープの否定も振り払って私達を知り合いだと勘違いしている。とても面倒臭い。
「えー?ほら、あの時、君達が並んで喋ってる所に文字通り突撃しちゃったじゃん。あ、もしかしてその時に頭打って……」
「いい加減にしてください!私達、そんな目に遭っても無いし貴方とも面識はありません!そんなに疑うのなら、ほら、どうぞしっかり見ていってください」
  男プレイヤーの態度に痺れを切らしたハープが手を広げて、勘違いを認めさせようとしている。
おいおいハープさんや、初対面の男の人にそんな隙だらけな事してたら、ちと危ないんじゃないかい?
  まあハラスメント行為には重大なペナルティが課されるからそんなことになることは無いとは思うけど。
「うーん、確かになぁ……スマン、人違いだった様だ」
「ですよね?私達にわざわざ忠告してくれたのは有難いですが、もうちょっと相手の話を聞かないと駄目だと思います」
「ハイ、スミマセンデシタ」
  そう言って男の人は頭を下げる。
  いつも私の事を振り回してばっかりなハープだけど、意外と面倒見が良かったりする。
「と、言う訳で改めて自己紹介、俺は〖爆走〗のブラストだ。以後よろしく!って、訳だからじゃーな!」
「あっ、待っ……!」
  反省したと思ったらそうでもなく、荒々しく自己紹介をして、足早に走り去っていった。さっきも見たけどとんでもないスピードだ。それにしても〖爆走〗って何のことだろう。何かの称号?まあ今見て分かることは、
「嵐みたいだったね……」
「そうだね……というかそのもの?」
  嵐と言う言葉が似合うその男の人が走り去った後、私達は疲れに対してデジャヴを感じながら少しの間呆然としていた。
「あ、そうだよ!こんなことしてる場合じゃ無かったんだ」
「そうだった、あんなの気にしてる場合じゃない……あーでも、ムカつく!」
  あのブラストとかいう男の人は忠告してくれたから、多分悪い人では無いんだ。ただ、少しばかり面倒臭いだけ。そう思っとこう。
  そうして、今やるべきことを思い出した私達は一旦ブラストさんのことは忘れて獣道とは別の入り口を目指して進み、無事着くことが出来た。
「あ、そうだ。パーティ組んどかないと」
  パーティは複数人で一緒に行動する時に組む物で、確か組むことで一人が敵を倒せば、割合は下がるけど他のメンバーにも経験値が入ったりとか色々やれることがあった筈。
  そしてハープとパーティを組んだ後、その入り口に入ってすぐの所で、
「さて、これからやっと探索に赴ける様になった訳だけど」
と、ハープが先導して言う。
  確かにやっと、だ。思い返せば、冷たい川を迂回しては疲れ、着いたと思ったら嵐がやって来て疲れ、と。恐るべしVRMMOと冗談を零して、遂に今回のメインイベントに辿り着いたことを実感した。
「ここからはいつ敵が襲ってきてもおかしくないから気を引き締めてね?」
と、続けてハープが言う。
最初のターゲットは洞窟うさぎ。
ハープによれば、ここから道なりに進んだ所にある洞窟に生息している様だった。
  少し進んでみると、ちょっとした崖が見えてきて、その中にぽっかりと穴が空いている場所があった。
「ハープ、あれ?」
「うん、そうっぽいね。早速入ろうと思うんだけど、ユズは準備大丈夫?」
「問題無いよ!」
うぅ、ドキドキしてきた。
「それじゃ、洞窟に入るよ!」
そうしてハープの後に続き、崖の洞窟に潜入した。
「あー、やっぱり暗いね」
「そうだね。でもユズなら初級の光魔法とか使えるんじゃない?」
「あっ、そうだった」
【ユズのフラッシュ! MP13/15】
そうして私は光魔法Lv.1で元から習得している、『フラッシュ』を詠唱した。光の球が杖の先に浮かんでいる。何気にこれが私の初の魔法となる。使った感じは何の違和感も無く、普通に使えた。因みに、攻撃魔法の種類は六種類あって、炎魔法、水魔法、土魔法、風魔法、光魔法、そして毒魔法だ。それに回復魔法が加わって、基本的な魔法七種となる。
