ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》
No.1―14 似た者同士
「………執行部の団長、ですか?」
「言っとくけど、本物だからな」
「にわかには信じられませんね………」
そう言ってため息を吐くフリウスと、クリストは正面から対峙する。ソラミアを後ろに庇うような立ち位置で、右手の長剣を肩に担いで。
「なんなら証拠でも見せようか?例えば………お前ら全員ぶっ倒すとかしてさ」
「それはそれは。なんとも大きく出たものですね」
「目標は大きくって言うだろ?」
「………それもそうですね。まあ無理ですが」
「あ?」
フリウスの言葉に怪訝な顔をするクリスト。そんな謎の少年にフリウスは、前置き無しで魔法を放つ。
「『発射』」
途端、放たれた水の弾丸がクリストへと吸い込まれるように空中を駆け抜け――――
「………邪魔だ」
そんな言葉と共に無造作に振るわれた刀身と激突し、強制的に元の水へと戻されてしまう。そんな魔術では説明不可能な現象を目の当たりにしたフリウスは、やがて1つの結論に達する。
「あなた、もしかして………固有魔法使いですか?」
「ああ、そうだぜ。『無効の斬撃』、それが俺の魔法だ」
「なっ………!?」
クリストの当たり前だろと言わんばかりの言葉に反応したのは、後ろにいたソラミアだ。だがその反応は至極当然である。何しろ固有魔法など、あまたの魔導士が人生を捧げても到達出来なかった夢なのだから。
「固有魔法がそんなに珍しいか?」
「あ、当たり前ですよ!あなた一体何者なんですか!?」
「だから言っただろ、執行部の団長だよ」
「いえ、そうではなくてですね………」
ソラミアが言葉を返そうとしたその時。
ズドォォォン!と耳をつんざくような轟音がして、天井の一部が突然崩落した。その余波がクリスト達の体を揺さぶり、瓦礫が落ちてくる。
それと同時。
「おおっ!団長じゃねーか!」
そんなことを言いながら、落ちてくる瓦礫を器用に伝ってユグドとルーナがクリストの目の前に着地した。その2人と一緒にフリウスの部下であろう魔術師達も現れる。
「どうやら、お互いに仲間が揃ったようですね」
「みたいだな。まあこっちが不利なのは変わんねーけどさ」
そんな窮地に立たされた状況で、クリストは信じられない発言をする。
「よし、2人でしばらく頑張ってくれ」
「は?」
「え?」
唐突に言われた2人が聞き返す間もなく、クリストは剣を消してソラミアを脇に抱える。そして脱兎のごとく走り去った。
「きゃあっ、ちょっと!?」
「頼んだぞ、2人ともー!」
クリストはそんな勝手な台詞を言い残して、暗闇へと消えていった。その後ろ姿をポカーンとした顔で見送ったユグドとルーナは、互いに顔を見合せると―――
「………やるしかねーか」
「………だね」
苦笑いでそう言って、戦場へと足を踏み入れるのだった―――
**********************
ユグドとルーナに勝手な捨て台詞を言い残したクリストは、バシャバシャと水を跳ねながら走り続けていた。そしてある程度戦場から距離をとったところで立ち止まり、脇に抱えていたソラミアを下ろす。
「よし、大丈夫か?まってろよ、今ほどいてやるから………」
「お、お願いします………」
「喚装、魔剣リタリエート」
クリストがそう呟くと、いつの間にか手に握っていた宝石が1本の長剣へと変化する。漆黒と紅蓮で彩られたその剣は、見るもの全てを魅了するかのような美しさを秘めている。
「危ないから動くなよー」
そんな気の抜けた声とは裏腹に放たれた鋭い一閃が、ソラミアを戒めていた鎖を一撃で断ち切る。
「こんなもんで良いだろ。十分十分」
「本当にありがとうございました。お陰で助かりましたけど………」
「ん?どした?」
ソラミアが少し言葉に詰まったのを察知し、問うてくるクリスト。ソラミアは伝えるべきかしばし迷ってから、意を決して口を開く。
「どうして………私を助けてくれるんですか?」
それは、ソラミアが今まで何度か口にした問い。そして、クリストが何度も答えを返せなかった問い。だから今度こそ、クリストは確かな答えを返す。
「それは………お前が、俺に似ていたからだろうな」
「え?………似ていた?」
「ああ。迫る絶望に押し潰されそうになって、必死に足掻いていたところがな。昔の俺そっくりだった」
遠い目をしながら語るクリストは、どこか悲しそうで寂しそうな雰囲気を纏っていた。
「お前に会ったとき、感じたんだ。コイツは俺と同じ絶望の中にいるんだって。だから助ける。それだけだよ」
「………私に、昔の自分を重ねて、ですか」
「まあ、お前にとってはただ迷惑な話だし、自己満足もいいところだけどな」
はははっ、と自嘲するように笑うクリスト。だが、そんなクリストの言葉をソラミアは否定する。
「そんなことない。たとえ自己満足でも、あなたが私を助けてくれたのは事実だもの」
いつの間にか敬語では無くなっているのにも気づかずに、ソラミアは続ける。
「だから………ありがとう」
「―――ッ!」
ソラミアの感謝を込めた言葉に、クリストは驚きの表情。だがその表情は、すぐに穏やかな笑みへと変わる。
「すぐに終わらせてくる。ここで待っていてくれ」
「分かったわ。気を付けてね」
「はっ、俺を誰だと思ってんだ?執行部の団長様だぜ?余裕だっつーの」
そう言うと、クリストは戦場へと向かって駆け出した。全てを終わらせ、仲間を護るために。
