創成の転生者〜最強魔導師の転生記〜

RAKIHA

第47話 お説教と送還

僕はシャドウハンターを討伐した後、腕に抱えている王女様に顔を向ける。王女様は、またポーッと僕のことを見つめていたが、構わずに地面に下ろす。

「あ・・・」
「もう自分で歩けるはずです。回復はしたでしょう?」

王女様が何故か残念そうな声を上げるが、僕に彼女を抱え続ける優しさなどは持ち合わせていない。今回ここまでしてあげたのも、学園長からの依頼があったからということ忘れないでほしい。

「あ、あの・・・」
「なんですか?」

ぶっきらぼうに答える。早くここから立ち去り、王女様を草原に送還したいのだ。

「こ、この度は、本当にありがとうございました!」
「・・・・・」

僕はジトッとした目で王女様を見つめる。僕は戦闘前から決めていたことを実行する時だと思った。

「王女様」
「あ、私のことはマリー、と・・」
「ではマリー。僕から言いたいことがいくつかありますので」
「は、はい・・・・」

気まずそうに目をそらす王女様。自分の愚かさを少しは理解しているようだ。

「とりあえず正座してください」
「え?正座?」
「早くしてください」
「あ、はい」

王女様をその場に正座させる。本来、平民である自分が仮にも一国の王女を正座させるなどあってはならない行為だ。が、僕にそんなことは関係ない。寧ろ貴族になど礼儀をわきまえる価値すらないと思っている。

僕と王女様の質疑応答が始まった。



「まず・・・なぜ戻って来たのですか?」
「お、お礼を言いたく戻って参りました・・・」
「朱雀で送った意味がわかりませんでしたか?」
「・・・理解できました・・。私をあの場から離し、安全地帯に送るためです・・」
「あなたは自分の命の重さを理解しておられますか?」
「は、はい・・・」
「・・・わかっているなら、もっと積極的な行動を控えるようにしてください。僕の仕事を増やさないようにしてください」
「し、仕事?」

王女様は僕の仕事というところに引っかかったところがあるようだ。王女様本人が僕の任務を知るはずがないので当然の反応だろう。

「ええ、仕事です。名前は明かせませんが、僕はとある人物から依頼を受け、あなたの護衛をしていました。ですので、あなたを助けたのです」
「そ、そうだったのですか・・・」
「僕の護衛は今回だけです。もう次はありません。死にたくなかったら、今回のような行動は控えてください。食われますよ?」
「た、食べられる・・・」
「あなたは王族だ。国の中心の安全な場所でおとなしくしていればいい。モンスターの討伐は、魔導師の仕事です」

貴族のような自分の身が大事な輩に、こんな仕事は向いていない。はっきり言って邪魔だ。が、王女様は少しためらいがちに僕に反論する。

「で、ですが!例え貴族であっても、戦える魔導師として育成することに意味はあるはずです!」
「その結果がこれなわけです。僕がいなかったら、あなたは死んでいましたよ?」
「そ、それは・・・」
「まあ、貴族が勝手に死んでくれるならありがたいことこの上ないですがね」
「・・・っ!貴族なら死んでもいいとおっしゃっているのですか!!」
「そうですが・・・何か?」

あんなゴミども生きている価値すらない。僕の変わらない考えを示しながら答えを返す。

「撤回してください」
「・・・・」
「撤回してください!!」
「何故ですか?」
「貴族は民のために尽力を尽くす存在です。死んでもいいなどということはありません。勿論、その民もです」

この王女様は中々言うようだが、僕は言葉を撤回するつもりはない。が、この王女様もひきそうにないようだ。

「・・・仕方ありませんね」
「撤回していただけますか?」
「それはしませんが・・・僕の過去を少しお見せしましょう」
「過去?」

僕は過去の一部を彼女に見せることにした。これを見れば、僕が貴族を憎む理由を少しは理解できる。寧ろできなければ、この王女様はあの家のものと同じとみなす。そうなればこの場で殺してしまうかもしれない。

「【僕の過去の一部をマリーに 憎しみの感情も体感させろ】」
「え?」

僕はルーン魔法を発動。王女様の脳内に記憶を送り込む。
王女様はその場に倒れそうになるが、僕はそれを支える。こういうところはまだ甘いと実感する。
王女様は僕の記憶を見ている最中だ。少し眠っている。僕はその場に王女様を寝かせ、その場に座り込む。光の花々を消していないため、明るいままだ。

僕はその花々を眺めながら、王女様が目覚めるのを待った。





王女様が目覚めたのは、15分ほどした後だった。彼女は僕の顔を見た途端に、涙を流し始めた。彼女が見たのは記憶の一部だが、それでも相当心にくるものがあったのだろう。憎しみの感情も体験させたのが効いたのもあるだろう。

「僕が貴族が嫌いな理由、ご理解いただけましたか?」
「グスッ・・・はい。まだ幼いあなたに、あんなことが行われていただなんて・・・」
「そういうことです。ですが、僕のことをこれ以上教えるわけにはいきません」
「なにか・・事情があるのですね?わかりました。これ以上の詮索はやめておきます」

