創成の転生者〜最強魔導師の転生記〜

RAKIHA

第32話 作りたいもの

元残念な先輩に絡まれた数日後、僕はアリスさんの元で魔導工学の研究・・・というより、新しい魔導具の開発に勤しんでいた。


「・・・何か違う・・」


僕は完成した魔導具を見て落胆する。もう何度か作っているが、パッとしたものが出来上がらないのだ。落ち込んでいる僕の元に、アリスさんが紅茶を運んで来た。


「ユリ君・・あなたも少し休憩しなさい。もう5時間ぐらいずっと作ってるでしょ」
「ああ、ありがとうございます」


僕は紅茶を受け取りながら礼を言う。自分でも少し集中しすぎていたようだ。紅茶を一口飲み、一息つく。


「んで?今回は何を作っていたの?」


アリスさんに尋ねられる。僕が今回作ろうとしていたのは、出来上がればとてつもない価値を見出すものだ。作ることができれば、かなり僕の戦闘に役立つことになるもの。


「魔法式を保存することのできる装置です」
「・・・は?」
「ですから、魔法式を保存することのできる装置です」
「・・・ユリ君。あなた自分がどんなもの作ろうとしてるのか理解できてる?」
「もちろんです」


アリスさんの反応がこうなのはちゃんと理由がある。

まず、魔法がどうやって発動しているのかを簡単に説明する。魔法というのは発動者の魔力を糧として起こることだ。まず、発動者は魔法を発動するために、身体に魔力をためる。その後に、自分の頭の中で魔法が構築されるイメージを作る。そのイメージが魔法式となって、魔力に伝達され魔法が発動するのだ。


「僕は特定の魔法をその装置に保存し、身につけることによって、より速く魔法を発動できるようにしたいのです」
「・・・考えるプロセスを省いて、反則みたいな速さで魔法を放つようになりたいと・・・」
「まあ、そういうことですね」


反射の現象で例えたらわかりやすい。脳が命令する過程を省くことで、筋肉が動く。魔法も同じように、イメージなしで使うことができるようになるのだ。


「それができたら、今の魔法の常識が覆るわよ・・・」
「大丈夫ですよ。僕しか使いませんから」
「いや、普通に人に知られたらとんでもないことになるわよ。技術を教えろとかうるさそう」
「言わせておけばいいんですよ。そんな奴らは放っておきます」
「・・・国王とかに知られたら命令されるかもよ?その技術を寄越せって」
「それは国王でも同じです。無理強いされたらこの国を壊すまでです。僕ならできると思います」
「言うわね・・・でも、まずは完成させないと何も起こらないわ」
「そうですね。頑張りましょう」


僕は紅茶を飲み終え、再び研究に戻ろうと思ったのだが、アリスさんに呼び止められる。


「ああ〜〜ちょっと待ってユリ君」
「なんですか?」
「いつものやらして〜」
「・・・もうお疲れですか?」


いつものというのは・・・まあ、あれである。前に一度、学園長室でやって以来、疲れたら頼まれるのだ。今日は随分と早いが・・・


「10分だけですよ?」
「ありがとう!!」


アリスさんは笑顔で僕に抱きついてくる。僕を抱きしめると、僕の魔力が勝手に反応し、抱きついている人の疲れなどを浄化してしまうのだ。が、これについて少しわかったことがある。


「今はいやじゃありませんから、発動してると思います」
「うん。すごい気持ち〜〜」


この現象だが、僕が本気で嫌がると発動しないのだ。これは先日、アリスさんにいきなり抱きつかれた時だ。僕自身もそれなりに疲れていたので、抱きつかれるのを嫌がったところ、アリスさんに疲れが取れないと言われた。
後からよく考えると、僕が嫌がっていない時にしか発動していなかったのだ。


「これ本当にすごいわ〜〜〜〜。ね、寝る前に毎回やらせて?」
「もう研究を自宅ですることにしましょうか?」
「じょ、冗談よ!!お願いだからここで研究して!!!」


大分お気に召してしまったようだ。学園長も2日1回くらいやってきては僕を抱きしめていく。正直めんどくさい。


「もう10分経ちましたね。じゃあ僕は研究に戻ります」
「・・・これ以上延長したら嫌がるわよね?」
「確実に」
「わかったわ・・・私も研究に戻るわね・・・」


そう言って、アリスさんは僕から離れていった。

こうやって抱きしめられて感じるのだ。以前からもかなり気になっていたことだが、僕は心拍数が上がらない・・・・・・・・・
普通、綺麗な女性に抱きしめられようものなら、多少なりとも心拍数が上がるはずだろう。なのに、緊張すらしないのだ。
僕も12歳である。この年齢なら、そっち方面なことに興味を持ってもおかしくない年なのだが、一切興味を持てないのだ。


「まあ、必要ないか・・・。とにかく研究しよう」


僕は浮かんだ疑問を放棄し、研究に戻った。





なんだか、甘い匂いがする。お菓子とかそういうものではない、違った甘さだ。これは最近よく感じる香り・・・


「・・・ん・」


僕は目を覚ます。あたりは既に暗くなっている。いつの間にか眠ってしまったようだ。


「・・・僕はソファーで寝た記憶がないんだよね・・・」


今僕はソファーで寝ている。あのまま眠ったのなら、椅子に座って寝ているはずなのだ。まあ、だいたい検討はつくのだが。

「いい加減離してくれないかな・・・」
「く〜〜〜〜」


現在進行形で僕を抱きしめたまま眠っているアリスさんの顔を見る。なんとまあ気持ちよさそうに眠っている。彼女は寝ていた僕をソファーまで運んだが、自分も限界がきて眠ってしまった。そんなとこだろう。


「まあ、いいか。僕も眠いから、もう一度寝よう」


僕はアリスさんに抱かれたまま、彼女のいる方向を向いて再び眠る。思いっきり胸が顔に当たっているが、何故か心地いい。落ち着いて眠ることができる。

そんなことを考えながら、僕はそのまま意識を手放した・・・・




2度寝をしたため、2回目の目覚め。僕は起きると誰かに頭を撫でられていた。まあ、ここにいるアリスさんに撫でられているのだが・・・


「おはようユリ君」
「・・・何してるんですか?」
「助手の頭を撫でているのよ?」
「なんでまた急に・・・」
「だって、起きた時に私にしがみついてうなされてたのよ?心配だったから頭を撫でてたの」


どうやらうなされていたため、落ち着くようにしてくれていたようだ。僕は気遣いに感謝しつつ、少し恥ずかしくもなったため、彼女にしがみつき顔を隠す。


「どうしたの?」
「少し、昔のことを思い出しただけです」
「・・・辛いことがあったみたいね・・・」
「もう・・・すぎたことですが・・・」


時間は取り返せない。だからこそ、僕の復讐心も消えることがないのだが・・・


「昔のことでも、中々忘れられないものよ?大丈夫。辛いことはここにはあんまりないから」
「・・・そうですね。落ち着きました」
「ん。じゃあ紅茶を淹れてくるわね」
「あの・・・アリスさん」
「ん?」


僕は彼女を呼び止め、言っていなかった言葉を伝える。僕が見せるのは珍しい、慈愛のこもった微笑みと一緒に。


「ありがとうございます。こんなに、優しくしてもらって・・・」
「・・・その顔は反則じゃない?」
「あんまりこういう顔を見せませんからね」
「・・・そういうことじゃ・・」


アリスさんは何故か、鼻を押さえながらキッチンに去って行った。

今日も研究だ。僕の、目標のものを作るための!!

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