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怪談殺し

ダイナソー

校庭と銃弾

 武者が影との戦いを始めたちょうどその頃。
 明美達は体育の授業を受けていた。
 授業の内容はマラソンだ。
 明美と闇子は並んで校庭を走っていた。
「はい、ラスト一周!」
 体育教師の治の声が聞こえた。
 二人は治の前を横切り、ある程度離れた所で明美が口を開いた。
「一日の授業の終わりが体育、しかもその内容がマラソンだなんて、やってられないよ」
 明美に闇子が笑顔で答える。
「そうかな! 私は好きだけどね! マラソン!」
 笑顔の闇子に対し、明美は苦い表情だ。
「私はどちらかと言えばインドア系だからね。それに学校が終わったら闇子ちゃんとの特訓が待ってるし」
 明美の言葉に闇子が答える。
「今日はちょっと休憩してから特訓しようか! それと明美ちゃんは筋が良いよ! インドア系って割には素の運動能力も悪くないしね!」
 二人がそんな話をする内に、前方を走る三虎の姿が近づいてきた。
 闇子が三虎へ声を掛ける。
「頑張って! 三虎ちゃん!」
 三虎は苦しそうな表情で二人に答える。
「私に構わず先に行くの」
 三虎は二人より二週遅れだった。

「はあー、疲れたー」
 二人は木陰から校庭を走る三虎の様子を見ていた。
 明美は闇子に言う。
「三虎ちゃんはね、凄いんだよ」
 明美は言葉を続ける。
「三虎ちゃんは何でも知ってるんだ。知らない事もあるけど、大体の事は何でも」
 闇子が明美に尋ねる。
「それはオカルトの知識の事?」
 明美は首を横に振る。
「ううん、三虎ちゃんは幅広く色んな事をしってるんだ。子供の頃からね」
 明美は説明を続ける。
「そう、昔モールス信号を教えて貰った事もあったっけ」
 闇子が明美に笑いかける。
「明美ちゃんは三虎ちゃんが好きなんだね!」
 明美は頷く。
「うん、私の一番の親友だよ」
 闇子は立ち上がり。
「じゃあ、そんな三虎ちゃんに負けない様に明美はもっと強くならなきゃね」
 闇子は大きく伸びをして言う。
「ここで一つレクチャーだよ。私達は集中力を高める事で体の中の力を引き出すんだけど、体の一部に意識を集中させる事で、より感覚を研ぎ澄ませる事が出来る。視力とか聴力とかね。これを応用して肉体を部分的に強化したりも出来るんだけど、今日の特訓はそこからやっていこう」

「もう少しだぞ! 頑張れ!」
 三虎もようやくゴールしようとしていた。
 その時、銃声が響いた。
 三虎は膝に熱を感じる。膝を撃ち抜かれていた。
 三虎の体のバランスが崩れる。
 三虎が倒れるのと同時に、校庭に悲鳴が響いた。

「妙な真似をすれば殺す。僕はいつでもお前を殺せる」
 膝の痛みに堪えながら三虎は囁く声を聴いた。
 直後、その声は校庭全体に響き渡る大声になった。
「先ずは自己紹介をしよう。僕の名前はフルメタルジャケット」

 校庭が混乱に包まれる中、謎の声は言う。
「取引をしよう。僕が欲しいのは要人二人の命。それでこの娘は解放してあげる」
 声は続ける。
「もし誰かが逃げ出したり、外に連絡を取った場合は君達を虐殺します」

 銃声と悲鳴、謎の声の後、教員と生徒達は物陰に隠れていた。
 ただ、三虎だけが校庭の真ん中に残されていた。
 明美と三虎の目が合う。
 だが明美は動かなかった。動けなかった。
 声の主がどこから明美達を狙っているのか分からないからだ。
 その間も三虎の体力は確実に削られていた。

 明美達の動けない中、一人の生徒が動いた。
「克典君!」
 誰かが助けなくては、三虎は血を流しきって死ぬ。
 誰かが助けに行かねばならなかった。
 克典は三虎まで一直線に、全速力で走った。
 三虎までもう少しという所だった。
 克典には信じられない事が起きた。
 地面に落ちていた弾丸が動く。克典の真正面から真っ直ぐに弾丸が向かってくる。
 弾丸が克典の体を貫いた。
 そして、克典は動かなくなった。