「言っとくけど、本物だからな」
「にわかには信じられませんね………」
そう言ってため息を吐くフリウスと、クリストは正面から対峙する。ソラミアを後ろに庇うような立ち位置で、右手の長剣を肩に担いで。
「なんなら証拠でも見せようか?例えば………お前ら全員ぶっ倒すとかしてさ」
「それはそれは。なんとも大きく出たものですね」
「目標は大きくって言うだろ?」
「………それもそうですね。まあ無理ですが」
「あ?」
フリウスの言葉に怪訝な顔をするクリスト。そんな謎の少年にフリウスは、前置き無しで魔法を放つ。
「『発射』」
途端、放たれた水の弾丸がクリストへと吸い込まれるように空中を駆け抜け――――
「………邪魔だ」
そんな言葉と共に無造作に振るわれた刀身と激突し、強制的に元の水へと戻されてしまう。そんな魔術では説明不可能な現象を目の当たりにしたフリウスは、やがて1つの結論に達する。
「あなた、もしかして………固有魔法使いですか?」
「ああ、そうだぜ。『無効の斬撃』、それが俺の魔法だ」
「なっ………!?」
クリストの当たり前だろと言わんばかりの言葉に反応したのは、後ろにいたソラミアだ。だがその反応は至極当然である。何しろ固有魔法など、あまたの魔導士が人生を捧げても到達出来なかった夢なのだから。
「固有魔法がそんなに珍しいか?」
「あ、当たり前ですよ!あなた一体何者なんですか!?」
「だから言っただろ、執行部の団長だよ」
「いえ、そうではなくてですね………」
ソラミアが言葉を返そうとしたその時。
ズドォォォン!と耳をつんざくような轟音がして、天井の一部が突然崩落した。その余波がクリスト達の体を揺さぶり、瓦礫が落ちてくる。
それと同時。
「おおっ!団長じゃねーか!」
そんなことを言いながら、落ちてくる瓦礫を器用に伝ってユグドとルーナがクリストの目の前に着地した。その2人と一緒にフリウスの部下であろう魔術師達も現れる。
「どうやら、お互いに仲間が揃ったようですね」
「みたいだな。まあこっちが不利なのは変わんねーけどさ」
そんな窮地に立たされた状況で、クリストは信じられない発言をする。
「よし、2人でしばらく頑張ってくれ」
「は?」
「え?」
唐突に言われた2人が聞き返す間もなく、クリストは剣を消してソラミアを脇に抱える。そして脱兎のごとく走り去った。
「きゃあっ、ちょっと!?」
「頼んだぞ、2人ともー!」
クリストはそんな勝手な台詞を言い残して、暗闇へと消えていった。その後ろ姿をポカーンとした顔で見送ったユグドとルーナは、互いに顔を見合せると―――
「………やるしかねーか」
「………だね」
苦笑いでそう言って、戦場へと足を踏み入れるのだった―――
**********************
ユグドとルーナに勝手な捨て台詞を言い残したクリストは、バシャバシャと水を跳ねながら走り続けていた。そしてある程度戦場から距離をとったところで立ち止まり、脇に抱えていたソラミアを下ろす。
「よし、大丈夫か?まってろよ、今ほどいてやるから………」
「お、お願いします………」
「喚装、魔剣リタリエート」
クリストがそう呟くと、いつの間にか手に握っていた宝石が1本の長剣へと変化する。漆黒と紅蓮で彩られたその剣は、見るもの全てを魅了するかのような美しさを秘めている。
「危ないから動くなよー」
そんな気の抜けた声とは裏腹に放たれた鋭い一閃が、ソラミアを戒めていた鎖を一撃で断ち切る。
「こんなもんで良いだろ。十分十分」
「本当にありがとうございました。お陰で助かりましたけど………」
「ん?どした?」
ソラミアが少し言葉に詰まったのを察知し、問うてくるクリスト。ソラミアは伝えるべきかしばし迷ってから、意を決して口を開く。
「どうして………私を助けてくれるんですか?」
それは、ソラミアが今まで何度か口にした問い。そして、クリストが何度も答えを返せなかった問い。だから今度こそ、クリストは確かな答えを返す。
「それは………お前が、俺に似ていたからだろうな」
「え?………似ていた?」
「ああ。迫る絶望に押し潰されそうになって、必死に足掻いていたところがな。昔の俺そっくりだった」
遠い目をしながら語るクリストは、どこか悲しそうで寂しそうな雰囲気を纏っていた。
「お前に会ったとき、感じたんだ。コイツは俺と同じ絶望の中にいるんだって。だから助ける。それだけだよ」
「………私に、昔の自分を重ねて、ですか」
「まあ、お前にとってはただ迷惑な話だし、自己満足もいいところだけどな」
はははっ、と自嘲するように笑うクリスト。だが、そんなクリストの言葉をソラミアは否定する。
「そんなことない。たとえ自己満足でも、あなたが私を助けてくれたのは事実だもの」
いつの間にか敬語では無くなっているのにも気づかずに、ソラミアは続ける。
「だから………ありがとう」
「―――ッ!」
ソラミアの感謝を込めた言葉に、クリストは驚きの表情。だがその表情は、すぐに穏やかな笑みへと変わる。
「すぐに終わらせてくる。ここで待っていてくれ」
「分かったわ。気を付けてね」
「はっ、俺を誰だと思ってんだ?執行部の団長様だぜ?余裕だっつーの」
そう言うと、クリストは戦場へと向かって駆け出した。全てを終わらせ、仲間を護るために。
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