あっさりと諦めてもらえた。僕の正体は機密事項だ。これ以上いらん情報を与えてしまう前に、話を変える。

「マリーは何故・・・ここまで積極的な行動に出ていたのですか?」

そこが疑問だった。彼女がここまで活発な性格をしていたのなら、学園長が事前に伝えてくるはずだ。きっと普段は違うと推測している。

「そ、その・・・わ、私はあまり積極的に行動できる性格ではなく、大人しく引っ込み思案な性格だったのです・・・」
「・・・続けてください」
「はい・・。それで、なんとかその性格を変えたいと思いまして・・・」
「この実習で変わってみせようと思ったと?」

僕が話を切って、結論を口にする。すると王女様は顔を赤くし、頷いた。

「はい・・・。ですが、行動した結果がこれです。もう、なんでこんなことに・・・」
「なら、積極的に動かないようにしましょう」
「え?」

僕の提案に王女は驚いた声を上げる。僕は構わずに続けた。

「そんなに無理に性格を変えなくてもいいんです。そんなものは歳を重ねれば誰でも変わるものです」
「で、ですが・・・・」
「いいですか?自分を変えたいと思ったら、安全に行動しましょう。その中で変えてください。変わる前に死んでしまったら意味がない」

僕は未だに渋った顔をしている王女様に呆れながら、言葉を続けた。

「そして、本来無理に性格を変える必要はありません」
「ど、どうしてですか?今までのダメな私から変わろうと・・・」

僕は王女様に、微笑みかけながら伝えることを伝える。

「自分ではダメと思っているかもしれませんが、それがあなたの魅力でもあるはずです。魅力をあなた自身で壊してしまうなんて、とてももったいないことですよ?自分に自信を持ってください。お姫様?」

このセリフは、研究の休憩時間に読んだ本のセリフである。学園長がたまに恋愛小説などを貸してくれるので、読んでいるうちに覚えたのだ。このようなセリフを男主人公がヒロインに言うと、大体は主人公の意思を受け入れてくれるのである。

現に目の前の王女様も、顔を真っ赤にしながら、僕の言葉を受け入れてくれていた。

「そそそそ、そうですね!わ、私は、今まで通りの性格では過ごしていきます!!」
「その方がよろしいですね」

王女様に要求を呑ませ、説教も終わったところでそろそろ眠くなってきた。見ると既に空には月が登っている。

「さて、僕はこれで失礼します。今からマリーを草原に転送します、では最後に1つ」
「な、なんでしょうか!」

何故か焦っているが、僕は気にせず彼女に手をかざす。

「少し目を閉じてください。おまじないをかけますね」
「お、おまじない?」
「そう。おまじないです。あなたが自分の意思を突き通せるようになるための」

僕は嘘をついた。今から行うのはおまじないではなく、僕に関する記憶の消去だ。僕の正体を知ってしまった彼女の記憶は修正をかける必要がある。
とは言っても、全て忘れるわけではない。このやり取りは忘れないが、僕の顔や声、性格など、僕につながることを消去するのである。
流石に全て忘れていたら不自然だろう。

「【僕につながる情報を消去しろ】」

王女様に魔法をかける。そして、終わったと同時に、次は転移だ。

「【マリーを草原に送還】」

彼女の身体が光っていき・・・やがて僕の前から消えた。

これで僕の仕事は終わりだ。流石にこんなことがあったので、明日は中止になり帰還するだろう。
僕は達成感とともにくる疲れに抗いながら、家に転移した。








マリーは気がつくと草原にいた。周りには見慣れたクラスメイトたちの姿、それに先生たち。

「一体・・・いつ・・・」
「ま、マリー?マリーなの?」
「お、王女様が、いきなり・・・」

周りはすごく静かにマリーを見ていたが、やがて大きな歓声に包まれる。

「マリー!!!よかった!!」
「あなたが帰ってこなかったから、みんな心配して・・」
「とにかくよかったよ!!」

みんなが私の生還を喜んでくれている。と、生徒たちの間をすり抜け、1人の女子生徒が近ずいてきた。

「・・アルナ・・」
「マリー・・・マリー!」

アルナはマリーに向かって走り、彼女の身体を抱きしめながら謝り始めた。

「ごめんね!!私を庇って・・・あなたが・・!」
「大丈夫ですよアルナ。私は生きています。それだけで十分ですよ」
「ごめんね・・・ごめんね・・」
「それに、結果的に2人とも助かったんです。それで良しとしましょう?ね?」
「うん・・・うん・・・おかえり」
「ええ。ただいま・・」

マリーたちが抱き合っていると、アグニスがやってきた。彼も、教師として生徒を守れなかったことについて反省していたのだろう。

「王女様・・・よく帰ってきてくれた」
「先生も・・・ご無事でなによりです」
「ああ。そしてすまなかった。君を守りきることができなかった」
「先生もですね。みんな無事なんですからそれで終わりです」
「結局、あの謎の魔導師に頼ることになってしまった・・・。なにかお礼がしたかったんだが・・・・」
「・・・・」


マリーは確かに彼に助けられた。だが、その素性などは一切わからないのである。わかるのは、マリーにこれからの自分について助言してもらったことや、助けられた時の胸にの高鳴りだ。

マリーは飛ばされる前に、一瞬だけ見えた顔を曖昧に思い出しながら、呟く。




「ありがとう・・・・救世主様」




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