 明美の体が動きかけた。
 それを闇子が引き留めた。
「何をする気?」
 明美は泣きそうな顔で闇子を見る。
「でも!」
 明美は引き留める闇子を振り解こうとする。
「でもじゃない!」
 闇子が明美を一喝した。
 その後、闇子は冷静に明美に言う。
「聞いて。まず大事なのは落ち着く事。そして次に大事なのは、今出来ることに集中する事」
 明美は闇子にに問う。
「私は何をすれば良いの? 闇子ちゃん」
 闇子は明美に答える。
「明美ちゃんは此処に居て。私が隠れてる奴を探し出して叩く」
 明美は一瞬三虎の方を見て、また闇子へ向き直った。
 闇子の気配は消えていた。

 三虎は考えていた。
 なぜ、恐らく自分にだけ囁く声が聞こえたのか?
 なぜ、地面に落ちていた弾丸が克典を襲ったのか?
 そして姿を持たない狙撃主の怪談。
 三つの考えが一つになり、三虎はある答えを閃いた。
(そうか。そういう事か。だけどどうやって明美達に伝える?)
 声に出して叫ぼうとすれば、三虎はきっと殺されるだろう。
(どうすれば良い? どうすれば?)
 三虎は再び考える。何か方法があると信じて。

 闇子はその気配を消したまま、校庭を狙撃出来る場所をしらみ潰しに探しまわっていた。
 しかし狙撃手の姿を何処にも見つける事が出来ない。
 その間も、時間は無情にも過ぎていく。
(奴は一体何処に居るんだ? 何処に)

 明美はただ、三虎を見守っていた。
 明美が三虎の様子の変化に気付いたのは、夕日も沈みかけた頃の事だった。
 三虎が指で地面を叩いていた。
 始め明美はそれが何なのか分からなかった。
 しかし三虎が一定のリズムで地面を叩いていることが分かり、更にそれがモールス信号である事に気付いた。

 もう時間は残り少なかった。やるしか無かった。
(私にも出来るだろうか?)
 明美は精神を集中させる。
(いや、私にも出来る。要人の力を引き出して見せる)
 明美は体の中に眠る力を感じ取る。
 それが引き金となり、明美の中に眠っていた力が引き出された。
 明美の全身をエネルギーが駆け巡る。
(これが私の中に眠っていた力) 
 そして明美はさらに意識を耳に集中させ、感覚をさらに高め、三虎が何を伝えたいのか聞き取った。
(そうか、そうなんだね。三虎ちゃん)

 明美は全身を流れるエネルギーを右手から左手へ、左から右手へと移動させ、エネルギーのコントロールを確認していた。
「しばらく待ってみたけど、要人は出て来ないんだね。ならもう全員殺すしかないね」
 声が言った。
 明美は覚悟を決めた。そして物陰から飛び出した。
 声が嬉しそうに言う。
「ようやく出て来たね。待っていたよ」
 明美はその声を無視し、三虎の元へ向かう。
「じゃあ、まずは君から死のうか」
 地面から再び弾丸が跳ね上がり、凄まじいスピードで明美に迫る。
 明美は避けなかった。初めから避ける気など無かった。

 明美は意識を脳に集中させていた。
 エネルギーが脳を全速で駆け巡り、明美の認識する時間は蕩ける飴のように鈍化し、明美の見る全てのものがゆっくりと動いていた。
 それは明美を狙う弾丸も例外では無かった。
 明美は僅かのエネルギーを手足にも供給し、飛んで来る弾丸を受け取る様に構えた。
 弾丸は明美の右手の中へ吸い込まれ、弾丸が明美の右手を破壊する寸前に、明美は全てのエネルギーを右手に移した。
 そして時間が加速した。

 明美の手の中に弾丸は囚われていた。
「初めから狙撃手なんて居なかった」
 明美は語る。
「まさか弾丸そのものが怪談だっただなんてね」
 明美はそのまま右手の中の弾丸を握りつぶした。
 瞬間、弾丸の断末魔が周辺を駆け巡った。

 満天の星空の下、明美は救急車の中で三虎に付き添っていた。
 三虎は明美に言う。
「きっと明美なら気づいてくれると信じてたの」
 明美は三虎に答える。
「ありがとう。三虎ちゃんのヒントが無かったら、弾丸を捕まえるなんて発想は出て来なかったよ」
 三虎は明美に笑って見せる。
「ありがとうはこっちの方なの」
 救急隊の隊員が三虎に言う。
「もうすぐ病院ですよ。もう大丈夫ですからね」
 三虎は目を閉じる。
「少し寝るの。おやすみ。明美」
 明美は頷く。
「うん、おやすみ。三虎ちゃん」

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