  魔法Lvは、ステータスの方のレベルが上がった時にステータスポイントとは別に、スキルポイントと言うものが得られる。これを杖系は魔法、剣系は剣術と言った、各武器固有のスキル群に振り分けて一定のポイントまで溜まったら、魔法Lvが上がる様になっている。また、特定のレアアイテムでスキルポイントを得て、レベルを上げることも可能だ。
「わ、意外と明るいね」
ハープが驚く。なんか私が褒められたみたいでちょっと嬉しい。
  喜んでいるのも束の間、光に照らされた洞窟の隅の方で何かが動いた様な気がした。
「ん?ねぇハープ、今何かあっちの方で動かなかった?」
「どうだろう、ちょっとよく見えないなぁ」
「ちょっと見てくるね?」
「気をつけてよー!敵かもしれないし」
「敵だったとしてもまあ何とかなるよー」
  いつも通りの答えを返して、私はその一瞬動いた物体に近付いてみる。その物体は近付くにつれてはっきり見えてきて、それが白い毛に覆われた動物だとわかった。
「あっ、うさぎさんだ!」
「えー?ユズ、何がいたのー?」
少し離れた所でハープがそう聞いてきてる。
「えーっとねー、うさぎさんがいたー!」
「え!?ちょっと、ユズ!もしかしてそれ――」
ハープの言葉も虚しく、私がそのうさぎさんを抱き抱えようとしたその時、
「痛っ!」
【ユズは3ダメージを受けた! HP17/20】
私の胸の所で赤いエフェクトが散った。
そのうさぎさんが私に体当たりをしてきたのだ。その体当たりの衝撃で私は尻餅をついてしまう。
「ちょっと、何するの……って、もしかしてこのうさぎさん……」
よく見たらそのうさぎさんには角が生えており、当たったら痛そう、というか実際当たったし痛かった。その程度には鋭かった。
まあ、そんな特徴的なうさぎさんに流石に私も気付かない筈が無く、
【洞窟うさぎが現れた! HP5/5】
「ちょっとユズ、大丈夫?……ってやっぱり洞窟うさぎじゃん!」
「ああ、うん。大丈夫、まさか洞窟うさぎだとは思わなくて……あはは」
「全く。これがもっと強い敵だったら何とかなる物もならなかったんだよ?」
「はい、気をつけます……」
落ち込んでる暇もなく、洞窟うさぎは追撃してくる。
【洞窟うさぎの攻撃!】
「っ……ちょっとユズは下がってて!」
襲いかかってくる洞窟うさぎと私の間にハープが入る。そういえば、ハープの武器は何だったっけ。確か、両刃になってるダガーって短剣だった様な気がした。
【しかしハープは攻撃をかわした!】
おおっ、流石ハープ。洞窟うさぎの攻撃を躱した。単に私が鈍いだけなのかもしれないけど初戦闘で避けるなんて凄いと思う。
「っと!……うさぎさん?一体ユズに何してくれてるのかしら?」
ハープがダガーを構え直す。今度はハープの番だ。心做しか、ハープの目付きが鋭くなっている。
「いくよ!」
【ハープの攻撃!】
「らぁっ!」
【ハープは洞窟うさぎを倒した! 洞窟うさぎは洞窟うさぎの角を落とした!ハープは経験値 5を手に入れた!】
「やったぁ!」
見事、ハープは洞窟うさぎを倒し、ついでに洞窟うさぎの角も落として戻ってきた。
「流石、ハープ!初戦闘なのに凄いよ!素材集めにも貢献してさ」
「はは、ありがとう。それと、さっきも言ったけどこれから気をつけてね?」
「ごめん、これからはちゃんと考えてからにするよ」
「よし、ユズも反省したことだし……」
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎが現れた!】
【洞窟うさぎ×5が群れで襲ってきた!】
「ちょっと相手してみますか!ほら、ユズも」
「うん!」
そうして私はハープが伸ばしてきた手を掴んで立ち上がり、初戦闘に臨むのであった。
「SF」の人気作品
書籍化作品
-
-
20
-
-
55
-
-
768
-
-
140
-
-
124
-
-
6
-
-
75
-
-
24251
-
-
267
コメント