ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.2―3 尾行作戦

閑静とは真逆の、騒がしい王都の大通り。
道の真ん中を馬車が走り、その脇を大勢の人が行き交うその道に、とある1人の有名人がいた。

フードを目深に被って顔を隠したその人物は、そのフードからかろうじて覗く碧眼で辺りを忙しなく見る。
当然だ。
その有名人、ハーネス・リアスター国王は、現在進行形で命を狙われているのだから。

そして、そんな国王の後をつけている集団がいた。
完全に周囲の風景に溶け込んだその集団は、付かず離れずの距離で追跡する。
明らかに一般人ではない手際。
そして、その集団の中でも比較的背の高い人物が口を開いた。

「おい団長、これって何の意味があんだよ?」

「しーっ!黙ってろユグド、バレんだろうが!」

「いや、デカイ声出してんの団長だし………」

クリストは右手に持った謎の串焼きを頬張りながら、ユグドの抗議の視線を完全スルー。だがその視線は常にハーネスを捉えている。

「というかクリスト、何食べてるのじゃ?」

「さっきそこで買った串焼き。俺の昼飯だ」

「………は?昼飯?それ《激安串焼き》じゃろ?」

「それって確か、『極貧貧乏でも買える!』がキャッチコピーの大雑把な味付けが不評のやつですよね」

「ああ。甘さと苦さが拮抗するところに酸っぱさと辛さがハーモニーを奏でて………とにかくクソマズい」

「なにそれ、逆にどう作るのか気になるよ!?」

この世のものとは思えない味に顔をしかめながらも、食べることを止めないクリスト。否、止められないのだ。
なぜなら、今のクリストの所持金ではそれ以上のものは食べられないのだから。

「悲しいな、貧乏人は………」

「いや、自業自得よね?仕事サボったりするから」

「………男にはな、貫くべき筋ってのがあるんだよ」

「うん、それがサボることじゃないのは私にも分かるよ。間違いないって断言出来る」

ソラミアはクリストの言葉をばっさりと切り捨て、周囲に目を配る。だが大通りの人混みの中では、敵と一般人の区別がつかない。

「ちょっとクリスト、どう見分けるのよ?」

「んー?ハーネスを攻撃したやつが敵ってことで良いんじゃね?」

「………適当すぎない?」

「俺のウリの1つは適当さだからな」

そう嘯いたクリスト達が見る先で、ハーネスが城へと入っていった。城の周囲には防壁が築かれていて、何人たりとも侵入することは出来ない。

つまり、ハーネスの身の安全は保証されたのだ。
それは同時に、国王を狙う襲撃も無いことを意味している。

「団長、ハーネス入っちゃったよ?」

「分かってるよ。お前らはここで見張っててくれ」

そう言ってクリストは、1人大通りの向こうへと歩いていく。

 「ちょっと、どこいくの!?」

「野暮なこと訊くな。コレだよ、コレ」

クリストはさっと小指を立てると、「頼んだぞー!」と言い残して人混みへと消えていった。そしてその場に残された5人は―――

「だ、だだだ団長に恋人!?」

「はうっ………何か急に気が遠くなって………」

「ルーナ!?し、しっかりしてー!!!」

「まさかあのダメ人間にのぅ………」

「世の中、何が起こるか分かりませんね………」

クリストの爆弾発言に翻弄され、もはや仕事どころでは無いのだった。



**********************
 


「ふぅ………。ここでいいかな」

執行部のメンバーと1人別れたクリストは、とある路地裏にてそう呟いていた。もちろん、恋人との待ち合わせなんてことはない。ただの方便だ。

ふぅーと長くため息を吐いたクリストは、不意に振り替えって叫ぶ。

「おい、さっきからストーカーして来てるヤツら。用があるなら出てこいよ。大方魔導教団のクソ野郎共だろうけどな?」

先程までの小物の雰囲気は一瞬で消え、油断なく周囲に視線を向けるクリスト。その右手には、いつの間にか漆黒の魔剣が喚装コールされている。

一瞬の沈黙が路地裏を支配し―――

直後、4方向から風の刃が襲い掛かる。
一撃でも喰らえば身体が分断されるであろう刃を、身体を捻り、剣で無効化して回避する。クリストが着地すると同時に、影から滲み出るように黒いフード姿の男達が現れる。

「魔導騎士団執行部団長だな?おまえにはここで死んでもらうぞ」

簡潔に、冷酷に告げると、男達は一斉にクリスト目掛けて飛びかかる。それに対してクリストは一言。

「俺を殺してぇんならよ。都市1つ潰すぐらいの戦力連れてこいってんだよッ!!!」

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