ゼロの魔導騎士と封印の魔導書《グリモワール》

本城ユイト

No.1―7 封印の魔導書

ゼラスの指示によってようやく牢獄から出ることが出来たクリストとソラミア。ただしクリストには首に短剣ダガーを押し当てられるといういらないオマケがついてきたのだが。

「さて、それでは話をしようか」

牢獄から出てきた2人を前に、早速切り出すゼラス。だがそれにソラミアが言葉を返す前に、クリストが不満を言い出した。

「そんな事よりもっとマシな部屋は無いのかよ。まさかとは思うが牢獄みてーな部屋の前で立ち話か?」

「私としても移動したいのはやまやまなのだが、あいにくこの場所には座って話せる場所など無いのだよ。上が『別に座るとこなんて要らないだろ?』とか言ってきたせいでな………」

「………アンタもいろいろ苦労してんだな」

「………ああ、本当にそうなんだ」

なぜか思わぬところで互いに共感する2人。今まで敵対していた2人が初めて意見を一致させた瞬間だ。
だが、そんな事はソラミアにとって関係ない。

「あのー、話をするんじゃなかったんですか?」

「ん?そうだったっけ?」

「忘れるんじゃない、貴様はニワトリか!?………コホン、それでは改めて我々の要求を伝えよう」

ゼラスは一度咳払いをすると、真面目な表情になる。それはここからの話が真剣なものであると、肌で感じさせる。

「我々の要求とは………生き残りの少女よ、貴様が所有する魔導書グリモワールを頂きたいのだ」

「―――ッ!」

『魔導書』の単語を聞いた途端、ソラミアは鋭く息を呑む。自分が1番恐れていた言葉、それを聞いてしまったから。

「………残念ですけど、魔導書は………持ってません」

「そんなはずはない。我々は確かに貴様が『護り手』であるとの調べがついている。隠せばこの少年の首が飛ぶことになるが………構わないな?」

「いや俺が構うわ!いいワケねーだろ、こんな意味わかんない状況で!俺にも分かるように説明しろ!」

そう吠えるクリストに対して、心底めんどくさそうにため息を吐くゼラス。そしてソラミアが何も答えないと分かると、暇潰しも兼ねて語り始める。

「………貴様、シーネルタ家を知っているか?」

「は?………シーネルタ家ってあの大貴族のか?そりゃあもちろん知ってるさ。世界有数の大貴族だから」

「そこに立っている娘はその貴族の人間だ。………といっても、つい2ヶ月ほど前・・・・・・まではだが」

「………どういうことだ?」

ゼラスの言葉に違和感を感じたクリストは、オウム返しに訊き返す。するとゼラスはなんでもないかのように衝撃的な発言をした。

「我々が総力を持って攻め落としたのだよ。その大貴族の屋敷をな」

「なっ………!?」

あまりの事実に驚きの声をあげるクリスト。大貴族のシーネルタ家の屋敷といえば、1国の軍隊にも匹敵する戦力を保有するまさに最強クラスの要塞。
だが相手が魔導教団であればあり得ない話ではないのかもしれない。この教団はこれまでたくさんの国を滅ぼしてきたのだから………。

「………なんで攻撃したんだ?」

「それは当然目的があったからだ。そこの少女が所有している魔導書を手に入れる、そのために」

「シーネルタ家が所有してるって………まさか!?」

「そうそのまさか………『封印の魔導書グリモワール』だ」

封印の魔導書。
この世界に存在する魔導書の中で唯一『完全』と評されたものである。800年前の『異界大戦』の際にソラミアの先祖にあたるローズ・シーネルタによって書かれたのだ。
それ以降は代々シーネルタ家から選ばれた『護り手』によって厳重に保管されているらしいのだが………。

「それが………奪われた?」

暗い表情で呟くクリストに、ゼラスは首を横に振る。

「結論から言えば………我々はまだ魔導書を手にしてはいない。たった1人の生き残りであるそこの少女が持っていたからな」

「そうか………それでアンタらがソラミアを追い回してたってワケか。本1冊のためによくそこまでやるよなぁ。流石は『魔法をあきらめたヤツら』だな」

「魔法を………あきらめた………?」

クリストが何気なく放った言葉に、ようやく放心状態から立ち直ったソラミアが反応する。しかし興味を持ったというよりは話を魔導書から逸らすために半ば無意識でやった事なのだが。
そんなソラミアの内面を察したのか、クリストは丁寧に解説をしていく。

「元々魔法と魔術は相容れない存在。だからどちらかを習得すればもう一方は使えない。そんでもって魔術ってのは魔法の模造品レプリカみたいなもんだ。魔法を習得できずにあきらめた人間が行き着くのが、比較的に魔法よりかは簡単な魔術ってワケ」

「なるほど………そうだったんですね」

頷きながら納得するソラミアを見て、ゼラスは容赦なく話題を元に戻す。

「そんな事よりも、今は魔導書だ。貴様が所有しているのだろう、生き残りの少女よ!」

「そ、それは………ッ!」

苛立ちからか少し語尾を荒げるゼラスに、ソラミアが言葉を返そうとしたその時。
ズズ……ンと部屋全体が揺れたかと思うと、勢いよく扉が開いてゼラスの部下の1人が駆け込んできた。

「どうしたんだ?」

「逃げてください、ゼラスさん!ここは………ッ!」

その部下が言い終わる前に、後ろから鈍く光る刃が一閃、一撃で命を刈り取ってしまう。
倒れた体の向こうに立っていたのは、右手に短剣ダガーを持ち、騎士団のローブに身を包んだ金髪の男。

「何者だ、貴様は」

固い表情でそう問いかけるゼラスに、男は薄く笑って名を告げる。まるで命を奪う死神のように。

「トライス西区域統括騎士団長、フリウス・レイズ。あなた達魔術師の命を頂きに参りました」

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