手違いダンジョンマスター~虐げられた魔物達の楽園を作りたいと思います~

ノベルバユーザー168814

情報収集と作戦変更


 俺は現在、マルタの街を宛もなくさ迷っていた。

「まさか図書館が無いとは……」

 当初は、やっぱり時代を調べるには書物でしょ! と意気込んで外に飛び出したのだが、行けども行けども店、店、謎のバーらしき物と言う一切見つからない始末。
 近くの人にキョドりながらも聞くと、

「図書館? そんなもん王都位じゃ無いかねぇ。紙は貴重だからね」

 予想外だった。

 そりゃ、魔導書が高額で取引されている訳だ。
 新たに力を与える的な魔法やスキルが込められている魔導書、それを作るには高度な魔法技術、さらにその魔力に耐えられるだけの質の良い紙が必要らしい。
 
 それはあくまでも最近開発した技術らしく、本来はダンジョンから取れるんだそうだ。
 作れた人は偉いね! こっちはDPさえあれば幾らでも出せるんだなこれが! あっはは、勝ち組!

 さて、そんなどうでも良いことはさておき。

「お? クロトじゃねぇか、こんなところでどうしたんだ? 依頼は?」

 愉快そうなおっさん……キンがいた、当然その側にはギン、それとドウもいた。

「あぁ、これはどうも。今日は依頼は休むつもりなので、少し買い物しようと思ってたんですよ、そちらは?」
「あー、その前にそんなに畏まって喋る必要はねぇよ。ドウはともかく、俺は気にしねぇからよ」
「は、はぁ」
「おいキン、俺は器が小さいと言いたいのか?」

 ドウは眉間をピクピクさせながらキンを睨み付けていた。
 それを見ていたギンは宥めようと必死で、当のキンは話を聞いてもいなかった。

 キンもそうだが、冒険者は畏まって喋られるのに慣れてないのだろうか。
 こっちはそう言う社会で育ってきたから敬語や丁寧語は当たり前だったし、別に苦でもないんだけどな。
 でも向こうが良いって言うなら仕方ないよなTPOだよTPO。

「見たところ依頼帰りなのか?」
「おうよ、ちっとばかし金が無くなってなぁ……昨日のコボルト討伐でも心許なかったからな」

 先日受けた(受けさせられた)コボルト討伐の依頼で得た料金は銀貨30枚だ。
 今泊まっている宿屋なら1ヶ月が30日だとするとそのくらいは泊まれる。
 俺の懐は潤っているんだが、キン達はそうじゃないようで。

「やっぱ武器や防具なんかは高いんだよなぁ……冒険者は稼げるがその分装備に金がかかるのが痛ぇ」
「でも兄さん、何度も言いますけど命には変えられませんって」
「分かってるっつーの」

 んー、そう言えば武器屋に行ったときも割りと値段は高かったな。
 俺のおサイフじゃ買えないわけだからお飾り短剣を買った訳なんだが。

「その様子じゃある程度は揃えられたみたいだな」
「それでもギリギリだったけどな……」
「はぁ、暫くは酒は無しだぞ、キン」
「何でだよ!」
「お前の酒代が1番削りやすいからだよ!」
「理不尽すぎるだろ!」

 至極まともな意見だとクロトは思いますよ。
 さて、なにか面白い情報が無いか揺さぶってみますか。

「お金かぁ、一攫千金を狙うならダンジョン・・・・・が良いって聞いたことあるんだけど、どこにあるんだ?」

 その瞬間、目の前の3人の雰囲気が少し鋭くなった。
 一瞬の間だけ目を合わせた3人は、怪訝な表情をしている。
 おい、もぞもぞ動くなロクロウ。

 ただ、その雰囲気もすぐに霧散し元通りになる。

「あーそうだな。ここらだと近くにはねぇな」
「あぁ、あるとしても王都の方だろう」
「そ、そうですね、この辺には全然! 欠片すらもありませんよ!」

 ギンよ、それはあからさまにあることを伝えてるようでダメだろうに。
 まぁ、ただいま絶賛脅し中なので、そう簡単に出すわけはないか。

「そうかー、でも俺じゃ難しそうだし……まぁ聞かなかった事にしてくれ」
「俺達でもダンジョンはあまり潜ったことはない。一先ずはこの街でランクを上げることを進める」

 この様子ではまだまだばらす危険性は少ないだろう。
 ところでコイツらを見張っているスライム達はどこにいるんだろうか、うーむ、俺には分からない。

 今回、「ダンジョンばらしちゃおうぜ作戦」から、「やっぱ怖いから暫くは秘密にします作戦」へと切り替えたわけだし、キン達の監視はこのままと言うことで良いだろう。

「そろそろ他の買い物があるんだ、失礼するよ」
「ああ、そうだ! 今度何か依頼でも受けようぜ、サノーって奴も一緒にな!」
「都合が合えば、ぜひ」

 そう言うと俺は商業区の奥へと情報収集のために歩きだす。


◇◇◇


 この国の戦力ってどうなってるの? と聞くのは良いのだが、そうなるとお前どこから来たんだよとなるわけで……。

 さすがに隣の国からですなんて答えれば隠密のヘタクソなスパイにしか見えないし、そもそも隣の国から来た人間がこんなわりと辺鄙な村に来るのはおかしいと言うことで、遠回りしつつ情報収集だ。

 んで、ざっとおばちゃんやおじちゃんに内心恐々としながらビクビクと聞いていくと、情報は集まった。

 1つ、この街自体の戦力は大したことはないらしい。冒険者に頼りっきりな部分がある。まぁ、そのお陰で街の住民との中が良かったりするらしい。
 2つ、王都までは馬車で10日程、結構遠いので、騎士団が来ることは滅多にないらしい。
 3つ、料理はかなりのレベルで上手い。

 国土ギリギリと言うわけでもないが中心でもないらしいこのマルタの街では、このくらいの情報しか集まらなかった。
 やっぱり色んな場所に出かける商人や冒険者に話を聞くべきだったか……。
 ただ依頼を受けずに情報だけ集めるとなると怪しまれる気もするが、冒険者なら大丈夫か?
 冒険者の情報収集はサノーに任せてるし、俺がわざわざ出張る必要は感じないな、あわよくば腹黒男のサーバーか受付嬢をも使って重要な情報をゲットしてくれる事を祈る。

 断じて筋肉痛で歩きたくないと言うわけではない。

 そうだ、アスカやコボルトの戦闘で大いに役立ってくれたロクロウに何かご褒美を上げよう。

 スライムはなぁ、飯も食わなければ睡眠もしないし、何か欲と言うものはあるんだろうか。

「ロクロウ、何か欲しいものとかある?」
「いえ、私ごときがそんな恐れ多い……お褒めの言葉さえ戴ければこの上ない幸せ!」

 服に隠れて見えないけど熱意が感じられる。
 そのひんやりボディの中はマグマなのだろうか。

 褒めるかぁ……それも良いけどやっぱりその上で何か渡したいと言うのは俺の性だろうか。
 ここに来る前には友達の山田にはわざわざお礼と称して何かあげてたし……誕生日プレゼントなんて必ず親にも渡すからなぁ。

「護衛ありがとうな、これからも期待してる。お前は俺の"盾"だ一緒に頑張っていくぞ」
「……っ! 陛下、このロクロウ陛下へと一生の忠誠を!」

 相変わらず固い奴だなぁ、ダイヤモンドかって話よね。
 さて、ロクロウには何をプレゼントするかなぁ……。

 小声でロクロウと喋りつつ、商業区をひた歩く。

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