過去と現在を結ぶ異世界ストーリー

なつきいろ

~愛弟子とごほうび~

「サーシャ、魔法を使ってみたくないか?」

サーシャはかなり混乱しているようだ
訳がわからない、何を言ってるんだと、そんな顔だ
無理もない、この世界では魔法は使えない、それが常識
まずはこの常識を取っ払って、覚える必要性を教えないといけない

「サーシャ聞いてくれ、俺はお前が好きだ。ついてきて欲しいとも思っている」

真剣な眼差しでサーシャを見つめる
サーシャは更に驚いてる
当たり前か、数時間前には一度フラれているんだから

「でも酷い言い方になるが、今のサーシャでは連れていけない、いきたくない。理由はわかるよな?ハッキリ言う、足手まといだ。誰かを守るってすごく大変だ。例え勇者でも。何かあった時俺が護るんじゃなくて、自分で守れるぐらい強くなってくれないと仲間として認められない」

真剣に一言一句聞き漏らさないようにしている
表情も真剣だ

「俺には旅の目標がある、でも今は言えない。その目標の為なら何だってやるつもりだ。ただ、その目標を達成するには今のサーシャでは力不足だ。失う可能性があるぐらいなら最初から連れていかない。」

「でしたら、私が強くなれば一緒にいけるんですよね!?」
サーシャは嬉しさを隠すこともなく尋ねてきた

きっとこの世界の常識で問題ないと判断したんだろう

「そうだな。じゃあ聞くが、サーシャは一体どれだけの時間を費やして強くなるんだ?そしてどこまで強くなりたいんだ?俺が転移者なのは知ってるだろ?色々調べてみたが、この世界の人達は弱すぎる。」

まず少しずつ現実を教えていく
かかる時間と強さの目標、そしてこの世界の基準

「・・・」

「俺の目標をかなえるにはこの世界の人達では全く話にならない。サーシャも知っているだろ?冒険者のこと。この世界ではSクラスまであるらしい。ただ予想ではSクラスでさえ、弱すぎると思う。信じられないと思うが、間違っていないはずだ。」

「数々の伝説を打ち立ててるSクラスでさえもですか!?」

目が大きく見開き驚いてる
きっとこの世界では化け物クラスなのだろう
今の俺では勝てないかもしれない、転移者の中では全く相手にすらならないやつもでてくるだろう
それでも俺の目標の前では雑魚も同然だ

「俺はSクラスを知らない。別にバカにするつもりもない。ただ俺の目標の前では間違いなく足手まといだ」

サーシャは改めて絶望する
護身ぐらいならなんとかなると思っていた
もちろん、もっと強くなる努力もするつもりだった
でもユウジから出た言葉はSクラスさえ足手まとい
到底信じられない内容だが、ユウジがいうならそうなのだろう、私達の世界は弱すぎる、転移者はそこまで強いのか
自分自身Sクラスになるなんて無理だと思う、それをたったの2ヶ月でなんとかできるとは到底思わない
そこでふと思う。本当は私を連れていきたくないだけの嘘なのでは?と。嘘をつかれるぐらいならいっそ本当のことを言ってほしいと

「・・・本当は私を連れていきたくないだけの嘘なのではないですか?連れていきたくないならそれは仕方ありません。でも嘘はつかれたくはありません」

初めてみるサーシャの静かな怒り、嘘をつかれてまで厄介もの扱いされる悔しさ、そんな様々な思いを込めていた 

「・・・嘘じゃない。本当のことだ」
それでも俺は譲らない、それが真実だから

「だったら!どうしようもできないじゃないですか!しかもたった2ヶ月で!」

サーシャは悲壮な面持ちで絶叫した
無理なら、連れていきたい、という言葉を言ってほしくなかった。こんなこと知りたくなかったと後悔した
でもユウジからは意外な言葉が返ってきた

「そうだな。サーシャの常識では無理かもな。だから常識を捨てろ。さっき聞いたよな?魔法を使いたくないか、と」
ユウジは淡々と語る

「え?でも魔法なんて使えるわけないじゃないですか?」

「だからその常識を捨てろって言ってんの」

・・・。

「本当に、私にも、・・・使えるんですか?」

「あぁ、もちろんだ。俺の考えが間違ってなければ、むしろサーシャは才能がある」

サーシャはまだ信じられないとした顔で不安になっている
そうだよな、不安だよな
常識を捨てろ、なんてなかなかできないよな
今安心させてやるからな!

不安そうなサーシャをしっかり抱きしめ、ぽつりと
「今から魔力が見えるにする、すこしの間だけリラックスしててくれ」
サーシャの体から次第に力が抜けていく
(スキル官制!・・・覚醒、発動!)
ユウジとサーシャを包み込むような光が溢れる

(なんて温かい光なんだろう、ユウジ様の優しさが体に染み込んでくるみたい、とても気持ちいい。【スキル『魔力眼』を取得 ランク:SSS】・・・え?なに?)

よし、覚醒したな
突然のスキル獲得に驚いてるようだ
あれ、最初びっくりするよな
サーシャの反応にすこし前の俺を重ねて思わず笑った

「ゆ、ユウジ様?」
慌てているサーシャはなんかリスみたいだ

「わ、悪い。サーシャの反応が俺の時と一緒で思わず、な」サーシャの頭をぽん、ぽんと撫でる

『魔力眼』ランク:SSS
鑑定眼の伝説級スキル
物事を見極める魔眼の力と魔力を見極める魔眼を合わせ持つ眼。取得できたものは過去にも少数 

(やはりか。伝説級スキルとかうらやましすぎる!いや、ヘイネの神眼もいいよ?ヘイネの生涯スキルだし。でも男なら伝説って響きに憧れるよなぁ)

「サーシャ。どうだ?なんか頭の中で声みたいものが聞こえなかったか?」

「はい、なにか聞こえました。すごいびっくりしましたが」

「サーシャが新しく取得したスキルだ。もともと覚醒しかけてたんだが、俺がきっかけを与えて完全に使えるようにした。そうだな、試しに俺を見つめてみろ」

サーシャに見つめられた。整った顔立ちで美しい

「!?え?17歳・・・年下なの?」

(え?そこに食いついたの?確かに言ってなかったけど)

「おぅ、17だな。ステータスが見れてなによりだ」
あれ?年下好きじゃないのかな? 

「これってどういうスキルなんですか?」

「サーシャのは、物事を見通す力と魔力を見る力だな。物事のほうは俺が上で、魔力のほうはサーシャが上みたいだ」

「・・・つまり、ユウジ様も同じようなスキルを持っているんですね?」

(!・・・うかつだった。誘導尋問だったか。仕方ないか) 

「そ、そうだな。ただな、サーシャ。約束してほしい。このことは内緒だ。理由はわかるよな?こんなことがバレたら一緒にいられなくなる。一緒にいたい為に力を貸したのに引き離されたんじゃ笑い話にもならんからな、二人だけの秘密な。」

「はい。わかっております!ご安心ください。それでですね、ユウジ様?つかぬことをお聞きしますが、見えてるんですよね?」
あれのことだな、うん

「88・50・86だろ?スタイルいいよな、サーシャ」
まぁバレてるみたいだからいいか

「あ、ありがとうございます。ってそうじゃなくてですね!あんまり私以外の子見たらダメですからね?」   誉められて満更でもないような顔しちゃって、かわいいやつだな

「わかった、わかった。じゃあ説明してもいいかな?」
「むぅ~。絶対見るつもりですよね?」

「んん、まずは覚醒したみたいでおめでとう。いい子だぞ、サーシャ」
そう言って、サーシャの頭を優しく撫でる 

「さっきも言ったように、サーシャ達の常識では全くダメだった未来も魔法が使えるようになったおかげで、ようやく俺達と同じスタートラインにたてるようになった。だが勘違いするなよ?あくまで同じ土俵にいるだけだ。まだまだサーシャは弱い。だからそこからはい上がってみせろ!俺は待たないからな?一緒にいたいと思うなら追いついてみせろよ?」

「よ、ようやく、ユウジ様と一緒にいられる可能性ができたんですね・・・」
サーシャの目からは涙がながれていた

「そうだな。最初は色々わからないことが多いとおもう。俺はいつも部屋でごろご・・・んん、調べものしてるから、その時でいいなら魔法を教えることもできる。課題も出そう。あとは自己の鍛練も忘れずにな?俺は待たない、むしろどんどん先に行く。だから必ず追いついてこい。そうだな、サーシャを連れていけると判断できるぐらい強くなれたらごほうびをあげよう。必ずもらいにこいよ?『勇者の愛弟子』なんだから」

そう言って、サーシャの涙を掬いサムズアップしてみせた

□□□□

「落ち着いたか?」
俺の胸のなかで、まるで猫のように甘えているサーシャに声をかけた

「も、もう少しお願いします~」
年上なんだよなぁ、でも1歳だけだしこんなもんか

「じゃあ、そのままでいいから聞いてくれ」
俺はこの世界について、推測を話した

「まずこの世界はな、異常と言ってもいいほで魔力、魔法を使う力が溢れている。そこに住まうものなら少しずつ体内に魔力を溜め込むんでいくはずだ。それが世代を重ねればまず間違いなく魔法を最初から使える構造になっている。つまりこの世界の人達はほとんどの人が魔法を使えるはずだ」

ユウジの推測に驚くサーシャ
サーシャたちの常識では使えないものとなっているからだ

「でもこの世界の人達はサーシャ含め、何故かできないものと認識している。俺はそれが不思議でならない。なぜできないものと思った?」
ユウジが感じている疑問をサーシャに尋ねてみた

「え?なぜ?そうですね、生まれた時から魔法を目にする機会や必要とする機会がなかったからでしょうか?」
改めてなぜ疑問に思わなかったのかと首を傾げる

「それも一理ある。俺が住んでいた世界はそうだった。そして魔力保有量も全くないから使えなかった。でもサーシャ達の世界は違うぞ?魔力保有量もそうだが、護符や召喚などで魔法を見れるし、伝承にはちゃんと魔法の存在が記されていた。つまり存在しているのに使えないと思っていたんだ。」
無限書庫マジ便利だわぁ~。サーシャの俺を見る目がキラキラしている

「例えば才能とかの問題ではないでしょうか?」  
うん、テンプレだよね、それ

「その可能性もある。だけどさっきも言ったようにこの世界は異常だ。体内に溜め込んだ魔力量は想像できない。才能であったとしても、常識レベルで使えない人だらけというのはさすがにおかしい」
ねぇ、惚れ直した?かっこいい?サーシャ

「でも使い方がわからないと魔法使えませんよね?」

「その通り。じゃあ護符とか今でも販売されているのは魔法を使える存在がいるからだよな?使える存在がいるのに使い方がわからないのはなんでだろうな?護符とかは一人だけしか作れないものなんだろうか?」
さて、核心に近づいてきたか

「つまり、魔法の使い方を教える気がない、又は隠しているということですか?もしかしたら魔法の存在そのものも?」

「そうだろうな、しかも常識レベルにまで昇華しているところを考えると、かなりでかい規模だぞ、これ」 
よしよし、サーシャは賢いな。さすがは俺の嫁(仮)だ

「!まさかユウジ様はイシス王国もかん・・・ん!」 

口走る前にかわいい唇を人差し指で制した

「その先はやめておけ、考えもするなよ?まだサーシャは弱い。なにかあったら対処ができない。それにこれは仮説だ。決め付けはよくない。わかったな?」
口を閉じ静かに首を縦にふる

「俺の仮説はこんな感じだ。あっ多分だが魔族はこれに気付いてるはずだぞ?魔法使えるの魔族だろ?」 
魔法使えない魔族ないわー。

「そうですね、あとは竜族もたしか。妖精族は精霊魔法とか聞いたこともあります」 
精霊魔法は取得したから知ってるけど、妖精族か・・・

ちょっとからかってみるか
「え?サーシャ妖精族じゃないの?こんなにかわいくて美人なら妖精族に違いないと思うんだけど。あっ!俺が惚れ過ぎてさも妖精族のように見えたという、オチか」

「ふぇ!?私が妖精族のように美しい!?しかもついに惚れてくれたんですね!」 
顔を真っ赤に染めながらも満面の笑顔で喜んでいる

「ぶふっ。冗談、悪かったよ。あと惚れてないよ?」 
からかいがいあるな~と笑ってしまった

からかわれたサーシャはそれはもうお怒りです
抱きしめようとするとわずかに抵抗するもいつものポジションにおさまる
頭を撫でながら、サーシャに語りかける

「嫌いになった?」
「大好きです!」
「じゃあ惚れ直した?」
「もとから全力で惚れてます!」

想像していた答えをはるかに上回るかわいい答えに、愛しさが込み上げてきたので、

そっと額にキスをした

(唇はごほうびの時だな)

サーシャをみると、それはもうすごく嬉しそうであまりの可愛さにもう一度キスをした

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